- Amazon.co.jp ・本
感想・レビュー・書評
-
横溝正史の『八つ墓村』のモチーフにもなった津山事件。1938(昭和13)年5月に岡山県津山市(事件当時は苫田郡西加茂村)で起きた三十人殺しを描いた小説です。
両親を早くに病で亡くし、祖母に育てられた犬丸継男(犯人の実名は都井睦雄)は、幼少期は天才と噂されるほど成績優秀でありながら、経済的余裕がなかったことから進学を断念。当時は不治の病とされた肺結核を患い、村中が自分を嘲笑っていると思い込みます。慣習として夜這いが残るこの地域で、女に相手にされぬことも恨みの種。鬱屈した思いを抱えながら日々を過ごし、近親相姦すら珍しくないこの村を殲滅することを計画。終盤の殺害シーンは残忍至極。この村の存在すら恐ろしくなるほどです。
最近読んだ水上勉の『金閣炎上』と比べると、ノンフィクションだと言いつつも、著者の想像による部分が多いと思わずにはいられません。『金閣炎上』では事実を淡々と記し、著者が犯人の精神状態を慮っていたことが明白ですが、この『丑三つの村』は犯行に至る犬丸の心の内が綴られすぎて、死んでしまった犯人の見たこと聞いたことや気持ちがここまでわかるはずはないと思ってしまうのです。それを考慮しつつ、津山事件を基にしたフィクションとして読むのがよさそうな。
正月早々、何が嬉しゅうてこんなに暗い本を読まねばならんのか(笑)。そう思いつつも一気読みでした。ちなみに、古尾谷雅人主演の映画版はR−18指定でした。全編非道で残虐的だからという理由での成人指定だったのですが、ジャケットはまるでピンク映画。そっちの路線で売ろうとしたのかと、ちょっと笑ってしまいます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
横溝正史人気の影響か、80年代初めに、「この子の七つのお祝いに」「湯殿山麓呪い村」等、題名を見ただけでわくわくする怪奇ミステリーが映画化されましたが、なんとなくこうした映画の原作を読んでみたくなって手にとった本です。実際に起こった事件「津山三十人殺し」を小説化したものであり、著者の創作ではありません。因みに、著者の西村望は、「犬笛」「君よ、憤怒の河を渡れ」等で有名な作家、西村寿行の実の兄です。
「津山三十人殺し」は、1938年、一人の若い男が、猟銃、日本刀等で、2時間足らずで約30人を殺害した事件で、横溝正史はこの事件をモチーフに「八つ墓村」を書きました。
犬丸継男は幼くして父母を亡くし、姉が嫁いだあとは、祖母のはんと二人暮らしです。彼が暮らす日暮谷は「夜這い」のような古い因習が残る、閉鎖的な村落です。継男は頭がよく、教師を目指したこともあったのですが、体が弱く、農作業に出ないため、多少の負い目を感じていました。その後、徴兵検査で肺結核と診断され、不合格となってからは、彼はふさぎこんでいきます。ある日、村の娘、和子に夜這いを試みた継男は、間違えて母親常代の布団に入ってしまいます。彼は仕方なく、はじめから常代のところに来たように装うのですが、常代から悪口雑言を浴びせられます。
「へのけにされとるとも知らずに、ようまぁ、夜這いじゃなどと一人前のことをいうてきたもんじゃ」
「いうといてやるけど夜這いは一人前の男のすることじゃ。お前みたいな病気たれが這い込んできたところで、誰が相手になるものか。お前みたいな病気たれはそこらの石垣の穴にでも突っ込んどけ」
「へのけ」とは「村八分」「除け者」という意味です。彼は妄想を膨らませながら、自分を「へのけ」にする村を破滅させる決心をし、死ぬべき人、殺す順番を日々考え、準備に取りかかり、そして決行します。事が済んだ後、彼は目についた民家へ立ち寄って、紙と鉛筆を借り、既に文言を考えていた遺書を書き、最後は計画通り、自らに向かって引き金を引きます。
凄まじい本でしたが、実際の事件が凄まじいのですから、私はむしろ、事実を調べて誠実に書いているという印象を持ちました。人間はこのように壊れていくのだと思いながら読みました(こう書いていると、最近相模原で起こった事件どうしても想起してしまいます)。万人向けの本ではないかもしれませんが、読んで損はないと思います。映画も評判がいいようなので、いずれ見たいと思っています。最後に、映画化されたときのキャッチフレーズ、犯人犬丸継男の印象的なセリフを書いておきます。
「皆様方よ、今に見ておれで御座いますよ」