かなわない

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  • タバブックス
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907053123

感想・レビュー・書評

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  • 写真家であり、ラッパーのECDの奥さんの日記と私小説のような短文集。

    以前『働けECD〜わたしの育児混沌記』を読んで、面白かったので、その続きのつもりで、軽い気持ちで笑って楽しもうと読みだしたが、見事裏切られ腹にズシンとくる内容だった。

    筆者の植本さんがこの日記で、「働けECD」の続き物にしたくなかったと書いているように、自分自身を全面にされけ出した本になっている。「女」全開。「自分」全開。

    ただただ、ブラックホールのような、マグマのようなパワーに圧倒される。

    最初の頃の日記は育児に翻弄される筆者の、もうどうしようもない育児の悩みがつづられる。保育園の先生にも心配されるようになる。子育て中は、みな似たような体験がある。育児とは本当に大変なもので、孤独なもの。自分自身を追いつめるものである。その点で非常に共感できる。外では涼しい顔しているけど、家の中では散々もがき、必死に育児している。そんな等身大の母親(基本的に世の母親達は、皆自分なりの母親像になれなく、もがいていると思う)として応援がしたくなるし、子育ての親として背中を押してもらえるような元気をもらえる。

    ただ、今度の本はそれだけでは終わらない。母親との確執、その関係から自分の子供との関係、距離感へ。段々と精神的に追い込まれ、いつの間にか好きな人ができ不倫しつつ離婚をしたいといいながらECDとは別れられず、漫画家の先生にカウンセリングを受けるに至る。
    私小説を読んでいるような、どこに行ってしまうのだろうと、まさに生きながらこの人自体が文学という趣。

    母親という目線でみると、理解できない部分が多々あるが、この人の日記(ブログ)は正直にさらけ出されていて、描いてある内容はメランコリックなのだが、ある意味すごい強さがあるなと思う。永遠の10代のような純粋さと鈍感さを併せ持つ。

    何はともあれECDが、だらしないゴロツキでもなんでもなく、包容力のある不器用な男として魅力あふれて感じられる。

    やはりこの本の裏に流れるテーマはECDなのだと思う。ECDという存在なしに植本さんの心情だけでは、ここまで惹きつけられて読めないのではないだろうか。

    そして、今年の初めにECDが亡くなった。
    改めてYoutubeでラップを観て、カッコよさに痺れた。
    動画で子供たちと映るECD(石田さん)のシャイな笑顔に、入院時のさみしげな目つきに、惹きつけられた。

    残った子供たちと一子さんが幸せに生きていけるように。本の題名のように「かなわない」ことが世の中にはたくさんあるけど。

    ちなみに、一子さんに日記にでてくる本には、あたりが多い。つげ義春の奥さんの藤原マキ「私の絵日記」が紹介されていたが、つげさんもびっくりの面白さ。一子さんもだけど、アーティストの奥さんはやはり只者ではない。

  • まっすぐな文章。うそ偽りのない。
    飾っていない。カッコよく見せようとか、理想のお母さんでいようとか、そんなものは微塵も感じさせない。
    だから惹かれる。ぐいぐい来る。

    母親だって子どもを可愛く思えない時もある。
    妻だって夫以外の人を好きになることもある。

    分かっているのは、それがありのままの自分だっていうこと。紛れもない日常がそこにある。

    文章がとても素直でかつ上手い。
    ところどころ、こちらの心を見透かされたような箇所で、少しだけ息苦しくなる。淡々と、事実だけが羅列してあるだけなのにこんなにも迫ってくるのはなぜなんだろう。

    著者もさることながら、夫のECDさんの人間としての魅力がハンパない。根底に流れているのは、すべていいんだよという肯定感。

    http://zazamusi.blog103.fc2.com/blog-entry-1363.html

  • いやー、すごい本だった。
    帯に「叙事詩」って言葉が使われてたんだけどいや本当にこれは一大叙事詩。限界育児のこともさることながら夫の石田さんへの愛憎入り混じった思いとか、あと途中から一子さんの好きな人まで出てきて、あっ不倫……不倫だ……と読んでるこっちが後ろめたい。そして書き下ろしの「誰そ彼」本当にすごかった。これを書ける、書こうと思ったその覚悟がすごい。
    この本が出ることによって一子さんはものすごく失うものが大きいんじゃないだろうかと思ったけれど、失うものが大きいんじゃないかと思うものって大抵得るものも同じくらい大きいんですよね。これを一冊の本にした、できたのはまじで一子さんの人生の財産だと私は思う。誰だよお前って感じですけど。この本も実は金原ひとみが紹介していて、それで興味を持って購入したものだったのだけど、金原ひとみがシンパシーを感じるなら私にとってはハズレがないよな。
    本当に読んで良かった本でした。世の中の日記かくあるべしとまでは思わないけど、でも全てを曝け出そうともがく文章が私は好きです。

