エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義

  • 楽工社
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  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903063652

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  • 著者・リチャード・ムラー先生は、米カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授。米国エネルギー省顧問。本書は、ムラー先生のエネルギー問題解説書。私には難しかったが、内容は重要で知っておきたいことがたくさん。辞書のように手元に置いて調べたり参考にするのが最適。

    自分の力量ではまとめきれないので、以下簡単な要点をメモ書き程度に。

    ・世界の国々にとってエネルギー危機とは2つの原因から起こる。それはエネルギー安全保障と地球温暖化。
    エネルギー安全保障の危機はエネルギー不足そのものが問題なのではなく、国内の資源不足から起きる。石油生産率などの資源供給と需要がミスマッチしていることが原因。
    地球は温暖化しており、これは科学的事実。その原因は主に人間の活動のせい。特に発展途上国での石炭の使用増加が大きな要因。二酸化炭素排出を減らすにはこうした国々に石炭から天然ガスへの転換を促すことが重要。


    ・将来エネルギー問題に対して重要な技術となるもの。
    1)エネルギー生産性(っていうか省エネ)。これはやせ我慢ではない。動機と効率がよければ大きな利益を上げることができる。エネルギー生産性の向上は3つのメリットがある。お金を節約し、輸入を減らし、経済を活性化する。省エネルギーは生活水準を下げることじゃない。エネルギー生産性に投資すれば、これといった変化を感じることなく、お金をもうけることができる。
    2)ハイブリッド車。(ハイブリット車は、間違いなく普及する。)
    3)シェールガス。
    4)合成燃料(ガスや石炭から作られる液体燃料)。
    5)シェールオイル。
    6)スマートグリッド。電力網とベンチャービジネス投資:送電網の改良に投資すれば、風力・太陽光発電よりずっと利用しやすく収益も上がる。助成金が役立つのは、その産業が助成金によってすみやかに成長して競争力をつけることができる場合に限られる。



    ・急発展する可能性がある技術。
    1)太陽光発電。
    2)風力発電。
    3)原子力。原子力はすでに安全でクリーンで、発展途上国から排出される二酸化炭素削減のために非常に重要。新しい第三世代・四世代の原子力発電所は貧しい国にこそ適している。核廃棄物貯蔵の問題は技術的には解決済み。問題は公共認識と政治的駆け引き。(って言われてもねえ・・・。)
    4)電池(太陽光や風力のバックアップ用)。
    5)バイオ燃料。
    6)燃料電池。
    7)フライホイール。


    ・問題解決にあんまり役立たない、というか期待するな的な技術。
    1)完全電気自動車とプラグ・イン・ハイブリッド車。
    プラグ・イン・ハイブリット車が未来のエネルギー源に貢献することはない。電池の技術が発展すれば話は別だが期待しないほうがいい。完全電気自動車にも補助金も奨励も期待もしないこと。これは電池交換にかかる高いコストゆえ。電池コストが下落すれば未来に期待がもてるがこれは大きな難問。電池価格はすぐ下がらないし、化石燃料と価格が並ぶようになるにはまだ時間がかかる。二酸化炭素削減にも貢献しない。石炭発電所から供給される電気で再充電した場合、完全電気自動車はガソリンより多くの二酸化炭素を出すことに注意しましょう。
    2)コーンからつくるエタノール。
    3)太陽熱発電。
    4)地熱。
    5)波力と潮力。
    6)メタンハイドレード。
    ※流行りものに注意。すべての技術が楽観的な見通しでうまくいくわけじゃない。水素。地熱。波力発電、潮力発電には大きな発展は見込めません。


    地球温暖化は事実で、多くは人間の活動のせい。これを抑制するためには中国などの発展途上国から排出される二酸化炭素を削減する必要がある。それには削減するための低コストの方法を見つけないといけない。中国に限れば、二酸化炭素を多く排出する石炭からシェールガスへ転換する手助けを先進各国がすることが重要である。

    シェールガスなどの資源がすみやかに開発できれば、中国で起きている健康被害を防ぐことにもなり、地球温暖化に懐疑的な人でも石炭から天然ガスへの転換は人道的見地から実現するだけの価値があるし支持してほしい。


    以下、政治家や一国の指導者が注意すべきこと。(国民も知っておくべきこと)

    ・リスク便益計算に要注意。単純化された計算は誤解を生む。CO2排出の結果生じる間接的コストを見通すことは難しい。自分が望む答えに都合のいい偏った論理に陥る危険がある。何事もいいことばかりであったり、悪いことばかりであったりすることはない。

    ・予防原則に注意。誤った判断であったとしても、安全のためにはいい。問題は「予防」という言葉の意味が、それを支持する人たちの恣意的な解釈に左右される。その結果予防原則が現実の場面で役に立たないものになっている。

    ・楽観主義バイアスと懐疑主義バイアスに注意。楽観主義バイアスは自分の好きな技術はすぐ進歩すると思い込む。逆に自分が嫌いな技術には問題は克服できないと思い込む。自分の意見が正しいと強く信じている人たちは、ある特定の事実は重視するが、別の事実は頭から否定する。信念に基づく主張は、客観的分析に基づく主張のような正当な根拠があるわけでない。

    ・スローガンに注意。世の中には人を惑わすスローガンがある。「地球にやさしい」「クリーン」「再生可能」といった言葉を使うエネルギー源に期待するのはやめましょう。せめて「持続可能」「代替エネルギー」。もっともらしいけど、実際には役に立たないスローガンはたくさんある。

