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感想・レビュー・書評
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著者のエッセイを集めて編んだ本なので、波長の合う合わないで随分、印象が違う。30年以上前に既に、こういうムーブメントがあったことを知ることは、新しい文学を志向する者には大切なことだと思う。さらに道は険しいものに。でもたからこそ楽しいともいえる。
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こちらでも何作品かを紹介しているフランスの作家,ロブ=グリエ。彼の評論集があるということで,早速Amazonで古書を探してみると,なんと9000円。そんな貴重な本なんだ,と一応「ほしい物リスト」に入れておくと,後日1000円台のものが出ていて思わず購入。
かなり奇怪な小説作品を書くロブ=グリエがどんな文学理論を展開するのか。そういえば,大江健三郎の『小説の方法』はバフチンなどに言及するかなり本格的なものだったように記憶している。本書には以下のような評論文8編と,短編6編が収録されている。
新しい小説のために(評論集)
1 理論はなんの役に立つか
2 未来の小説への道
3 時代遅れの若干の概念について
4 自然・ヒューマニズム・悲劇
5 現代的アントロジーのための断章
6 新しい小説・新しい人間
7 今日の小説における時間と描写
8 写実主義から現実へ
スナップ・ショット(習作的短編)
1 3つの反射的映像
2 帰り道
3 舞台
4 浜辺
5 地下鉄の通路で
6 秘密の部屋
書かれたのがほとんど1950年代と古いために,書かれていることに新奇さを感じえない。むしろ,ロブ=グリエもけっこう普通の考えをするのだ,ということを知ることができる。しかし,それは彼が理論家としてよりも小説を制作するという意味での実践家であるということを意味するのだと思う。そもそも,この評論自体が自己擁護のために書かれたようなものであり,理論構築を目的とはしていない。タイトルからすると,何かテーマらしいものがあるような気もするが,読み終わってみると明確な印象は残っていない。となみに,「現代的アントロジーのための断章」では,彼が評価する作家4人のために文章が割かれている。その4人とは,レーモン・ルーセル,ゼーノ・コシーニ,ジョー・ブスケ,サミュエル・ベケット。
訳者がいうにも,この「スナップ・ショット(フランス語元タイトルはinstantanes)」は,彼の作品制作実践の習作ともいえるものかもしれない。いずれの短編も,何気ない日常風景を詳細に描写しているだけなのだが,もちろん同じ事実でも人によって,場合によっては同じ人物によっても描き方は多様である。その描写は私が読んでもさほど突飛な感じはしないが,訳者の解説を読むと,なるほどと納得してしまう。要は,ロブ=グリエたち「ヌーヴォー・ロマン」の作家たちが必要にこだわるのが,その何気ない事実の描き方の細部ということになるらしい。ということで,この短編こそがその特徴を十二分につかみとることができるもので,ロブ=グリエの作品に初めて触れる人にはもってこいだと訳者はいう。
ということで,全面的に訳者の解釈に依存してこの読書を終える。 -
陣野俊史が選ぶ 小説のことを考え始めるための10冊:文藝(2009冬)より