ミツバチのささやき [DVD]

監督 : ビクトル・エリセ 
出演 : アナ・トレント  イザベル・テレリア  フェルナンド・フェルナン・ゴメス  テレザ・ジンペラ 
  • 東北新社
4.05
  • (154)
  • (95)
  • (117)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 762
感想 : 109
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4933364710079

感想・レビュー・書評

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  • 生涯で最高の一本を観てしまった。
    フルートの旋律が静かに響くエンドロールの暗がりから、現実世界に戻りたくなかった。

    これをスクリーンで上映してくださった、福岡映画サークル協議会のみなさまにお礼を申し上げます。

    全編、寸分の無駄もない美しいカット。
    でもそれは決してきらきらと眩いものではなく、
    聖堂の朽ちたフレスコ画のような美しさ。

    そして、主役の少女アナ・トレントの愛くるしいこと。
    黒く大きくつぶらであどけなく、それでいて意志の強い瞳。
    「天使のような」という形容があるが、天使そのもの。
    しかし、天使はほとばしる生命力だけではなく死をも司る。

    映画内に繰り返し挿入される死のイメージ。
    毒キノコの痺れがゆっくりまわっていくように、
    観ている側も甘く絡めとられていく。

    物語の冒頭、村で上映される『フランケンシュタイン』
    あれは暗示だったのか、それともあれに導かれたのか。

    ストーリーを語れるのであれば、この映画は撮られる必要はなかった。
    映画でしか語ることのできない何か。

    「感動」という言葉が、心を動かされる、感情を揺さぶられるという意味ならば、確かに感動した。

    嬉しかった、楽しかった、悲しかった、切なかった。
    腹立たしかった、憤った、寂しかった、癒された。
    面白かった、豊かだった、味わい深かった、幸せだった。

    きっと、どれでもない。
    いや、そのどれをも包括し、どれをも越えた神々しいもの。

    この気持ちを表す言葉は未だ発明されていない。
    だからこそ映画なのだろう。

    • 峨眉書房さん
      御無沙汰しています。メッセージありがとうございました。
      メッセージをもらった後、何気なく知人に「ミツバチのささやきをスクリーンで観たって方が...
      御無沙汰しています。メッセージありがとうございました。
      メッセージをもらった後、何気なく知人に「ミツバチのささやきをスクリーンで観たって方が・・・良いな~」と話したら、その知人が偶然DVDを見つけ、入手してもらえました!

      観てからメッセージを書き込みたいと思い返信遅くなってすみません。

      蜂の巣の中に居るような模様の窓が、とても印象的でした。夜、六角形が並ぶ窓から映る光の色が、幻想的で、美しかった。

      幻想的な世界に死の世界がぴったり寄り添っていて、私にとっては夜中にみる夢のような世界でした

      kwosaさんのメッセージのおかげで、この映画と縁が持てました。ありがとうございました
      2013/05/05
    • kwosaさん
      峨眉書房さん!

      お久しぶりです!

      なんと、DVDを入手されたとは。なんてうらやましい。
      それにしても素敵なご友人ですね。

      本当に、光の...
      峨眉書房さん!

      お久しぶりです!

      なんと、DVDを入手されたとは。なんてうらやましい。
      それにしても素敵なご友人ですね。

      本当に、光の色が美しかったですね。
      琥珀色というか飴色というか、そう、言うなれば蜂蜜色。

      >私にとっては夜中にみる夢のような世界でした

      まさにその通りですね。
      上映が終わって劇場に灯りがともるのが悔しい、夢から覚めたくない。
      僕はそんな気持ちでした。

      縁とは不思議なものですね。
      こちらこそ素敵なメッセージをありがとうございました。
      2013/05/06
  • どの場面をとっても申し分ない。いつでも観られるようにDVD購入。
    名前は何だったか、アナじゃないほうの女の子が死んだふりをして、おまけにフランケンシュタインのふりをしてアナを驚かせたところから、決定的にこの物語は幻想、死へと惹き付けられていく。セリフの少ない映画ながら、アナ演じる子役の目つきだけでそれがはっきりと感じられるのがすごい。