    ・真に持続可能であるためには、利益をもたらすものでないとだめ。

    ・一国の指導者が気をつけねばならないエネルギー問題は、地球温暖化対策とエネルギー安全保障を両立すること。短期的な目標に取り組むのでなく、科学と客観的分析を信用し、長期的視野に立って考えねばならない。

  • 東洋経済2022430掲載 評者:柴田明夫(資源・食料問題研究所所長)

  •  ここで、原子力発電所の安全性に関するわたしなりのガイドラインを提案しましょう。原発が被災し損壊したとしても、そもそもの根本原因による被害と比較して放射能の放出による付加的損害を小さく抑えられるような強固な構造の原発を建設するのです。もし使えるお金が余分にあるのなら、二次災害ではなく、そもそもの原因となる災害を防ぐために使ってください。
     さらに、放射能に関する懸念については、デンバーの線量を基準として採用することをお勧めします。計画立案や災害対応に際しては、デンバーの住民が毎年自然放射能から被曝している過剰な線量(三ミリシーベルト)以下のレベルの放射能は一切無視するのです。ICRPの避難線量も、少なくともこのレベルまで上げるべきです。そして、たとえデンバー線量の何倍もの放射能であっても、避難やそのほかの過剰な反応よりもずっと害が少ないかもしれないということも認識しておいてください。
     福島原発のメルトダウンが引き起こした大きな悲劇の一つが、事故後日本がすべての原子炉を停止したことです。この政策のために引き起こされた困難と経済的混乱は甚大です。また、原発関連の対策を講じることは重要ですが、それに気をとられるあまり、日本がさらされている本当の危険―――新たに襲ってくるかもしれない地震や津波に対する対策がおろそかにならないようにすることも大切です。


     地球温暖化は現実の脅威をもたらします―――たとえ明確な予測が難しくても、真剣に受け止める必要のある問題です。心配すべきことは、温暖化が現実に人間によって引き起こされたかどうかではなく、また温暖化によってすでに損害が出ているということでもありません。問題は、大気中の二酸化炭素のレベルが、ここ数百年の間に人間活動によってはなはだしく増大し、二八○Ppmから三九二PPm以上にまで上昇したことです。実に四○パーセントもの増加です。いままでの気温の上昇はわずかですが、予想される気温の上昇は大きく、将来温暖化は必ず起きます。それは摂氏二度でしょうか、五度でしょうか。それはわかりません。ただ、わたしたちみんなが関心を寄せるべき問題だと思います。
     わたしたちに何ができるのでしょうか。今後大気中に放出される二酸化炭素のほとんどは、発展途上国から排出されることになるでしょう。アメリカやそのほかの富裕な国々には、もはや主導権はありません。もしあなたが一国の指導者なら、こうした変化をエネルギー政策に反映させる必要があります。コストのかかる手段(完全電気自動車など)が有効なものだったとしても、発展途上国が自身の資金力で導入できるほどコストが安くならなければ、大きな影響力を発揮することはできません。
     また、たとえそうした手段を導入したとしても、発展途上国が石炭への依存を続けるなら、失敗する可能性があります。電気自動車に充電される電気が石炭を燃やす発電所でつくられたものなら、一マイル当たりのCO2の排出量はガソリン車よりも多くなります。たとえ「よい」解決法であっても、予想されるコストとそのコストを削減できる見込みについて考えなければなりません。よい手本を示しても、その例に倣うことができるだけの経済的余裕が貧しい国々になければ、意味がありません。
     最善の策は、少なくとも短期的には、世界中の国々が石炭から天然ガスに転換するようにはたらきかけることかもしれません。それでもCO2の増大を止めることはできませんが、発展途上国が導入できるくらいほかのエネルギー源の経済的負担が軽くなるまでの間、増大のペースを減速させることはできるかもしれません。


     秘密の投資機会をお教えしましょう。あなたの家の屋根裏に断熱材を入れるのです。
     断熱材の利用は、新築の家の場合には大きな利益を生むことにはならないかもしれません。すでに断熱効果の高い家に住んでいる場合も、同じです。しかし、エネルギー省エネルギー局の元局長アーサー・ローゼンフェルトの試算によると、アメリカ国内の比較的古い家の半数は、断熱材を敷設することによって利益を上げることができるはずです。
     そう聞いて、急に興味がなくなりましたか。何てことでしょうーこの投資のひどく退屈なところが、人々がこの投資話に乗ろうとしない原因なのです。ありきたりで退屈だけれど快適な省エネルギーは、ほかのどんな投資よりもはるかに大きなリターン(利益)を生みますし、本質的にリスクはありません。唯一の「危険」は、エネルギー価格が急落することですが、そうした価格の下落はまずありえませんし、もし仮にそうなったとしても、あなたにとってはきっと何の問題もないでしょう。その反対に、エネルギー価格が高騰した場合には、利益はいっそう大きくなります。


