吉里吉里人 (1981年)

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感想・レビュー・書評

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  • タイトルは日本語で「きりきりじん」、吉里吉里語で「ちりちりづん」と読ませる。
    吉里吉里村という東北のひとつの村が、突如、国家として独立することを宣言する。偶然その場に居合わせた、ひとりの三文小説家を主人公として、僅か数日間の、しかし目まぐるしい吉里吉里国独立騒動を描く小説。

    形式としてはSFだけれど、政治的、言語的、文学的、経済的、宗教的な話題が次から次に現れ、国際法の講釈や吉里吉里語(いわゆる東北弁)の手引書、医学用語の列挙、作中作としてのエッセイ・童話・詩、さらには心霊的な描写等々、多種多様な要素が入り混じる壮大な構成。その上で物語として起伏が豊かで、最終章まで驚きが用意されているから、大部な本ながら読みやすい。ところどころで現れるメタ的な表現も、実験的で面白く感じる。

    独立宣言、暗躍する大国、スパイ、銃撃戦、またその中での恋愛と、エピソードや主題はシリアスなのに、登場人物の多くが吉里吉里語でそれらを語った途端、すべてが喜劇になる。
    母語である吉里吉里語への愛を語る場面はとても感動的なのに、改まった場面を離れると、吉里吉里語に滑稽味を感じてしまうのは、筆者の仕掛けはもちろんのことながら、読み手が抱く固定観念によって、バイアスをかけてしまっていることをふと考えさせられもする。

  • カバー絵も楽しいなあ。安野光雅さんが細かいところまでよく読んでいたことが分かります。「行ったか来たか号」の姿が描かれているところも嬉しい。吉里吉里全土の詳細地図を見たかった。

  • 奇想天外、抱腹絶倒とはこういう作品を言うのだろう。東北の村が日本から独立する話だが、財政的な裏付まで用意してあり、唸らせる。ただふざけただけの小説ではなく、妙にリアリティを感じさせる秀作だ。

  • 2段組み834ページと確かに長いけど、たいした問題ではありません。ただし、物語はしばしば枝葉に入り込むので、そういう部分も楽しむ覚悟は必要です。
     
    東北の一寒村が独立宣言。売れない作家が巻き込まれ、どたばたしつつ報告してゆく型式。独立資金に関する謎解きもあります。

    公用語が東北の言葉で、村民(吉里吉里国民と呼ぶべきだ)の言葉にはふりがなが付けられる。音で響いてくる気がして、これが楽しい。騒動の初めの方に十数頁に亘る国語授業(練習問題付き)もあるから、不自由はしません。
    たとえば発端近くの、さほどはナマっていない言葉。
    「んだす。領水も含めた領域の上空さ対する、国の絶対主権は、一九一九年のパリ国際航空条約でちゃんと確認されでることなのす。あんだ方は、一九四四年のシカゴ国際民間航空条約の第一条ば知ってるべか」のルビにまず笑いました。絶対が「ぜってえ」、確認が「かぐぬん」、シカゴは当然「スカゴ」です。

    理論武装する彼らの聡明に比べ、報告する作家の馬鹿さ加減がなんともはやですが、どうせならもう少し大きなどたばたがあってもよかった気がします。何が起ころうと「一寒村の独立」以上のどたばたはないかも知れませんが。

  • 星雲賞と日本SF大賞をW受賞している作品なので、いつか読もうと思って数十年。本の厚さと文字の小ささにおののきながら、最初の1文を読むと300文字前後あった。これは作者の読者に対する宣戦布告ではないかと思ったら、見事その予感はあたり、苦行のような読書体験であった。長いのは覚悟のうえだったが、会話文の多くが方言で読みにくく、笑えないエピソードや下ネタのオンパレードに、脱線に次ぐ脱線と読者の忍耐力を試すような作者の意図がありありと感じられた。双頭の犬が登場したあたりから少しSFチックなムードが感じられ、後半は前半の伏線が回収されるなどやや読みやすくはなったが、作者自身が文中で言っている通り、よっぽどの物好きでないと読み進めることはないと思う。一番ネックになるのが数多く登場する吉里吉里人のキャラクターが基本的には同じで途中で飽きてしまうということだ。外見は様々なのだがその行動様式や性格は似たようなものなので、後半はまた同じようなのが出てきたなで終わってしまう。防衛、金融、医療などに関して日本の問題点を登場人物に語らせているのも、議論になっていないので上滑りしている感じが強い。小説も生ものと考えると発表から数十年後に読んで文句を言うのもフェアじゃない気がするが、文学作品に時事評論のようなものが混じると作品の価値が下がってしまうような気がする。とは言うものの途中やめしなかったのは結末がどうなるのか気になったからだ。結局吉里吉里国は滅亡してしまうので、作者が吉里吉里人に語らせていた様々な主張を支持しているのかも判断がつかない。読み終わって感じるのはたった二日間の物語をこれだけの文章量に引き伸ばした作者の執念とそれに負けずに読み切った自分の忍耐力に対する称賛の想いであった。

  • この本は井上思想の集大成なのではないでしょうか。
    井上靖の主張自体については賛美両論あります。しかしこの本は読んでいてとても面白いです。

    ぜひ手にとっていただき、国家とは、国防とは、など物語が進んでいく中で考えさせられるテーマをその都度考えてみてください。

  • この小説は、同市の作品の内有名な作品です。

  • つまらなくはない。そして設定は色々考えられていてすごいと思う。
    けど、最後まで読むのは大変だった。厚さ的な問題じゃなく、内容の問題で。

  • 読売文学賞(純文学)と日本SF大賞(SF)を受賞したというとんでもない作品である。何と上下二段組み834頁の大作として1981年に出版された。
    岩手県と宮城県の県境付近にある寒村が日本国にいやけがさして独立するというけったいな話を技術立国というアピールで世界に認めさせようといういきさつを東北弁を駆使して描いている。あんまり長すぎて、一気に読まないと全体の話がわからなくなる。(経験者は語る)

  • 終盤が慌ただしく暴力的だったのには驚かされたが、小国と大国の関係性を象徴していたように感じた。
    主人公に据えられた男の間抜けさが、かえってこの真剣なはずの内容に合っていた。書き手にあたる記録係のわたしの正体も最後の最後で暴露され驚く。
    30年以上も前に、未来を見越したような内容。最初は、出だしの一段落(つまりは一文)が気になって借りたが、引き込まれる自分がいた。
    さすが井上ひさし氏。

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