コーカサスの金色の雲 (現代のロシア文学)

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  • 群像社 (1995年6月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905821908

コーカサスの金色の雲 (現代のロシア文学)の感想・レビュー・書評

  • 「スターリンは極東の朝鮮人を中央アジアに、ユダヤ人を極東に、バルト人をシベリアにと将棋のコマのように民族の強制移住を盛んにやった。チェチェン人も対独協力を口実に戦争末期根こそぎ中央アジアに移され、その自治共和国は地図から抹消。これが『コーカサスの金色の雲』の舞台背景だ。」

    第二次世界大戦中に孤児院生活を送った著者が実体験をもとに1980年に書き上げた本作は、ソ連ではタブーとされていたチェチェン民族の強制移住に触れたために発表が許されませんでした。それでも、1987年の雑誌掲載を待たずして、多くのロシア人が原稿のコピーを回し読みしてしまったという幻の名著なのだそう。米原万里さんの多数の著書でくり返し紹介されていて、ずっと気になっていました。

    物語の主人公は、モスクワ近郊の孤児院に住む、サーシカとコーリカの双子の兄弟。時は1944年。戦争は終わっておらず、いたるところにある孤児院はどこも、配給が不十分なうえに院長や管理局員たちがその少ない食料をくすねるほどに腐敗していて、子供たちはいつも飢えています。食べるために、明晰なサーシカが考え、抜け目ないコーリカがそれを実行する。殺伐とした社会を、ふたりで知恵をしぼって生きてきたクジミン兄弟。やがてふたりが入れられている孤児院が、食糧難のモスクワからコーカサスに移住することになります。

    現状を知る由もない孤児たちにとって、ロシアの南部国境にあるコーカサス地方は、おとぎ話に登場する架空の地名。美しい自然に囲まれたところで山岳民が葡萄畑を作り、放牧をして、昔からの風習を守り暮らしているのだろう。万年雪を戴くその山並みをいちはやく見ようと汽車の窓にはりつく子どもたちは、白い雨雲に見まごう巨大な山脈に、悠々とたなびく金色の雲を目の当たりにして言葉を失います。彼らが期待に胸をふくらませ、汽車の行く手を見つめるこの描写は圧巻です。

    到着してみるとコーカサスは不気味な場所でした。畑には作物が実り、家畜もいるのに生活の気配がない。そこは荷物をまとめる間もなく強制移住させられたチェチェン人が生活を営んでいた村なのです。移り住んできたロシア人を逆恨みするチェチェン人が、ゲリラとなって夜な夜な村を襲いに来る。事情の分からないままに子供たちは戦いに巻き込まれてしまいます。

    ある時クジミン兄弟は、生まれて初めてふたりに「誕生日」をしてくれた美しいレギーナ先生を守りたい一心で、激戦区域に入り込んでしまいます。阿鼻叫喚を極める混乱のなか離ればなれになってしまった兄弟のサーシカが捕えられ、無惨な姿で発見されます。垣根にぶらさがっている兄を前に、言葉も涙もなく立ち尽くすコーリカの喪失感が胸に迫りました。

    焼け野原を彷徨うコーリカは、チェチェン人の少年、アルフズールに助けられます。進めばロシア兵に、戻ればチェチェン兵に殺されるだろうという状況で、二人は義兄弟の契りを結びます。身を寄せ合って眠っているところをチェチェン兵士に捕まり、殴られ蹴られ、殺されることを覚悟したコーリカは「痛いのは一瞬だけだ。撃たれてしまえば痛くなくなるんだろう。もうすぐ会えるよ。」と心の中でサーシカに話しかけます。朦朧とした意識の中「俺を弟と呼んでくれた!殺さないでくれ!」と兵士にしがみついて懇願するアルフズールの叫び声を聞き「そうだ。こいつも兄弟になったんだ。」と兄に報告するシーンに、鮮烈な別れの場面からの緊張が堰を切ってあふれ出し、もうページがふやけるほど泣いてしまいました。

  • 尊敬する米原万里さんの書評に惹かれて手に取った。
    米原さんは号泣したと評しているが、私は号泣はしなかった。
    いつも一緒であるはずの双子の兄弟の末路や誕生日を祝うとを知らない双子の兄弟を見ていると胸が痛んだ。
    また、十歳程度の子供ながらに戦争の愚かさの心理をついている点が興味深い。戦争の愚かさとは本当に単純なことなのだの思う。
    結末の二人がどこにいくかは分からないが、これ以上辛い目には遭わないで欲しいと思った。

