言葉はこうして生き残った

著者 :
  • ミシマ社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903908892

作品紹介・あらすじ

いつの時代も、光は言葉にある。

膨大な書籍群の中に飛び込み、6年半かけて発見しつづけた、次代へつなげたい知と魂!

中央公論社で約30年、その後、新潮社で6年あまり。
出版文化の本流のなかで、編集者として、錚々たる著者陣、先輩編集者、
デザイナー、文化人たちとの仕事と交流を重ねてきた著者が紐解く、「言葉」の近現代。
明治草創期に起こった出版という大河が、ここに!

300超のメルマガから厳選した、必読の37本を待望の書籍化。

感想・レビュー・書評

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  •   編集者はこうして書き残した
       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

    河野通和(こうの・みちかず)さんは、30年間中央公論新社で雑誌編集者として仕事したあとに、雑誌「考える人」の編集長に就く。毎週木曜日に発行してきた約300回分のメルマガから37篇を厳選して、テーマごとに分けて「編集」した文集が本書である。

    編集者に名文家は多い。パッと思いつくのは吉野源三郎ではあるが、河野さんも、大学時代に出会った粕谷一希元中央公論編集長の名文に憧れて編集の門を叩く。名文とは何か。思うに、わかりやすく比喩が素晴らしいとかいうことだけではなくて、歴史や哲学などのさまざまな著述を引きながら、世の中の現象を読み解き、時代精神を探り当てようという「選びとる力」を持った文章だろう。

    時代精神とは何か。

    本書は政治・経済の解説・批判はなくて、ともかく良書を紹介して、作家に出逢い、別れを惜しみ、自らの想いを吐露することに終始する。そうやって紡いだ昭和の終わりから平成にかけての時代の上澄みが、結局のところ「編集者から見た時代精神」であると、私は勝手に定義する。

    編集者らしく、ニヤニヤするところや、こんな本があったのか!という驚きが多数。読んでみたいと思った本は、また追々紹介するので省略するが、面白いと思ったところは以下である。

    ⚫︎梅棹忠夫さんに影響を受け、反発してきた者として、ここに紹介されている良い文章の戒め2点は素直に腑に落ちるものだった。

    ⚫︎誤植のアレコレは、久しぶりに読んでいて爆笑した。

    ⚫︎「痕跡本」からアレコレと推理する愉しみを持つのは、良いアイデアだと思う。

    ⚫︎「弁当の日」を始めた滝宮小学校校長が、最初の卒業生に贈ったメッセージが素敵でした。

    ⚫︎岡山出身の編集者が、岡山出身の有名人・岸田吟香の数奇で特別な人生に興味を持つのは、理の当然だろう。「考える人」では、特集を組まなかったんだろうか。

    ⚫︎「締め切り」を「守れなかった」野坂昭如と、野坂番たる著者との凄絶な闘いの記録は、面白いが追悼文だけに哀しい。

    ⚫︎「一00年前の女の子」はいつか読もうと思うが、著者は先輩編集者たる船曳由美氏に、編集者らしい拘りを発見する。写真の選定、題字のフォント、そして活字の大きさ。そういえば、この本も「読ませるために」普通の本にはない少なくとも5点ぐらいの拘りがある。目次の作り方、頁表示の位置、題字のデザイン、1文字目のデザイン、引用文章のフォント等々。こういうことを含めて「本を作ることなんだよ」と我々に訴えている。

    ⚫︎唯一2回に分けて掲載された「ハンナ・アーレント」。映画の台詞やアーレントの著書等の引用もあり、アーレントがナチスの高官アイヒマンを「悪の陳腐さ」と名付けて発表するまでを興味深く紹介している。著者が2回に分けたのは、アーレントの思想を紹介したかったからではなく、この歴史的文章を掲載した『ニューヨーカー』(カポーティ「冷血」やカーソン「沈黙の春」を発表した雑誌)編集長ショーン氏の、編集者としての「覚悟」を紹介したかったからに違いない。ハーレントの文章は、アイヒマンの罪を減じるかのような内容に、ユダヤ系から多くの批判が出たのである。2014年1月、著者は書く。「いまこれをいまの日本に置き換えたとするならば、どういうケースにあたるのでしょう。誰の、どんな思考がそれに相当するのか。また、この時代のアイヒマンはどこに潜んでいるのだろうか」。この時、日本で秘密保護法は通り、集団的自衛権の解釈変更がなされようとしていた事とは無関係ではないかもしれない。

