教養論ノート (リーダーズノート新書 S 302)

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  • リーダーズノート
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903722252

作品紹介・あらすじ

読書とはひきこもりですか?思想とはセカイ系ですか?知識人はオタク化しますか?あなたは臨床思想士になりますか?そして、教養は復興できますか?教養とは復興期の精神である。

感想・レビュー・書評

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  • 「知」「教養」「読書」はほんとうに必要なのか。
    それを論ずるために、この本では知と「世間」の実態をまず直視しようと試みています。
    大学の研究室や仲間うちと言った限られた世間(タコツボ)でだけ通用し、実学として役に立たない(所詮は趣味でしかない)「知識」について、それ以外の社会はどう見ているのか、そういう「知識」を社会はどう活かしていくことができるのか、といった感じの内容となっています。

    この本の内容を超簡単にいえば『「読書」等により「知識」を得ることで、「生きる指針」を得、「自分」の立ち位置を知ることができ、タコツボの理論にとらわれなくなる。』ということかな。

    【なるほどな点】
    ・(大学院生の文学研究について)「そんなことをしていったい何になるのかね」という問いかけは、たけしが、アーチェリーと狩りに例えながら、どんな学者の研究も、自分の生き方へフィードバックできなくては意味がないと語ったのに対応している。(P15)
    ・まず、自分がどういう人間なのかを知る。これが一般教養の核心なのです。そのために、自分と過去の関係を考える。(中略)そういうもの(家族、先生、地域、国家社会)と自分との関係を知ることだろうと思うんでね。(P26)
    ・主義に、思想、学問、教養…。われわれがアクセスできる知のほとんどが、この「趣味」化の汚染を免れていないのである。(P37)
    ・生きる指針を、そも「教養」なぞに期待しないという賢明(P50)
    ・生き死にに関わる事態が実際にやって来たそのときは、アメリカへどっぷり依存するつもり。まだまだ余裕がたっぷりある今は、口先だけの反米非武装中立「趣味」に耽っていたい。これが護憲派の正体だったのだ。(P67)
    ・何が大切で何が大切でないか。それがわからなくなったとき、立ちかえれるよりどころこそ、あの「生き死にの指針」だろう。(P78)
    ・つねに何らかの強制であるしかない教育においては、その強制の理由のあるものとして普遍的に受容されるか否かが成功の鍵を握る。勉強しても出世できない、収入も変わらない、たいして上昇できないとなれば、もはや誰が好きこのんで努力などするだろうか。(P86)
    ・「思想」の本も同様で、読んでも、「思想」それ自体についてばかり物知り(オタク)になって終わってしまう。世の中万般について、「何が大切で何が大切でないか」をわかるための、「哲学」や「思想」の用い方が手ほどきされる本など滅多にない。(P91)
    ・中高生について騒がれたドラッグ、援助交際などのモラル弛緩を取り上げる場合、彼女ら彼らが、いつもつるんでいる友達共同体をこそ、あらゆる判断規範の中心においているという一点を視野にいれないかぎり、どんな考察も、まるでリアリティを書く。(P124)
    ・夏目漱石は、「新潮」誌による「文学は男子一生の事業とするに足らざるや」なるアンケートにこう答えている。「文学者の職業を男子一生の事業とするに足るというならば、大工も豆腐屋も下駄の歯入れ屋も男子一生の事業とするに足ると言っても差し支えない」と。漱石はさすがに、作家がそのなりわいを許されるゆえんを、なんら増長することなく、健全なかたちでわきまえていたといえよう。(P144)
    ・ある「趣味」を抱くとは、すなわち、その「趣味」を共有する「世間」(タコツボ)へ参入することと等しくなったといってよい。(P161)
    ・現実への適用のない、実践から遊離した主義は、すなわち趣味へ内向し、考えとしては誤っていないと感じる者たちが集う奇怪な趣味の王国ばかりが、あちこちに残された。(P176)
    ・(文章の内容ではなく朝日新聞に文章が掲載されたことを評価されたSF作家である横田順彌は)「馬鹿にされるよりはいいが、すっきりはしない。物書きが作品内容で評価されるのではなく、掲載場所でほめられるのは本筋ではないような気がする。だいたい、大新聞に名前や写真が載って立派というなら、強盗や殺人犯は、ぼくより、よほど立派な人間ではないか」(P187)
    ・知の専業者のほとんどは、「世間」が「自分」の肩書や権威に向ける眼差しと「自分」のしごとへ向けるまなざしとが峻別できなくなっているのではないか。(P188)
    ・私たちは他人の書物を読むばあい、その書物の中に、自分と同じ考えが述べられているのを発見して喜びます。(中略)いずれにしても、自分の思想を裏付けるために読書するのは下らないことです。他人の書いた書物を読むのは、自分の考えを破壊するためでなければなりません」(P223)
    ・いくら奇跡のたぐいをありえないと確信している人でも、その奇跡を主張する他人、信じる他人がいる事実までは否定できないのである。(P241)
    ・(知の)バブルに気づいたら注意すべきなのは、どこまでが泡で、どこまでが実体化をしっかり見極めておくことである。これはあの「何が大切で何が大切でないか」を知ることにほかならない。(P305)
    ・自分の行き方にフィードバックして行ける、知、生きる指針を、自分とは何かを世の中全体との関係で位置づけられる知をこそ、新の「教養」と考え、需要され供給されるべき根幹と考えてきた。この立場をもととすれば、娯楽や自己満足は、よくて副産物、試験対策や流行、虚栄は、まさに学歴制度や記号消費社会というバブルゆえに生い茂った余剰な枝葉と考えられるだろう。(P308)
    ・現実逃避のためのエンターテインメントとしての需要が、知を顧客が求める動機のかなりに根源的で大きな部分を占めるという現実を無視することはできない。(P310)