  •  ずーっと読もう読もうと思いながら、かれこれ6年程、思ったままでしたが、最近購入し、いっきに読みました。

     1944年のチェチェン人などコーカサス諸民族の強制移住後、人々のいなくなった旧自治共和国領土に、次々と人々の入植が進められた。入植した人々は、戦争で疲弊し、また傷跡を抱え、それぞれにそれまでの生活に絶望し、新しい希望を求めてコーカサスにやってきた。その中に、何も事情を知らない多数の孤児たちがいた。彼らは、コーカサスについてほとんど何も知らず、自分たちが新しく住む場所に、ついこの間まで誰かが住んでいたなどと想像する事もできなかった。

     主人公のクジミン兄弟を中心とする冒険、その展開と共に徐々に明らかになるコーカサスやチェチェン人の悲劇、そして何も知らずに入植した子供達を待ち受けるものは・・・。

     クジミン兄弟の軽妙なやりとりとリズミカルな展開で読者を楽しませつつも、コーカサスに潜む恐怖を背後に忍ばせるストーリーの運び方。終盤には、入植したロシア人孤児の孤独と言いようのない恐怖を、家族を失い強制移住から命からがら逃れたチェチェン人孤児の孤独と恐怖に重ねていく。

     同じ時代、同じ国に生き、違う立場にいながらも同じ境遇を経験していた人々、そこにある不安と恐怖、それでも傍にいる人の力で生きていける彼らの輝き・・・。この道の先には、何が待ち受けているのだろう。

     是非、読んでほしい。

  • 図書館の本 舟江・西川

    内容(「BOOK」データベースより)
    一九四四年。五百人の孤児がモスクワから人影の消えたチェチェンの村に移送された。食べることにすべての知恵をそそぐ孤児たち。強制連行によって奪われた地の回復をかけてロシア人への攻撃を繰り返すチェチェン人パルチザン。戦争のなかで真っ先に生きる望みを絶たれる社会の除け者たちの姿を作家の少年院体験をもとに記録した真実の物語。

    チェチェンの背景がよくわかっていなかったけれど、ちょっとだけこの本で何が起きていたのかわかった気がします。
    子供を守るのは大人の仕事なのだと改めて思うし、子供の悪さは大人のふがいなさなのだと思い知らされた本。
    大人に隠し事があれば子供も荒れるよね。
    この後コーリカがどうなるのかの物語はあるのでしょうか?

  • クジミン兄弟:双子のサーシカとコーリカ。
    モスクワ郊外の孤児院で彼らはいつも飢えていた。
    500人の孤児がコーカサスへ移送される。そこはチェチェン人の村だった。
    闇が深いだけに、「誕生日」の光景の明るいこと。それゆえに哀しい。
    1944年。大きな戦争の影にこんな悲劇がたくさんあり、それが現在へも続いている。
    チェチェンという地名はニュースでよく耳にしていたが、強制移住等の背景は知らなかった(知ろうとしていなかった)。

    文章は視点が定まらずやや読みにくい箇所もあったが、著者の体験をもとにした小説ということで、迫ってくるものがあった。
    もう一つの「悪童日記」と言えると思う。
    米原万里さんの「打ちのめされるようなすごい本」で紹介され絶賛されていた本。

  • ロシア人の双子サーシカ・コーリカたちは、国の政策でコーカサス地方に移住させられたる。2人は生き延びるためあれこれ知恵を巡らすが、土地を奪われた先住民との争いが始まり…主人公が双子で舞台は争乱の町となると『狂人日記』を思い出すが、本作の双子はごく普通の子供で尚更結末が辛い。

  • 世界大戦末期のロシア―コーカサスを舞台に、孤児の双子の兄弟の視点から描いた作品。
    絶頂からの暗転の部分はわかりやすいのだが、やはりどきりとする。
    チェチェン人は、物語のはじめの方から触れられているのだが、あくまでimplicitな表現なので、
    それが物語全体の悲劇をかきたてている。そして最後まである意味(悲劇の行方が分からない)では漠然としたままなのである。

  • 第二次世界大戦時
    ソ連はチェチェン人をコーカサスから追い出し、
    カザフスタンなどに送った。
    黒焦げになったコーカサスには、
    少年院が移設さて、
    まともに生きていく希望を失った人たちが入植した。


    主人公は双子の兄弟を持つ少年。
    彼は浮浪児で、少年院に入れられていた。
    生きるためにいろいろなものを盗んだ。
    しかし尚兄弟や大切な人を思い続ける。
    常に餓え、乾いていても少年達は生きていた。


    なんともいえぬ苦しい読了感。
    苦しくて、涙を流すことすら出来ない。
    まだ過去の問題ではない。
    世界にはまだクジミン兄弟がいるのだ。
    著者の自伝的小説。

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