  • 2017年の春号をもって休刊した新潮社の雑誌「考える人」。
    編集長だった河野通和さんが、300超のメルマガから厳選した37篇をまとめたもの。
    「365日のほん」に載っていたもので、これは素晴らしかった。
    これまで読んできた書評の中でも、これほど心惹かれるものに出会ったことがない。
    登場する人物、語られる出来事、紹介される本、すべてにたまらなく惹き込まれる。
    掲載された本を全部読んで、その後また本書を読み返したい。
    著者の文章は整然として品があり、読後はとてもさわやかだ。

    河野さんの頃の編集の質が、こういった本を書かせるのだろうか。
    これと思った著者に原稿依頼の手紙をまず書く。
    返事がなければ二通目を書く。やがて筆者の元へ通うようになる。
    短い原稿依頼であっても、何度も足を運ぶ。空振りは覚悟の上。
    最初の挨拶に始まり、冷や汗をかいたりしながら、会う回数を重ねていく。
    しかし、必ず書いてもらえるとは限らないのだ。。
    そんな時間の積み重ねが、人と会って話をすることの大切さを身をもって知ることになる。
    『人と出会う』という本の書評の最後に、こういう引用がある。
    「たくさん人に会う編集という仕事につけたのは、ありがたいことであった。
    我を忘れて人に会い、いい話を聞けた幸福を、今つくづく実感している。
    自分探しをするくらいなら、よき他人を探して会い、話を聞くことの方が大事だ、とずっと思ってきた」
    この後河野さんが、「かくありたいと私も願います」と結んでいる。

    本書は、名著の引用が非常に巧みだ。前後の文章の上手さもあるだろうが、ひとつの記事がそれぞれ見事なストーリーとなって記憶に残るのだ。
    作家さんだけでなく、編集者、記者、装幀家や芸術家の話も綴られている。
    言葉に関わる仕事の魅力を、少しでも伝えたいと河野さんは言われるが、このように本や人と向き合って深い思索を重ねていたのかと思うと、ただただ感慨深い。

    屈指のノンフィクションである『収容所から来た遺書』が取りあげられている記事も。
    2011年10月27日のもので、筆者の辺見じゅんさんへの追悼文にもなっている。
    読んで驚いた。
    あの立花隆氏が、この作品を絶賛して「読みながら思わず落涙した」と選評に書いていたのだ。
    河野さんは、辺見じゅんさんの仕事を「骨を洗う」仕事だと書いている。
    ていねいに優しく、死者の魂を鎮めるために白くなるまで骨を洗う作業だと。
    昨夜読み返して、感動がいささかも変わらないことに私もまた驚き、落涙した。

    二回にまたがって書かれた「ハンナ・アーレント」と「失意のさなかのスピーチ」、茨木のり子さんに捧げた記事と「記者たちの自問自答」が特に心に残る。
    シンプルで美しい装丁。知の結晶のような本書が、ミシマ社から出たというのも興味深い。
    仕事を通じて「言葉をこうして守り、伝え」てくれたのかと、感謝でいっぱいになる。
    何度も繰り返し読みたい。本好きな全ての方にお薦めです。

    • nejidonさん
      sagami246さん、コメントありがとうございます!
      たくさん「いいね」を下さって本当に嬉しいです。
      おお、この本を買われたのですか。...
      sagami246さん、コメントありがとうございます!
      たくさん「いいね」を下さって本当に嬉しいです。
      おお、この本を買われたのですか。なんとスピーディーな決断でしょう。
      sagami246さんにとっても良い読書になりますように。
      つまらなかったら、ここに書き込みに来てくださいね。受けて立ちます・笑
      「考える人は本を読む」を、私も探しています。
      紙の書籍でほしいのですが、図書館にないのでリクエストしようかと。
      しばらくお忙しいとのこと。でも本は待っていてくれますよ。
      貴重な時間だからこそ、良い本に巡り合いたいですよね。
      2020/07/11
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんにちは。

