TOKUMA Anime Collection『天使のたまご』 [DVD]

監督 : 押井守 
出演 : 根津甚八  兵藤まこ 
  • 徳間書店
3.98
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4907953018921

感想・レビュー・書評

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  • Eテレでやってる新しい銀英伝の感想を先輩と話していて、私の結論は「あれ観たら昔の奥田万つ里版の方を観たくなる」。
    →銀英伝の奥田万つ里キャラや、FSSの永野護の絵は「気持ち悪い」と拒否反応を示す人が、当時は一定数いたよねという話
    →FSSの劇場版は結城信輝を起用して、少女漫画的美麗さできちんと一般の観客を意識してた。永野護本人も「原作漫画とアニメは別」でそちらの方がいい、と。
    元々FSSは「絶対アニメで動かせないメカデザインをしてやる」というサンライズに対する怒りが原点で、ずーっと後になって『ゴティックメード』を作るのだけど、永野護はブレてない
    →田中芳樹の話に戻って、『アルスラーン戦記』を天野喜孝の絵でアニメ化して動かすのは無理だし、一般層ウケしないよね(結果的にシティハンターの神村さん)
    →天野喜孝の絵をアニメで動かす、それをやろうとしたのが『天使のたまご』だ!

    という雑談から『天使のたまご』をようやく観ました。私が押井守をリアルタイムで追ってたのは1988年〜95年までなので、85年のこの作品は観てなかったです。(長らく廃盤になってたせいもあると思う)

    大学生の頃、美術の先生が『天使のたまご』の話をしてきたので「さすが美術の先生だからアニメのこともちゃんと知ってるんだなあ」と感心してたら、どうも話が食い違う。先生が話してたのはこれじゃなくて村山由佳の『天使の卵』の方だったので可笑しかったことを思い出す。


    さて観た感想。
    押井監督はアニメ界にいてはいけないような人間だったのではないかと。だって、一番影響を受けてる監督はゴダールなんだもの!そして逆に、アニメ界にいてくれたおかげで、日本のアニメはすごく深くなったし、海外でもブランドとして通用するようになったと思う。

    なんたってこれは完全なアート映画だ。
    よく言われる映画の、娯楽性と芸術性。エンタメとアートに二分して考えるなら、完全にアート。天野喜孝の絵やイメージボードを紙芝居にしたような感じ。
    アニメーションは動画なのだから本来動いてナンボ。だから大塚康生さんのアクションや、ロボットものの戦闘シーン、アクションはエンタメ。
    実写のアート映画だと長回しでセリフをしゃべるだけ…というのも多いけど、これをアニメーションでやると「ほとんど動かないもの」になる。
    それは作画作業上は都合が良くて、この作品だとSF戦車が出てくるけど、作画が難しい履帯(キャタピラ)の動きなんかは影になってて塗りつぶされている笑。大胆な省略はやはりヌーヴェルヴァーグ的。
    ものすごく動くのは、髪の毛がなびくシーンなんか。名倉靖博さんが頑張ったらしい。
    という「ほとんど動かないのに、部分的に超絶こだわった作画」で、この作品に参加した庵野秀明はあまりの仕事量の多さに2週間で逃げ出したんだとか…。


    お話は先にも書いたようにイメージボード(絵本)的なので、ストーリーはほとんど語られない、難解な話。
    よくある「難解な映画」というのは、作者が観客に説明しない、説明ゼリフがない、語らないから難解になるというだけのこと。
    この作品では「ノアの方舟」の話がセリフで語られているので、一応そこでわかるようにはなっている。

    もうひとつは単純に、ボーイミーツガールもの。ゴダールが言うところの「男と女と車さえあれば映画はできる」と同じことで、当時のアニメだと「美少女、巨大ロボ、パワードスーツ」のどれか、三題噺じゃないけどいずれかそういう要素があればいい。
    だから幼女と青年の話で、処女喪失する話。幼女とセックスは直接的には描けないから象徴として描いている。