    【参考図書】
    ・「ザ・知的漫才 けっきょくわかりませんでした」(ビートたけし)
    ・「ニセ学生マニュアル・死闘編」(浅羽通明)
    ・「思想家志願」(浅羽通明)
    ・「昭和三十年代主義」(浅羽通明)

  • 思索
    哲学

  • 「自信力」(p.23)

  • 3点リーダーが多くて読みにくい.
    前半のほとんどはふわふわした内容でいまいち頭に入ってこなかった.

    第7章は面白いと思ったんだけど,そこに行き着くまでが大変だった.

  • 「自分の役に立つため」の「教養」という位置づけじゃなくて、

    「何が大切で何が大切でないか」を決する指針である「教養」。


    「思想」「哲学」や主義・主張が全てそれぞれの「世間」で「タコツボ化」する日本の事情。


    学問は学問であることに意味がある。と思ってるだけに、何かあまり入り込めなかったのかも。


    ちなみに、(10年前に書かれた本やから仕方ないけど)Facebookも日本では広がりを見せないっていう下りを読んで、何か一気に冷めた。笑

  • たしかに、知識を欲しがる、本を読む、といった事は、たけしのいうように、自分の生き方にフィードバックがなければ意味がない。し、他の知識を組み合わせて現実に役立てなければ意味がない。
    解説だけの学者では意味がない。

  • 以前から教養を身につけたい、と思っていてもそもそも教養って何よという問いが離れなくて、
    タイトルに惹かれ手に取りました。

    短所から言うと
    結構分厚いのですが、それだけ論ががっつり書かれているのかと思えば、例とか理想論が多すぎるww
    第4章なんかはほとんど読み飛ばしました。
    ちゃんと理想を述べた上で「でもこれは不可能だよね」となるのですが、それまでが長い長い。

    気に入った点は
    私の嫌いな立花隆や宮崎哲也をバッサバッサ斬ってくれてるところ(笑)

    「教養とは」の問いには最初の方で答えてくれます。
    阿部謹也の引用で
    「教養とは一人ひとりが社会とどのような関係を結んでいるかを常に自覚して行動している状態で、知識ではない。」
    知識じゃないんやΣ(・∀・)!!完全に勘違いしてたよ
    続いて「一般教養の核心とは自分がどういう人間なのかを知ること」

    つまり文系でも理系でも、どんな研究でも自分の生き方にフィードバックできなくては意味がない。
    に対して今の大学は(特に理系)とてもフィードバックできるレベルじゃないところで研究が進んでる。
    なぜそうなるかというと、学者の集まり=一つの世間でああだこうだ言われる知は、
    あくまで世間内の知でしかなく、趣味にとどまるから。世間外の素人にはわかりません。