    好きな場面ばかり。
    自転車にのったアナの母親と駅に入って来る機関車が並走しながら近づいていくシーン。
    蜂の巣に似せた柄の窓から差し込む幾筋もの日光。
    地平線で区切られた桃色の朝焼けと広野。
    アナがさまよう森の中、水に映る月、アナの顔。
    たき火のうえを跳び越える少女たち。その傍らでひとり座っているアナ。
    と挙げだしたらきりがない。
    これは機会を見つけてなんとかスクリーンで観たい。

  • この映画はブクログでよく絡んで下さる方が本棚に登録してたので知りました。それプラス、自分がブクログを始めたきっかけがジョージ・オーウェルの本だったのでスペイン内戦に興味を持ちまして。あとジョー・ストラマー、天本英世・・・それら色んな流れが集約された結果。ずっと観たかったんですがレンタル店にないのでこれまた無理矢理観ました。

    普通に、表面上だとこの映画は★3~4ぐらい。今の映像感覚で観ると特に「美しい」わけでもないし、映像表現として優れているわけでもない(・・・と書くと語弊がありますが、「昔の映画だから」という意味で。必要充分以上に美しいです)。
    主人公の女の子、アナちゃんは確かにかわいい。この作品の下敷きになってる、ボリス・カーロフ版『フランケンシュタイン』を観て、お姉ちゃんとお家に帰るときの「フランケンシュタイ~ン!」というセリフはかわいらしすぎて爆笑。
    そういうとこはとっても良いし、ロリペド野郎の人にはまた別に需要があるかもですがw・・・モヤ~っとする映画なんですよこれ・・・背筋が寒くなる、怖い映画です。他の方の感想、「モヤモヤした」「意味不明だった」「難解」というのはほんとに正解なんです。モヤモヤする映画、わけがわかんない映画を観て・・・あれなんだったんだろうなあ?と考え続けるのが大事で、あとで気付くことも多いと思うんです。

    スペイン内戦もの、いくつか観たり読んだりした他の作品のレビューにリンクを張っておきます。
    ・『パンズ・ラビリンス』
    http://booklog.jp/users/gmint/archives/1/B0012EGL4M
    ・『ブラック・ブレッド』
    http://booklog.jp/users/gmint/archives/1/B0090CKO1E
    ・『カタロニア讃歌』
    http://booklog.jp/users/gmint/archives/1/4480087273
    あとケン・ローチ監督の『大地と自由』という映画があって、これは『カタロニア讃歌』をベースにしてるようで、のちの『麦の穂をゆらす風』にも続いてる作品だと思うんですが、現在DVDがほぼ絶版に近い状況のようです。

    『ミツバチのささやき』の話に戻ると、この映画はなぜすごいのか?というと、映像で語ってるからです。セリフがかなり少なくて、全部象徴で語ってる。これに近い映画はポランスキーの『水の中のナイフ』とかがそうでした。
    フランコ政権は1939~75年まで36年間も独裁を敷いてて、それが終わる2年前の1973年の映画。だから『水の中のナイフ』同様、「言いたいことが言えない」のを、映画の中ですべて象徴として語るしかなかった。

    細かいところで、自分が気づいたりざっと調べた点。
    ・お母さんの書く手紙は誰に出してるかはわかりませんがフランス宛だそう。『ブラック・ブレッド』でもありますが左翼活動をしてる人たちがフランスに逃げてるので、昔の彼氏か誰かがそうなってるということ。
    ・お母さんの弾くピアノは『ソロンゴ・ヒターノ』という曲らしく、この歌詞がストーリーに関係する。
    ・『禁じられた遊び』にも近い話だけど、アナは死は理解できてるよう。ただ「殺される理由」はよくわからない。『フランケンシュタイン』の映画だと、殺される理由は倫理的な面。『ミツバチのささやき』本編だと政治・思想的な面。子どもだからわからなくて当然だけど。
    ・窓がハニカムになってるところはわかり易いですよね。
    ・アルバムの写真でお父さんと写ってる人・・・お父さんは転向して、今は体制側に従順。
    ・アナがお姉ちゃん不信になって、「お姉ちゃん死ねばいいのに・・・」と火あぶりになる。魔女狩り。
    ・なんで魔女かというと、ペットが黒猫。「魔女」「女」で、たぶんここはアナの純真無垢との対比。
    ・と、考えたら宮崎作品だと『魔女の宅急便』にもつながる気がします。
    ・「黒」はアナキズム、アナキストの象徴だと思う。この映画で黒いものは2つ出てきます。ひとつめは毒キノコ、ふたつめは黒猫。それぞれどうされるかというと・・・・・・

