萩尾望都作品集〈5〉3月ウサギが集団で (1977年) (プチコミックス)

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感想・レビュー・書評

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  • 作品集は約40年ぶりの再読。多分この本を一番何度も何度も読んだと思う。日本舞台が多いし、明るいボーイミーツガール作品が多いというのもあるかもしれないが、読んで飽きなかった。大泉の下宿で、たくさんの漫画家の卵が入れ替わり立ち替わり出入りしていた頃の作品で、女子の姦しさ、若手漫画家が夫々に影響し合い時々現れる異質なマンガの線、ハッとする表現、台詞回しを歌に変えればまるでミュージカル‥‥、その当時でも、とても10年前の作品とは思えなかった。最近の少女マンガをざっと眺めてみて、テンポだけを注目しても、もはやこんなマンガは皆無に近い。

    (1)「ごめんあそばせ」(72年1月作成、週刊少女コミック3月12号、50p)
    (2)「毛糸玉にじゃれないで」(71年12月作成、週刊72年1月2号、24p)
    (3)「3月ウサギが集団で」(72年1月作成、週刊72年4月16号、40p)
    (4)「もうひとつの恋」(71年8月作成、週刊71年9月39号、40p)
    (5)「妖精の子もり」(72年3月作成、別冊72年5月号、15p)
    (6)「10月の少女たち」(71年8月作成、COM71年10月、23p)
    (7)「みつくにの娘」(71年11月作成、別冊72年1月15p)
    ※週刊、別冊ともに小学館少女コミックの事。

    作成、掲載順とも全て順不同ではあるが、コレはコメディから始めてしっとり終わらせる、編集上の都合以外の意図は無いだろう。

    大泉下宿時代は、70年11月から始まり、72年12月に終わったので、ちょうどその真ん中の時期に描かれたことになる。

    (1)は、「小鬼みたいな女の子エマを中心にした、キーロックスというグループサウンズのお話」だが、キーロックスは高校3年時に福岡で参加していた漫画同人誌の名称だし、同じ内容の作品が68年「別冊マーガレット」金賞を獲っている。しかし編集部にイチャモンつけられて掲載をやめた。これは、そのリライトで間違いない。隅の「落書き」に、「ここはあしべつ北国の町のササヤナナエターンのおうちで、しこしこおしごとしてんの‥‥ナナエタン、カゼヒイタッテ‥‥」又はローマ字で「野も山も木々も屋根も全てが白い。芦別の一月‥‥あゝ‥‥ここはサンタクロースの国です。今こそ見つけました」と書いているのを発見した(←昔は作品中に作者の呟きを残すことが流行っていた)。71年1月、萩尾は北海道のささやななえ宅を訪れている。そこでこの作品の仕上げをしたということだ。3年前の原稿そのままではなく、描き直しをしたのだ。そういえば、スクリーントーンは少しは貼ってるが、異常に手描きの背景が多い。トーンをあまり持っていってなかったのだ。それがこの作品の味と密度にもなっている。ささやななえはその2ヶ月後、大泉の萩尾宅を訪れ半年間居候をする。

    (2)この頃、萩尾望都は拾ってきた猫を飼い始めた。その経験をそのまま描いている。しかも一コマだけ、キャベツ畑が続く、当時の大泉の「風景」が描かれている。中学受験生の心情を、かなりリアルに描いた。

    (3)可愛いのんの(鈴木乃々)の恋愛をクラス全体で盛り上げる、美月中学(三月中学)の生徒(3月ウサギ)の話。7人ぐらいちゃんとキャラ立ちしている。コメディ部分と、陽を翳したり悩みが流れてゆく詩情描写のバランスが良い。「半分は事実をもとにつくっている。ざまぁみろ」という「落書き」もある。自転車の教室持ち込みや、ラブレター放送事件などは、ホントにあったのかな?

    (4)男女の双子もの。またもや一種の「取り替え」が起こる。

    (5)こちらは、義兄妹になる前の「ボーイミーツガール」。全てのコマがチカチカ輝いている。この頃描いた「ポーの一族」の先駆け短編「マリーベルの銀の髪」を彷彿させるコマが凡ゆる処にある。

    (6)「妖精」とこの作品を、私は何度読み込んだことだろう。印象的なコマのオンパレード。SFやファンタジー作品以外ならば、1番好きかもしれない。「トゥラ」と「真知子」と「フラィシー」の10代から20代初めの女性目線の3話オムニバス(←たった23pの中に!)。手塚治虫「COM」の女性マンガ特集号に載った。「女の子って‥‥おとななのか子どもなのか、てんでわかんないや」というロビーの呟きは、全ての男の子の悩みだと思う。

    (7)ラストの娘の姿は、男にとっては「永遠」なのかもしれないが、女性にとってもそうなのだろうか。

    いろんな所に、今読んでいる本が落書きされたりセリフで使われたりしている。曰く「10月はたそがれの国(ブラッドベリ)」「犬になりたくなかった犬(ファーレイ・モウワット)」「ウは宇宙船のウ(ブラッドベリ)」またはアシモフ‥‥。萩尾望都の読書傾向がよく分かる。それらに混じって71年12月、「キは吸血鬼のキ」と書いている。「ポーの一族」のアイデア帳がどんどん溜まっていった時期なのだろう。

  • 3月ウサギが集団で・ごめんあそばせ・毛糸玉にじゃれないで・もうひとつの恋・妖精の子もり・10月の少女たち・みつくにの娘・ラブ ポエム

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