     問題は、この送電網が需要主導型のシステムであることです。電気を買うために注文を出す必要はありません。必要なときに、ただ持っていけばいいのです。水も使えばなくなりますが、水とは違い、電気はゆったりとしたペースで止まるということはありません。電灯がちょっと暗くなったり、モーターがほんの少し遅くなったりするのなら、強いショックを受けることはないでしょうが、そうしたことにはなりません。その代わり、広範囲にわたって電力不足が生じ、完全なシャットダウンが起きます。
     発電所は、貯水タンクのようなわけにはいきません。たんにエネルギーをたくわえているのではないのです。需要に応じて電気をつくっているのです。発電所の技師は、過去と現在のデータや気象情報を使って、需要を予測しようとします。天然ガスや水力の発電所は、需要が増えた場合にほぼ即座に対応できますが、石炭発電所の場合はこれよりやや遅く、原子力発電所はいちばん対応が遅くなります。問題は、システムが最大容量に達した日に発生します。どこか一つの発電所が停止すると、ほかの発電所は突然もっと多くの電力を供給するように要求されます。たった一台のエアコンのスイッチが入ったとたん――最後に乗せたただ一本の麦わらがラクダの背を折るのと同じように――送電網の中の発電所が一基シャットダウンされるかもしれません。
     自分の家の中で、多すぎる数の家電製品をコンセントにつないでいる状態を想像してみてください。家の外の送電線からは一定の電圧が供給されていますから、エアコンの電源を入れれば、送電線からさらに多くの電流が流れ込んできます。すると、この大電流によって家の壁の配線がオーバーヒートする危険があります。だから、オーバーヒートする前に電源を切るために、家にはヒューズやサーキットブレーカーが備え付けられているのです。なんだか間の抜けた話です。家の中の電気回路が許容量に近くなったら、電気トースターをコンセントにつないではいけないと制限するシステムをつくればいいのではないのでしょうか。あるいは、トースターでパンを焼く間だけ冷蔵庫の電源を切る―それくらいの時間なら庫内の温度は上がらない―といった仕組みにすればいいでしょう。そのほうがずっと気が利いています。
     わたしたちの孫の代になれば、そうした自動制御可能な住宅用電気回路が標準になっているかもしれませんが、わたしたちの時代にはまだそうした回路はつくれません。わたしたちは、電気に関してはまだ石器時代のレベルにいるのです。それは、送電網も同じです。もしあまりにも多くの人がエアコンのスイッチを入れたら、発電機から電流を引き出そうとする力が大きくなりすぎます。発電機がオーバーヒートする重大な危険がありますから、運転員(または負荷をモニターする自動システム)が発電機をシャットダウンします。間抜けな仕組みですが、わたしたちがいまやっている方法がまさにこれなのです。

    ▪️原子力について知っておくべき重要なポイントをリストにしたエグゼクティブサマリー
    ・原子炉の爆発。原子力発電所が原子爆弾のように爆発することは、ありえない。それは、いかなる状況下でも、たとえ核物理学の博士号を持つテロリストが原子炉を完全に制御下に置いたとしても、不可能である。というのは、原子力発電所で使っているのが「低濃縮ウラン」であり、核兵器をつくるために必要な「高濃縮ウラン」とはひじょうに特性が異なるからである。
    ・コスト。原子炉はひじょうに高額だが、これは原子力発電所が電気を生産するコストが高いということではない。原子力発電所の建設には大きなコスト――初期投資コスト――がかかるが、燃料費やメンテナンス費用はひじょうに安価である。建設のために受けた融資を完済すれば、もっとも安い料金で電力を供給できる。
    ・中規模な発電所。新しい中規模原子力発電所では初期投資が大幅に削減され、政府からの借入助成の必要性も少なくなった。また、かつて大惨事を引き起こしたような事故の危険性が本質的に解消され、安全性も改善された。
    ・ウラニウムの枯渇。燃料用のウラニウムを使い果たす心配は当面ない。経済的に回収可能なウラニウムは、(現行の使用率なら)今後九○○○年間は持つくらい十分な量がある。安いウラニウムはなくなりつつあるが、一キロワット時の電力の生産に必要なウラン鉱のコストは、約○・ニセントである。仮にこの価格が高騰したとしても、ウラニウムは発電コストのごく一部を占めるにすぎない。
    ·核廃棄物貯蔵。核廃棄物の貯蔵は、技術的に難しい問題ではない。すでに解決済みである。核廃棄物に関して問題となるのは、公共認識と政治的駆け引きである。
    ・原子力開発の急発展。特定の国が新しい原子力発電所を開発しようとすまいと、世界では原子力開発が続いている。中国やフランス、さらには現在自国の原子力施設を停止している日本までもが、他国に売る原子炉を製造したいと考えている。


     結論をいえば、わたしは、バイオエタノールやそのほかのバイオ燃料が温室効果を抑えるために重要な役割を果たすとは思えません。バイオ燃料はガソリンの代用品にはなりますが、アメリカだけでそうしても、予想される世界の気温上昇にはほんのわずかな、おそらく摂氏で四○分の一度以下の効果しかないでしょう。エネルギー安全保障の観点から見ても、バイオエタノールが実用化されるのはまだまだずっと先の話ですし、コストが高すぎるので、圧縮天然ガスや合成燃料やシェールガスと本当に競争するのは難しいでしょう。