    その要素が卵で、そのまま卵子。殻は処女膜。監督曰く、「中に何が入っているかが重要」で、これは全くそのとおり。
    中に何が入っているか…これを書くとネタバレになるから書かないけど、少女が大切に持ってる卵と、『紅い眼鏡』の主人公・都々目紅一が大事に抱えてるトランクって、全く同じだと思う。
    もっと言うとこの卵とプロテクトギア、そしてのちの『攻殻機動隊』…ゴーストインザシェルのシェル、外殻だけど、全部共通している。たぶん『ビューティフルドリーマー』もそうで、押井作品のテーマはずっと「虚構」。
    世界的なオタク、押井ファンとして有名なギレルモデルトロが言うには「アンタの映画はアニメも実写も大好きなんだ。どこがいいかって言うとアニメをやっても実写もやってもメンタリティが変わらないところがいい」ということで正しくて、ずっと同じテーマを繰り返し繰り返しやっている。押井監督本人がまるで『ビューティフルドリーマー』のように。

    私がよくわからなかったのは、「太陽」とされているもの、そっちが方舟なんじゃね?と。ラストシーンで映るものが方舟なんだろうけど、作画上そう見えなかった笑。
    方舟といえばのちの帆場暎一だけど、庵野監督『シンゴジラ』の牧博士(岡本喜八)ってモロに帆場だよねえって公開時に思った。
    それと方舟ネタといえばやっぱりエヴァで、それより10年も前にやってるのが『天使のたまご』。庵野秀明は押井作品をも取り込んでるのではと感じる。

    『天使のたまご』はわけのわからない難解な作品として、押井守がしばらく干される原因となった。お母さんにも心配されたらしい。『ビューティフルドリーマー』で調子に乗ってスタジオぴえろから独立したあとがこれ!
    確かに、当時まだOVAが高かった時代で(だいぶ安くなったのはやはり押井監督のパトレイバーの頃から)『天使のたまご』の定価も1万2800円と、ものすごく高い。なのにエンタメ作品ではなく、動かないという…これはコケるだろうなと。でも70分ほどの中編作品なので、私は飽きずに観ることができました。

    押井監督って、ちゃんとエンタメ作品を作ろうと思えば作れる人なんです。伊藤和典さんらと組んで、他の人の分量が増えると、エンタメとアートのバランスが取れてすごく良い作品になるんだけど、押井監督全開だと「世間に全くウケようとしない」ものばっかり作る。
    私は1995年で押井作品を追いかけるのをやめちゃったけど、押井ファンの友達なんかはもう、半分ネタとして言ってる部分があります。
    個人的にはもう一度、面白い作品を作って欲しいと思うけど……。

    でも、80年代のアニメはやっぱり面白かったなあと思います。84年頃がひとつのピークで、その後はバブル期ということもあってOVAの時代になったけど、わりと自由にやれた土壌があったから押井守や庵野秀明が出てきた。その後の世代って、やっぱりそこまで面白い人って出てきてないんじゃないかなと思う。


    声優について。
    二人芝居で、少女の方は押井作品のミューズこと兵藤まこさん。『仮面ライダーアギト』に怪人の声で出てたけど、あれはブッちゃんデザインだからか?

    青年の方は根津甚八さん。のちの柘植ですな。最近全然見ないなーと思ってたら亡くなられてたのを知らなかった……。『さらば愛しき大地』を観たいなと思ってたからショックです。


    キャラデザの話に戻る。
    名倉靖博さんといえば、私が子供の頃好きだったのは『とんがり帽子のメモル』。そしてのちの『楽しいムーミン一家』。あと「ポニョの企画を被せるんなら先にスジ通してよ」事件。
    スナフキンやミイの三白眼と、『天使のたまご』のキャラはけっこう似てる気がする。
    『とんがり帽子のメモル』以外に子供の頃好きだったのは『スプーンおばさん』で、こちらはぴえろ製作、南家こうじさん。うる星や『御先祖様万々歳!』……。

