- Amazon.co.jp ・本 (138ページ)
- / ISBN・EAN: 9784906563357
作品紹介・あらすじ
「守り人」シリーズは、女用心棒バルサが命がけで子どもを守りぬき、子どもたちが苦難をのり越えて成長する物語だ。児童文学者上橋の作品は文化人類学の識見を取り入れることによって、一段と光彩を放っている。
感想・レビュー・書評
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PL 2018.8.11-2018.8.16
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児童文学作家・上橋菜穂子と著作の考察。
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なるほど評論って「愛」なんだな、と思った。
上橋作品と、その生みの親である上橋先生への
著者の限りない愛が満ちあふれている一冊。
特に「守り人」シリーズについて魅力を細かく分析してあり、
「守り人」ファンとしては、と~っても面白かった。
上橋作品が大好きな皆さま、
ぜひお読みください。
うんうんとうなずきながら、楽しく読めると思います。
2章では「精霊の守り人」を、詳しく分析、
また3章では「守り人」各巻の内容を要約してあるのだが、
そうそう、そこが良かった!というとこもあれば、
わたしの印象とは違っているところもあり、
読む人によって、クローズアップされるところも違うんだなあ、
と面白く思った。
6章では、
上橋先生の文化人類学者としての経験や見識が、
作品にどのように影響しているかを理解するため、
著者は、先生が書かれた専門の論文を
入手できる限り入手して読んでいる。
著者の熱心さには、頭が下がると同時に、
その情熱はほとんどストーカーと紙一重かもしれない、
と思ったり。
でも、
「月刊みんぱく」(国立民俗学博物館発行の雑誌)
の上橋先生のインタビューは面白そうです。
さすがに公共図書館にはないだろうから、
都立から「お取り寄せ」しようかしら。
最後の章「物語のかなた」は、
上橋菜穂子論の結論として、
上橋先生の魅力を説いて、大変力強い。
なぜ上橋作品が好きなのか、ということについて、
わたしが漠然と抱いていた思いを、
整理して説得力のある言葉にしてもらった感じで、
大変共感した。
個人的に興味深かったのは、
「大人になる」とはどういうことか、ということに関して、
芹沢俊介の『現代<子ども>暴力論』を引いた以下の文章。
『子どもが、この世に生まれてきたことに自分は責任がないと叫ぶこと、それがイノセンスの表出なのだ。子どもにはイノセンスの表出をする心理的な根拠がある。しかしそのイノセンスに執着するだけでは子どもはいつまでたっても子どものままで大人にはなれない。「生まれたことに自分は責任がない」というイノセンスをみずから壊して、「生まれてきたこと、生きていることに自分は責任を持つ」とみずから意志したときに初めて、子どもは大人になることができるのだ」(P57)
そして、最後の章「物語のかなた」の、
児童文学とは何かという文章にも共感した。
「児童文学は何よりも子どものための文学であり、大人が子どもに語りかける文学だ。だからこそ、作者は自分の世界認識や人間理解を、その深さのままに、分かりやすく、くっきりとしたストーリーとして語る必要がある。児童文学はベーシックな文学であるべきだ。ベーシックとは初歩的ということではない。根源的であり、これから生きていく子どもたちの認識の基礎になるべきものということだ。」(P135)
余談ながら、
著者は高校に勤務しているそうだ。
国語の先生なのかしら?
藤本先生の授業、ぜひ受けてみたいなあ、と思いました。