官僚王国論 (1982年) (角川文庫)

  • 1982年11月20日発売
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  • 権力の司祭者たちー高級官僚。中央官庁の中枢にあり、その力の源泉に精通するエリートたち。が、それゆえに、その限界をも知らなければならない苦悩も、そこしれない。
    近代国家であるがための、分散された権力体系のなかで、形骸化した機能と、組織の自己増殖による肥大化、既得権益保全の困難などは、彼らのジレンマをますます深みにさそう。
    中央官庁の機構と人間に鋭いメスを入れ異色のノンフィクション・ドラマ。行政改革が顕在化する今日、本書はその重みをます。(親本は1975年刊、1982年文庫化)
    ・はしがき
    ・公卿の館・経済企画庁
    ・仮面ライダー・自治省
    ・古風な二頭立馬車・建設省
    ・孤独な憂国者・農林省
    ・右向けぇ左ッ・厚生省
    ・旗本退屈男・運輸省
    ・革命なき発展途上国・文部省
    ・悩める金さん・警視庁
    ・永遠の未熟児・防衛庁
    ・試されるスター官庁・通産省
    ・中小企業・外務省
    ・論理の番人・大蔵省

    親本が40年も前ということで、相当に古いが、なかなか面白く、今読んでも得られる事が多い。
    昨今の官僚を扱った本であれば、批判が先立つが、本書には、著者のあたたかい視点を感じる。とはいえ、提灯持ちではない。ルポルタージュに徹しているということであろうか。
    以下、いくつか印象に残ったお話
    p13経済企画庁は色男であったという説(金も力もない)を紹介しているが、内部に積極肯定論があったとは知らなかった。企画庁のキャリアには「経済計画をつくってみたい」という、最初から権力行政の埒外に立つことを望む気質があったという。
    p43自治省の地方出向の話。地方の実情べったりの官僚よりは、県と喧嘩ばかりしていたが、役人のなんたる
    かを残していった官僚の方が地方の評価が高いという。
    p80建設省の話。住宅公団が用地の購入をめぐって政治家の利権とされたことや、公団発足時に「一戸建てでないと愛国心は育たない」という批判があったとは隔世の感を感じる。
    p102農林省の話。農地解放の経過や国際分業論など。「日本列島改造論」の頃の土地の高騰は、農地の流動化を阻害したという。(インフレにより、農地を持っていれば土地の価値があがる一方、農地を購入して、農作物を作る利益よりも、預金利子の方が高かった)
    混米が米屋の儲けという話も面白い。(ブレンドすること)
    p138厚生省の年金の話。本書によると、国民年金は最初から将来パンクする制度であったという。65歳支給だったのが60歳支給まで引き下げられたというが、再び引き上げられつつあるのは皮肉なことである。この頃から中福祉中負担と言われていたとは。
    p156運輸省。国鉄民営化と成田空港の話は時代を感じさせる。新幹線の大衆の欲望を満足させるよりは、うしろ刺激させるという話は面白い。
    p173現実から乖離するカリキュラム。教師は、聖職者か労働者か。文部省内の聖職者派の「やがて親たちの無限に肥大化するエゴイズムから教師を守ってやれなくなる」と言う話は考えさせられる。
    p291外務省、人手不足の弊害の話。イギリスやフランスの外務省員は日本のは十倍とのこと。人数が少ないから日常業務に忙殺されるとの事。また、機密費も不足しているという。(外務省を批判する声はあるが、果たして人員と機密費の不足に言及する声はあっただろうか)
    p313大蔵省主計局の話。農林省担当の主査は、仔豚の原価計算をピタリと出すという。(それぐらい出来ないと、農林統計調査部を擁する農林省と精密な議論ができないという)主計局のつくる歳出プログラムは、最終的に各省庁の要求の総額とほとんど変わらないというのは驚きであった。

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