それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]

監督 : 周防正行 
出演 : 加瀬亮  瀬戸朝香  山本耕史  もたいまさこ  役所広司 
  • 東宝
3.75
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感想 : 373
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988104043627

感想・レビュー・書評

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  • 日本の裁判とはどういうものか。
    裁判までの経過とはどうなっているのか。
    留置所での日常とは一体どんなものか。
    弁護士、検事、裁判官など法をつかさどる者達の裏事情とはなにか?

    被告人、被害者のどちらかを強く肯定した描き方ではなく、あくまでもカメラは第三者的な立ち位置で物語を映し出す。

    この作品を観るほとんどの人は、裁判に関しては素人ということを前提に、あらゆる専門的な見解をとても自然に噛み砕いて劇中で説明してくれるので、抵抗なく観ていられる。

    登場する人物たちも裁判というものに当たり前に四苦八苦し、戸惑いを見せてくれるので、今まで一切日本の裁判になど興味がなかった人でも十分に移入できる。

    コミカルな要素も盛り込まれた作品ではあるものの、やはりシリアスな面が強調された真面目な作品であるという印象。
    日本の裁判のあり方にザックリと切り込んで、受け手に対しさりげなく問題を投げかけるスタンスは見事。

    こちらとしては主人公が冤罪であることを前提に観ているから、それを取り巻く全ての事象に怒りや苛立ちを感じ、主人公に同情してしまいがちだけれど…。

    でも実際なら、「こいつ絶対ウソついてる」、「被害者が可哀そう」、「有罪で当たり前」という一方的な独断と偏見で被告人をみてしまうと思う。

    たとえ、そこに「なにもやってない」という事実が存在したとしても、それを証明し明らかにするのは、あくまでも法廷の場でしかない。

    ある意味、これは恐ろしい映画かもしれない。
    無実と無罪の違い、正と悪の定義や常識が乱され不明瞭になる。

    「一番大事なのは、自らが自分自身を信じること」なんてよく言うけれど、どんなに自分の身の潔白を訴え、自分の無実を強く信じていても、法のしがらみに巻き込まれたら最後・・・・そこから脱出できない限りは、それは一転して悪となり有罪となる。

    訴えても、信じても・・・その正義や真実が通用するとは限らない現実。
    理不尽さとずさんさを感じずにはいられない、日本の裁判のあり方。

    かといって、どうしたらいいんだろう?
    人間は、きっと人間にしか裁けない。
    人情で裁くことは決して有効的ではないし、並びたてられた証拠や証言も時に非常に不確かなものになる。
    まして、裁判官の保身や出世のために人一人の人生を安易に判決されるのはたまったもんじゃない。

    2009年から施行された裁判員制度。
    誰もが、「人を裁く立場」になるかもしれない状況の中で、この作品は観ておいた方がいいかもしれない

  • 日本映画専門Chで視聴。
    周防監督、相変わらず細部に凝って作り込んでる。
     加瀬亮の逮捕から裁判に至る過程での感情変化と、判決を受けてからの表情、モノローグが素晴らしい。

     そして法曹界。今でこそ日本でも裁判員制度が導入されて、「裁判官に向かって陳述する」という定型的な形は少しずつ変わってきているが、司法試験合格者のヒエラルキーとして、裁判官>検事>弁護士というピラミッドは確実にあると某友人から聞いたことがある。「市民派弁護士」という言葉はあれど「市民派裁判官、市民派検事」ってないね。
     小日向文世の冷徹な裁判官は秀逸。刑事や検事が作り上げた「調書という物語」には、必然的に権力が加えられているのだ。そういう意味で示談を勧めた接見弁護人の田中哲司の苦悩が、とてもよかった。
    「内部にいるものしか知り得ない情報」をいかに市民に伝えるか、しかも突然降って湧いた当事者たる市民に対して。これは相当なジレンマだろう。医療界も似たようなものだ。病気の専門家としての医師の立場の物言いと患者のニーズは、どうしてもズレる。

     もう1つ。ほとんどが示談になる痴漢事件に対しては弁護士も裁判を戦う経験に乏しい。「弁護士の中の専門性」。これも平時には弁護士なんて必要としない庶民にとっては見えにくいものだ。医師もそう。健康な時には必要でない医師も、相当な専門性の中に生きており、「弁護士に任せれば間違いない、医師に任せれば間違いない」ということでは全くないのだ。

