観察する男 映画を一本撮るときに、 監督が考えること

著者 :
制作 : ミシマ社 
  • ミシマ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903908731

作品紹介・あらすじ

舞台は牛窓(岡山県)。カメラを回せば――
グローバリズム、高齢化、震災の影響、第一次産業の苦境・・・
すべてが映りこんでいた。

観察映画『牡蠣工場』(2016年2月公開)をつくる監督を逆観察。
台本なしの映画づくりの幕が上がる!
映画を観るように読んでください――編集部より

内澤旬子、岸政彦、堀部篤史、各氏推薦!!

感想・レビュー・書評

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  • 著者の元になった観察映画『牡蠣工場』の感想です。予めご了承ください。

    上映後のトークショー付きで想田監督が松山に来られていました。想田監督の作品は以前から知っていたのですが観る機会が無く、今回松山に来られるという事で、仕事も早々に切り上げて行ってきました。
    以下ネタばれの内容もありますが、読まれたからと言って映画の感動が損なわれる事はないと思います。それだけのインパクトはあったと思います。

    「牡蠣工場」はその名の通り、養殖の牡蠣を引き揚げて、それを工場内に持ち込み、人手を使って甲羅を剥いて中身を取り出し、各方面に卸していきます。
    映画を見て頂ければわかりますが、まさしく「こうば」です。

    想田作品の特徴は、観察映画というドキュメンタリーです。想田監督自身が1台のカメラを持って、撮影から編集、音楽等に至るまで全て一人でこなされます。
    想田監督が意識されているのは、ドキュメンタリーであっても、最初から主張したい事などがあって、それに落とし込むべきネタを集めて作品を作り上げるものではないという事です。どこか予定調和になってしまうと言われてました。

    実際に、想田監督は10年ほどNHKでドキュメンタリー作品を手がけられた経験から、上記のような従来のドキュメンタリー制作に疑問を持っておられました。
    そしてご自身で手がけられる様になってからは、アクシデントやトラブル大歓迎で、筋書きのないドキュメンタリー作品を撮られる様になりました。
    事実、『牡蠣工場』も最初から牡蠣工場を撮影しようとした訳ではなかったそうです。
    奥様の故郷が岡山県牛窓なのですが、そこの漁師の方々生活を撮りに行った中で、牡蠣工場の存在を知り、撮影していったら、結果『牡蠣工場』が完成したとの事です。

    今回が観察映画6作目に当たりますが、最初は観察映画に徹しようと、可能な限り想田監督の存在が被撮影者に影響を与えない様、自然に振る舞える様試行錯誤を繰り返されて様です。
    しかし、最近では想田監督に影響を受けたれた被撮影者の方の振る舞いも、それ自身が個性だとして受け入れ、より想田監督自身が自然体に振舞われているようです。
    実際に、映画の中で想田監督の声が入っている場面も散見され、それ自体OKとの事でした。

    撮影は多分1週間程だったと言われていました。
    しかし、編集に莫大な労力と時間を費やします。
    想田監督の作品は編集が肝になります。
    その作業があって、初めて観客に観てもらえるクオリティーになるそうです。

    想田監督は、自分が撮影しながら体験した事を、映画を通じて追体験して欲しいと言われていました。この点が観察映画の醍醐味の一つではないかと思います。
    私が追体験したシーンは、牡蠣の養殖場から山のような牡蠣が釣り上げられる瞬間です。
    牡蠣の硬い甲羅同士がぶつかり合う音が印象的でした。それと、工場ですので、牡蠣が出荷されるまでのプロセスは何度も映るのですが、商品である牡蠣を食べるシーンが1箇所だけありました。出稼ぎで中国からやってきた青年二人に、工場に来た初日に一緒に食べます。作品も後半だったので、そのシーンがやたらと残ってしまいました。

    監督自身が予定調和を好まず、追体験をして欲しいと言われた「観察映画」ですが、その特性として、観客自身逃げられないという感想を持ちました。映画に出てくる人達の感情がダイレクトに伝わってきます。通常の映画ですと、どれだけ心揺さぶられるシーンがあっても、それは演技というオブラートで包まれて観客に伝わります。
    しかし、『牡蠣工場』では、オブラート無しでそのまま伝わって来ます。
    故に、逃げられないですし、追体験の一形態でもあります。作品中で誰かが激昂するような場面はありませんが、しずかなシーンでもあっても、それがかえってじわじわと伝わってくるんです。例えば、上記の出稼ぎでやってたきた青年二人の不安の混じった表情などです。

    著書と映画を一緒に味わう事で、理解度と面白さは倍増です。

  • とても興味深く読む。
    やはりミシマ社は切り口が面白い。

  • 778

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784903908731

  • 想田監督の映画は「選挙」「選挙2」しか見てないので決して詳しくないです。たまたま仕事にかこつけて行けそうなところで講演会してたので、その場で前売り券と本を購入。
    「日本の漁業」とか「中国人労働者」とかについては映画を見てからでないと何とも。あくまで「牡蠣工場」という映画があった上で、映画の副読本的な本。
    映画の撮影とか編集の話はおもしろい。専門書は探せばあるんだろけど見たことないので、単純に知らない世界への好奇心が満たされる。まぁ「想田監督の観察映画」の作り方であって、一般的な映画とはまた違うんだろうけどそれはそれとして。
    講演会も含めての感想として、この人スゴい頭いいな、と思った。講演会の質疑応答とかも上手いなぁ、と思ったし。
    あえて難をつけるなら、読みやすい分、あっさり読めちゃうところがちょっと残念。読書はだいたい通勤電車の暇つぶしなのであっさり読めすぎると時間がつぶれなくて(勝手な意見

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著者プロフィール

1970年、栃木県生まれ。映画監督。東京大学文学部宗教学科卒。ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒。台本やナレーション、BGM等のない、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。監督作品に『選挙』『精神』『peace』『演劇1』『演劇2』『牡蠣工場』『港町』『The Big House』『精神0』等があり、海外映画祭等での受賞多数。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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