チャヴ 弱者を敵視する社会

  • 174人登録
  • 3.86評価
    • (5)
    • (11)
    • (4)
    • (2)
    • (0)
  • 15レビュー
制作 : 依田卓巳 
  • 海と月社 (2017年7月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903212609

チャヴ 弱者を敵視する社会の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 昨今日本でも大流行の「自己責任」や「移民有害」論に対する指弾の書。最富裕層が中流階級以下から搾取するためにこれらのレトリックを捏造したという、各種論拠を用いての指摘は正当なのだろうが、とにかく読後感が悪い。暗く、絶望に満ちた気持ちになる。
    ひとつには、このディストピアに対する処方箋がないことだ。「頭を使わない単純肉体労働だが、長年勤めるうちに『熟練工』になれ、高給で安定した仕事」などというものを、肉体どころか頭脳労働の相当程度すら「ロボット(AI)に奪われる…!?」とおののいているこれからの時代に、はたしてつくり出せるものだろうか? そしてまた、「報われない」白人労働者階級が移民ヘイトやレイシズムに走るのを戒め、「英国は英国人にのみ報いればよい」というのではないと言うなら、そういう仕事を60億人分用意できなければならないわけだが、そんなことがいったい可能なのだろうか?
    片や、ただでさえ億万長者な最富裕層は、なぜこのうえさらなる金子を貯め込みたがるのだろう。子や孫のため? …そんな「貧乏たらしい」心配は、中流階級以下のものだろう。100回生まれ変わっても遣いきれない財産を有しているエリートのエリートっぷりは、そんななまやさしいものではあるまい。
    贅沢したいがため? …庶民の私ですら、四十の坂を越えて各種欲望(それはとりもなおさず「気力」の一種だ)の衰えを感じている。ダウンタウン松本が長者番付のトップを独占していた当時のエッセイで語っていたが、住宅などというものは、機能的にはどれもさして変わらない。ゆえに「オレに言わせれば、月に100万円払っても住みたい部屋などというものはこの世に存在しない」。これを「しょせん貧乏育ち」と嗤うことは、まだできるかもしれない。しかしこれが月額1,000万、さらに1億ではどうだろうか。人間の欲望には際限がないのかもしれないが、その身体性には、物理的限界というものが厳然と存在するのだ。
    彼らが足るを知り、ノーブレス・オブリージュに目覚めてくれればすべては解決するとも思えるのだが…しょせん人間に、それを期待するのが間違っているのだろうか。人類はこのまま、餓鬼のごとき欲望と、罪なき他人への愚かでいわれなき嫉妬の果てに、なすすべなく滅び去るよりないのだろうか…?

    2017/11/11~11/13読了




  • 「弱者を敵視する社会」とある。英メディアが生活保護不正受給者をバッシングする過剰報道を行う一方、その何十倍の規模で着服され続ける政治資金には触れられることがない社会。そして、中流階級の子供が誘拐された時には同情的世論が集まる一方で、労働者階級の子供が同じように誘拐された時には、その家族が批判される社会。

    その背景にはサッチャリズムにより作られらた中流階級志向がある。労働者階級と中流階級には格差があり、労働者階級からの脱却は向上心があればできるという幻想が作られた。つまり労働者は怠惰によってその位置にいるわけであり、貧しい生活を強いられるのも自己責任、よって社会福祉予算を削減することも致し方がないという風潮ができあがった。

    サッチャリズム以前のイギリスでは、労働者階級とは英産業を支える役割として認識されていた。しかしサッチャリズム以降、労働者階級とは「貧しく、知性がない」という意味合いとして捉えられるようになった。
    そこには、保守党の脅威として存在した労働党や労働組合自体の弱体化の狙いがある。

    「チャヴ」という言葉は「貧しく知性がない労働者階級の若者」という意味を持つ。サッチャリズム以降に醸成された「労働者階級=怠惰、無気力」といったような自己責任社会において最下層に置かれる若者を指す。
    しかし、労働者階級の多くの人々がそうならざるを得なかった背景には、保守党が行ってきた英産業の破壊による労働者階級のコミュニティや雇用先の破滅がある。
    奪うものを奪っておいて、結果は「自己責任」である。


    日本でもこのような風潮が見られる。若者を中心とした政治不信に、労働に対する忌避感。生活保護受給者に対する国民の目線は厳しく、メディアの偏向報道に従って国民の世論は「炎上」する。大相撲の暴力事件や不倫騒動を一日中報道する中、看過されたもっと大きな出来事はないのか不安にもなる。

    国によって「弱者」と定義される人は変わる。その弱者がどのようにして、何の目的で生まれたのかを知らなければならないと感じた。
    学力社会における弱者は、大学にまで行けなかった人達。では行けなかった理由は彼らが怠惰だったから?貧困に陥っていたから?ではそうなった理由はどこにあるのか。自己責任で片付けてはいけない。

    個人の生活としてもこの本から学んだことは生かせる。職場でいきいきと働くことのできていない人がいる。その人がそのような状態にあることを自己責任で片付けてはいけない。原因はどこにあるのか、考えなければならない。



    Twitterアカウント
    @morichy3333
    #chavs #チャヴ というタグ付きでその時考えたことも呟いています!