    『となりのトトロ』もそうですが、『パンズ・ラビリンス』『ブラック・ブレッド』はこの作品以降の流れ。言えなかったことをもっと直接的に描いたのが『パンズ・ラビリンス』と『ブラック・ブレッド』だと思います。なのでこのふたつを観ると、『ミツバチのささやき』のテーマがかなりはっきりと見えてきます。間に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が入ってる気がしてならないけど。

    • GMNTさん
      子供の頃や若い頃に観た映画、いま見返してみると、色々な発見があって面白いですよね。knktさんの『ミツバチのささやき』レビューも読ませていた...
      子供の頃や若い頃に観た映画、いま見返してみると、色々な発見があって面白いですよね。knktさんの『ミツバチのささやき』レビューも読ませていただきましたが、あの映画はほんと暗号の塊のように思えてきます……。
      ところで、ほんとにたまたまですけど『スリーピングボイス』というスペイン内戦ものを観ました。レビューはそのうち……。
      2021/02/06
    • knkt09222さん
      「スリーピングボイス 沈黙の叫び」ですね!探してみます!
      「スリーピングボイス 沈黙の叫び」ですね!探してみます!
      2021/02/06
    • GMNTさん
      私はGyaOで観たんですが、無料公開終わっちゃいました。レンタルや配信にもしなければ、GyaOは数ヶ月後に再公開されると思うので、気づいたら...
      私はGyaOで観たんですが、無料公開終わっちゃいました。レンタルや配信にもしなければ、GyaOは数ヶ月後に再公開されると思うので、気づいたらknktさんにコメ欄か導体テレパシーでお知らせしますね笑。
      2021/02/07
  • 5/27再鑑賞。

    ピュアですね。いやー、ピュアです。
    この脚本を毛の生えた大人が書いたというのが奇跡ですよ。
    子どもの頃に感じた、えも言われぬ恐怖心や手を伸ばしたくなる好奇心、オトナへの憧れを、スペイン内戦後の国内に漂う閉塞感とそれに伴う家族間のすれ違いを絡めながら描いている。
    ポエティックな映像の断片にイエロー・ブラック・ネイビー・グレーといったカラーが鮮明に映し出される。それはまるで我々が幼少期の記憶を振り返った時と同じように刹那的でアヤウイモノ。
    子どもの頃のまっすぐで純粋な気持ちを思い出す。そんなノスタルジーがなんだか心地良い。

    主人公のアナがとにかくかわいい。
    いつでもおねえちゃんのイサベルの側にいて、わからないことはすぐにおねえちゃんに相談。疑うことを知らない、そのまっすぐで大きな瞳はいつもまばゆい光を放っている。
    そんな妹の無垢な姿に対しておねえちゃんのイサベルはオマセな年頃。
    健気な妹をからかいつつ、自身は女の自分を意識し始めている。ネコの首を絞めるシーンから、そのネコに引っ掻かれて出た指の血を唇に塗り付けるシーンは大人顔負けのセクシーショット。と思えば、自分の"嘘"が次第に現実味を帯びてきたことに怖くなってふとんを頭からかぶったりと。
    こんな娘が欲しい。本当に2人ともかわいい。