  • 「実際に起きたこと」というのは、まぎれもなくひとつしかないのだけれど、それは常に明らかで、それはいつも「正しい道」であり、それが必ず「事実」と見なされ、人はその道しか選択できないのだと思っていた。人はいいひととわるいひとが分けられるように思っていた。でも、これも誰もが知っているように、必ずしもそうなるわけではない。

    医師としての仕事を始めてから、そのことを全身で感じるようになって、だからこそものすごく悩んでいる。患者さんのことをまっすぐに考える精神を持っているつもりでありながら、自分の力の限界に臆病になって、突き進めないことがある。病気を治す方法は一つしかないのかと思っていたけれど、本当に目指すべきゴールというのは、患者さんそれぞれに違っていて、そもそもゴールがはっきり汲み取れることばかりではないし、必ずしもその方法は一つでなく、そこには「選択する」という行為が生まれる。小児科で働く私は、親御さん自身の気持ちや訴えることのできないこどもたち自身の気持ちも考えなくてはいけない。そういういろんなことを考えて、結局動けなくなってしまうことだってある。職場の人間関係のなかでも、普段は信用している先生でも、この先生はどうしてこの部分はこういう考え方なんだろう、と賛成しきれない部分について複雑な思いになることがある。正しいことがひとつではないこともあるし、正しい・・・というか理想とされることがあっても、必ずしもそれを選択できる訳ではない。私たちは立場は違えど、いつもそういう場面にいるのだと思う。
     
     
    この主人公が本当にやったかどうかは分からないけれど、仮に本当にやっていないのだとしたら、実際に起きたことをただ言えばいいというものではなく、証明しなくてはいけないということがとても皮肉なことだと思った。そして本当の犯人は全くこの映画に出てきていないかもしれないという悔しさがある。弁護士だって守らなくちゃ行けないということだけは決まっていて、でも最初は「本当にこの人がやっていないのか」という疑いの目から始まらなくてはいけない。本当にこの人が真っ当な顔をして嘘をついているのであれば、だまされていることになる。人を信じるということの本質を考えざるを得ない立場だ。心理合戦だ。そして法律もただ答えがのっているわけではなくて、それをどう解釈するか、ということが、これまでの判例を通じて決まって行くものだという。それをどううまく解釈するか、ということは法律家として、時にへりくつをこねるようで、実際は心が傷つくこともあるのではないかと思う。
    裁判官も同じ。まっぴらな嘘をついているかもしれない人間を裁くことの難しさ。精神のぶれや気持ちの引っ張られ方は当然あるわけで、それを差し引く努力は計り知れない。

    でも本当の本当は、世の中そんなに性善説ではいかないのかもしれないけれど、「真実」を話してもらうための人間関係作りであり、信頼感であり、諭しであるのではないかと思う。そういう心が介在する部分があるのではないかと思う。その意味でプロの仕事であり、「人」の仕事だと思う。法律家として優秀なのは、信頼関係を築き、人間の良心を引き出し、真実を明らかにした上で、その上で妥当な刑罰を選択することもしくは有罪無罪を判断すること、なのではないかと思う。


    本来有罪なのに無罪を訴える人、そのひずみが出てくる何か根源があるんだろうと、そう考えることで、私たちはその人たちを拒否しないですむ。そしてその人がいつか真実を語ってくれるのではないか、そのためにできることがあるのではないか、そう考えていたいというのが、私の願いだ。 人間にはそこまでの心があるのだろうか。あってほしい。

    http://www.1101.com/suo/index.html

    監督:周防正行
    金子徹平:加瀬亮
    荒川正義:役所広司
    須藤莉子:瀬戸朝香
    金子豊子:もたいまさこ

  • 痴漢の容疑をかけられた青年を描いた社会派サスペンス。公開当時、この作品がきっかけとなり、痴漢被害者よりも容疑者となってしまった人権こそ守るべきという世論になった気がするが、確かにその通りだ。突然、見に覚えのない痴漢の容疑がかけられたとき、一般人は身を守る術がない。

    実生活からの隔離、家族の心労、多額の保釈金、証拠を明らかにしない検察、裁判官の人事異動。法知識のない普通の民間人である主人公に次々と降りかかる悪条件。これだけの苦労を強いられた彼に「それでもボクはやってない」と叫ぶ力は残っているのか。そして、運命の判決を迎える。

    作中で何度も語られるのは日本の裁判における有罪率99%。この数字があればこそ、裁判所、検察、そして弁護士にとっても「有罪」で当然または、仕方がないという流れになってしまう。日本の裁判は「99%」のシナリオに沿って展開される儀式なのだ。

