凩の時 (1985年)

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感想・レビュー・書評

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  • 読み応えあるある!明治期の軍部を舞台に、脱営騒動や「冬の時代」に向かい社会主義者たちに吹きすさぶ凩の様子を描写しています。軍部ならびに当時の国家のあり方に抵抗しようとして、想像以上の権力の強さに弾圧される社会主義たち。小説と史伝の間を行く作品で、真面目な文体に好感が持てます。小題がそれぞれ舞台となる地名であり、背景描写から人物の動きへと移動する視点が、読み手も実際に歩いているようで(その物語に入り込めるようで)面白い。
    頻出する軍人は宇都宮、猪熊、義一などなど。もともと策太郎が少し出るというので気になって読んだ本なのですが、のちに彼を慕うようになる白柳と、社会主義者・福田狂二2人の運命に、個人的には注目して読んでました。

  • リクエストがあったので読んでみた.それでなくとも,いかにも私が好みそうなテーマで,10年ほど前に読んだ気がしていたのだがそれは梗概だけだったようなので,今回は改めて最後まで通読.

    あとがきには「この一冊を歴史小説として読むか,歴史叙述の手法から逸脱した社会史の叙述として読むか,読者の自由にまかせたい」とあるが,自由裁量を与えられたところで勝手なことを言わせてもらえば,実のところこれは歴史小説でも社会史書でもない.本作は小説的手法を援用して書かれた社会地理学なのだ.つまり主眼になっているのは空間座標であって時間軸ではない.そのことは章毎の表題が全て地名で表されていることや,各章の時間軸が相互に関連はあるものの個別に進行して行くことで明らかである.

    このような構成から当然のことだが,本作を読んで行くには,各章の物理座標,例えば赤坂新坂町と麻布龍土町がどういう位置関係にあるか,などをかなり精確に把握しておく必要があり,(幸い私はその界隈は土地勘があるからまだいいが) そういう視点を欠いて読めば求心性不足の散漫なノンフィクション・ノベルとしか見えないのではないだろうか.作者の経歴は知らないが,極めて空間把握能力の高い人のように見受けられた.

    ここからは私の妄想なのだが,この作品で描かれるような内容は,小説体でなく,ハイパーテクストのようなフォーマットで書く方が向いていると思う.ズーム可能なマップや,テキストの中にテキストを埋め込む手法や,3Dウォークスルー,ポップアップテキストなどの手法が使えたら小説体より遥かに面白いものになっただろう.…が,そういうメディアやデバイスは現在でも技術的に成熟してないから無理だよなぁ.

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