  • 色々と言いたいこともあるが(※震災後の混乱していた時期だし仕方ない)植本さんのキャラで帳消し。とにかく正直な人だ。レビューで「わがまま」とか「自分勝手」とさんざんな言われようだけど私にはその評価がピンと来ない。大抵の人間は自分のことを書く時に自己弁護や自己欺瞞が付き物だ。この人にはそういう誤魔化しがないだけ。むしろよくやってると思う。「働けECD」も読んでみたい。

    ※2021年現在、震災後の福島で生まれ育った子供たちに放射能の影響はなかったことが証明されてきます。それだけは言わせてください。

  • 日記の後半あたりで好きな人が出来ちゃってるのが丸わかりで笑った。外出は多くなるわ、子供や石田さんの様子は殆ど出てこなくなるわ。こうして包み隠さず本にするだけあって、日記にそれがダダ漏れです笑
    著者に打ち明けられる前にブログを読んでいた石田さんもわかってただろうな、こりゃ。
    結婚していても好きな人ができてしまうのは仕方ないよなーとは思うものの、自分に置き換えて考えてみるとそれも夫や子供などがあるからこその余裕というか遊びの部分という気がする。結局そこに帰れるからかなと。正直、1度離婚してみても良かったんでは?と思うけれど、石田さんの言う通り"変わると思ってた周りが何も変わらなくて1番自分が傷付く"という結果になっていたとあたしも思うなぁ。
    ありきたりだけれど、自分に似た人ってやっぱ付き合い難く真逆の人が相性が良いんであろう。ずーっとフラットで変わらない石田さんの安定感たるや。そこがイラついてしまうのもわかるんだけど、彼氏と著者は似過ぎていてどこまでも落ちていく感じが不安で怖い。
    他人が好きになった人のことを知りもせずに批判するのも何ですが、彼には敵わなくないと思う。石田さんには、うん、敵わないね笑

  • 途中まで、なんとも移入できなかった。
    でも読み終えると、これほど胸に残る作品は他に無いと確信した。
    まさに清も濁も丸抱えして七転八倒しながら生きる姿。
    飲み込みにくい本こそ、自分に何かを残す。
    この作品は、かさぶたにならない傷痕を残してくれた。
    これは強い。

  • とても強い本だ、と思った。

    強さに負けそうで、なかなか読み進められず、まさに「かなわない」と思いながら読む。

    同年代の著者の気持ちは肌感覚ですごく伝わってくる。
    自由でいたい、自由でありたいと思う一方で、実際には自由のない生活、自由でいるつもりが、それは自由ではなかった、そんな生きづらさ、日々をふつうに過ごすことの難しさが。

    壮絶な内容を包み込むかのような優しく美しい装丁は、激しい感情をさらけ出す著者を見守るECDさんのように感じる。

    結婚もして、子どももいて、仕事もしている。なのにどうして?

    よくわからない何かと闘って、そんな思いに潰されそうになる。

    かなわない。

    「かなわない」というタイトルにどれだけの思いが詰まっているんだろう。
    これ以上、強く素直な言葉はない、と思った。

  • 第2子出産の入院中に読破。

    味わったことのある、育児中の孤独と自己嫌悪と罪悪感が
    他人事とは思えず、むしろ濃縮されたそれらを否応なしに
    追体験させられて、読み進めていくのがしんどかった。
    どんどん私まで傷付いていった。憎くなるくらいには。
    なのに、読み進めるのを止められない。
    読み手にどう思われるかを、全く気にしてない姿に
    嫌悪感さえ覚えてしまったのだけど、それはいかに自分が
    他者の視線を気にしているかの裏返しであると気付かされたり。

    やーーーー、すごい。
    他の植本一子の本、買ってしまったもんね。
    気になって気になって。

  • 母親をやることの大変さをみっしりと思い出す。それでもこれだけ動いてる。すごい。

  • 日記本はあまり読んだことがなく、読みづらいな、と初めは思った。しかし、作者の本音を曝け出してくれているのがなんだか安心し、どんどん読めました。私も自分を愛せなくてもがいていますが、同じような人がいたんだと、「見つけた」感覚を味わいました。素敵な本をありがとうございます。

著者プロフィール

植本 一子(うえもと・いちこ):写真家。1984年、広島県生まれ。2003年、キヤノン写真新世紀で優秀賞。2013年から下北沢に自然光を使った写真館「天然スタジオ」をかまえる。主な著作に『愛は時間がかかる』『かなわない』『家族最後の日』『降伏の記録』『台風一過』『うれしい生活』『家族最初の日』などがある。

「2024年 『さびしさについて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

植本一子の作品

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