    昔は名作劇場もあったし、子供向けの良質なアニメが多かったなあ。まだ子供が多かった時代だけど。今は全然見当たらない気がする。NHKは『スプーンおばさん』の再放送をまたやればいいのに。映像研効果で『未来少年コナン』の再放送は嬉しいけど。

    他の作画スタッフに、奥田万つ里と貞本義行。そして、名倉さんはのちに『ゴティックメード』に作画監督として参加……と、話が最初に戻ってループしてくる。これも『ビューティフルドリーマー』状態。

  • この作品の意図はなんだろうか。青年と少女は互いに「あなたは誰?」と問いかけ合う。まるで自分という存在にさえ気付いていない子供が、初めて会う他者に抱く好奇心と猜疑心みたいだな。青年は、”たまご”からなにか生まれるとさえ思えない。だけどそれを見守ることもできずに、自分から砕いてしまう。少女はそして”たまご”を抱えて石になる(生き物が石になるほどの年月という表現には恐れ入った)。青年は一人取り残されて、なにもない寂しい風景で一人たたずんでいる。魚は、おもしろかった。ああいう感性に気持ちが良い。
    つまるとろこ、僕にはよおわからん作品だったと思う。なぜだか、この作品に言葉を添えるのは、イケナイ事のような気がしてしまう。

  • youtubeでしか見られなかっただけに、BDは至福。
    私の人生を大きく歪めてくださった大切な作品。
    石畳の少女の足音とか。

    追記20110214mixiにて
    もともとは徳間書店から出ていた本を、安く買って持っていた。
    天野氏の美麗なイラストつきで、
    さらに神秘主義や聖書にかぶれていた私にとっては
    押井氏の文章は琴線をびんびん鳴らす本だった。
    しかし情報貧乏人の私はアニメにまでなかなか手を伸ばせずにいたのである。

    タルコフスキー的世界かと思いきや、結構動く。
    少女も少年も世界も。
    水の処理のすばらしさ。
    髪のなびき。
    あわないようであっている声。
    機械じかけの太陽の凄まじさ。
    ホラーじたての(ゲイリー芦屋みたいな)音楽。
    どれもが一級品だった。

  • 映像作品です。
    セリフはほとんどありません。
    いきなり理解しようとせず、受け止めてみてください。
    理解は何度も見ているうちに、わいてくるかもしれません。

  • 人にはなかなか勧められない作品。ゆったりとしていて、雰囲気に浸る映画。世間受けせず、人を選ぶアニメ映画だろう。だからこそ、賛否両論ある。私はその賛成のほうです。
    キャラクターの台詞が少なめで、間の取り方が本当に絶妙。少女の絵がすごく繊細で綺麗。背景も退廃的で美しい。天野さんの真骨頂じゃないかと私は思っている。話は斬新で正直訳が分からない。暗鬱というよりは、ただひたすら重たい感じ。解説を読んで「ああ、あの行動にはそういう意味があったのね」と理解することができた。押井ワールドにただただ圧倒されました。全てに意味を求めること自体ナンセンスだし、これは何も考えずに感じながら見るのが一番良い。映像美はすごいの一言に尽きる。

  • CSで観たのですが「えっ終わりなん!?」ってなったのを覚えてます
    もう一度観てみたいです

  •  奇才・押井守監督の妄想を爆発させた芸術的作品。
     キャラクターデザインは天野喜孝氏。
     基督教の寓話、魚・鳥・犬などの「シンボル」としての動物の登場、廃墟に近い街の描写、などといった、押井作品の要素が「ぐっ」と凝縮されている。
     ストーリーらしきものはあるが説明しにくく、説明や登場人物の会話もほとんどないため、世界の背景は鑑賞者の主観に委ねられる。
     確実に視聴者を選ぶ作品。ストーリー性を気にせずファンタジーとしての映像美だけを求めるのであれば、最も優れた作品。

