どんだけ少ない予算で作ったんだー、という作品。車は実際に運転してないし、ほとんどスタジオ撮影。クモはCG。
「何かがいる」らしい2階の部屋へ続く階段を昇る際、樹木の影がさざめく。何かが起こる予兆へのイメージカットとして、申し分ない。
ゆっくりと崩れ落ちながら「蟲になりたい…蟲になりたい…」という妻のつぶやきが、何とも良かった。
この作品の底流には、discomunicationが流れている。それは、ラストに顕著だ。左側を向く擬態化した夫と、擬態から生還した妻。彼らがいる場所は違うが、「画面上」では、向き合っている。しかし、彼らはただ黙っているだけで、そこに会話はない。妻の内に秘めた微笑みが、なんとも不気味で怖い。
【ストーリー】
自分に好意を寄せてくれる大学時代の後輩・羽奈子に、妻・留以子の様子がおかしいことを打ち明けた蓮司は、それが自分の妄想かどうか確かめて貰う為、彼女を伴って帰宅する。果たして、そこで羽奈子が見たものは何だったのか。
それは、猜疑心の強い蓮司に精神的に追い詰められ、自分を蟲だと思い込むことで、逃れようとした留以子の変わり果てた姿だった。羽奈子は、そんな留以子から蓮司を引き離そうとするが、その時、巨大な蜘蛛に擬態した留以子が彼女を殺害した。
さらに、蓮司にも牙を向けた。だが蓮司は、初めて感情を剥き出しにして来た「妻」の体を優しく抱擁するのであった。
それから数日後、すっかり正気を取り戻した留以子は、蟲になった蓮司の面倒をみている。