醉いどれ天使 [DVD]

監督 : 黒澤明 
出演 : 志村喬  三船敏郎  千石規子  笠置シズ子  久我美子 
  • 東宝
3.91
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988104021380

感想・レビュー・書評

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  • 初鑑賞。
    冒頭すぐに志村喬と三船敏郎の出会い。
    志村喬の髭面……白髪まじりの髪型を見て、髭の分量も(黒沢清「CUREキュア」の)うじきつよしっぽいなと思いきや、肉のつき具合や髭面や表情から印象が変わった。
    つくしあきひとだ!(「メイドインアビス」の)
    つまり、宮崎駿だ!
    すぐカッとなって暴論を吐くあたり(すぐに物を投げる)も、乾いた人情家?なあたりも、駿っぽい。

    で、もはやマーケットになった闇市の習俗も、きっちり描かれている。
    (ダンスホールにて、笠置シヅ子のジャングル・ブギーは、強烈。
    見ていないがなんでもちょうどいま朝ドラ「ブギウギ」でモデルになっているらしいが、個人的には相米慎二「雪の断章 -情熱-」で挿入歌になっていた「買い物ブギー」が強烈だった)
    賑わいと華やかの影にヤクザの世界。
    三船はチンピラからヤクザに成り上がった後の、はぶりのいい時期を経ているが、病、もと先輩の帰還などで、落ち目になっていく。
    この病の姿に、どうにも頽廃美の凄みを感じてしまうのだ……。
    中上健次が「千年の愉楽」以降かな、中本の一統モノを描く際に、女が腰から蕩けるような美丈夫を度々描いていたことを、思い出した。
    なんでも黒澤明はヤクザ嫌いなのに、三船があまりにもかっこよかったので、観客はヤクザへの讃美すら感じたんだとか。
    むしろヤクザだから一概に粗末に描かない、描写の鬼・演出の鬼の手腕が、逆効果を生んだということだろう。
    私もつい三船の、ゲッソリこけた頬(黒塗りなんだろうが)や髪の乱れに、ときめいてしまった。
    要は死に怯えるコドモだと可愛らしく感じてもしまった。
    飯屋の女を演じる千石規子が、後半、ねえふたりでイナカに帰ろうよと本気で誘うが、彼女と同じ気分だった。

    ちょっと熱くなってしまったが、音楽もよかった。
    ギターがすべて劇中曲なのだが、帰ってきた山本礼三郎が弾くあたりで、潮目が変わった印象。
    志村喬がマンドリンとギターの区別が判らないというのも、キャラクターの説明になっている。
    さらに終盤、落ち目の三船が町の人々に見放されるときに、カッコーワルツが流れている。
    なんでも都築政昭によれば、撮影中黒澤の父が亡くなり、街を歩いているときに聞こえた音楽を採り入れたんだとか。
    で、志村に恩義を感じた三船が、親分に見限られた絶望もあって、山本を襲うのだが、ここの泥臭さ!(ペンキ臭さ?)
    立ち回りというよりは、倒れたり引きずったり。
    白いペンキで両者グシャグシャになって。
    ここ、志村が滋養のために買う白い卵との対比。
    (もしかしたら、ドストエフスキー「罪と罰」のペンキのくだりからの影響なのかも)
    はためく洗濯ものからは、アンジェイ・ワイダ「灰とダイヤモンド」も思い出した。(肺とダイヤモンド)

    で、闇市の悪い水たまりをヤクザになぞらえる。
    チンピラ本人だけでなく悪い仲間や環境が悪影響を及ぼしているのだ、と。
    また苛立ちながらも人情を捨てられない医者志村のキャラクターも、いい。
    後に「赤ひげ」につながるのだろう。「赤ひげ」では、三船が医者役なので、作品を越えた師弟関係になっている。
    また医者の倫理からは、アルベール・カミュ「ペスト」も思い出した。
    最初と最後に現れる久我美子の美しさ……ここで語られる、理性とか、あんみつとか、なんてチャーミングなんだろう。

    既視感のある筋や設定だが、むしろ本作が後続作品に影響を与えているからなのではないか。
    人物対比や構図が単純だからこそ骨太で、見てよかった。

    あとは志村と三船がどうやってもBLにしか見えないのだが、今後も黒澤を見るとそんな感触がたびたびあるのではないかと予想される。

    黒澤明07

  • はじめのうちはセリフが聞きとりずらいのだけれど
    だんだんと志村喬と三船敏郎の演技――とくに表情に惹きこまれていっていた

    終戦から3年後という戦後の街の様子(闇市や焼け残った建物など)が描かれていることが興味深い

    そして
    これでもかと「対比の関係」が出てくるのがすごい

    黒(赤)と白 死と生 ……

    明と暗の対比があることで、未来への希望と今の悲しみがくっきりはっきり描かれていた

    ある沼も数年すれば新しく土地開発され、まったく面影がなり忘れられていくのだろうな……
    松永の死と重なり、とても切ない

  • これは名作!志村喬と三船敏郎の主演のコンビは見ている側を熱くさせる演技だったし、また、そういうキャラクターと演出だったと思う。ストーリーは普遍的でも、その分ストレートに伝わってくるものがあって、力強い個性とか希望みたいなものをすごく感じる作品だった。

