昭和の店に惹かれる理由

著者 :
  • ミシマ社
3.62
  • (3)
  • (9)
  • (7)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 129
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903908885

作品紹介・あらすじ

その、なんか正しい感じに私は憧れる

普段、表に出ることのない10軒の名店の人々。
「サービス」では永久にたどりつかない何かを探った。

昭和の時代をつくってきた人々の、そしてそれを継ぐ者たちの、技・心・そして…
時代とともに消えゆこうとするその灯火を丹念に追った、著者渾身のノンフィクション。
好評ロングセラーとなった『シェフを「つづける」ということ』に並ぶ名作、誕生。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ことばえらびがすてき

  • 飲食店を開業する前に読めて良かった。収益性とは別軸の商売をする上で大切にすべきこと、その商売をする意味について考えるきっかけになる。

  • それぞれ信念を持っていて、どの信念も素敵でした。
    閉店してしまったお店もあるようでとても残念。

  • 飲食の異なるジャンルの名店を計10店、取り上げている。

    鮨、天ぷら、焼き鳥、とんかつ、バー、そして珈琲などなど。

    10店あれば10人の店主がいて、それぞれ考えも全く違ってくる。

    効率や極力無駄のない運営の元、均一な商品、サービスを第一に求められるのがチェーン店だとしたら、本書に登場するお店はそこから多分に外れているのかもしれない。

    もちろん、効率がおざなりというわけではない。

    「”儲けよう”よりも、日々”努めよう”」

    「楽をしたいとか、大量に作りたいとか欲張ればそれなりの方法とか保存方法もあるんでしょうけど、食べる人にとって決していいことではありません。食べることに関して、本当に時短は利かない。」

    「人は昔から、昔はよかったって言うんです。
     大事なのは、昔のよさと、今のよさの折り合いをつけていくということ。」

    「食べものでも産業でも何でも、手をかけなきゃ駄目なのよ。」

    「自分はこれで行くんだって1本通っていたほうが、仕事がぶれなくていいですね。」


    どの店主も信念や軸を強く持っている。

    それは先代から伝わっているものなのかもしれないし、自身の経験からくるものなのかもしれない。

    「お客様に育てられた」というエピソードも幾つかあった。
    お客様と正直に向き合うことで生まれる関係。

    個人的にはやはり、「珈琲の神様」こと、カフェ・ド・ランブルの関口さんの言葉はより重く感じられた。

    「今、みんな知識はものすごくあるけれど、でも珈琲を目や耳で飲んでいるんですね。自分の舌で飲んでいない。」

    思わずハッとさせられました。

    最期に、誠光社の堀部さんの帯コメントが、本書の伝えたいことをシンプルに表していると思うので下記に。

    「どれだけ資本をつぎ込んでも作ることの出来ない、時を重ねた物語のあるお店。それを選ぶ美意識が、待ちの居心地をつくる。」

  • 673.9

  • 世の中がどう変わろうとも、本質を求め続けた人たちの話は尊い。本質は何かを自問自答し続けた人の姿は凛としているのだと思う。そして、それは昭和に限った話ではなく、今も変わらない。流されてはいけないと思った。

  • 思わず「昭和やなぁ…」って呟く時、決まってそこには揶揄と憧憬が入り混じる。「コスパ」なんて言葉はなく、「グルメサイト」の評価基準に一喜一憂することもなく、精々寿司屋で粋がって符丁使う程度。そんな昭和の街には効率・価格等からはみ出る非合理的な事をむしろ大事にし、先代の教えを愚直なまで受け継ぎ営々と暖簾を守る店がある。

    本書はいずれ劣らぬ名店10店を訪ね、店主の姿勢や心構えに焦点を当てる。各々料理も客層も異なる。共通するのは「居心地の良さ」に腐心されていること。人の手と意思で磨かれた清潔感。初顔も常連も分け隔てのない距離感。付かず離れず寄り添い見守るような配慮…。口を揃えて言う。「当たり前」のことをやってるまでのことです。この積み上げてきた姿勢は武道の「型」に似たものを感じる。

    著者は名店のそんな有り様を丹念にすくい取りながら、❝背筋がしゃんと伸びた店❞の居ずまいを「昭和の店」と深い敬意を込めて呼ぶ。そこにはノスタルジーさの微塵もない。

  • 飲食業が飲食産業に乗り替わっていく時間の中で産業化しなかったお店たちの小さな物語。いや、お店の人たちの職業観の記録。直前に読んだ「消費社会から格差社会へ」で上野千鶴子が「日本の消費社会化の世界に誇れる達成は、コンビニとファミレス。コミュニケーションスキルのない人でも生きていけるインフラを作ったのだから。すごい達成ですよ。」と言っていましたが、本書に登場するお店の人たちがつくっているのはお客さんたちとのハイコンテクストなコミュニケーションなのだ、と思いました。ところで昭和再発見はこの時代に結構気分ですが、「バラック」や「東日本大地震」についても注釈をつけるこの本のスタイルは、「なんとなくクリスタル」のカタログ感を思い出させ、ちょっと居心地悪かったです。

全9件中 1 - 9件を表示

著者プロフィール

1967年、秋田県生まれ。文筆業。レストラン取材のほか、主に料理人、生産者など「食」と「飲」まわりの人々、店づくりなどの記事を雑誌・新聞等に寄稿。著書に『シェフを「つづける」ということ』『昭和の店に惹かれる理由』(以上、ミシマ社)、『シェフたちのコロナ禍』(文藝春秋)、『東京の美しい洋食屋』(エクスナレッジ)、『変わらない店』(河出書房新社)などがある。第6回(2021年度)「食生活ジャーナリスト大賞 ジャーナリズム部門」を受賞。2023年4月、『東京で十年。』(プレジデント社)を上梓。

「2023年 『ピッツァ職人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

井川直子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×