  • なかなか考えさせられることの多い映画だった。

    とりあえず夫には電車に乗ったら手は上へ上げとけ!!
    とアドバイス。
    痴漢する奴は憎むよ。
    でも冤罪で苦しむ人もいるとわかればもうちょっと
    裁判なんとかならんの?と思ったり。 

    しかしどうなんだろう、多分冤罪だと思って見てるけど、
    この映画ではどちらともとれる感じでもあるんだよね。
    そこらへんも妙にリアルで痴漢冤罪の裁判がいかに
    難しいかってことはよくわかったな。

  • \ 男性諸氏はご注意あれ! /




    公開当時、劇場観賞。

    加瀬さんのキャラが本作内容に絶妙で、実に名演技を見せて下さっていた。

    当日の満員電車の車内をリアルに再現し、痴漢に至る状況を検分するシーンは見入ってしまった。

    誰がなんと言おうとも、誰になんと言われようとも、《それでも僕はやってないと言ったら、断じてやってないのだ!!》

    分かる分かる、その怒り、気持ち、土足で容赦なく踏みにじられる、人間性の全否定。

    これは明日、今日にでも、誰に降りかかっても不思議ではない事象。因って他人事とは思えないものがある。

    痴漢行為ではないにしろ、各種の犯罪に於いて冤罪の危険は常にある。
    日本の警察も腐敗しだしているような部分を、近年個人的に感じている次第であるだけに、本作は笑って済ませたくない力作。

    本田さんの、「(拘留されていても→)入ってても、出られる時には一日一万で換算してくれて、(云々…)」の際の台詞まわしが私のド壺にハマってしまいーーー

    地味だが、重い内容を随所にはらんでいる逸品。

  • ・「面白い」映画ではないけど、痴漢冤罪という、自分や家族の身に今日にでも降りかかりうる災難を疑似体験できてしまうという意味で、見過ごせない映画だった(とか言いつつ片付けしながら片手間で見たので細かいところは覚えていない)。
    ・母親役は渡辺えり子かと思ったらもたいまさこ。確かにもたいまさこと加瀬亮って親子に見える。
    ・笑わせ場面はほとんどないと言ってよいのだが、竹中直人演じる大家さんが、加瀬亮の部屋の家宅捜索に立ち会ったときの会話が、苦笑いを誘った。「いや~僕もちょっとおかしいと思ってたんですよねえ!」「おかしいとは?」「あ、いや…ただ、なんとなく…」「ただ、なんとなく?」「その、仕事してないの、かな、とか…」「(無言で作業に戻る」

  • 犯罪被害者の家族の主張、要求を考慮するようになった司法や世論の流れのなかで、犯罪加害者家族の保護という新たな視点を提供した作品。
    家族の一人が犯罪を犯したことで、その家族がどんな苦難にさらされるかをうまく描いている。マスコミや野次馬、インターネットによる壮絶な誹謗、中傷。現代社会においては、必ずしも罪があるとはいえない善良な家族でさえ、家族が犯罪を犯した瞬間から犯罪者同然のレッテルを貼られる社会の現状。
    この映画で描かれている全てを鵜呑みにすべきとは思わないが、新しい気づきを与えた作品として評価できるでしょう。必見です!

  • 最後まで暗い映画。弁護士は事案を抱えすぎだし、検察官と裁判長はそれぞれのプライドがあるし…と、映画の通り、裁判所は有罪か無罪かをとりあえず決めるだけの場に過ぎないのかもしれない。

  • 見たのは2度目なのだけど、怒りというか諦めというか悲しさというか、正義という観念がこれほど脆く機械的であったことに絶望するしかないかもしれない。
    法廷という一種の聖域であるはずの場所が、労働というくくりによってただの職場と化し、誰よりも平等でなくてはならないはずの裁判官が判決を下すことさえも仕事としてしまっている。
    証拠もなく、目撃証言も極めて曖昧、被害者の証言さえもはっきりしないところが多々ある、これで起訴しようと思った検察も相当だし、実際起訴出来てしまうことそのものが問題だと思う。普段見るアメリカの法廷映画などの内容と比べると、あまりにもずさん過ぎる。
    この映画を見ただけで、日本の裁判がみんなそうだなんてもちろん思わない。裁判員裁判も始まっている。加害者がいれば被害者がいる。その代弁として検察と弁護人がいる。そこで追い求められるのは、被害者だけじゃない、加害者のその後の人生でもある。被告人が国によって被害者になってしまうことだけは避けなくてはならない。
    人が人を裁く意味を改めて考えさせられた。

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著者プロフィール

映画監督

「2013年 『法と心理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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