きつねのおきゃくさま (創作えほん)

  • サンリード
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感想 : 103
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  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784914985271

感想・レビュー・書評

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  • 書店員さんに「小学生の頃読んだ本で、一番印象に残っている本は何ですか?」と質問してみたら、ふたりともこの本を挙げていた。
    それぞれ違う書店だったし、ひとりは女性でひとりは男性という違いがあったにも関わらず。
    そんなわけでさっそく読んでみた。

    二俣英五郎さんの絵が明るくて可愛くて見やすく、登場する生き物たちすべてに黒のアウトラインが入り遠目も利く。
    特にきつねの表情の変化は面白いほどだ。
    加えてあまんきみこさんの文章も簡潔でリズム感があり、分かりやすい。
    「むかし むかし あったとさ」で始まる一見のどかなお話は、明るくユーモラスに展開するように見えて土壇場で激変。
    ラストは涙がにじむ哀しさを「とっぴんぱらりの ぷう」で終わる語り口が救ってくれている。

    性善説にのっとった作品ということか。
    「そのばん きつねは はずかしそうに わらって しんだ」というラストは、子供向けのお話としては衝撃的でもある。
    「やさしい」「しんせつ」「かみさまみたい」・・そう思われたまま死んでいったのだから、きつねにとっては本望だったろう。
    でもやはり、自分の本性と照らし合わせると羞恥心がある。
    何だかそこがとても哀れで、(変な表現だが)人間らしくて愛せる。

    「性悪説」が世を跋扈しているかのように見える今。
    まして世界を見れば「平和を愛する諸国民の公正と信義」など、とても信頼できそうもない(笑)。
    でも、子どものうちはこれでいいんだろうな、うん。
    心の中にたくさん、善なるものを積み上げて欲しい。
    約7分。低学年から。

    ところでそのふたりの書店員さんは、また偶然にも同じことを言っていた。
    「先生がすごく上手に読んでくれたから、特によく覚えている」。
    感情を込め、声色も使ったというから私の学習内容とはまるで異なる。むしろ、やってはいけない方法だ。
    作品に罪はないが、読み聞かせには使用しないことに決定した。

  • きつねを始め、出てくる動物たちの「顔」がいい。どこか間が抜けていて、わるい奴になろうとしても、徹しきることができないきつね。きつねのことを「おにいちゃん」と言って慕い、すぐに相手を信用してしまう、これまた間の抜けている顔のひよこ、アヒル、うさぎ。紙芝居のように一ページごと見やすく整えられた絵に加え、むかし話のような語り口は、おだやかに、かつ軽快に読者に大事なことを伝えてくれる。

    この絵本を読んでいると、言葉がどれだけ相手の心を動かすものなのか、その影響力と可能性についてしみじみ考えさせられる。「やさしい」「しんせつ」「かみさま」そういうまろやかな言葉によって心はほぐれ、その嬉しさを相手に返したくなる。きつねの中にあった最初の思惑が何であったにせよ、時間をかけて育まれ、こころの中にポッと咲いたその感情はまぎれもなく本物なのだ。

    きっとこの絵本を読んだ人ならわかると思う。自分の中にある、「思いやり」とか「尽くしたい」とか「喜んでほしい」という感情がどこから来るものなのか。人は他者との関係性によって自身を育み、言葉によって心の糧を得、それがいずれ行動となる。

    たぶんきつねは見つけたのだろう。自分が生きている意味を。だから最後は幸せだったのだと思う。そして、そんなきつねと一緒に暮らした、これまたどこか抜けたところのあるひよこ、アヒル、うさぎたちは、自分たちのために勇ましく戦ったきつねを見て、きっとなにかを受け取ったんじゃないかと思う。死を悼むということは、嘆き悲しむということは、涙を流すということは、その人のことが好きだったということを意味しているのだから。

    ふとしたきっかけで生まれた感情が本物の感情となり、やがて行動へといたる。そしてその行動はきっと残った3匹に伝わり、彼らに何かを宿らせたんじゃないだろうか。
    とっぴんぱらりの ぷう。

  • 親子ひろばで読み聞かせがあって出会った本。最初に読んでいただいたときは、結末が衝撃的すぎて言葉を失いました。
    意地悪な肉食獣、きつねが、ひよこやウサギと出会って、最初は食べちゃおうと思うけど、太らせてから食べようと考え直し、一緒に暮らす。太らせるために世話をやくうち、ひよこが「やさしいおにいちゃん」ときつねを慕ってくる。
    影で「やさしい」とか「かみさまみたい」と自分のことを言われているのを聞いて、きつねは「ぼうっとな」ったり、「きをうしないそうにな」ったりする。その描写が超かわいい。
    そこへやってくるオオカミ。
    きつねは・・・・身をていして・・・・涙。
    そんなのあり?余韻がいい感じの絵本はたくさんあるけど、こんなにぶつっと衝撃の幕切れを迎える絵本はそうそうないんじゃないかな?ある意味、すごい本です。