    ▪️電気自動車
     わたしたちがガソリン自動車に依存しきっていることには、ひじょうにもっともな理由があります。それを以下に挙げますので、考えみてください。
    ・充填速度:燃料タンクに充填する場合、ガソリンなら一分当たりニガロン[約七・六リットル]の速さで注入できる。二ガロンのガソリンは、エネルギー密度を考慮すると、驚くべきことに四メガワットに相当する。しかし、内燃エンジンの効率はわずか二〇~二五パーセント(電気自動車の効率は八〇~九〇パーセント)だから、有用なエネルギーを注入する速度は一メガワットになる。それでもやはり大変大きな数字であり、り、小さな家なら一○○○戸まかなえる出力に匹敵する。
    ・航続距離:一〇ガロン[約三八リットル]を注入するのにかかる時間はたった五分だが、この一〇ガロンで、平均的アメリカ車なら三〇〇マイル[四八○キロメートル]走れる。
    ・残留物:タンクの中のエネルギーを使い切れば、灰や燃えがらなど、取り除かなければならないものは一切何も残らない(わたしが育ったニューヨークのブロンクスでは暖房に石炭を使っていました。ストーブから灰を掻き出すのは、石炭をくべるのと同様に、大変な労力がいりました)。
    ・コスト。一ガロン[約三・ハリットル]三・五〇ドルで、燃費が一ガロン三五マイルだから、一マイル[一・六キロメートル]当たりの燃料費はたった一〇セントである。燃料費がこれほど安いからこそ、多くの人々がよりよい住まいを求めて、職場から遠い家に引っ越し、毎日長い距離を長い時間かけて交通渋滞に耐えながらも通勤するのである。二〇〇五年に市場調査会社TNSが行った自動車通勤者に関する調査によると、自動車による平均通勤時間は片道二六分で、距離は一六マイルだった。つまり、一日当たりのガソリン消費量は約一ガロンだから、費用は約三・五〇ドルになる。これほど燃料費が安上がりだから、わたしたちはぜいたく品や快適さにもっと金をかけることができるのである。これがヨーロッパでは事情が少し異なり、税金が高いために燃料価格はアメリカの二倍になる。
    ・排気ガス。ガソリンから排出されるのは、主に二酸化炭素と水蒸気である(アメリカ国内では煤煙と亜酸化窒素はいまではかなり制限されている)。この二つは、わたしたちが呼吸するときに吐き出すのと同じ気体である。地球温暖化に関する不安がまだなかったころは、二酸化炭素は無害で、むしろ植物の成長を助けると思われていた。

     ガソリン自動車には以上のような特徴があるため(最後の特徴は別として)、わたしたちの移動手段を大きく改変するとなると、大変な困難が伴います。
     ここで、将来の自動車について考えるときに覚えておく必要のある重要な事実を追加しておきます(このなかのいくつかはすでに述べましたが、もう一度ここでいっしょに取り上げます)。

    ・地球温暖化。アメリカの自動車がこれまでに及ぼした影響は、摂氏約四分の一度の気温上昇である。燃費の基準を実行可能なレベルで規制した場合、ほかに何も変化がなければ、今後五○年間にアメリカの自動車によって生じる影響は、さらに四○分の一度の気温上昇である。
    ・貿易赤字。アメリカの貿易赤字の半分は石油の輸入によるものである。輸入石油のほとんどは輸送に使われている。
    ・バッテリー自動車の航続距離。一キロワット時の電気エネルギーで自動車は二~三マイル[約三~五キロメートル]走ることができる。一キロワット(普通の平均的な家庭用電気のエネルギー比率)でこのレベルまでバッテリーを充電するには、一時間かかる。
    ・バッテリーのコスト。完全電気自動車の場合、電気エネルギーは大したコストにはならない。もっとずっと重要なのは、五○○回充電したあとにかかるバッテリーの交換費用である。


    ▪️石炭
    ・石炭の主成分は炭素だから、一ワット時を生産するごとに、天然ガスの二倍の二酸化炭素を生産する。
    ・低品質の石炭を燃やすと、二酸化硫黄が発生する。二酸化硫黄は大気中の水と混ざると硫酸になり、これが凝結すると酸性雨になる。酸性雨は森林を破壊し(図3・28)、大理石の記念物を溶かし、近隣の湖の酸性度を変化させる。
    ・石炭は、魚を汚染する水銀の供給源である。
    ・石炭発電所は、飛散灰と微細な黒色炭素粒子を発生させる。この炭素粒子は、人々の髪を汚し、窓枠にたまり、グリーンランドの氷を溶かす。
    ・石炭は、中国の多くの都市のはなはだしい大気汚染の原因であり、その結果重度の呼吸器疾患を引き起こしている。オリンピック期間中、中国政府は北京の近辺のすべての石炭発電所の操業を停止し、いつもは北京を覆っている呼吸に適さない空気がテレビを通して世界の人々の目に触れないようにした。


    将来のエネルギー問題に重要な位置を占める技術
    ・エネルギー生産性(効率と省エネルギー)
    ・ハイブリッド車と、燃費を向上したそのほかの自動車。
    ・シェールガス(自動車用燃料、合成燃料の原料、石炭の代替物)
    ・合成燃料(ガスや石炭からつくられる液体燃料)
    ・シェールオイル
    ・スマートグリッド

    急発展する可能性のある技術
    ・太陽光発電(PV)
    ・風力発電(およびその電力供給のための送電網の改良)
    ・原子力(新旧両世代)
    ・電池(太陽光や風力のバックアップ用)
    ・バイオ燃料(とくにミスカンザスのようなイネ科の草を原料とするもの)
    ・燃料電池(とくにメタンベースの電池)
    ・フライホイール

