エル・システマ: 音楽で貧困を救う南米ベネズエラの社会政策

著者 :
  • 教育評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905706335

作品紹介・あらすじ

"子どもを犯罪から救い、社会の発展に寄与する"南米ベネズエラで社会政策の一環として全国的に展開されている音楽教育システムの姿を描く渾身のドキュメンタリー。

感想・レビュー・書評

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  • エルシステマ(スペイン語のel systemaは英語のthe system)
    テレビ番組で始めてしって,やはり,思い込んでやることの大切さを知りました。

    単に音楽というのではなく,オーケストラをねらったところがすごい。
    音楽と社会性の両方を同時に教えられる。

    すばらしい取り組みだと思いました。
    いろいろなご苦労があるとは思います。
    ベネズエラに聞きにいきたいと思いました。

  • @opa_03llさん

  •  南米に未来がある。プロフェッサーアーキテクチャ石山修武が南米に熱中する理由がこの本を読むとよく理解出来るように思えた。
    ベネズエラに産まれた教育システムは従来の常識を乗越えた。自らの芸術文化を自らの手で勝ち取ることがどのような事かを、この本は教えてくれる。
     シモン・ボリーバルの独立戦争による市民国家建設での失敗とエル・システマの成功の両者から学ぶことがある。
     一つに、改革は明快な目標の元に突然変異を起こすような力強いものでなくてはならないという事。
     一つに、重要なのは変化を起こすことだけでなく、変化後の「備え」を変化前から蓄積させておくことである。様々な偶然の重なりもあると思われるが、エル・システマには「備え」があった。ホセ・アントニオ・アブレウの政治経済面での能力や子どもの教育・成長への関心の高さ、音楽への関心の高さ。無償の楽器の貸与、場所に捕われない練習スペースの利用法、楽器不足に備えた練習法や調達方法、年齢にと言う時間にはなく技術の習熟度という時間による評価とそれを軸にした指導者と受講者の関係の構築、給与の与える意味の洗練と給与による責任と信頼の付与、などなど
     国の政治、経済の大きな変化を経験し続けたベネズエラを生き続けたその生命力はチャベス政権の元で花開いているように思える、それはそれまでの延々と続けて来た歴史とそれによる「備え」があったからだ。そして「備え」は常にその場の環境との相互作用の中で自分を変え、そして環境を変えていった。

    FESNOJIVがかくも長期間継続して活動出来たのは、ベネズエラ政府やベネズエラ市民が必要と考える社会問題に対して、政策活動として対応して来たからに他ならない。FESNOJIVは、発足当初から国や地方行政からの公的資金をもとに運営されて来た。そのため、そのときどきの政権や首長たちが、FESNOJIVの活動に資金を出すためには、エル・システマが評価され、青少年オーケストラ活動をアピールし続ける必要があった。
    p.330

     彼等は決して環境にただ受動的であったわけではなかった。常にベネズエラ人によるオーケストラという目指すべき目標と目の前の環境との闘いの中で能動的に振る舞っていた。
     シモン・ボリバル交響楽団の名前となっているボリーバルの挫折によってベネズエラは、国家統一の概念すらないまま独立してした。そして、ベネズエラでは長らく「国民」不在の状態が続いた。その不在を解消とした能動的な闘いの成果がエル・システマとして結実した。そのためには何が必要だったか?著者は終章にて次のように書いている。

    FESNOJIVは、国際的に通用する水準の音楽活動(オーケストラ)を目的として設立された。そのためには、長期的な活動が必要で、一回や二回のお祭り騒ぎで終わらない戦略が必要になる。アブレウはこのことをことさらに強調している。
    「物事を成功させるためには、継続性が重要だ」
    p.333

     そして、続けたい、継続には「教育」が必要だと、それは型に填めるような答えを見つける教育ではなく 問い続けることを見つける教育であると、それこそ人が自由と平等であるとはなにかを教えてくれるはずだ
     自由から逃げることは容易だ。そして人は自由から逃げたくなる。それは大戦後のドイツを見なくても明らかなことだ。自由には責任が伴う。競争社会において責任は大きな重圧となる。では、エル・システマは競争社会なのだろうか?しかし、芸術とは何か考えた事がある人ならわかるはずだ、そこは競争社会であるが、他人との闘いではないことが。芸術において他人と自分を比較することは本質的ではない、そこでは他人はむしろ仲間となる。理解者となるはずだ。そこに、同じ世界的な芸術集団である両極である、パリオペラ座とエル・システマの大きな違いを感じ、西洋と他の文化との違いを感じる。本書で述べられるエディクソンの言葉は環境が自分を育て、自分が環境を育てた分けられない存在であることを意識させてくれるだろう。本書はそのような価値観の中で都市や建築を考える上での新しい視点を与えてくれるさえするように思える。

    非競争的な考え方は強くラテンアメリカにおいて根付こうとしている。ALBAや南銀行、マイクロ・クレジット、ブラジルのポルトアレグレ市における市民参加型予算に環境都市クリチバ。日系人が多く関係が深いこの地域から日本は学び、新たな関係を築いていくべきだ、米国と言う同盟者がいるとしても。

    日本において、それぞれの地方都市も昔は「国」だった、それは江戸時代まで振り返らずとも、現在でも旅行先で老人たちと話せば、「どこの国の人かね?」なんて尋ねられるはずだ。しかし、どれくらいの人がそのが国の存在を感じているだろうか?それぞれが、世界を見れば一国に相当するほどの経済力を持っているはずなのに