  • ぜんぜんわからないのに観ちゃう。

  • 高校の頃近所の古本屋でビデオを購入し観たのは初め。それは友人の誕生日にあげてしまいましたが、ニコニコ動画で数年ぶりに観ました。なかなか面白い体験でした。「歴史は遡及的に現前する」という事を身をもって体験した次第です。当時はなんかよくわからないけど、理屈抜きになんか惹かれるものがあるな。という感じでした。五感に染み渡る感じ。これを今DVDで観たら、多分、色々頭で色々考えたりしながらワクワクしていたんだろうなあと思います。
    さて、ニコニコではコメント付きで観れた訳ですが、これが本当に面白かった。様々な解釈から、「面白いかわからないけど、好き」といった肯定的な意見や、「オナニー映画だ」等といった批判も含めて楽しめました。中でも面白かったコメントは、「もう、物語とかどうでもいいから幼女だけをみていたい」といった意味のコメント。成る程、今ならではの見方だなあと感じました。鋭い解釈も興味深かったです。こういった新しい経験をこれからもしてみたいなあ。

  • [編集] 短編ならば・・・ あと、少女と少年がセックスしなかったことに納得いかないのは私だけ?あくまで隠喩?少女というより、幼女だから?日本には源氏物語があるじゃないか・・・少女は形骸化した思想だとして、少年は何だろう
    性的なもののメタファーに鏡の中の鏡以来興味を持っていた私ですがこれを見たら気持ちが萎えました。なんでだ  

  • 只でさえ科白が無くて動きも少ないのに深夜に観賞。
    当時自分が良く寝落ちしなかったもんだと…。

    結局青年は何がしたかったのか、少女の持っていた卵が何だったのか解らなかった私理解力に乏しいんだろう。
    最初青年を恐れていた少女が、思わず青年に縋る所が好き。

  • 設定の近いものはあるけど、分かりやすいし直感的でいいんじゃないでしょうか。下の引用通り、だから駄目だというものでもない。手抜きらしい部分もある。

    Wikiから引用
    押井はこの作品を作ったことにより、「訳の解からない物を作る監督」というレッテルを貼られ。

  • 意味がさっぱり解らなくて大好き。

  • 押井守が仕事干されちゃう原因になっちゃった作品。
    数年に一度の押井守フェアでも存在感が薄い。しかし、一連の押井守作品の中で耽美的な映像の美しさは群を抜いている。
    ちなみに、この作品の後にトワイライトQで現実と非現実の境界線を全面に押し出すようになる、成功してたら今の作風は変わっていたかもしれない。
    個人的には大好き。

  • これも以前ケーブルテレビで見た作品。
    私の大好きな兵藤まこさん主演作品ですが、ほとんど喋りません。
    BGMもそんなに流れないし、全体的にとても静かで暗く不思議な世界観の作品です。
    キャラデザをFFでお馴染みの天野喜孝さんがやっていて、キャラクターに生気…というか
    活気がなく、淡々とストーリーが進んでいきます。
    この空気感が癖になります。
    何度見ても飽きない、色々な見方の出来る不思議なカオスな作品。

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著者プロフィール

映画監督、作家。1951年、東京都大田区生まれ。
竜の子プロダクション、スタジオぴえろを経てフリーに。主な監督作品に『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84)『天使のたまご』(85)『機動警察パトレイバー the Movie』(89)『機動警察パトレイバー2 the Movie』(93)『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)。『イノセンス』(04)がカンヌ国際映画祭、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)がヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品。実写映画も多数監督し、著書多数。2016年、ウィンザー・マッケイ賞を受賞。

「2024年 『鈴木敏夫×押井守 対談集 されどわれらが日々』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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