    問題解決の可能性がもっとも低い技術
    ・水素経済
    ・完全電気自動車とプラグイン・ハイブリッド車
    ・コーンからつくるエタノール
    ・太陽熱発電
    ・地熱
    ・波力および潮力
    ・メタンハイドレート
    ・藻類バイオ燃料


    エネルギー生産性
     もっとも安価なエネルギーとは、使わないエネルギー――見えざるエネルギー、すなわちネガワットメージがつき、効率という言葉は、実業家たちのせいで、しばしば低利益という誤った印象と結びつ――です。省エネルギーと効率向上によってエネルギーを節約することができますが、こうした言葉の使い方には気をつけてください。省エネルギーという言葉は、カーター大統領のおかげで悪いイきます。しかも、効率は、より多くのエネルギーを使うように仕向ける結果になった場合は、エネルギーの節約にはなりません。こうした理由から、わたしはエネルギー生産性という言葉を使います。将来指導者になる人も、エネルギー生産性という言葉を使ってみてはどうでしょうか。マッキンゼーチャート(P167図2.15)に示されているように、大きな利益を上げることができます。しかるべき動機づけをすれば、電力会社をエネルギー生産性向上に協力させることもできます。いままででいちばん成功しているのは、「デカプリングプラス」と呼ばれる政策で、これは電力会社がエネルギーというよりも生産性を売り物にして利益を上げられるようにしたシステムです。
     エネルギー生産性は重要なポイントですので、のちほどもう一度あらためて説明します。

    天然ガス
     アメリカでは、天然ガスがたなぼたのように運よく見つかりました。これをうまく開発すれば、今後数十年間は大いに――石油危機を乗り切るためだけでなく、二酸化炭素排出量の削減にも役立つでしょう。そのためには、天然ガススタンドのインフラストラクチャーの整備を進めなければなりません。同時に、水圧破砕によって起きるかもしれない局地汚染を防止する強力な法律も必要です。
     天然ガスの利用は、アメリカだけでなく、全世界で急速に拡大するでしょう。天然ガスはひじょうに重要な燃料になりますから、「天然ガス経済」とでも呼ぶべき国家規模の計画を検討するのもいいでしょう。こうした計画によって、この新しいガス源の価値を認識し、その開発を促進するための一貫した政策とインフラ開発を行うのです。

    シェールオイル
     ほんの数年前まで、エネルギー問題に関心を持つ多くの人たちは、シェールガスの漠然とした重要性を完全に過小評価していました。いまその同じ人たちは、シェールオイルに対して同じ評価をしているのかもしれません。この潜在的に(よい意味で)破壊的な技術は、いまにわかに台頭してきたばかりですが、わたしの予想では、数年後にはとてつもなく重要なものになっているでしょう。これから一〇年もたてば、アメリカの石油の二五パーセントはシェールオイルになっているかもしれません。
     シェールオイルは、アメリカのエネルギー安全保障の問題を解決し、貿易収支の赤字を減らしてくれるかもしれません。シェールオイルがあれば、アメリカは再び石油の輸出国になって、赤字そのものを解消することもありえます。専門家の試算では、かなりの量のシェール石油が一バレル三〇ドル程度の低コストで回収可能なようです。もしこれが事実とわかれば、シェールオイルは合成燃料にとって厳しい競争相手になるでしょう。もっとも、同じ価格で比較するなら、エネルギー量は天然ガスのほうが大きいようです。
     石油は主として輸送に使われますから、新しい原油源はどんなものであっても、自動車を嫌う人たちからの反対を受けます。しかし、シェールオイルは、経済と安全保障の両方の理由から抵抗しがたいものです。環境保護のための最良の方法は、自動車の効率を定めるCAFE(「企業平均燃費」:自動車メーカーが販売する自動車の燃費にかけられる規制)の基準を強化していき、一ガロン一〇〇マイルという達成可能な目標を推し進めていくことかもしれません。

    合成燃料
     合成燃料の精力的な計画は、安全保障(軍事用の緊急燃料の供給)だけでなく、収支の赤字を減らすという経済上の必要性からも、重要です。合成燃料に対する主な批判は、環境にやさしくないということと、持続可能ではない、ということでしょう。しかし、忘れないでほしいのは、過去五〇年間CAFEにアメリカの自動車が地球温暖化に及ぼした影響はわずか四〇分の一度にすぎないことと、Cの実行可能な基準によってアメリカの自動車の影響は将来的に低く抑えられる可能性があるということです。「持続可能性」についていえば、アメリカには何十年も持つ天然ガスと、一〇〇年以上は持つ石炭が埋蔵されています。そのあとは、おそらく、自動車用の燃料として、何度でも再充電できるバッテリーか、原子力か、あるいは反物質か、いまのわたしたちには想像もできないようなものが開発されていることでしょう。