  • チャブとは、低所得白人層をさす侮蔑後。
    イギリスにおける、この層に対するバッシング、というかもはやイジメとしか思えないの状況と、その背景にある労働党の変質、サッチャー政権による労組無力化を説明している。
    この本を読むと、ここ数年の日本でのリベラルへの不信、そして生活保護へのバッシングが、別に日本独自なわけではなく、イギリスで先行していたいわゆる「改革」によって引き起こされていることが理解できる。
    原著は2012年で、トランプ政権発足や、BRIXITを織り込んでいないが、ブレイディみかこの一連の本と併せ読みすると、より立体的に理解できるように思う。

  • 2017年38冊目。

    イギリスで、労働者階級に対する不快感を込めて使われる言葉「チャヴ」。
    中流階級のような上品さがない粗野な下流階級、という意味合いが込められているという。
    チャヴヘイトとも言える彼らへの攻撃は、マスコミの報道、政治家の発言、チャヴ撃退を謳うトレーニングビジネスの宣伝文句にまで表れる。
    その過激さに、正直吐き気がした。

    暴力的、不正受給した社会保障を食い物にしている、金がないくせに子どもをたくさん生む...
    (一部そのような事実があることは認めるにせよ)そのような悪印象だけが一面的に語られ、「貧しいのは自己責任」と切り捨てられる。

    そんな社会に怒りを覚え、警告をあげたのが、本書著者のオーウェン・ジョーンズ。
    20代で書き上げたこの本は世界中で翻訳され、各国の政治運動に大きな影響を与えているという。

    ・社会保障の不正受給による損失は年間約10億ポンド=約1450億円であるのに対し、脱税による損失は毎年約700億ポンド=約10兆1500億円。約70倍。

    ・法人税を世界最低水準の24%に引き下げた一方、貧困層ほど割が重くなる付加価値税(消費税に近いもの)は20%に引き上げられた

    このデータはほんの一例で、他にも彼らの悲惨な住宅事情や求職の難しさが、そもそも(特にサッチャー時代の)政策から生み出されていることを指摘している。

    労働者階級の人々の環境は、彼らの自己責任というだけで低福祉社会に移行していくことで、本当に改善していくのだろうか。
    貧困構造を生み出しているもっと大きな課題はないのだろうか。
    この問いは、イギリスだけに当てはまるものではなく、日本人の立場で読んでもかなり考えさせられる。

    政治家や全国紙のジャーナリストのほとんどは、中流以上の階級の出身だそう。
    現場感のない権力者ほど恐ろしいものはない、と思う。
    (「イギリス人の平均年収はいくらだと思う?」という質問に、ある編集者は「8万ポンド=約1160万円」と答えたそう。実態の4倍近く)
    現場の真実を知ってしまうことが既得権益者にとって不都合、として避けているのであれば、なおさら。
    少なくとも本書を読んだ限りでは、現場を本当に知った上で「自己責任だ」という言葉が出てきているのだとは、とても思えなかった。

    衝撃の強い一冊。
    まさに「世に問う」という意気込みを感じた。

  • 2018年1月読了。
    149ページ以降で紹介されている「チャブ・ヘイト」の紹介が印象的。
    「ようこそ、王族が労働者階級のまねをしてふざける二一世紀のイギリスへ!」(150ページ)
    「ブリティッシュロック」の国はどこに向かっているのか。

  • イギリスの白人労働者階級が職を失い、苦境に陥っているのは、産業の空洞化、エリート階級による搾取が原因だ。
    しかし、彼らを貶め、怠惰と決めつけることが現在の風潮になってしまっている。そのからくりを見事に暴いた名著。

    安易な固定観念で「自己責任」で片付ける風潮は怖い。

    本書に書かれていたように、社会保障費の不正受給の総額よりも(もちろん、これもあってはならないことだが)、富裕層、超富裕層の脱税の総額はそれをはるかに上回っている。

    冒頭に書いた「弱者を敵視する社会」となってしまった現代のイギリス。

    この現象は、先進国で起こっており、そして、まさに今日本で起こりつつある現象で、日本が歩んでしまうような危惧を覚える。

  • 飛ばし読み

  • 人種差別や性差別はNGなのにチャヴに対する差別は問題にならない。
    その根源的な理由がよくわからなかった。
    生まれつきではなく、努力をしないことによってチャヴはチャヴのままでいるのだと英国の中流階級以上は考えているということなのかな?
    それとも歴史的に人種差別などよりずっと前からある差別意識なので、差別と認識されなくなっているのかな?

  • 読後天を仰ぎいろいろ絶望。たぶん今後の日本にはこれを上回るひどい状況が待ち受けているであろうことも明白でさらに嘆息。

  • イギリスの意外な階級社会の実態。

全15件中 1 - 10件を表示

オーウェン・ジョーンズの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
トマ・ピケティ
スティーブン・ピ...
ヴィクトール・E...
ピエール ルメー...
スタンレー ミル...
有効な右矢印 無効な右矢印

チャヴ 弱者を敵視する社会を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

チャヴ 弱者を敵視する社会を本棚に「積読」で登録しているひと

チャヴ 弱者を敵視する社会の作品紹介

これが、新自由主義の悲惨な末路だ!緊縮財政、民営化、規制緩和、自己責任社会…。支配層の欺瞞を暴き、英米とEU各国で絶賛された衝撃の書!

ツイートする