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- / ISBN・EAN: 4988102028831
感想・レビュー・書評
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ELEPHANT
2003年 アメリカ 81分
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:ジョン・ロビンソン/アレックス・フロスト/エリック・デューレン
ポートランドのある高校。ジョンは、酔っぱらった父親のせいで学校に遅刻し、校長に叱られる。写真が趣味のイーライは、校内のあちこちで同級生たちのポートレイトを撮影中。イケメンのネイサンは美人の恋人キャリーといちゃいちゃ。地味なミシェルはクラスの女子たちからバカにされている。おしゃべりし続ける仲良し三人組女子。アレックスとエリックは、ネットで銃を注文し、届くと早速試し撃ちをする。そして彼らは武装して学校へ乗り込み…。
1999年4月に起こったコロンバイン高校銃乱射事件をモチーフにしたフィクション作品。生徒役はすべてオーディションで選ばれた素人の高校生たち。カメラは群像劇風に、それぞれのなんてことない日常を淡々と追いかけ続ける。視点を変えて繰り返される同じ場面、分解された時系列。
この映画に影響を受けて作られたのちの『明日、君がいない』では、まず冒頭で自殺者が出て、過去を群像劇風に再現するなかで、この中で死ぬのは誰だろうと推理しながら観賞したけれど、こちらの映画では、乱射事件が起こることは映画を見る前から知っているので、いったいこの生徒たちの中の誰が犯人になるのだろう、と考えながら見た。
中盤すぎてすぐそれはあきらかになるが、怖いのは、彼らが特別なサイコパスではなく、一見普通の生徒にしか見えないところ。アレックスはピアノでベートーベンの「エリーゼのために」や「月光」を弾く。大人しい普通の男の子にしか見えない。ナチのドキュメンタリーを見ていたり、乱射が始まってから校長殺害前に「いじめの隠蔽」について言及する場面があることで、彼らの動機や、背景が少し匂わされる程度。
実際の事件のほうでは、犯人の二人の男子生徒は、いじめにあっていたらしい。それならばいじめた相手だけを狙って殺害すればよさそうなものだけど、なぜか無差別。彼らの怒りは、傍観した全員に向けられたのだろうか。映画はフィクションだが、偶然にもアレックスが真っ先に殺すことになるのは、いじめられていた女生徒ミシェルだ。この理不尽。
映画はことさら犯人の背景を掘り下げることはなく、被害者、生き残った生徒についても多くは語らない。ただ普通の日常が突然壊れる瞬間だけを、ベートーベンの月光をBGMに淡々と描き出す。
タイトルの「エレファント」は色んな意味が込められているようだが、そのひとつに「群盲象を評す」ということわざがあるらしい。細部と全体。明確な言葉で説明しづらいけれど、この映画から浮かび上がってくるものは確かにある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
米コロンバイン高校の銃撃事件を題材にして、ガス・ヴァン・サント監督がカンヌ国際映画祭でパルムドールと監督賞を受賞したセンセーショナルな一作。事件の当日、生と死の運命を分けることになる高校生たちの日常を追いかけながら、加害者2人が犯行に至るまでのドラマが進行していく。
とあるけど、どちらかというと被害者や生き残った生徒たちの日常を様々な視点が交錯しつつ描いていく。
カフェテリアのランチをダイエットのためにトイレで吐いたり噂話したりするスクールカースト上位の女生徒、カフェテリアや図書室で目立たないよう過ごしてる地味な女生徒、写真に夢中な男子生徒など、ありふれた日常をドキュメンタリータッチで描いているからこそ、クライマックスの虐殺シーンの恐怖やおぞましさが心に残るし、終始シャロウフォーカスでの長回しで撮影しているせいか息が詰まるような学校の閉塞感と薄暗い青空が印象的な青春映画。 -
ある高校で起きた銃乱射事件の全貌を、渦中にいた生徒たちと加害者の両視点から描く
見どころ
1999年に起きたコロンバイン高校銃乱射事件を題材にした作品。登場する生徒たちは実際の高校生で、せりふも即興。日常と惨劇の落差の見せ方が衝撃的で、目を奪われる。
ストーリー
オレゴン州ポートランドのある高校。ジョンは酒浸りの父親のせいで遅刻をした。イーライはカメラを片手に公園を散歩する。そのほか、学校に通う生徒たちは今日も平凡な日が過ぎると思っていた。だが銃を持った少年たちによって、高校は惨劇の舞台と化す。
ここがポイント!