    ハイブリッド車とブラグイン・ハイブリッド車
     完全電気自動車は、アメリカの輸送用エネルギーの未来に大きく貢献することはないでしょう。もし電池の技術が飛躍的に大発展すれば話は別ですが、そうした見込みもありません。完全電気自動車には、助成金は出すべきではありませんし、奨励もしないほうがいいでしょう。しかし、電池は、電気自動車以外の多くの分野にとっても重要なものですから、その開発には引き続き支援する価値があります。エネルギー貯蔵用の固定式の電池は、自動車用のバッテリーとは大きな違いがあります。一方、発展途上国では、航続距離が一〇〇マイル(一六〇キロメートル)を超えるような自動車は消費者から求められてはいませんから、鉛酸バッテリーの自動車でもガソリン車と競争できそうです。
     アメリカでは電気自動車に人気が集まっていますが、こうした動きでは電池交換にかかる高いコスうした動きでは電池交換にかかる高いコストが見過ごされています。わたしが思うに、完全電気自動車に対するこうした熱狂を支えているのは、電池の市場が拡大すれば電池のコストが大幅に下落するだろうという期待ではないでしょうか。しかし、電池技術は、とくに自動車用の電池は、大きな難問です。電池の価格はすぐには下がりそうにありませんし、化石燃料と価格が並ぶようになるには、まだ・まだまだかなりの時間がかかりそうです。
     電気自動車に対する熱狂を煽っているもう一つの要因は、二酸化炭素排出を抑えるためには電気自動車が必要不可欠だという過度の思い込みです。石炭発電所から供給される電気で再充電した場合には、電気自動車のほうがガソリン車よりも多くのCO2を大気中に放出するということを、どうか忘れないでください。
     一方、ハイブリッド自動車は、間違いなく、もっとはるかに広く普及することでしょう。ハイブリッド技術を、軽量で強靭な素材と合わせて活用すれば、燃費をもっとも効果的に向上させる方法の一つになるでしょう。わたしの予想では、これから一〇年か二〇年のうちには、ほとんどの人がハイブリッド車に乗っているはずです。

    原子力
     もしあなたが一国の指導者になったら、世界のエネルギーの未来のために原子力技術がいかに重要かを、国民に納得させなければならないかもしれません。そのためには、あなた自身が事実を知り、原子力が将来のエネルギーとして安全なものになりうるかどうかを判断しなければなりません。福島の原発事故では、放射能による誘発ガンの最終的な死者の数が一〇〇人未満と推定されますが、津波で亡くなった犠牲者の数は一万五〇〇〇人に上ります。津波で怖いのは津波そのものであって、津波で原発が破壊されたことではありません。もしあなたが指導者になったら、「デンバー線量」を一つの基準として検討してみてはどうでしょうか。放射線レベルがどれだけであっても、それがデンバーの線量以下のレベルだったら、心配は無用です。もちろん、指導者のあなたは、この方法が政治に及ぼす副次的影響について、わたしより適切な判断ができるでしょう。
     原子力はすでに安全でクリーンなものであり、発展途上国から排出される二酸化炭素量の削減のためにもひじょうに重要です。新しい第三・第四世代の原子力発電所のなかには、貧しい国にこそ適したものもあります。
     ネバダ州のユッカマウンテンの核廃棄物処理施設を閉鎖したのは、とんでもない過ちでした。ユッカマウンテンに使用済み核燃料を貯蔵するのは、十分に安全なことであり、(福島のように)原発施設内に廃棄物を貯蔵するよりもはるかに安全なのです。ユッカマウンテンの施設は、再開し、拡張する必要があります。あそこなら、もっと廃棄物を収容するスペースがまだ豊富にありますが、新しいトンネルが必要です。また、廃棄物の貯蔵施設をほかにももっと建設する必要があります。ユッカマウンテンが閉鎖されたことは、世界中の原子力政策に影響を及ぼしているはずです。世界中の技術者が、核廃棄物貯蔵の問題がすでに解決済みであることを説明しても、自国の政府は納得してくれません。ユッカマウンテンを引き合いに出されて、「アメリカでは問題がまだ解決していないではないか」と自国の指導者から言い返されては、どうしようもありません。