  • リアルで優れた脚本。
    人の社会を理性と暴力をテーマに描いた作品。
    チンピラ松永と真田医師との関係の中で暴力が心の弱さであることを暗示されている。
    病気に向き合う美少女の純粋さと強さがよく対比されている。
    松永は根っからの悪人ではないが、結局ヤクザから抜けきれず悲惨な最期を遂げる。
    そしてラストでは岡田や組長などの本当の悪と暴力は残る。
    勧善懲悪の安易な結末にしなかったことで、この世の理不尽さまでリアルに表現できている。

    ギターの演出とラスト近くの格闘場面の白ペンキ演出が非常によかった。
    また岡田と松永の関係を表すイメージカットは当時としては斬新だったのではないか。

    人道派の真田医師に対して金持ちで成功した高須医師の存在を配置しているあたりも、脚本に深みを与えている。
    黒澤映画はやはり脚本がすばらしいと改めて感じた。

  • すごいなあ、おもしろいなあ。
    酔いどれ天使を酔いどれになりながら見た。
    治療に専念する美しい女学生や岡田登場の伏線となっているギターのくだりなど、脚本演出がすばらしい。
    まどろっこしい部分を綺麗に捌いて、一時間半で深みのあるドラマになっているというような印象。
    かっこいい。

  • 確かに面白い。

    録音技術が発達していなかったのが惜しい。

  • 三船敏郎の圧倒的な魅力、古き良きエンターテイメント。モノクロ映像でペンキまみれになって揉み合う殺しの場面は圧巻。また、台詞がいい。「ふぬけ!」と言ってみたくなるね・・・。最後に、人間を救うのは理性だというような台詞が重みをもっていたが、黒澤監督の考えがよく現れていると思う。そして同時に、本当にそうなのか?と・・・考えるきっかけになる。初期の作品は、観る者に考えさせる余裕がある。後期にはそれが無いように思えるが。(070523)

  • 三船敏郎さんの初黒澤作品。
    主役は志村喬さん(真田)なのですが、三船さん(松永)の存在感が大きすぎて、物語にぐいぐい引き込まれていきます。
    ギラギラと輝く眼がカッコいいです。
    日本映画界に歴史的スターが舞い降りた記念すべき作品といえるでしょう。

    「ねえ先生 理性さえしっかりしていれば
    結核なんか ちっとも怖くないわね」
    「うん 結核だけじゃないよ
    人間に一番必要な薬は 理性なんだよ」

  • Film Forumで開催される待望の「Shitamachi 下町」シリーズ、3週間で38本とホンキで集められた作品群の中から、トップバッターとして掲げられたのが本作。(正確には前週の金曜から一週間枠で上映された寅さん第一作目「男はつらいよ」(1969) がそれなのかもしれないけれどそれはさておき。)なぜか未鑑賞作品と残っていた本黒澤作品、どうやら「35mm上映の機会に巡り会えるまで待っておけ」ということだったらしく。

    そもそも本作が志村喬を主役に据えた最初の黒澤作品であったということが知らない事実であったし、そのタイトルこそが彼の演じる役どころであったという想像力さえ働いていなかった。終戦からまだ三年とすさんだ住環境がまだそこここにあった時代に発表された本作の脚本はその後の黒澤作品にも度々現れてくる社会派的要素が十分に滲み出ている。

    性悪女を好演する木暮実千代は鑑賞済みの出演作品のなかでも一番初期のものだったようでなるほど若さにあふれた役どころがはまっていた。しかしながら今回最も気になったの女優さんは飯田蝶子でも千石規子でも久我美子でもなく、志村喬演じる医者の助手を務める過去に陰のある美代という役を好演する中北千枝子という女優さん。名前をみてもピンとこなかったのにその出演作をながめると五本以上もあったのだから驚いた。まさに名脇役といういい意味での賛辞を贈りたい。手元にある寅さん第31作「男はつらいよ 旅と女と寅次郎」(1983) もしっかり観なおそう。

    山本礼三郎という役者さんも気になり、そうなるとやっぱり… 

    同じくラインナップに含められている「野良犬」(1948) も再鑑賞かね!

  • 非常に面白かった。貧富の差と社会の高低を上手に描いている。天使のような医師はアル中で、仁義を通す硬派なやくざは病に恐怖して弱く、病弱な女学生は最後まで学業を貫く。社会の触れ幅を丁寧に描いている。時間的まとまりも良い(98分)し、とても観易かった。

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著者プロフィール

(くろさわ あきら 1910−1998年)
日本を代表する映画監督。1943年『姿三四郎』で監督デビュー。生涯30本におよぶ名作を監督した。『七人の侍』(1954年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)など海外の映画祭での受賞が多く、映画監督として初めて文化勲章、国民栄誉賞を受賞し、1990年には米アカデミー名誉賞が贈られた。

「2012年 『黒澤明脚本集『七人の侍』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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