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- / ISBN・EAN: 4560107150245
感想・レビュー・書評
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初恋は得てして実らないものだけど、それでもこの物語は、愛おしさよりも、物悲しさと切なさ、そして、孤独が際立っていて、寂寥感に胸が締め付けられました。
幼い日の初恋の10数年の軌跡を計63分の連作短編として纏めた新海誠監督のアニメーション作品。
双方の両親が転勤族だったため、共に小学校四年生の時に東京の学校に転校してきて出会った、貴樹と明里。クラスメートとはしゃぐよりは本を読むことが好きだった二人はすぐに意気投合する。けれど、中学校進級時に明里は栃木へ引っ越すことに。二人を繋ぐのは、文通のみ。そして、二年生進級の機会に、今度は貴樹が鹿児島の離島に引っ越すことに。
これまで以上に広がる距離を前に、まだ雪も降る三月の寒いある日、二人は栃木での一年ぶりの再会を果たそうとするけれど…。
物理的な距離と時間の流れに隔てられる中で温度差が出来て離れていってしまう男女の姿は、世の無常の真理を確かに現しているのと思うのだけど、何かが胸にわだかまってしかたがない。
あまりにも対照的になってしまう二人の人生を同時に観ることになってしまうからかも知れません。
その対照性から、イアン・マキューアン原作でシアーシャ・ローナン主演の映画「追想」を思い浮かべたのだけど、この作品は「追想」に残された欠片ほどの救いもないという…。
構成は、恋を知ると共に人生の無常を悟る小・中学生時代を描いた第一編「桜花抄」、高校時代の貴樹を他者の視点から描いた第二編「コスモナイト」、成人後の二人を描いた「秒速5センチメートル」の三編からなっています。
実在のものを入れ込む緻密な風景描写、世界観を構築しながら登場人物の心情を代弁するような音楽の巧みな使い方など、新海誠監督らしさも存分に感じさせる作品。
ここから、どんどん次の作品に繋がったんだな、と思うつくり。ただ、人物の画は荒いというか少しつたないくらいなので、人によってはそこで評価が分かれそう。
個人的には割と好きな部類に入ったのだけど、主人公が悲しい目に遭う作品に抵抗のある人には正直オススメはできない作品。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本当は「君の名は。」より先に見た。
でも「君の名は。」の方が良かったので後回し。
時というものは残酷。そして男性と女性じゃ、女性の方が酷。
って見終わってすぐの感想。
中一であんなに密になった気持ち。
ずっと続いてて欲しかった。
新海誠さんの作品には風を感じる。空気を感じる。 -
この主人公の、終始モノローグ的な声音が、ずっと悲しい。
初恋の相手との距離は、13歳時は物理的な距離や時間で表現されるものの、社会人になったらそれはもう心理的な距離感となっている。
こんなセリフがある。
「ただ生活しているだけで、哀しみはそこここに積もる。陽に干したシーツにも、洗面所のハブラシにも、携帯電話の履歴にも」
ただ生活しているだけで。
ただ生活しているだけなのに、この哀しみの所以は、きっと主人公にもわかっている。
彼女の姿を探し続ける。いつか隣にいた姿を見続ける。
また会えるかもしれない、ふと、会えるかもしれない、
そんなことを思って歩いていたって、そんな淡い期待は往々にして裏切られるし、でも祈るくらいいい、無駄にするのは時間だけだ。
そこから抜け出したくて誰かと付き合ってみるけれども、どうしても、相手が見えない。透かしたように、風景が見えるだけだ、過ぎた時間が見えるだけだ。
恋人がそばにいても、孤独しか感じない。
もう、魂のレベルなんだろう。
心がずっと、取り残されたまま。
そしてもう、あの人は自分のことなんて見てはいないというのに。
愛って孤独だ。 -
新海誠監督の作品だということで手に取ってみました(といっても,PrimeVideoだけど)。2007年の作品。
アニメーションとは思えない光の表現や電車の景色など,後ほどに続く映像美の片鱗があちこちに見られます。というか,新海監督の作品って,現実よりも現実っぽい描き方をしているみたい気がします。光なんて,あんな風に射すことはめったにない,けど,きれい…みたいな。
全体は3話に分かれているものの,それぞれの話は独立していそうでつながっている,そういうことがすべて第3話でつながります。第3話の映像と音楽とのコラボは圧巻です。これ,映画館で見るとけっこう鳥肌が立ちそうです。
切ない幼い男女の物語と言ってしまえば身もふたもない。この映画の解説に「叙情的に綴られる三本の連作短編アニメーション」とありましたが,まさに叙情詩を読んでいるような映像。
桜,雪,鹿児島,東京,ロケット,電車,車,カブ,サーフィン,弓道,時間,光,風,星,太陽,宇宙などが,意味を持って画面を飾っています。全部つながっていて,でもそれらと出会えるのはホンの一瞬。すべて必然だけど,一人一人にとっては偶然。なんか,そんなことを感じました。
心温まることは間違いない。 -
<桜花抄>遠い憧れのつまった図書館の本。神社の猫。カンブリア紀のハルキゲニアとオパビニア。二人だけに過ぎてゆく日々と、二人だけで広がっていく世界。東京の小学校に通う遠野貴樹(声:水橋研二)と篠原明里(近藤好美)は、親の転勤で引っ越したばかりの家庭環境も同じながら、引っ込み思案で体が小さく病気がちなところも同じだった。二人はやがて、お互い似たもの同士で、次第に意識しあうようになるが……。