    考慮すべき重要事項
    地球温暖化と中国
     地球温暖化は事実であり、その原因のほとんど(おそらく一〇〇パーセント)は人間活動ですが、これを抑制するには、中国などの発展途上国から排出される温室効果ガスを削減する低コストの(欲をいえば利益が上がる)方法を見つけなければなりません。たんなる自己満足にしかならない(電気自動車のような)対策には気をつけてください。こうしたやり方は、地球温暖化にほんのわずかな(四〇分の一度の)効果しかないのに、自分たちはちゃんと問題に取り組んでいるんだ、という誤解を人々に与えるからです。
     エネルギー問題でもっとも判断が難しいのは、中国をどうするかという問題かもしれません。中国の温室効果ガスの排出量は、二〇一〇年の段階ですでにアメリカより七〇パーセントも多く、いまではアメリカの倍になっているかもしれません。
     おそらく、今後中国から排出される二酸化炭素の量を削減する最良の方法は、石炭からシェールガスへの転換を手助けすることでしょう。水平掘削と水圧破砕法の専有技術に関して問題はほとんどありませんが、だからといって、この方法が簡単に導入できるというわけではありません。シェールガスの回収のために本当に必要なものは、数多くの特殊な装置と高度な訓練を受けたスタッフです。
     二〇一二年五月に、マーラン・ダウニーとわたしは、「地球温暖化を破砕しよう」と題した論文の中で、現実的な解決法を提案しました。わたしたちは一○○人の中国人技術者をアメリカに招き、一年間にわたって、アメリカで行われている作業工程を実地に見学しながら、シェールガス技術を学んでもらいました。彼らは帰国するとすぐに、自身が学んだ新しい専門知識によって、中国国内でシェールガスと石炭ガスを急発展させました。こうした資源をすみやかに開発すれば、中国国民に深刻な健康問題を引き起こしている石炭の使用をやめて、温室効果ガスを半分しか排出せず、しかも地域住民に被害をもたらす水銀や硫黄による汚染はまったくない天然ガスへの転換が可能になるのです。この提案は、人間活動が原因で地球温暖化が起きていることを信じない人たちにも、支持してほしいと思います。石炭から天然ガスへの転換は、中国の人々の健康増進に大いに役立つことですから、人道的理由だけでも実現する価値があります。
     局地汚染の危険があるという理由で、水圧破砕に反対する人たちがいます。アメリカが抱えるエネルギー問題から生じるあらゆる技術的問題のなかでも、破砕法は明らかにもっとも取り組みやすいものです。破砕法の工程で生じるあらゆる廃棄物を(人が飲めるくらいのレベルまで)浄化することを要求する強力な法律をつくりましょう。違反した場合には莫大な罰金を科しましょう。そうすれば、破砕法は利益を生み、汚染除去は採算の合うものになります。
     また、中国は、可能な限り多くの電力を太陽光や風力で生産する必要があります。ここで、アメリカにとって政治的難問が生じます。おそらく、この目標を達成する最良の方法は、中国の太陽光産業や風力産業を発展させることです。中国が進んでこうした技術を助成しようとするのなら、大変結構なことです・・・・・・いや、果たしてそうなのでしょうか。世界市場において、中国はアメリカの太陽光産業や風力産業と直接的に競争しています。アメリカはそうした産業を借入保証によって助成しています。すでにアメリカの太陽光関連の企業は、中国製の安価な太陽電池のために、廃業に追い込まれつつあります。この問題は、どうすれば解決できるでしょうか。活気ある中国の産業の価値と、活気あるアメリカの産業の価値とのバランスを、どうとればいいのでしょうか。その答えが何であれ、これは科学顧問には答えられない問題です。
     中国の消費者は、航続距離が何百マイルもある自動車でなければならないという依存症にはまだかかっていませんから、中国には鉛酸バッテリーを使う電気自動車の潜在市場があります。鉛汚染を心配する人たちもいますが、貧しい国では鉛は貴重ですから、とても捨てたりはできません。むしろ、鉛を含む電池は再生され、再利用されます。

    エネルギー生産性に関する追加情報
     エネルギー生産性の向上には、三つのメリットがあります。お金を節約し、輸入を減らし、しかもそのうえ、経済を活性化することができるのです。その結果、大きな利益を上げることができます。自動車の効率は、いまよりもずっと高いレベルに向上することができますが、市場の力だけではこうした改善を達成できそうにありません。その理由の一つは、「共有地のパラドックス」です。利益と資源が(古いイギリスの町にある共有地の放牧場のように)共有される場合、最大の利益が上がるのは、共有地が均等に利用される場合です。しかし、誰かが欲張って過度の利益を上げることもできるアメリカ国民は、省エネルギーは生活水準を下げることではないということを理解する必要があります。しかるべき省エネ対策を講じれば、もし望むなら、家の暖房のサーモスタットの設定温度を上げることもできます。エネルギー生産性に投資すれば、これといった変化を感じることもなく、お金をもうけることだってできるのです。
     国民が自分の生活スタイルに干渉されていると感じるような省エネ対策は避けたほうが、政治的には賢明かもしれません。その一例が、タングステンフィラメントの電球から蛍光灯への強制的な転換です。残念ながら、多くの人たちは好ましくない種類の電球を買って、浴室の鏡で青ざめた自分の顔を見ることになります。この結果は、それ以後の省エネ政策に対する重大な反応となって返ってくるかもしれません。その反対に、もしコンパクト蛍光灯に助成金を出して、その使用を奨励するなら、奨励しなかった場合ほど多くの発電所を建設しなくてもよくなりますから、お金を節約できるかもしれません。その場合、助成の対象は、色温度が暖かい電球にしてください。

    電力網とベンチャービジネス投資
     あなたが指導者として、景気刺激のために追加投資の必要を感じたなら、送電網の改良に投資するのがいいでしょう。こうしたインフラストラクチャーがあれば、風力発電や太陽光発電はずっと利用しやすくなり、収益も上がります。また、現行の送電網による七パーセントのエネルギー損失を削減することもできます。
     ベンチャー投資はひじょうに難しいビジネスです。ベンチャー投資家は、通常四つの事業に投資すれば、そのうちの三つは失敗するだろうと想定しています。政府はそんな失敗率の高い投資に国民の血税を賭けるわけにはいかないでしょうし、二五バーセントの確率で成功させるにも、大変な技量がの歴史に必要です。アマチュアや政治家や学者にまかせても、彼らが正しい企業を選択する可能性は低いでしょう。彼らは、より有望な企業には資金を出し惜しみし、結局失敗する企業には多すぎる資金を投じるでしょう。ベンチャー投資家が成功するのは、一つには、投資の成否に自分たちの生活がかかっているからです。彼らは研ぎ澄まされた投資の技量を持っていますが、それでも多くのベンチャー企業が失敗し、倒産しています。

    助成金
     助成金が功を奏すのは、その産業が助成金によってすみやかに成長して競争力をつけることができる場合に限られます。太陽電池のコストが下落しているのは、助成金と競争との絶妙な組み合わせが効果を発揮した結果です。そのいっぽうで、大規模な太陽熱発電は、わたしから見ると、長期的にはほとんど見込みのない技術ですが、同じように助成金によって事業として成立することができました。

