走る車の前に、文字が現れて、その文字に引き寄せられるように、運転してしまうシーンが、斬新すぐる。
ラスト、いままで殺した亡霊がカードを引かせる場面や、5人のマブゼがオーバーラップして現出するのとか、最高。
マブゼの狂乱ぶりも見事だし、催眠するときの顔ったらない。
結論。どうでもいい映画をみるぐらいなら、これを10回見た方がいい。
【ストーリー・解説】
人間の生命と人間の運命を弄び人生の賭博を行う変装自在のマブゼ博士は、数多の手下を使ってどんな場所でも犯罪をしかけていた。贋造紙幣を造り、あるいは株式市場を騒がせるなど種々の事件が、彼の手によって起こされた。
金満家の息子ハルを、彼は配下の己を恋する踊り子カラに命じて誘惑させる。しかるに、この時、署長ドゥ・ウィットがハルの保護に現れて、何者とも知れぬ此の巨盗を捕らえんとした。
強敵と見てマブゼは是を除かんとし先ずハルを殺す。しかしカラはこの時捕らえられる。カラより己の名の洩れん事を恐れ、マブゼはカラを獄中で自殺せしめる。
一方、マブゼは博士としてトルスト伯爵夫人に近づく。伯爵夫人は退屈な世間に倦きドゥ・ウィットに力を添えて巨魁を探ね始めた。マブゼは催眠術にて伯爵の心を狂わせ伯爵夫人を誘惑し、己の家に監禁する。
また、伯爵には、医師らしく種々の診察をして遂に発狂させ、伯爵は狂死してしまう。警察の圧迫の巖しくなる為マブゼは最後の方法として催眠術師として公衆の前に表れドゥ・ウィットを術に陥れる。
併し、此の計画間一髪にして破れ、マブゼの棲家は包囲せられるに至った。軍隊の来り会するに至り、マブゼ方の力尽き、マブゼは一人下水道より紙幣贋造の隠家に逃れたが、遂に天命尽きてさしもの彼も精神錯乱して、堆き紙幣の山に囲まれる肥肉一塊、唯紙幣を一枚々々と数うるばかり、かつてはマブゼとして一世を驚倒せしめた巨漢の末路、心乱れて力無き眼は紙幣をそれからそれへと辿るのみであった。
1922年におけるドイツ映画の最大傑作として名声をほしいままにした表現派的色彩が装飾等に所々表れる映画である。
しかし、決して表現派映画ではない。「ベルリン絵入新聞」に掲載せられたノルベルト・ジャック氏の小説をテア・フォン・ハルボウが脚色し、名監督として定評あるフリッツ・ラング氏が監督大成したものである。
主役はルドルフ・クライン・ロッゲ氏。「カラマーゾフ兄弟」「世界に鳴る女」「沙漠の掟」主演のベルンハルト・ゲツケ氏と「白痴(1921)」主演のアルフレッド・アベル氏、その他「復讐の血」「巌頭の懺悔」のアウド・エゲデ・ニッセン嬢、「アルゴール」「夜半の晩餐」のハンス・アダルベルト・シュレットウ氏も出演する。
撮影は「朝から夜中まで」のカール・ホフマン氏。深刻、凄惨、波乱、催眠術、活劇、色々な事件が織り込まれた探偵劇ともいおうか。