    蜂蜜色の灯り、窓格子の蜂の巣模様、そしてその格子を隔てた"内"と"外"の世界。
    フランケンシュタインと精霊。精霊と足跡。足跡と負傷兵。殺された負傷兵と殺されたフランケンシュタイン。殺されたフランケンシュタインと生きた精霊。
    映画の少女とアナ。死んだ少女と生きたアナ。
    数々のメタファーと象徴が行き交いながら物語は紡ぎ出される。
    最後、母親のテレサがアナの失踪を機に家庭に気持ちのよりを戻すシーンはとても良かった。あのシーンは作品上、それ以上に大きな意味を持っているように感じる。

    邦題は原題とはニュアンスが少し異なるが、なかなか良いネーミングだと思う。心に深く沁み入る映画。アナの大きな黒い瞳に何か救われる感じがした。

  • 青井汎「宮崎アニメの暗号」を昨年読んでから見返したかった。「となりのトトロ」との関連。
    澁澤龍彦が生前最後に見て、体調不良のため途中退席した映画……とどこかで読んだ記憶があって調べたら、ソースは澁澤龍子「澁澤龍彦との日々」らしい。
    わが父が腎盂癌で入院中、好きだったパチンコ屋に、外出許可を得て母が伴って行き、気分が悪くなって帰った、という話を聞いてから、しょーもないながらこのふたつが重なって、より思うところの多い映画になった。というチラシの裏。

    オールタイムベストを作るなら1位から3位に入るのは間違いない、もう何度も何度も見ている映画だが、エリセでブクログ内をタグ検索してもひっかからないということは、ブクログを開始した2012年以前にエリセにはまっていたみたい。
    evernoteで記録を遡ると、2002年に(たぶん初めて)鑑賞して(ということは19歳)、何度も見返しつつ2006年に再度集中して見返している。
    おどろいたのは2002年に「エル・スールー南へー」を見ているということで、もう19年も経っているのだ。
    2005年に「殺人論文-次に私が殺される/テシス」を鑑賞。レンタルしたんだろうが、VHSとDVDの過渡期で、どちらかはわからない。ひょっとするとレンタル屋が一本100円など二束三文で手放したVHSソフトに交じっていたのかもしれない。
    2013年に「マルメロの陽光」を見ているらしいが、面白いのは2014年に「カラスの飼育」を見ている、ということは、マルメロを見てやはりアナ・トレントを見たいと思った結果なんだろうな、と。

    さて本作、アナの眼を通して見える瑞々しい世界……という惹句を容易に思い付くが、それは嘘で、視点は家族4人に結構割り振られている。
    いつか、分単位・秒単位で、父パートは黒、母パートは青、姉パートは緑、妹パートは赤、などノートに色分けして配分表を作ってみよう、と思った。
    また、
    【父フェルナンド】……。……。
    【母テレサ】……。……。
    【姉イサベル】……。……。
    【妹アナ】……。……。
    と、映画内の小道具、要素、見たもの、感じた事柄(、そして表面から暗号的に読み取れる裏側)を、すべて4人にふりわけながら鑑賞してみよう、と決意した。それは極私的エリセ映画祭を行った最後に、やってみたい。

    そのために町山智浩「映画その他ムダ話」を参考に、今後補強していくべき叩き台を作ってみた。そのメモを以下に。

    ・1973年製作。フランコ政権末期(フランコ死去2年前)。検閲や自己検閲の中で、映画に暗号を埋め込んだ⇒ラテンアメリカ文学に似ている。シンボリックでメタフォリカル。
    ・舞台は1940年あたり、スペイン内戦、フランコ政権。ヒトラーと同じ。ピカソ「ゲルニカ」。人民戦線は、ロシアのスパイで内ゲバ。オーウェル、ヘミングウェイ。脚本家サントスの少年時代。学校ーフランコ政権ーカトリックの締め付け。
    ・映画トラック。運ばれてきたのは、1931「フランケンシュタイン」意外と近い年代。盲目の少女。花。を見るアナを隠し撮り。