    エネルギー災害
     エネルギー災害は、大変な難問です。国民を怖がらせて、悪影響をますます悪化させるようなことにならないように注意が必要ですが、指導者が本当の危険を軽視していると人々に思われては、政治家として厄介な立場になります。指導者の立場にいる人は、どんな事故でも大災害だと言いたくなる誘惑に駆られるでしょう。そうすることが、歴代大統領にとっては、もっとも安全な政治判断でした。こうした安易な方法を取れば、問題の解決に失敗しても、指導者はその罪を問われないでしょう。もし問題を克服した場合には(あるいは、そもそも実際にはそれほど深刻な事態ではないので克服する必要もなかった場合でも)、あなたは英雄扱いされます。しかし、事態を誇張した場合にはリスクが伴います。なぜなら、人々はだまされていたことを知ったときには、怒りを覚えるからです。この世界には、数多くの脅威が現実に存在しているのですから、検知も測定もできない危険を恐れて政策を左右するようなことはしないほうがいいでしょう。デンバー線量を基準として採用することをお勧めします。

  • もしあなたが一国の指導者だったら、どういうエネルギー政策を取るべきかというスタンスで話が進められていて面白い。大事なことは最終章にまとめてある。いくつか掻い摘むと、
    ・地球温暖化は中国を始めとする新興富裕国次第で、例えば中国の成長が鈍化しないぎり、アメリカが排出量を削減しても意味がない。(今後排出される二酸化炭素のほとんどは、途上国からのものとなる)
    ・工場やガソリンスタンドといった自動車用インフラはガソリンを運ぶために発達してきたため、燃料として石炭や天然ガスに代替することができない
    ・我々はエネルギーを住宅・商業・産業・運輸に使っていて、それらは電力や石油から作られる。さらに電力は原子力、太陽光、天然ガス、石炭…と様々なエネルギー源から作られている。実際、エネルギーとして使用できるのは半分弱で、残りは損失となる。
    ・エネルギー危機とは、地球温暖化とエネルギー安全保障のことである。前者の原因は途上国での石炭の使用量が急速に増大していること、後者の原因は(アメリカについて言えば)石油不足である。費用のかかる対策は途上国には取れないことを踏まえれば、石炭から天然ガスへのシフトが現実的だと筆者は言う。
    ・エネルギー生産性の向上(つまり省エネ)はお金を節約し、輸入を減らし、経済を活性化できる非常に有効な策である
    ・原子力について、低濃縮ウランを使っている限り爆発することはない。発電所の建設の初期コストは高いが、燃料費やメンテナンス費は非常に安い。
    ・電気自動車は航続距離やバッテリーの交換コストの面でガソリン車に劣る。こうした点で筆者は電気自動車よりもハイブリッド車を推す。ちなみに自動車が地球温暖化に与える影響は大きくない。

  • エネルギーについての基礎知識が得られる。
    著者の結論は天然ガスが当面のベストということ。
    どのエネルギーも難点はある。
    新聞で書くほど簡単な話ではないとわかる

  • SDGs|目標7 エネルギーををみんなに そしてクリーンに|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/704697

  • 第1部 エネルギー災害
    第1章 福島原発事故
    第2章 メキシコ湾原油流出事故
    第3章 地球温暖化と気候変動
    第2部 エネルギー景観
    第4章 天然ガス・思わぬ儲けもの
    第5章 液体エネルギー安全保障
    第6章 シェールオイル
    第7章 エネルギー生産性
    第3部 代替エネルギー
    第8章 太陽電池の急成長
    第9章 風力
    第10章 エネルギー貯蔵
    第11章 原子力開発の急発展
    第12章 核融合
    第13章 バイオ燃料
    第14章 合成燃料とハイテク化石燃料
    第15章 代替エネルギーのそのまた代替案
    第16章 電気自動車
    第17章 天然ガス自動車
    第18章 燃料電池
    第19章 クリーンな石炭
    第4部 エネルギーとは何か
    第5部 未来の指導者へのアドバイス

  • 現代、大きなテーマとなっているエネルギー問題
    その論争の的を様々なカテゴリーで紹介してくれている
    どのエネルギーには長所、短所があり、前途有望なのか、など細かく説明されてて良かった
    やはり日本は原発を完全停止させるべきじゃなかったなと改めて思った
    今後石油に取って代わると筆者が述べている天然ガス、たしかに魅力的ではある
    ただそれを超え、より優った(二酸化炭素排出しない)エネルギーの台頭を待ち望んでいる

  • エネルギー問題の本は数多くあるが、この本が特殊なのは、将来国のリーダー、例えばアメリカ大統領などになる人に向けた特別講義であるという点である。副題に「カリフォルニア大学バークレー校特別講義」とある。一国の指導者として、エネルギー問題にどう向き合うのか、何に配慮しなければならないかという講義録である。
    常に冷静に事実を見極め、そして経済への影響を視野に入れて、国を豊かな未来へ導くために知っておくべきこととして、エネルギー問題を様々角度から俯瞰し、アドバイスをしている。
    あらためて、我々にとってのエネルギーとはそういう存在であるのか、またどういう状況にあるのかを振り返ってみる一助になるのではないだろうか。視点を変えてみればエネルギー問題も、こういう捉え方ができるのかという点においてもなかなかに興味深い。

  • 辞書的に使う

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