  • クラシック音楽を通じて、こどもたちを犯罪から守り、雇用を創出、犯罪者を更生させる、無償の音楽教育システム、エル・システマ。
    文化政策もここまで徹底したら説得力がある。
    エル・システマを運営するFESNOJIVを設立したアアブレウが、音楽だけでなく経済の専門家で、政治家としても活躍した人物だったからこそ実現できたプロジェクトなのでは。

  • 社会文化政策としての音楽教育

    音楽に限らず、ダンスでも芝居でもお笑いでも漫画でもスポーツでも、教育・文化は政策として全面的にバックアップする必要があると思う。。。所得格差や地域格差がそのまま固定された格差になる現行の政策の転換の参考になる。。。

  • 初めに3つの大きな疑問を提示し、
    最後にそれをまとめて回答する構成。

    エル・システマというテーマでかかれている
    日本語の本はこれだけではないだろうか。

    体系的に理解するうえで
    簡易な文章でかかれており
    とても読みやすかった。

    より長期的なデータを元にした
    次回作が望まれる。

  • この本を読もうと思ったきっかけが、この本にも出てくるシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラというオケのチャイコフスキーの交響曲第5番のCDで紹介されていたから。さらに、以前、このオケのマーラーの5番のCDを聴いて、指揮者のグスターボ・ドゥダメルも含めて久しぶりに「凄い」ものを聴いたから。それも中南米のユース・オケがそこまでやれるのはどうしてかということを知りたくて、読み始めました。

    タイトルのエル・システマとは、「方式」とか「システム」という意味。南米ベネズエラの子供たち、青少年が国をあげて参加するオーケストラ活動のことで。無料(!)で音楽の基礎知識や楽器の演奏活動を教え、オーケストラ合奏や合唱に参加する機会を与える音楽・オーケストラ教室を指します。

    ベネズエラは「貧困」と「格差」が蔓延している国で、一般的に、規制緩和と市場主義に基づく「ネオ・リベラリズム(新自由主義経済)」がこの原因とされています(まるで、極東のどっかの島国と同じです)。さらに、平和度指数(「国」の安定性、安全性に関する指標)が最低ランク(ちなみに、極東のどっかの島国は上から5番目)。国際的紛争とは縁遠いが、犯罪関係の指標が悪く、「犯罪国」という印象が見られるような国です。

    そういう社会から抜け出すために、音楽活動に力を入れ始めたのですが、周囲との軋轢や、ないない尽くしの状況など紆余曲折はあったものの、知恵と勇気で少しずつですが、活動の輪は広がっているようです。子供たちを犯罪から守る。オーケストラ関連で雇用を創出する。地方の子供、経済的に恵まれない子供にチャンスを与える。それがいい循環となっているようです。

    この本を読んで感じたことは、この国の人たちが音楽を素直に愛し、ベネズエラをいう国を愛し、周りの人や自分を愛するという気持ちを持っていること。それ以上にそれらに誇りを持っていることを感じました(残念だけど、これはどっかの極東の島国には足りない)。この本にはこのシステムに参加する子供たちの話が載っていますが、多くの「」を読むと、その気持ちが伝わってきます。

    もちろん、いいこと尽くめでないのはわかります。歴史も経済も政治体制も国民性も、どっかの極東の島国とはかなり違っているので、これを取り入れたらうまくいくかどうかも正直わかりません。ただ、これから次の世代を担う子供たちのために何をすべきか(特に、地方の子供たちのために!)を暗示する内容は示されています。

    音楽だけでなく、ベネズエラという国を知るのにもとてもいい本です。

    最後に、特に印象に残っている言葉を2つ。


    「演奏せよ、そして戦え(Tocar y Luchar)」

    (Lucharには、頑張ろうとか挑戦しようというニュアンスもあります)


    「自分はまだまだ音楽を勉強している最中です。さまざまな文化をもっと吸収したい。世界はこんなにも広く、まだ知らないことがたくさんあります。もし、僕が10歳のとき、コントラバスに出会わなければ、エル・システマの音楽教室に入らなければ、これほど様々な世界の人々と知り合うこともなかったでしょう。僕はとてもうれしいのです。こうして話を聞いてくれることを。僕はオーケストラと出会えたことをこの上ない喜びと感じています。」

    (史上最年少でベルリン・フィルのプレーヤーになったエディクソン・ルイースの言葉。彼は比較的貧しい地区の母子家庭に育ちながら、システムと情熱で今の地位を勝ち取った)

  • ベネズエラ青少年オーケストラ・システムFESNOJIVの活動を、その社会的側面と音楽的側面から検証している。確かに自分を含めて誰しも「子供が大人並に演奏している」「天使の歌声」的な部分で子供の活動に弱いところがあるけれど、実際このユースオケの演奏はエネルギッシュで「自分もこの中で一緒に演奏できたら」と憧れる演奏をしていて、だからこそこの本にある通り、珍しさを超えて幅広く認められたのだろう。アブレウ氏らに対して、大きくするにあたっての政治的な面等々批判もありえるけど、ただの「音楽狂」とか奇麗ごとだけで続けられる仕事じゃないし、その一貫性と目的を達成するための「政治力」は批判はできても真似できないもの。この本にはそのあたり比較的中立的に触れられてもいて、ベネズエラの歴史と絡まって発展を振り返っていて面白かった。

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