      『言葉はこうして生き残った』の「こんな古本屋があった」を読みました。

      野呂邦暢さんと関口さんの...
      nejidonさん、こんにちは。

      『言葉はこうして生き残った』の「こんな古本屋があった」を読みました。

      野呂邦暢さんと関口さんのエピソードも、両氏の人柄がよくわかる忘れがたい随筆でした。
      河野さんが抜き出しておられる「古本」や「復刊に際して」そして美しい装丁など、わたしも本当にいいなぁと思いました。
      いつの日かnejidonさんのレビュー、読めたら嬉しいです。
      2020/07/13
    • nejidonさん
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      お越しいただいてありがとうございます!
      古本屋さんのくだりを読まれたのですね。
      どのコラムも良いので...
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      お越しいただいてありがとうございます!
      古本屋さんのくだりを読まれたのですね。
      どのコラムも良いのですが、そこも良いですよねぇ。
      32年ぶりの復刊で、それを喜ぶひとたちがいるって素晴らしいです。
      河野さん自身もどれほど喜んでいるかが伝わります。
      編集の仕事で報われるときがあるとしたら、こういう時でしょうね。
      河野さんは大学院で米原真理さんと同窓だったそうですね。今日知ったことですが。
      レビューから繋がる本を読んでいただき、そしてまたここでお話できる。
      これもまた贅沢な喜びです。地球っこさん、ありがとうございます!
      何を読むかがすでに決まっているワタクシですので、レビューは首を長ーーーくしてお待ちくださいね・笑
      2020/07/13
  • 雑誌「考える人」のメールマガジン、300超の中から選ばれた37編の書評が収められている。
    河野通和さんの書評を読むのは、”「考える人」は本を読む”に続いて2冊目。
    前作には、25冊分の書評が書かれていた。紹介されている本は、どれも面白そうに思えたし、その後、実際に何冊かを読んでみて、期待は裏切られなかった。また、その書評そのものを面白く読ませてくれるところがすごいな、と思った。
    本書にも、読んでみたいと思わせる本が満載。
    河野さんが紹介される本は、読み応えのある本ばかりなので、読むのに時間はかかるが、時間がかかる読み応えのある本を読んでいること自体が読書の楽しみだ。
    書評2冊に紹介されている本、読んでみて好きになった作家の本、と考えていくと、しばらくは、幸せそうな読書生活が楽しめる。

  • 週1回の300通、6年かぁ。。。

    株式会社ミシマ社 | 言葉はこうして生き残った | 原点回帰の出版社、おもしろ、楽しく!
    https://mishimasha.com/books/kotoba.html

  • 言葉が受け継ぐもの、つくるもの、伝えること…偉業を成した人々の息遣いや生き様がぎゅっと凝縮されています。
    追いつくだけの教養がないのが残念。感想まとめられない…。

  • 『考える人』編集長・河野通和さんの『言葉はこうして生き残った』を読んだ。数百通に及ぶ書評メルマガのなかから、厳選したものだけを編んだ本。言葉と魂は分かち難く結びつき、いつの時代も人々の心を震わせてきたことが分かる。仕事柄、より丁寧に言葉を紡いでいかなければと身が引き締まりました。

  • 雑誌『考える人』の編集長であった河野通和さんによるメールマガジンから、精選された37のエッセーをまとめた本。

    明治の出版社草創期の辣腕編集者たちの生き様を紹介する回もあれば、その編集者たちと作品をやり取りしていた作家たちの姿を描写する回もあり、いわゆる「書評」を綴る回もある。出版業界の歴史を振り返る回は、こういう時代があったのか、という印象深いエピソードが盛りだくさんで、小説作品そのものは知らなくても、作家の素顔を垣間見ることができるという面白さもある。

    書評の回も、単にその本の中身について触れるというのではなく、その本を書いた作家の姿や、その本からどういう物語が引き出せるのかを丁寧に述べていて、一冊の本を題材にさらにほかのストーリーを楽しめるようになっている。恐らく、意識してそうしているのではなく、河野さんの言葉の選び方、文章の綴り方が卓抜していることで、読む側が一気に引き込まれていく心地よさを生み出しているのだと思う。

    「書評の本」とは言えず、「出版業界の歴史の本」とも言えず、「作家の素顔を伝える本」でもない。そのすべてが入っていて、そこから付随するほかの物語も読める。図書館でジャンル分けする時に苦労しそうな本だが、「本」が好きな人なら、きっと贅沢な娯楽として楽しめる本。

