- Amazon.co.jp ・映画
- / ISBN・EAN: 4562102153962
感想・レビュー・書評
-
県立神奈川近代文学館で開催された第45回文芸映画を観る会 樋口一葉展記念「にごりえ」を観覧してきた。簡単に感想。一葉の原作をどのように映像化するのだろう?と、思っていたが3編とも、かなり原作に忠実で驚いた。台詞を別の人に振り分けたりしている程度(そうしないと十三夜などはずっとお関がしゃべりっぱなしになってしまう)。
ただ、最後のにごりえは尺を伸ばす必要があったのか、映像化にあたって、解釈が含まれているように感じた。
十三夜は、特に最後の、お関と録之助の道が一瞬交わり、離れていき、今後二度と交わることがないということが象徴的に、美しい絵で示されていてとても印象的だった。
大つごもりは、映画オリキャラなども含め、戯画的に描かれていたように思える。原作は、追い詰められていくお峯のサスペンスフルなものだったが、原作ではそこまで描かれていない若旦那の(芥川龍之介の息子が樋口一葉原作の映画に出演している!)哀しさと継母の性格の悪さが強調されていて、分かりやすい物語になっていたと思う。
メインのにごりえは、淡島千景の色っぽさと杉村春子の地に足着いた女房役の対比が素晴らしかった。現代ものでは「おはん」で大原麗子と吉永小百合に踏襲されているのか。3編の中で特にこの作品にだけ食事をするシーンが頻出する。原作にはないので製作者の意図なのだろう。想像だけれど、3編の中で(そして一葉作品の中でも珍しく)にごりえは、人が亡くなる物語でもある。食べるという生きるという営みを繰り返し見せることで、ラストの死が強調されているのかと感じた。作中に、下働きの、田舎言葉が抜けない下女が、お力に憧れて早くああなりたいと発言するシーンがある。これは、「たけくらべ」の美登里でもあると思った。一葉は、現代で言うところのセックスワーカーをよく描くが、しかしその眼差しは一歩引いていて、ある種の蔑みも含んでいるように思う。同時に、自らの身体そのもので生活を切り開いていく彼女たちに対する憧憬も感じるのだ。マイナス面がにごりえで描かれ(だからあんなに残酷なラストになったんだろう)プラス面がたけくらべなんじゃないだろうか。
さっきから原作原作とうるさくて申し訳ないが、一葉作品は(というか当時の文学がそういうものだったのか?)作品内で明かされている事実が本当に少ない。人物に語らせるのみで、読者はそこから類推するしかない。藪の中形式と言ってもいいかもしれない。そもそも3編ともごくごく短い。映画では、そのよさを最大限生かしつつ、映像美を加えていた。余計な解釈や改変がなかったのが本当によかった。
知っている俳優は山村總くらいで(音羽屋半右衛門!)役にぴったりだと思ったし、後で調べて、大つごもりの次女が岸田今日子と知って驚いた。蛇足だが、3姉妹なら獄門島ぽく3姉妹を描いてくれたら面白かったのにと思ったがそれはずっと後の話だ。
ついでに近代文学館の一葉の展示も見た。一葉の代表作は「たけくらべ」と言われることが多いけれども、私はにごりえの方が好きだし、今回映画を観て、3編とも、簡単に主題をまとめると「貧乏って辛い」だ。知られているように一葉は生涯貧困で苦労して、文壇に認められてこれからという時に結核にかかり24歳で亡くなったのだけれども、これらの小説のエピソード(にごりえのおつかいの話とか、大つごもりはそのままだし)がその実体験に基づいているものだとしたら、さて生活が安定したら一葉文学はどうなったであろうか?と思わずにいられなかった。貧困を抜け出す方法は種々あっただろうに、その中でも「小説を書く」という方法を採ったのは何故だろう?(本人の意向もあっただろうが、どうやら存命のご母堂が勤めに出ることなどを禁じたようだが…)
そして、一葉作品に登場する男どもはどいつもこいつもクズなんだが、現実、彼女の周りにはクズ男が多かったということもなるほどと思ったのでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この時代の香りがたまらない。