日経サイエンス 2016年 03 月号 [雑誌]

  • 日経サイエンス
3.33
  • (0)
  • (1)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 22
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・雑誌
  • / ISBN・EAN: 4910071150367

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 10代の若者は子どもや大人よりも危険な行動に走りやすい。理由の一つは、感情をつかさどる大脳辺縁系と衝動的行動を抑制する前頭前皮質の成熟のミスマッチ。ホルモンの影響を受ける大脳辺縁系は思春期の開始(10-12歳)とともに急激に発達し、数年で成熟する。前頭前皮質はその10年後に成熟する。つまりその間、脳では不均衡な状態が続く。

    青年期は生涯で最も健康的な時期だ。免疫系の機能やがんに対する抵抗力、厚さや寒さへの耐性などは人生で最も高い。身体的に丈夫であるにもかかわらず、10代の若者が死亡したりする確率は児童よりも2-3倍高い。死因の第一位は交通事故(半数以上)、以下、殺人、自殺と続く。望まない妊娠や性感染症、犯罪の発生率も高く、それらはその後の人生に大きく影響する。

    10代のユニークな脳への理解を深めることによって、異常と思える行動でもそれが年齢相応のものなのか、病気の兆候なのかを区別できるようになる。

    脳の可塑性は10代の若者が自由や責任といった問題について親と建設的に話合うことで、彼らの脳の発達に良い影響を及ぼすことができることを示唆している。

    彼らは自身のアイデンティティを作り上げる素晴らしいチャンスを手にしている。データにあふれ親たちの時代である現代とは大きく異なる未来に向けて自らの選択に従って自らの脳を最適化していけるのだ。

  • 10代の脳の最大の特徴は、脳領域間のネットワークを変更することによって環境に応じて変化できること。この可塑性によって思考と社会面の両面で大きく成長できる一方、危険な行動に走ったり深刻な精神障害を発症しやすい。最新の研究では、こうした危険な行動は感情を司る大脳辺縁系のネットワークと健全な判断と衝動の抑制を司る前頭前皮質のネットワークの成熟時期のずれに起因し、前者は思春期に急激に成長する。

    脳の発達はまず過剰接続でいろんな領域の接続を行ったうえで頻度の低い不必要なものを刈り込んでいく。認知的に成熟すると、ささやかで短期的な報酬よりもより大きくて長期的な報酬を選択するようになる。

    未来に必要とされるスキルは、膨大なデータを批判的に評価し、ノイズに埋もれたシグナルを取り出して内容を整理し、それに基づいて現実世界の問題を解決する能力。

    最近読んだAIの衝撃という本が、AIが脳科学研究に基づいて発展してきたことに依ると知ったので興味深く読んだ。暴走しやすい10代は脳によるものだと理解することは親や介入者の心の助けにはなるよね。あと、自然界的には若く健康な10代のうちに好奇心をもって世界を回ることで種としての多様性を獲得することになるんだろうな。デジタル時代にうちの子にどんな教育ができるだろうか・・・。

  • 特集は「子どもの脳と心」。
    赤ちゃんが潜在的に大きな言語能力を持つことがわかってきているが、言語を身につける上では、社会的交流を伴う必要があるようだ。生身の話者から言葉を掛けられた場合と、ビデオを見せられた場合では、聞き取り能力の発展に格段の違いが生じるという。
    10代、思春期の子は、時として、「不機嫌製造器」と陰口を言いたくなるような不機嫌さを示す。その一方で、異常に「ハイ」になることもある。エネルギッシュで無鉄砲なことをするかと思えば、妙に落ち込んでしまうこともある。それにはその「内部事情」がある。
    10代の脳は子どもの脳とも大人の脳とも異なる、過渡期の脳だ。脳領域間のネットワークを形成するこの時期は、「可塑性」を持つ時期でもある。年齢とともに領域観の接続は増加し、やがて強化されていく。どの領域間にどのような接続を作っていけばよいのか、この先の人生のためにはどういった対処を選ぶのか。この時期の脳は、トライアンドエラーを繰り返し、徐々に方向性を決めていく。大きな可能性を秘めるが、また一方で、脆弱性をさらけ出す、そんな時期でもある。思春期特有の脳の発達が徐々に明らかになりつつあり、こうした研究は、どこまでが見守っていても大丈夫な行動で、どこからが危険で手助けを必要とする状況なのか、見極めの手助けをすることができるかもしれない。
    子どもの伸びやかな吸収能力は、「可塑性」から来ている。特に学習が集中的に進む時期は「臨界期」と呼ばれ、ぐんぐんと物事を学んでいくことができる。成人期になった人でも、時折、幼少期の可塑性が見られることがあるという。こうした時期をうまく使えば、高い集中力で学ぶことができるだろうし、こうした時期を模倣することができれば、神経疾患などの治療に役立てることも可能かもしれない。ただ、もちろん、こうした模倣には危険も伴う。可塑性があるということはまた脆弱性を持つことでもあるからだ。最悪の場合、自己意識そのものが損なわれかねない。
    詰まるところ、独り立ちしようと思えば、どこかで「大人」になる方が合理的だ、ということか。

    古生物学から「恐竜を滅ぼした小惑星衝突 プラスアルファ」。
    大型恐竜の絶滅は小惑星の衝突によるところが大きいというのが、現在主流の見方だ。この記事では、その大枠には同意しつつ、そこに至るまでに、緩やかに滅びの序章が始まっていたとしている。出土する化石を詳しく見ていくと、どうやら小惑星衝突より前に、種の多様性が失われつつあったようなのだ。特に草食恐竜が減りつつあり、食物連鎖が脆弱になっていたと考えられる。そもそも肉食獣の食べ物が減っていたところに大災害が起き、絶滅に至ったというのだ。
    だが、そのおかげで哺乳類の繁栄の基盤が築かれたともいえる。歴史にifは禁物だが、小惑星が衝突したとしても、草食恐竜が十分にいたら、今頃、人類は生まれていなかった、のかもしれない。

    医学から「病原体ナノセンサー」。
    感染症の蔓延を食い止めるには、まずは早期の診断が重要である。だが、現在の診断法の多くは一般にある程度の時間を有する。試料に含まれる病原体のDNAがごく微量であるためだ。著者らのグループは、複数の病原体を、わずかな試料から迅速に検出できるセンサーの開発に取り組んでいる。シリコン基板に半球状の微小構造を取り付け、そこに別々の病原体をつり上げる複数の「釣り針」をくっつけることで、効率よく判定できる見込みが立ってきている。さらなる改善がなされれば、医療現場で実用化される日も遠くなさそうだ。

    パイを切り分けすぎると1つの切れは小さくなる。それを地でいくのが、天文学の記事「米国の望遠鏡ウォーズ」。
    現在、天文学者グループは大きく3つに分けられる。カーネギー研究所、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学システムのそれぞれに属するグループだ。
    発端は、富豪のカーネギーとロックフェラーの反目に始まる。ライバルだった2人は競って巨大望遠鏡を作り、それぞれの傘下の研究者たちを支援した。確執は長く続き、両陣営の争いは、紆余曲折を経て、三極巨大勢力の台頭を生む。
    現在計画されている大型望遠鏡は直径40mもの大きさに達している。しかし、ライバル陣営が手を組み、資金を集中させて、作られる望遠鏡の数を減らせば、もっと大きな高性能の望遠鏡が疾うに出来ていたはずだという。
    競争心は時に、発展も生むが、足を引っ張り合う形になるのは不幸なことだ。

全3件中 1 - 3件を表示
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×