    じゃあフィードバックさせようと思うとどうすればいいのか。
    思想、哲学には二面あって、一つは仮想my worldを創りあげて浸る娯楽。そうなってしまう危険性はある。
    二つめは、自分の生死を考える指針として諸知識をそれぞれ意味づけ配列してくれる根本。
    後者の使い方をしたい人はどうするかというと、
    まずいろんな哲学者の考えを見てみる。でも自分に100%で迫ってくることはないと気付く。
    →自分で考えるしかない。
    何が大切で、何が大切でないか
    そのためには自分の裡にある衝動、嗜好、欲求、意志をしっかり自覚する
    →自分とは何かを知る=一般教養の核心
    まだこの段階では自分個人のものでしかないのでこの後他人を繰りこんでいく(ここはちょっと難しかった)

    そうなんだよね。
    たとえば春にニーチェを軽く知って、その時の私にはピンと来たけど一生ずっとああ考えてられるわけもなく。
    どんな思想でも共感できるところとできないところがある。
    まぁそれぐらいは分かってた。

    その次段階の、自分で考えるということを私はしてきたかは微妙で、考えてみました。
    欲求:純粋に知的好奇心を満たしたいから大学行きたい。何が大切で何が大切じゃないかも知りたい。
    ただ、最近じゃっっっかんそう考えることに疲れてきた
    その前は? 医療に携わりたい。私が携わるべきやと思う。ただ、医者にはなれない
    さらにその前は? ダス・マン。あるいは美的実存。

    ほんま手術受ける前は"ただの人"にほかならなかったなぁと思う(笑)今だから笑えるお話

    さっき疲れてきたって書いたけど、何にしても考えるというのは疲れる。
    ただ人間として、自分がどういう人間で自分の本当の目的は何かぐらい分かっときたい。

    最近の疑問は、どれだけの人がちゃんと考えて生きてるのだろうか、で
    ちゃんと考えてそうな人に出会うと、まだ世の中捨てたもんじゃないなと思うけど
    そうでない人に出会うと、淋しくなる。
    ある友達には、みんな考えてないで、と言われた。w
    本書にもH・アーレントの引用で「ひとりになって自前の思考を紡ぐものは少数派」と。w

    筆者は、ほとんどの人は楽だから「世間」に溶けこむことを選ぶ。
    こういうひとには「何が大切で…」の問いは生まれない。考えなくても生きていけるから
    but例外者は存在し、彼ら(ex.予備校生)は、人間はいかに生きるかということの出発点になるべき孤独感を認識しやすいから
    そういう人こそ自分の生死を考える指針としての哲学を欲する。と述べている。

    何も考えずにいる快楽も知ってるから、逆に思考したくて思考してても疲れるんだきっと。
    今も朝から全力で疲れてる(笑)

    本書の中に、レーニンがたいへん無欲潔癖質素な人で、
    こういうひとはえてして他人にも自分と同様の無欲潔癖…をごく自然に期待してしまう
    というのが載ってて、私もそうな気がする。
    もっと寛容にならないといけないか……。



    私ら人間やねんから、人間自身ぐらいについては知っときたくない?
    あと地球に住んでるんやから地球で起こってることぐらい知っときたくない?
    というノリで哲学と理科は人間として学ぶ「べき」やと最近考えていたのですが
    どうもその「べき」が強すぎた。
    でも一個人としてはやっぱり両方知りたいので、疲れるの承知でこれからもやっていこうと思います。

    • hilite10982さん
      世の中、疲れることが多いけど、自分と世間との関係性を整理できていないと、さらに疲れてしまうのかもな。ま、生きていくことで疲れもするけど、生き...
      世の中、疲れることが多いけど、自分と世間との関係性を整理できていないと、さらに疲れてしまうのかもな。ま、生きていくことで疲れもするけど、生きている限り、楽しいこともまたあるよね。教養は、そんな楽しみのためにあるんとちゃうか?
      2011/08/05
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著者プロフィール

浅羽 通明(あさば・みちあき):1959年、神奈川県生まれ。「みえない大学本舗」主宰。著述業。81年、早稲田大学法学部卒業。著書に『ニセ学生マニュアル』三部作(徳間書店)、『大学で何を学ぶか』(幻冬舎文庫)、『『君たちはどう生きるか』集中講義』『右翼と左翼』(以上、幻冬舎新書)、『教養論ノート』(リーダーズノート新書)、『思想家志願』『天皇・反戦・日本』『昭和三十年代主義』(以上、幻冬舎)、『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』(ちくま新書)、『ナショナリズム』(ちくま文庫)、『野望としての教養』(時事通信社)、『教養としてのロースクール小論文』(早稲田経営出版)、『澁澤龍彦の時代』(青弓社)、『時間ループ物語論』(洋泉社)等がある。

「2021年 『星新一の思想 予見・冷笑・賢慮のひと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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