- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784907873035
作品紹介・あらすじ
帰化は小学1年生のとき。当時の夢は警察官になること。おばあちゃん子で育った25歳の日本籍在日コリアン3世が綴る自分や家族の日常と日本社会の交わる風景。
おいしいキムチやチャンジャにはしゃぎ、デマサイトやヘイトスピーチに憤り、沖縄や蓮舫議員や成宮寛貴に共感したり反発したり、朝鮮半島の歴史や現在のありように思いをはせる日々。
多様性や寛容さが失われつつあるこの国のもうひとつの声。同タイトルの人気ブログを大幅に加筆修正して書籍化しました。
感想・レビュー・書評
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「沸点」を買いに本屋に行ったら、つい、この本が目に入ってきたので買った。「エッジから観ている風景」ってブログ、定期的に読んでいるわけじゃないけど、どこかで紹介されて何回か読んだ記憶があって、本をパラパラめくってみたら面白そうだったので。
在日の人はさまざまなスタンスがある。朝鮮籍の人、韓国籍の人、日本国籍の人。朝鮮学校に通ったことがある人、朝鮮学校と日本学校に通ったことがある人、日本学校しか通ったことがない人。本名で暮らしている人、通名で暮らしている人、本名しか持ってない人、本名と通名を持っている人など。。いや、内実はもっともっと複雑なのだろうと思う。わたしにはそういうところは見えないだけで。でも、少なくとも「すごく複雑」ということくらいは知っている。
だから、ここに書かれていることは「たくさんいる在日の人の中の一人の経験とその人の考え」であって、在日の意見を代表としているわけではない。それは注意しておかねばならない。
で、この本読んだんだけど、全体的には「ああ、なるほどな」とか「分かるな」って話がほとんどだった。とはいえ、わたしは在日ではないので、本当に分かったとは言えないし、分かるにしても「何となく理解した」というのが正しいのだろう。
しかし、一つだけよく分からないものがあった。
「国会前デモで、SEALDsが『民主主義ってなんだ?』とコールしていた。彼らは迷わず、その後に続く言葉として、『これだ!』と言っていた。私はこの国で、『民主主義とはなんだ?』と問われても、『これだ!』と言えるものが見つからない。いや、『これだ!』という声すら出せない。この国の民主主義は日本民族の血を受け継いだ『日本人』だけのものらしいからだ。」177p
この前段には、いくら在日の人が日本国籍を取得したとしても、この国の政治のアリーナで声を出すことができない在日の姿のことが書かれている。そのことを受けてのこの文章だが、一方、なぜわたしがこの文章に少し引っかかりを感じてしまうかというと、実はわたしはこの「民主主義って何だ?」「これだ!」というコールが一番好きだからだ。
民主主義って別に投票行動だけが民主主義ではない。今の政治がおかしいと思えば、おかしいと声を挙げる。それが民主主義だし、だからこそ、わたしは声を挙げて「これが民主主義だ!」と言えるのだ、と思っている。
あ、そうか。書いていて初めて分かった。わたしはこの文章の中で「迷いもなく『これだ!』と言えている人間」なのだ。そして、このコールに「これだ!」と言えない人がいるとは思いもしなかったから、この文章に違和感を持ったのだ。だって、たとえ選挙権のあるなしにかかわらず、声を挙げることは誰だってできると思っていたから。もちろん、差別されて踏みつけまくられてて声を挙げることすらできない、ってこともあることも知っている。しかし、そのことと、国会前で声を挙げることは、わたしにとっては「別」のことと思えるのだ。そしてわたしがそう思えるのは、わたしがこの国の「マジョリティ」だからなんだろう。
自分がマイノリティであることを自覚したり、考えたりすることは簡単だ。しかしマジョリティを自覚したり、マジョリティとは何であるかということを考えることは非常に難しい。
やはりだいたいのことを知っている、とか聞いたことがある、とか頭の中で整理できている、と思ってても、たまには自分がマジョリティであることを自覚できる本を読まなきゃダメだな、と改めて思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示