ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る

  • 楽工社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903063485

感想・レビュー・書評

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  • ・知覚の特性 変化に集中、合計を評価すべきときに平均値を求める

  • 得るものはあった。ダニエル・カーネマンと行動経済学に興味のある人は入門書の一冊くらいの感覚で読んでみると面白いと思う。

  • カーネマンの2002年ノーベル賞記念講演に、短い自伝と、最近の論文2本(堅いやつではなく一般向けでコラムに近い)をくっつけた本。

    記念講演の主なテーマは、人間の直感が持っている系統だったバイアスについて。直感は知覚から進化したと考えられ、知覚に良く似たバイアスがある。ここでは2つの特徴が取り上げられる。

    ひとつは、効用を決めるのは「変化」であって「状態」(富の絶対量)ではないとするプロスペクト理論。ふつう意思決定時には損失回避性が極端に強くなり現状維持をする方向にバイアスを引き起こす。ただし、マイナスの選択に直面した時は逆にリスクを追及する傾向がある。経済学の標準的な無差別曲線では「現在持っている富」が表されない。実際には参照点で曲線がさまざまに捩れるはずである。
    →会社での意思決定の様子を振り返っても損失回避性には納得。これは、ある閾値を割ると死んでしまってゲームオーバーみたいな状況に進化的基盤があると思うのだが。それで負の領域でのリスク追求も説明できるし。どこかにそういう研究あるのだろうな。

    ふたつめは足し算をすべきときに平均値を求めてしまう特性。平均値とか極端な値とかは直感的に把握できる表象に含まれている。しかし合計みたいにより複雑な統計値は直感的にはわからないので利用されにくい。カーネマンはここで4つの例を挙げていて、同じ内容の食器セットに傷物を追加すると価値が下がって判断されてしまう例や、人物の特徴判断(銀行の出納係でありかつフェミニストであるっていう引っ掛けっぽいアレ)などがある。
    →ふーん、と思ったのが、あるエピソード(複数の瞬間が1つのグループになったもの)を評価する例。病院での検査なんかで、痛みのピークと経験が終わる時の痛みの2点を参照して、経験のツラさの評価を決めてしまう場合。要は、ガーンと痛みが来て短時間で終わるより、ガーンと来た痛みが同じでもその後ダラダラと痛みが低下していって終わるときの方が、経験した痛みの総量は大きいはずなのに、より楽だったと評価されてしまう。なんとなく痛みをコントロールしたような感覚(馴化的な)があるような気はする。

    自伝では夭折した共同研究者エイモス・トヴェルスキーの人柄、功績に多くの字数を割いている。

    興味深いのはカーネマンがイスラエル軍での実務的な調査で心理学者としてのキャリアをスタートさせていること。その際に、「妥当性の錯覚」というようなバイアス(実験結果を仮説に都合よく解釈してしまう)を発見したり、航空学校の教官が褒めるより叱る行動をとる背景に、平均への回帰(うまくできた試技の後はそれより劣った試技をし勝ち、逆もまた然り)があることを見抜いたりしている。その後の実証的な研究スタイルに影響を与えているのだろう。

    カーネマンらの研究は「人間というものは理路整然と考えることができない」と主張していると看做されて多いに反論を受けた。ヒューリスティックスが正しい答えを(効率的に)導き出す場合も多いがそのときにはヒューリスティックスの存在に気がつくことはできない。どうしてもバイアスにより間違う例に焦点を当てざるを得ない。それが誤解の原因になったかもと。また1974年の論文があまりに影響力があったせいで、それへの受け止め方も強い反応を引き出したのだろうとも。そうした批判を受けて限定的合理性やシステム1&2のようなアイデアが促進された面もあるだろうか。

    カーネマンが今後影響力を持ってほしいと願う分野に「対立的協力」のプロセスがある。学界でのあまりの敵対的議論に懲りた経験も寄与しているようで、裁定者を予め指名したりする手法を実地に研究している。
    →リスクコミュニケーションとか応用範囲が広そうだ。

    後半の2論文は、効用概念やwell-beingといった本質的なテーマに取り組もうとしている。「幸せの経済学」みたいな感じで、これまた最近とみに注目されている分野だと思う。しかし、まだプロスペクト理論に匹敵するような、インパクトのある知見は得られていないようだ。

  • ファスト・アンド・スローや他の行動経済学者の書籍から発展する新たな話は無いが、ダニエル・カーネマンのノーベル賞受賞時のスピーチや彼の自伝もあるので、カーネマンに関心がある人にはお勧め。

  • 訳が今一つで頭に入りにくかった。

  • 人というものは最終的な状態に対してではなく、変化に対してはるかに強く反応するという話。

    めちゃくちゃ勉強になるし、面白かった。

  • 難しいです。心理系の方が有名な方として紹介されていたので、見てみました。

  • カーネマンの思考を追う。
    構成が秀逸で気合の入った解説より伝わる。
    中身自体は行動経済学の入り口であり本質。
    知覚は状態より変化を重視する実験がおもしろい。
    アンカーリング効果と平均化する思考はバイアスとして認識必須。
    一章のノーベル賞受賞講演だけでもおもしろい。
    お手軽。

  • 記録用

  • 「行動経済学の逆襲」を読んで、セイラー氏が行動経済学という分野を切り拓くきっかけとなった人の本、ということで手に取りました。
    ノーベル経済学賞受賞講演、伝記、セイラー氏との共著、等。

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著者プロフィール

心理学者。プリンストン大学名誉教授。2002年ノーベル経済学賞受賞(心理学的研究から得られた洞察を経済学に統合した功績による)。
1934年、テル・アビブ(現イスラエル)に生まれへ移住。ヘブライ大学で学ぶ。専攻は心理学、副専攻は数学。イスラエルでの兵役を務めたのち、米国へ留学。カリフォルニア大学バークレー校で博士号(心理学)取得。その後、人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する研究を行い、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞受賞につながる。近年は、人間の満足度(幸福度)を測定しその向上をはかるための研究を行なっている。著作多数。より詳しくは本文第2章「自伝」および年譜を参照。

「2011年 『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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