ディートリッヒは、ドイツの化粧を洗い落とし、アメリカの化粧に変わった。そして、タキシード姿でキャバレーで歌う。舞台袖から登場したところ、「これしかない!」という動きで、ディートリッヒがくゆらせる紫煙が四方へ広がっていく。そのヨリのカットがすごい。
そのシルクハットをあみだに被って歌う粋なことといったらない。舞台を降り、客のテーブルの端に行って、女の髪の毛を持って接吻する粋なしぐさも良い。ディートリッヒが舞台から客席のクーパーに投げキスを送ると、クーパーも帽子をひょいっとあげて応える。かっこいい。ラスト、砂漠に素足は熱すぎるなどと、無粋なことも思ってはいけない。
【ストーリー】
モロッコ駐屯の独国外国人部隊の一兵卒にトム・ブラウン(ゲーリー・クーパー)という米国人がいた。彼は人を人とも思わぬ不適なプレーボーイで、女なんかは一時の慰み物くらいにしか心得ず、飽きれば弊覆のごとくに捨てて省みないという風だった。
彼の最近の情人、外国人舞台の一士官の妻君が、そろそろ鼻について来た矢先、彼はエイミー・ジョリー(マレーネ・ディートリッヒ)という妖艶なキャバレーの歌姫に恋に落ちた。エイミーは、富豪の優男ラ・ベシュールをはじめ、自分に言い寄る許多の男達の騒ぐのを尻目にかけて、人々の注意をひくために、ことさらトムに特別の好意を示し、密かに彼女のアパートでトムを逢い引きした。
トムは、彼女が海千山千のしたたか者で、男なんかへをも思っていないことを知り、彼女に異常の興味を覚え、じりじりと彼女の魅力にひきつけられた。だが、彼女の虜となることをおそれ、すげなく彼女の許を去って街に出た所、そこには例の士官の妻が彼を待ち受けていた。エイミーも彼の後を追って街にやって来たところ、彼が他の女と逢っているのを見て嫉妬を感じ、これを邪魔しようとした。そのため、士官の妻が立腹し、野次馬や乞食共を買収してエイミーに襲いかからせた。彼女を庇おうとしたトムは、街を騒がせたかどで軍隊に捕らえられ、懲罰の意味で危険な使命に服することを申し渡された。
任務に赴く日トムは、別れを告げるために彼女のもとを訪れたが、ラ・ベシェールが彼女に求婚しているのを立ち聞きした。ラ・ベシェールとの結婚が彼女を安楽と幸福に導くべきことを悟り、口紅で鏡に書いた彼女へのメッセージを残し、こっそりその場を立ち去った。やがてトムは、無事に危険な使命を果たしたが、今更エイミーに会うことを欲せず、そのまま砂漠の中にある淋しい分遺所に留まる決心をした。
一方、エイミーは彼が負傷したと聞き、ラ・ベシェールにせがんでとうとうその分遺所に連れて来てもらった。やがて、彼が部隊と共に砂漠に向かって行軍を起こした時、部隊の後に付き従っていくボロをまとい髪ふり乱した女軍の一隊があった。兵士達の赴くところどこまでも行こうとする彼等の妻や愛人達の一隊である。エイミーは、結婚を振り捨て、トムを追って裸足で砂漠に踏み出す。
ドイツに赴いて「嘆きの天使」を作ったジョセフ・フォン・スタンバーグが、滞欧1ヵ年の後、再び帰米して監督した。ベノ・ヴィグニー原作の舞台劇「エーミー・ジョリイ」より「女の一生」「非常線(1928)」「紐育の波止場」のジュールス・ファースマンが改作脚色し「煩悩」「彼の捕えし女」のリー・ガームスが撮影。主なる出演者は「嘆きの天使」のマルレーネ・デートリッヒ、「掠奪者」「テキサス無宿」のゲイリー・クーパー「虎御前」「コンサート」のアドルフ・マンジュウ、「快走王」「危険なる楽園」のフランシス・マクドナルド「鉄仮面」「グリーン家の惨劇」のウルリッヒ・ハウプト、ジュリエット・コンプトン、アルバート・コンティ、イヴ・サザーン等で、パ社は本誌の田村幸彦氏をニューヨークに招きその翻訳になる邦文字幕を最初の試みとしてこの映画に挿入している。