  • きつねにまつわる物語絵本シリーズですが、あまんきみこさんの作品として、知っていたものの、読めてなかった作品です
    ひとりぼっちのやせっぽちでおなかを空かしたきつねが、同じくやせっぽちのひよこと出会い、まだまだやせっぽちだな、よおっく太らせてぱくりと食べてやろう! と自宅で保護して美味しいごはんをたくさん食べさせてやるのです
    そして、やせっぽちのアヒル、やせっぽちのうさぎも、きつねは自宅で面倒を見てやるようになるのですが、ひよこ、アヒル、うさぎの三羽組は、きつねを心から慕うようになり「きつねのおにいちゃん」なんて呼ばれてしまって、誉め言葉にすごく弱いきつねのおにいちゃんは、そのたびにくねくねと身をよじって照れるのでした
    ある日、きつねのそのにぎやかなルームシェアのおうちが、とんでもない災難に襲われます
    しかし、きつねのおにいちゃんは、ひよこと、アヒルと、うさぎのために、彼らが抱いていたきつねのおにいちゃんのイメージのそのままの、頼もしい、勇敢な行動をとったのでした
    きつねのおにいちゃんの最後の姿は、息絶えたことがはっきり分かる作画で、ここまでお人好しで誉められる度にすごく照れる顔をするきつねを見ていただけに、それでいいの!? きみはそれで良かったの…? って聞きたいくらいですが、
    でもきつねのおにいちゃんは、心から満足そうに笑っていたのです

    ところで、きつねの自宅内の作画がすごく好きです
    特に人間みたいな服を着てたりせず、鳥獣戯画くらいの感じで二足歩行してたきつねですが、自宅内にはダイニングテーブルが設えてある上に、ひよこ、アヒル、うさぎが増える度にベッドも増えていきます
    そしてきつねのおにいちゃんは多分、ベッドは使ってなかったし、ひよこ、アヒル、うさぎを大切に太らせていた
    きつねさん、もっとわがままになっていいのよ
    お腹を満たすことよりも、慕われて名誉ある死を選んだと言える結末だけど、ひよこ、アヒル、うさぎがきつねを慕って悼む以外のことしてないなー、きつねのおにいちゃん割りが悪いな! と、きつね推しとしてはモヤモヤしてしまうのでした
    きつね自身はきっと、しあわせだったんだろうけど

  • 子どもの頃読んで印象的だった本。
    大人になった今読むと、とても深い話だなとしみじみ感じます。
    キツネの最後は残念だけど、人に与えることで豊かになり愛を知れたキツネは幸せそうだった。

  • なんとなく展開が読めたけど、きつねの最後の描写は衝撃だった。文も絵も良かった。
    子どもはこれを読んでどう思ったのかな。言葉にするのはまだ難しいかな。
    2回目読んで気づいたけど、きつねの家のベッドが増えていくのも良かった。

  • 知性に生きれば本能に窮屈だ。

  • きつねはゆうかんだった!

  • 衝撃の結末だった。
    絵本だから、めでたしめでたしで終わるのが当たり前だと思っていたのが恥ずかしい。
    でも世に慣れた大人としては、きつねがずる賢いひよこたちに利用されて使い潰されたようにも感じる。
    お互いそういうつもりはないだろうけど、一方的に与えるばかりで煽てられて嬉しくなったあげくの自己犠牲の死には納得いかないかな。
    絵本だから詳しい背景は書かれておらずわからないけど、きつねはこれまで人に認められるということがなくて、ひよこたちの言葉が本当に嬉しかったのかもしれない。
    そう考えるときつねにとってはハッピーエンドだけど、読む側からするとメリーバッドエンドだ。

  • 胸の中がぎゅーんって・・・なんとも、心揺さぶられるお話でした。勇気ってなんだろう。優しさってなんだろう。強さってなんだろう。そんなことを考えるお話です。

    ブログにて詳しいレビューしています♡
    https://happybooks.fun/entry/2012/09/14/103000

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著者プロフィール

1931年生まれ。児童文学作家。1968年にデビュー作品集『車のいろは空のいろ』が日本児童文学者協会新人賞および野間児童文芸推奨作品賞を受賞。以降、いくつもの文学賞を受け、多くの作品が小学国語の教科書に掲載されている。2001年に紫綬褒章受章。京都在住。

「2023年 『不思議の国の猫たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

あまんきみこの作品

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