2003年に開催された第56回カンヌ国際映画祭で、最高賞であるパルムドールと監督賞のダブル受賞を果たした。 -
何の予備知識もなく観た。
最初から感じてたこの緩やかなのに不穏な空気の漂いが、ジョンがひとりで涙を流すシーンでバッドエンドへの確信に変わった。これ最後死ぬんじゃないの?と。ふたりがライフルを手にした後は、あの乱射事件のことなのだと認識した。
カメラはひたすら前から、もしくは、ひたすら後ろを追うか、ばかり。ある人物に焦点を当てていても、外野もすべてスポットが当てられている。そういう見逃せないつくりになっていた。だって各人が主人公であったから。どこかで見たことある目をした子たちばかりが、そこにいた。その目を自分は知っていた。何しろその目をしていたのは、他でもないかつての自分なのである。計算しつくされて作られたことがわかった。
ジョンとイーライが出会う場面が視点を変えて3回ほど繰り返される。ここが基点となった。思春期の何でもない悩みが当時どれだけ針の立つような痛みだったのか、それを思い出す。一歩間違えば、こんなにも繊細で脆くてぼろぼろに、粉々に剥がれ落ちてしまうものだったんだと。
月光ソナタとエリーゼがこんなにはまってしまうなんて。これも即興と知ってびっくり。
観終わったら、時計が午前0時を告げた。
(20131127) -
全てが平等に中立に映されていくからこそ、これが特定の条件下で起こった「悲劇」ではなく、恐いほど「リアル」な出来事だと感じさせられた。
大きな事件が起きる前でも意味深な伏線や前後の関連性やBGMなんか何も無く、ただただ無慈悲に出来事は起こって、過ぎていくのが現実なんだろうな。
実在の話で先に結末を知っている分、
前半の意味のない会話や淡々とした日常がある種奇跡の様で、冗長な一つ一つのシーンがやたら輝かしく見えた。 -
淡々と、本当に淡々と進んで終っていく映画でした。
あらすじを読んで何が起こるのかをわかって観ていたのですが、まさかこんなにも淡々と始まって終るとは思わなかった。そこが大変生々しい。
ドキュメンタリーのようで、それでいて説明は一切ない。
どこにでもいる高校生たちの日常に起こる事件。異質なのに現実の延長上にあるという違和感。その中で見える登場人物の心情の描写。絶妙でした。
It's the elephant in your living room.
タイトルが奥深い。 -
前半は退屈しながら見てたが後半は自分も殺られるんじゃないかとドキドキした。
あの黒人の無駄死には一体なんだったのか。 -
実話を描き出すのは映画では本当に難しいような気がする。本質が足早に語られるだけで焦点はいつも違うところにあるような気がする。特にアメリカ作品はそういうのが多く感じる。「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」「小説家を見つけたら」「永遠の僕たち」のガス・ヴァン・サント監督の作品ということもあり期待大でした。
「エレファント」
https://www.youtube.com/watch?v=htlsOf3PnGY
何度見てもえぐい!これが実際に起きた話というのが本当に驚きです。高校生がためらいもなく同じ学校の生徒たちに銃口を向け、引き金を引く…13人を殺し、24人が負傷。校舎に入る際の2人の犯人の武装姿を観ていると驚くべきことなのですが、まるでランボーですよ!あれだけの装備を高校生が揃えられるということはアメリカの銃社会の恐ろしさだけがクローズアップされ、事件の発端となったいじめ問題の取り扱いがほんの少しで真相に近づいているとも思えない。
実際も可能性は示唆されているものの、動機は不明とされている -
DVD
すごく無駄が多いかんじがするのに、全く無駄がない。そこに生きていた人物たちの想い、ハイスクールの空気感がビンビン伝わってくる。 -
1999年、アメリカのコロンバイン高校で在校生2人が銃を乱射、
あわせて13名の生徒と先生が殺害された事件を題材とした作品。
ほとんどの生徒が抱えるリアリティの喪失したリアルは、
すれ違いこそすれ、交錯することは滅多にない。
たくさんの友達が集う学校でさえ、いたずらにやり過ごされる。
そんな無為は、10代が大人になっていくための、重要で静かな過程である。
ガス・ヴァン・サントは、そんな想いをひとりひとりの「歩く」シーンに込めた。
執拗とも思えるほど、徹底的に長尺で科白なしでただ歩く生徒たち。
大人への静かな成長と歩く行為をたぶらせつつ、
歩く生徒たちひとりひとりの表情をドキュメンタリー的に追うことで
無為の過程を描いている。
そして、同じく10代のこじれた無為の営みによって
他の無為の営みが強制的に寸断され、この上ない惨禍を生む。
ちょっと種類は異なるが、ソフィア・コッポラが「ヴァージン・スーサイズ」で描いた、
10代特有の彼岸と此岸の混在に、通底する哀しみがある。
大きく違うのは、そこに火器が介在するか否かだ。
きっと、被害者と加害者の違いは、恐らくミリ単位だ。
だからこそ、その哀しみは比類ない。やりきれない。