    【父】養蜂研究(邸宅の窓は巣のようにハニカム構造。ハチミツ色。家庭=国)。語れない。弾圧を内面化。キノコを踏む足。書斎の絵(ヒエロニムス老人。骸骨、いつか死ぬ、先が短い中で仕事、聖書翻訳。なぜ自分は、と父。ライオンのトゲを抜いてやる⇒アナの兵士への優しさ)。ラジオ。
    【母】手紙。フランスに亡命した恋人。過去。列車の音(リュミエール)。アルバムに若い父母(人間嫌いさんへ)、ウナ・ムーノという民主主義者の写真(軟禁)。
    【姉】死んでないよ、精霊だから、と誤魔化す。からかう。火を飛び越える。成長。猫の首をしめ、血を唇に。フランコに同調、適応。
    【妹】観察する。内臓がバラバラの人体模型はスペインを暗示(最後に足りないのは、眼。はめるのはアナ。ただ見ること)。小屋で敗残兵にリンゴ、コートと時計(残兵狩り⇒死体はキリストになぞらえられている……規制ギリギリの表現)。父を憎む。森へ、小川。『汚れなき悪戯』で動き出すキリスト像。私はアナよ。私は家族のどれでもない、アイデンティティ、製作者の希望を託している。

    ・幻想を信じ続けること⇒「となりのトトロ」。スペインの歴史や暗号を離れ、無垢な目への感動。デル・トロ「パンズ・ラビリンス」「デビルズ・バックボーン」。

    さらに、今回見返したきっかけを書いてみたが、それは未公開メモに。



    0206追記
    DVDボックスの特典になっている、テレビドキュメンタリー「精霊の足跡」1998を鑑賞。
    制作時ロケが行われた、セゴビア西部の農村オユエロスで「ミツバチのささやき」を(初)上映したり、関係者3人(監督ビクトル・エリセ、共同脚本アンヘル・フェルナンデス・サントス、製作エリアス・ケレヘタ)にインタビューを行ったりするのだが、アナ・トレントがロケ地や屋敷を再訪するという嬉しいところも。
    このオユエロスの人口、作品の舞台になった1942年で338人、撮影が行われた1972年で230人、このドキュメンタリー撮影当時1997年には92人、と過疎の村らしい。
    97年現在も映画館すらなく、映画冒頭と同じように公民館に各自椅子を持ち込んでの鑑賞、という、入れ子構造というのか、繰り返しというのか、感慨深い。
    以下箇条書き。

    ・スペイン人には、暗黒時代の記憶が生々しく残っている。
    ・1970年前後、商業映画が溢れる中、反体制映画も作られた。つくりは比喩的。比喩的。「アナと娘たち」「秘め事」「恐怖の逢びき」「狩り」「学校旅行」「この世の楽園」「ハブラムディタ」「失望」「パスクア・アルドゥアルテ」。ケレヘタや、カルロス・サウラという監督が代表的。他にスペイン映画として「庭の悪魔」「ベルタの動機」「庭の悪魔」「幻の城」「過去の日々」「森の奥深く」
    ・企画当初、ホラーにして配給権を獲得しようと考えたが、資金面で変更。また当初は、大人になりマドリードへ移った娘が、父危篤の報せを受けて車で帰りつつ、確執を思い返す、という導入だったとか。しかし、構成の工夫は必要ない、もっと映画体験そのものに向き合えるように、ということで今の形に練っていった。
    ・同じプロットでカルロス・サウラは「愛しのエリサ」を作った。またカルロス・サウラ聞いたことがあるなと思ていたら、「カラスの飼育」の監督。さらに同じ路線でエリセが作ったのが「エル・スール」。関連している。
    ・人物は象徴。心理よりも各人の内なる予感を重視した。心理的解釈は子供の未分化な心には関係ない、と。そのため大人の役者やスタッフにはわかりづらかった。
    ・証明については、フェルメール(言及されなかったが、屋敷はハマスホイっぽい)。そしてフランシスコ・デ・スルバランの象徴的スタイル。初めて知った画家だが、その静的な構図や、光の感じは、確かに。そして「神の子羊」という作品が、なんとイサベルが死んだふりをするところに影響しているとか。
    ・母役の女優いわく、アナ・トレントは髪をすかせてくれなかった。→対比的に「カラスの飼育」。
    ・冒頭の映画鑑賞シーンはドキュメンタリー的手法、ということは知っていたが、なんでも唯一手持ちカメラで撮られたのだとか。エリセいわく、映画はほとんど構成と準備でできているが、瞬間が輝く。考え抜かれた構成の劇映画の中で亀裂になるドキュメンタリックな瞬間。アナが映画を発見した瞬間だ。
    ・ドン・ホセもゲリラも怪物も、すべて同じ亡霊。アナは傷つくことで亡霊に会う権利を得た。アナの根底には信念がある。内なるゲリラ、学びと知識の旅へ。

