片山杜秀の本(2) 音盤博物誌

著者 :
  • アルテスパブリッシング
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本棚登録 : 82
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903951072

作品紹介・あらすじ

第30回サントリー学芸賞、第18回吉田秀和賞をダブル受賞!
「天才と博識がはじけ出てくるような批評集である」(吉田秀和賞選評より)
「なによりも自分の好きな作曲家や作品を紹介したいというおおらかな肯定の意志が素晴しい」(川本三郎氏、サントリー学芸賞選評より)

シューベルトを近眼派音楽の夜明けと断じ、金満的ヴィブラートの淵源はクライスラーにありと喝破、信時潔から坂本龍一にいたる隠された楽統を暴き出し、ショスタコと恋愛映画の意外な親和性を解明する──
音盤の博物学者・片山杜秀が渡り歩いた傑作・問題作。
『レコード芸術』誌の人気連載、堂々の完結篇!

感想・レビュー・書評

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  • 本書の元の記事は、2000年から2008年までレコ芸に連載していた「傑作!?問題作!?」である。その全100本の記事の内、前半の50本が「片山杜秀の本 1 音盤考現学」に、後半の50本が本書に納められている。

    1枚のテーマ・ディスクに対する記事なので、落とし所は限られてくる。そういう場合でも、取り上げられている盤がもっと良いものであれば(作曲家、あるいは演奏家がもっと良いものだったら)、もっと面白い話が展開されたのではないかと思われ、もったいないというか、残念という様な気がした。つまり、たまにはテーマ・ディスクに、話題になった盤や、名演や名盤と言われる様な盤があれば、華やかな話題になったのではないか、面白い話が聞けたのではないかということである。

    本書は再編されて「音楽放浪記」というタイトルで文庫本にもなったが、取り上げられている盤が時代を越える様な名盤ではないので、賞味期限は短い。
    また、月に一回なら面白いと思える記事でも、本としてまとめて読むと、強引な論説が気になってくるというきらいもある。「なるほど」と思わされる回もあるが、著者お得意の思想論でまとめ上げ、これはちょっと付いていけないなと思える回も少なくなかった。もっとも書き下ろしの本ではないので、出来にばらつきがあるのは、ある程度は仕方がないことであるが。

    印象に残った記事は、「能とソヴィエト」というタイトルの回である。テーマ・ディスクはアファナシエフによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ集。これは、論考ではなく、片山氏がアファナシエフにインタビューした話が載っていて、アファナシエフに演奏テンポの遅さの理由をたずねたら、「フルトヴェングラーの遅くうねる演奏に影響されたことと、能の緩慢な時の流れ、能役者の声の持続に理想の美を見出したことが重なり、今の自分ができた」という。
    アファナシエフのあの異常なテンポの遅さは、思想的とか哲学的とかいう言われ方もしていたが、そんな単純な理由だったのかと驚いた。あの演奏スタイルは、ただの美意識や好みの問題からきているわかり、謎が解けたようで嬉しかった。

    初回限定特別付録として、巻末に袋とじになっていた対談「カタヤマモリヒデの作り方」は、片山氏がどのように育ってきたか、どのようなカルチャーに接してきたかが分かり、興味深く、面白く読んだ。

  • 【選書者コメント】サントリー学芸賞を受賞するのは並大抵のことではない。片山先生の博学が凝縮されている。
    [請求記号]7600:821:2

  • 逗子図書館で読む。岡田先生が、絶賛の推薦文がついています。正直、期待はずれです。この連載を楽しむには、一定の教養を必要とします。僕は、その教養を持ち合わせていません。また、文章がうまいとは思えません。本として、まとめて読むものではなく、連載を楽しむもののような気がします。最後の付録の対談は、抜群に面白いです。クラシックは、僕とは本質的に無縁な高級な趣味であることを再確認する。

  • 『音盤考現学』に続く第2弾であるが、こちらの方がはるかによい。
    初出は『レコード芸術」の連載記事だが、連載を重ねるにつれて勝手がわかってきたのか、たいへんに説得力のある文章となっている。
    「ふーん、こんな曲あるんだ」というような、あまり世間では知られていない曲が多く紹介されているが、そのすべてを「んじゃ、聴いてみよっかな」と思うわけではないだろう。
    ところが、2006年の連載記事は、そのどれもが「聴いてみたい!」と思わせられるものばかりだ。
    この年が、この連載記事の頂点だったと思う。
    いずれにしても、すばらしい音楽評論50本である。

  • 異常に面白い。一晩で読みきってしまった。
    今まで評論といえば「文句だらけの貧相な感想文」というイメージしかなかったが、この本に掲載されている50本(!)もの評論はいずれも独自の切り口と長い研究の成果が見事に「面白く」、知的に昇華されており、読んでいて興奮すら覚えてくる。

    ただ私の不勉強からか、筆者のあまりの博識からか、読みながら易々と筆者の主張に説得され、違和感を覚えてもすぐに捻り潰されてしまう感じがある。これが筆者のスタイルなのだと思ってしまえば何の問題もないんだが、なんとなく悔しい。完敗です。

  • (感想)シリーズ1である音盤考現学に比べると、私のような現代音楽にはとんと無知な人間にも、興味を持って臨めるコラムが多かったように思う。程度問題かもしれないけれど。博覧強記ぶりには目を瞠るばかりであるが、思いっきり現代音楽寄りの話は、読むのが正直辛い場面もあったことは告白すべきなのだろう。それでもゴリゴリ読み進めていくと、なんとなく自分の音楽知識と理解に広がりが出てきたような気がするから面白い。それでも現代音楽を聴こうとは決して思わないのだけれど。しかし、本のなかで記載される音楽や、古い映画の一場面など、YOU TUBEで検索すると結構な確率でヒットするので改めてYOU TUBE恐るべし。

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著者プロフィール

1963年生まれ。政治思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』(いずれもアルテスパブリッシング、吉田秀和賞およびサントリー学芸賞)、『未完のファシズム』(新潮選書、司馬遼太郎賞)、『鬼子の歌』(講談社)、『尊皇攘夷』(新潮選書)ほかがある。

「2023年 『日本の作曲2010-2019』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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