  • ”ほぼ日の学校”の学校長さんとして身近に感じる河野通和さんですが、
    雑誌「考える人」の編集長さんでもいらっしゃいましたね。

    編集で名文に触れていらっしゃると、ご本人もこんなに名文を書けるようになるのでしょうか。
    先入観を入れたくないので、普段書評は読まないのですが、河野通和さんフィルターなので間違いなかったです。爆笑ものから心揺さぶられるような慟哭を描いたものまで、300回分のメルマガから、選りすぐりの37編。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    【本文より/ページと発言者】

    ・「意味」だけでは説明しきれない、言葉のもつ「雰囲気」、微妙なニュアンスを伝えようとする試みでした。P44

    ・執筆対象への真摯なまなざしと愛情、丹念な資料のしゅう集と考察、綿密な取材、生き生きとした細部の描写、作品全体から漂ってくる温かさ、たくましざるユーモアなどが魅力でした。これらの特徴を裏づけいたのは、自分のやりたいことはきちんとやり遂げよう、という強い意志、ひたむきさ、そして謙虚さでした。/黒岩比佐子 P418

    ・自分の弁当を「おいしい」と感じ「うれしい」と思った人は、幸せな人生が送れる人です。P101

    ・「個」としてあり続けるための孤独。「個人の感性こそ生きる軸になるものだ」と確信。そして意志の力で「自身を律し、慎み、志を持続して」試作に向き合おうという姿勢。/茨木のり子 P159

    ・ひとりの男(ひと)を通して
    たくさんの異性に遭いました
    男のやさしさも こわさも
    弱々しさも強さも
    だめさ加減やずるさも
    育ててくれた厳しい先生も
    かわいい幼児も
    美しさも
    信じられないポカでさえ
    見せるともなく全部見せて下さいました
    二十五年間
    見ることもなく全部見てきました
    なんて豊かなことだったでしょう
    たくさんの男を知りながら
    ついに一人の異性にさえ逢えない女(ひと)も多いのに /茨木のり子P161

    ・正義をおこない、人を助けようとしたら、自分も傷つくことをかくごしなければならない)/やなせたかし P165

    ・「天才であるより、いい人であるほうがずっといい」/やなせたかしP172

    ・文学に手を染めた者の覚悟、その伝統を作り上げてきた諸先輩への敬意がひしひしと伝わってきました。あらゆる人間的行為の基底をなすのは文学ではないか。それを軽んじる者、侮る者、汚す者を許すわけにはいかない、という容赦ない怒りがほとばしっていました。/P200 堤清二について

    ・たくさん人に会う編集者という仕事につけたのは、ありがたいことであった。我を忘れて人に会い、いい話を聞けた幸福を、今つくづく実感している。自分探しをするくらいなら、よき他人を探して会い、話を聞くことのほいうが大事だ、とずっと思ってきた。/岡崎光義  P229

    ・打ちのめされるような事件が起ころうとも、そんなことにめげる様子もなく、「かえって逆境のときのほうが意気軒昴(いきけんこう)」だったという山本は、病を得てもなお句会を欠かすことはありませんでした。/山本幡男 P245

    ・しあわせはふしあわせをやしないとして
    はなひらく/P299 パウル・クレー×谷川俊太郎「クレーの絵本」

    ・「知った者は歩き続けなくてはならないのよ」、「撒いた種はいつか芽がでてくるからね」/P325 佐伯敏子

  • ●フィールドワークを行う、平易な文章で書く

  • p10~
    なんとなくおもしろそう。はじめは堅いけど。

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著者プロフィール

河野通和(こうの・みちかず)
1953年、岡山市生まれ。東京大学文学部卒。
1978年、中央公論社(現・中央公論新社)入社。
主として雑誌編集畑を歩み、雑誌「婦人公論」(1997-2000年)、「中央公論」(2001-2004年)の編集長を歴任。
2008年6月、取締役雑誌編集局長兼広告総括部長を最後に、中央公論新社を退社。
2009年1月、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。
2010年6月、新潮社に入社し、雑誌「考える人」編集長を務める。

「2017年 『言葉はこうして生き残った』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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