  • 頭のいい子供は不幸だし、
    純粋すぎる子供もまた不幸だ。
    けれどそれは大人にとっての不幸であって
    けして子ども自身は不幸を感じてはいない。
    フランケンシュタインが自らの境遇に嘆くのは存在を迫害され始めてからだ。

    子供はうつくしいだけではなく残酷ささえ無邪気なうちに持っているから愛らしい
    という、みつばちの羽音に似たささやきに満ちた
    子供のための、かつて子供であった大人たちのための映画。

  • Wikipediaによると、スペイン内戦という歴史的背景の元に作られた映画で、直接的な政府批判を避けるため国内が分裂している様を家庭内の不和に置き換え、検閲を免れた作品だそうです。

    自分はそういう歴史背景にじぇんじぇん明るくなく、「あ、なるほどなー」とアホ面で感心していました。

    でも少し思ったのは、この映画は単に政府批判のという目的のために分裂した家族を描くという手段をとっただけとは思えない普遍性を持っているということです。

    フランケンシュタインという怪物が少女を殺し、殺した怪物は殺される。
    こういう一見道理に適った論理が、アナという無垢な少女の目を通すと、非常に不条理に見える。なぜ怪物は少女を殺し、なぜ怪物は殺されねばならないのか?人間が培ってきた常識は、所詮人間の都合の良いように捻じ曲げられてきたもので、条理の必然性は極めて恣意的なものであると謳っているように思いました。

    父親がアナとイサベルに毒キノコについて教えます。
    「この毒キノコは悪魔だ。食べたら最後必ず死ぬ」
    そう言って毒キノコを踏みつぶします。しかし毒キノコは人間にとって害があるだけで、悪魔ではなくれっきとした生命です。人間を殺そうという悪意はないのに、人間の都合で理不尽に潰されてしまう。

    フランケンシュタインも人間の都合で生み出され、人間の都合で殺されてしまう、ミツバチも絶え間なく働き死の安息が来るまで動き続けます。

    アナが生まれた世の中は、そういった理不尽や不条理がそこかしこにあり大人になるにつれて、そういった疑問を考える余地すら与えられなくなってしまう。姉のイサベルやそのほかの大人に教わった通りに世間を見ていては多数に同調するだけの存在となってしまう。

    アナはイサベルにからかわれたこと、脱走兵を助けフランケンシュタインに会ったことを経験し、自分の目で世の中と向き合うことを学びます。
    この映画は、一人の少女が「自分の目で見つめ行動し、そして考える」ことを学ぶ成長譚なんだと思います。
    姉からの受け売りは捨て孤独でも自分の考えを持ち曲げない生き方には、敬意を表すべき開かれた未来があるのかもしれません。

    最近映画のレビューしていると「俺のレビュー他の人とズレてんなー」と思うこともあったんですが、この映画を観て少し元気になった次第ですw

  • 映像が美しかった

    ミツバチの巣の模様の窓から見える灯り
    地平線の向こうに広がる夕日

    橙色はいつも切ない気持ちにさせます

    無垢な少女が死の世界にどんどん惹きこまれていく様子は幻想的な
    映像と相まって夢の中の世界みたいでした

    • kwosaさん
      峨眉書房さん

      リフォロー&コメントありがとうございます。
      ブクログに登録してもうすぐ一年。最近はミステリにはまって、ブクログ本棚はちょっと...
      峨眉書房さん

