性的人間 (1968年) (新潮文庫)

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  • 引き続き大江作品を読む。
    〈性的なもの〉を小説に採用する事を決めた後の作品ということで、収録作品も登場人物の性の扱いが物語のキーになっている。
    けれど、それは性への耽溺ではなく、それを通して各人の切実な実存のあり方を掘り下げるものとして、作者が意図し練り上げており、その構成の巧みさに感嘆し、ページを繰る手が止まらない。
    当時の社会の空気感としてある閉塞感と疎外感が性と密接に絡み合っている。
    性的な営みが、人間にその性質上の「解放」を期待させるが誰一人にも本質的な救いをもたらさない。
    それを通じて予感している希望の具体象が誰の胸に明もらかではないのだ。
    一つ一つの作品で特定の個人の性と実存の関係が見えてくるのだが、それら全体を通して、個人を超えた人間の本質と性の繋がりを考えたくなる一冊だった。

    そしてこの小説を通して現代を見るとどうなるだろうか?
    LGBTへの兆しを予見している様な箇所もある。閉塞感や疎外感はどう変化しただろうか?
    あらためて大江健三郎の先見性と普遍的な思考の輝きに魅了される。

  • キヨシローと、長尾靖の悲報が同じ日に流れた今日。17才だった私を思い出した。
    長尾靖の写真に触発された話をしたら、古文の先生がこの本を教えてくれた。
    ほとばしる若さのベクトルをどこに向けたら良いかわからない、乱暴な17才像が描かれている。
    山口二矢はそんな単純な奴じゃなかったと思った。大江健三郎を嫌いだ、と思った。

    18才になって、ひょんなきっかけで食事を同席したキヨシローは、とても優しい人だった。
    緊張してガチガチの私を、赤ちゃんだったお子さんを抱いて見送ってくれた。
    エラい人は、決してエバらない。そう解った。
    大江は、勲章クビから下げてるけどエラくなくて、キヨシローは、本人そのものが勲章。そう思った。
    「性的人間にはなりたくない、そう思いながら生きてきて、セブンティーンから何年も離れてしまったよ。」
    そう、あの頃の私に伝えたくなった1日でした。

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