ドストエフスキー全集〈2〉白夜/ネートチカ・ネズワーノワ他 (1979年)

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  • 初中期の短編中編、以下の作品をおさめている。

    『弱い心』『正直な泥棒』『クリスマス・ツリーと結婚式』『小英雄』『ネートチカ・ネズワーノワ』そして、
    『他人の妻とベッドの下の夫』『白夜』を収録。

    『他人の妻…』『白夜』は、他の文庫版で既読。

    ****
    『ネートチカ・ネズワーノワ』が惜しい。とても惜しい。
    主人公はネートチカという少女である。この小説、当初は長編として書き始められたそうだ。だとすれば、ドストエフスキーには珍しい少女が主役の長編となったはず。だが、冒頭の3部だけで執筆が中断したそうだ。突然筆をおかれた未完の感じが強い。おしい。
    途中まで、読み応えがあっただけに、なんともおしい。

    そして、物語の入口と出口が違う感じが興味深い。
    『幼年時代』とされる第1部は、主に、ネートチカの義父で破滅的なヴァイオリニストの男の生きざまが描かれる。これがまた、ぐいぐい読ませる。『月と6ペンス』もそんな感じだったと思うが、破滅的な芸術家のお話は、なぜかくも面白いのだろう。

    そして、第2部に相当し『新生活』とも称されるパート。ここでは、みなしごとなったネートチカが富裕な貴族に保護されてから暮らし。ネートチカと貴族の娘カーチャとの甘ずっぱい関係も描かれる。この部分を「百合小説」と称する人もいるようだ。導入となった1部からすると、ずいぶん異なる方向に展開した感じがして驚かされる。だが、そういう一種の破綻もまたいとおかし。

    第3部ではさらに舞台が変わる。こんどはネートチカは、カーチャの姉の家で養われることに。このパートでは、カーチャの姉夫妻のなぞめいた夫婦関係がモヤモヤっと描かれる。哀しみや苦悩の表情などのディテールは詳細ていねいなのだが、その悲劇らしいことの核心はよくわからないまま物語が続く。どのくらいモヤモヤ感かというと『ねじの回転』のモヤモヤ感くらい、モヤモヤした感じなのであった。

    ・『小英雄』は短編。邦題が『初恋』と意訳されたものもあるという。郊外の裕福な貴族の別荘地に、バカンスを過ごすらしい貴族階級の人々が大勢滞在している。この邸にやってきた11歳の少年が主人公。彼は美しいM夫人(人妻)に心を奪われる。夫人はときおり憂愁の表情を見せるのだが、それは夫と別の男性との不倫関係のためだった。少年は、M夫人と青年の別離の場面に出合わせる。言わば、淡い恋慕の末に失恋してしまうのであった。

    ところで、少年はそのM夫人とは別の夫人から連日かまわれる。豊満で妖艶な美女である大人の女性なのだが、すぐに頬を紅く染めるうぶな少年を面白がり、いろいろ悪戯を仕掛けてからかうのだ。少年は、思慕の対象は別の夫人ということもあり、自分にかまって来る夫人をうとましく感じている。
    読んでいて、この少年をうらやましく感じた。思春期に妖艶な大人の女性からかまわれるとはなんとも至福の経験ではあるまいか。しかも別荘地の美しい夏のひととき、である。そういう淡いスイートな味わいの短編である。

  • 「弱い心」…この小説を、読みたくてこの本を借りた。マイナーな作品らしいが、楽しめた。男同士で、友人の結婚を祝いながら墜ちていく。愛情をひしひしと感じるが、どちらかというと友情についてがもっとも大きい話だと思う。
    「正直な泥棒」…正直な泥棒というタイトルは何なんだろう。正直と言うのは、このようにやむを得なく頼っていって堕落していくような人なのだろうか。そういうところには大きな疑問が残る。なんだか非常に寂しい話ではあった。
    「クリスマス・ツリーと結婚式」…クリスマスや結婚式と言う物、が結びついているが。なんだか叙情的だと言う作品だと言うだけでどんな話だったのかよく分からない。
    「他人の妻とベッドの下の夫」…非常に面白い話だった。ベッドの下に潜って男同士で話をして、いったいどうなるのだろうかと思ったが、なんだかコミカルなお話で終わってしまうのは、面白かったけどちょっと残念。
    「小英雄」…小英雄というタイトルは、主人公が幼いと言うだけであって、よくわからんタイトルではあった。しかし年上の女性が頻繁に関わってくるのはいかにもという感じだった。
    「白夜」…前読んだから読み飛ばした。
    「ネートチカ・ネズワーノワ」…ネートチカと言う主人公の話がどんどん進んで行くが、一生が描かれるのかと思うと、そうではなく図書館にある手紙の件でいろいろともめるという結末で終わってしまう。何故か最後には、父のギターやネートチカ自身の歌の話はあまり関わってきていないのが寂しかった。

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