      リフォロー&コメントありがとうございます。
      ブクログに登録してもうすぐ一年。最近はミステリにはまって、ブクログ本棚はちょっと偏った趣味になっています。なので談話室でお薦めしたものとは違って、あまりお気に召すものがないかもしれませんがよろしくお願いします。
      お互い素敵な本や映画、音楽にたくさん出会えるといいですね。
      ビクトル・エリセ作品はなかなか入手が難しいです。でも、それとは別に素敵な映画に出会いましたので談話室に挙げておきます。
      2012/11/16
    • kwosaさん
      峨眉書房さん

      お元気ですか。ご無沙汰しています。

      このたび縁あって、ようやく『ミツバチのささやき』を観ることができました。
      噂に違わぬ傑...
      峨眉書房さん

      お元気ですか。ご無沙汰しています。

      このたび縁あって、ようやく『ミツバチのささやき』を観ることができました。
      噂に違わぬ傑作でした。

      そして、ふと「峨眉書房さん、どうしていらっしゃるかな?」と思ってコメントした次第です。

      突然、失礼しました。
      峨眉書房さんにも御縁がありますように。
      2013/03/03
    • kwosaさん
      峨眉書房さん

      お久しぶりです。
      本棚にメッセージをありがとうございます。
      そちらにも返事を差し上げています。

      それにしても縁とは不思議な...
      峨眉書房さん

      お久しぶりです。
      本棚にメッセージをありがとうございます。
      そちらにも返事を差し上げています。

      それにしても縁とは不思議なものですね。
      そしてDVDでこれからも繰り返しこの映画が観られる峨眉書房さんがうらやましいです。

      「夜中に見る夢のような世界」と、この映画をたとえていらっしゃいましたが、まさにその通り。
      現実世界に目覚めなければとわかっていながらも、ずっと微睡んで浸っていたい夜中の夢でした。
      2013/05/06
  • 何故か無性に怖かった。
    どのシーンの映像もアナの瞳も吸い込まれそうな程美しいのに、拒絶されているようにも感じた。
    真っ直ぐな瞳の強さと不安定な心の揺れがひどく脆く思えた。
    傷つくのが恐ろしいのに目が離せない。本当に美しい映画だった。

    • takanatsuさん
      オススメありがとうございます!調べてみたいと思います。
      オススメありがとうございます!調べてみたいと思います。
      2012/04/10
    • kwosaさん
      takanatsuさん、はじめまして。

      ブクログ仲間さんを経由して、時々takanatsuさんのレビューを拝読しています。
      とても魅力的な...
      takanatsuさん、はじめまして。

      ブクログ仲間さんを経由して、時々takanatsuさんのレビューを拝読しています。
      とても魅力的な本棚ですね。

      『ミツバチのささやき』
      本日やっと観ることができました。
      takanatsuさんの端的なレビューに共感しています。
      これをきっかけにフォローさせてください。
      2013/03/03
    • takanatsuさん
      kwosaさん、コメントありがとうございます。
      takanatsuと申します。
      『ミツバチのささやき』を見たのはもう1年以上前なのに、アナの...
      kwosaさん、コメントありがとうございます。
      takanatsuと申します。
      『ミツバチのささやき』を見たのはもう1年以上前なのに、アナの姿はまだ鮮明に思い出せます。
      夏のクーラーをつけていない部屋でガタガタふるえながら見たことも体が覚えています。
      なんであんなに怖かったのか、kwosaさんのレビュを読んで少し分かったような気がしました。

      私もkwosaさんの本棚とレビュを参考にさせて頂きたいと思いましたのでフォローさせて頂きました。
      よろしくお願い致します。
      2013/03/04
  • 映画で生と死というものを初めて意識し、兵士の死でそれを間近で体感し、きのこ採りで善悪の曖昧さに触れる。そして、その意味を考え始める少女の物語。主人公アナの眼差しがひたすらにつぶらで切なくなる。絵画的にも感じられるほどの美しい映像が、それを増幅する。あの名作「禁じられた遊び」を思い出してしまう雰囲気を持った映画。でもこの映画では、少女はそこからの成長を予感させるのだった。
    幼少期の鋭敏な感覚を思い出させてくれるような素敵な映画でした。

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