<コスモナウト>種子島-夏。この島に暮らす高校三年の澄田花苗(花村怜美)の心を今占めているのは、島の人間にとっては日常化したNASDA(宇宙開発事業団)のロケット打ち上げでも、ましてやなかなか決まらない進路のことでもなく、ひとりの少年の存在だ。中学二年の時に、東京から引っ越してきた遠野貴樹(水橋研二)。こうして隣を歩き、話をしながらも彼方に感じられる、いちばん身近で遠い憧れ。鼓動が重くも早まるから、口調は早くも軽くなる。視線が合わせられない分、視点はいつも彼のほうを向いている。ずっと続けてきたサーフィンで思い通りボードに立てたなら、そのときは胸のうちを伝えたい。乗りこなしたい波。乗り越えたい今。少しずつ涼しさを増しながら、島の夏が過ぎていく……。
<秒速5センチメートル>遠野貴樹は高みを目指そうとしていたが、それが何の衝動に駆られてなのかは分からなかった。大人になった自らの自問自答を通じて、魂の彷徨を経験する貴樹だが……。
「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」の新海誠監督が、卒業と同時に離れ離れになった少年少女の淡い恋を描く青春ラブストーリー!小学校の卒業と共に離れ離れになった少年・貴樹と少女・明里。互いに特別な思いを抱きながらも伝えられず、時間だけが過ぎて…。二人の再会を描く「桜花抄」、少年・貴樹を別の人物の視点で描く「コスモナウト」、2人の恋の行方を描く「秒速5センチメートル」を収録。新海誠独特なもどかしい距離感が遠距離恋愛や片想いというシチュエーションでより増幅された痛切なラブストーリー。雪のせいで電車が遅れたり、携帯電話がないので上手く連絡出来なかったりなかなか想いを伝えられない困難があるからこそ、会えた時間が大事な人がいとおしくて永遠を願うけどすれ違い熱い想いも冷めてしまうだけど忘れ難いそんな痛切な恋を描くストーリーが、LINDBERGや山崎まさよしのスタンダードナンバーを絡めて描かれる。じんわり甘く切ない傑作アニメ映画です。 -
「なぁ、桜の花びらの落ちるスピードは?」
最近、このネタやけに好きになっています。新海作品に必ずと言っていいほど絡んでいるのが西村君。この作品は作画監督として参加している。彼のキャラクターデザインを見てふと思い浮かんだ言葉があった。
「医学では傷ついた子供たちの心が治せない」
阪大を出て医学博士にまでなり医学の道よりもこの道を選んだ偉大な先生の絵と比べるわけではないが、西村君も優しい絵を描くんですよね。
「秒速5センチメートル」
https://www.youtube.com/watch?v=8HmDXFHpmeo
幼き頃の淡い恋から始まり、大人の別れまでを描いた作品。「桜花抄「コスモナウト「秒速5センチメートル」の三部構成からなるのですが、まさかの三部目なんですよね~。未練も30年経てば純愛に変わるんですけれど、なんか王道を行っているような作品に感じたのですが、気持ちを押し殺したまま終わってしまったような気がする。
でも、桜花抄で「この先も、ずっと先も大丈夫だよ」が別れの言葉だったのかもしれない。アニメの世界ではどうしてもハッピーエンディングばかりを期待してしまうが、切ないなぁ~。
でも、西村君の作品ではこれが一番好きですね! -
タイトルと映像がただただ素晴らしく、美しい。
二人の恋心が綺麗で純粋すぎて、でもどこかもろくて儚げで、この危うさが美しくも思えたり、もどかしくも思えたり。
成就しなかったから、余計にそんな風に思うのかもしれん。 -
背景の光の表現に目を奪われる。なんという空間の表現。あまりにも空がきれいで。あんな空の下に生きたい。必ず行こう。
お話としているのは主人公遠野貴樹の内面です。キャラクターのデザインを強くデフォルメしている分それを引き立たせる背景は繊細な描写で、このバランスがとても良いなと思います。
「好き」と言えずにいることの切なさと美しさを表現しているとも言えるし、「好き」と言えなかったことの後悔と哀しさを表現しているとも言える。これは大人が、もう変えることやり直すことができない過去のできごとやその時の感情に、しみじみする話だなと思います。決して明るい話じゃない。この話が人気だということは、気持ちを伝えられずにずっと昇華できずに生きている人がいっぱいいるということなんだろうな。送れない手紙を、届けないメールを書き続けてきてしまった人たちの、心が止まったまま過ごした時間への追悼なのかもしれない。会うことができるならば会いに行った方がずっと、気持ちを伝えられるなら伝えた方がずっと、ずっと健全。それを現実にしないのは怖いから?14歳の遠野と篠原に、現実にする勇気がないと厳しい意見は言えない。でも18歳では?今では?この話は好きか好きじゃないかで割り切れません。そして、そういう、割り切れない色々な感情が入り混じっているところは、生きているって感じで気に入ってます。誰にだってある、戻れない時間でのやり残したこと。
第一話 桜花抄
会いに行きたいとまで想う人がいることの幸せと切なさ。そして、実際に会いにいくことが、会うことができたという、奇跡のような可能性の一つが叶ったお話。ちょっと大げさかもしれないけれど、私にはそんな風に思われました。だって、現実に起こる物語では、遠野と篠原は会えないでお互いに転校してしまうってことがありえるから。そんなお別れだってあるのだから。
第二話 コスモナウト
この話が一番輝いていると思う。全3話の中の、一番輝いている時期。季節は夏。
第三話 秒速5センチメートル
主人公遠野が根暗過ぎてつらい。
うらやましくて懐かしくて切なくて苦しい。
大人の遠野は鬱陶しい。
現実にしないことのノスタルジーと、現実にすることの今と、どちらを大切に思っているかによってこの作品への感想が異なるのだろうと思うと、どんな意見があるのかとても興味があります。