用心棒<普及版> [DVD]

監督 : 黒澤明 
出演 : 三船敏郎  東野英治郎  山田五十鈴  加東大介  仲代達矢 
  • 東宝
4.01
  • (63)
  • (70)
  • (54)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 343
感想 : 58
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988104044662

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 黒澤明、すげぇ。
    そんな阿呆みたいな感想しか出てこない傑作。

    「巨匠」や「世界のクロサワ」といったイメージに気圧され、いままで黒澤作品をなんとなく敬遠していた。
    もちろん『七人の侍』の泥まみれで切り込むシーンや、『蜘蛛巣城』の数十本の矢が打ち込まれるシーン、『乱』の舞台劇のようなメイクと極彩色の騎馬戦のシーンなど、有名なカットは断片的には知っていたが、恥ずかしながらきちんと観たのはこれが初めて。

    こんなにムチャクチャ面白い娯楽作品を撮る人だったんだ。

    『荒野の用心棒』の元ネタがこの作品ということで「やっぱりちゃんと観とかなきゃ」と鑑賞。
    『用心棒』の時点で、すでに無駄のないシナリオとカットが完成されていたのだとわかり驚く(また『荒野の用心棒』がリメイクとして完璧で抜群にクオリティが高いとも言える)。

    ヤクザ者の丑寅一家と女郎屋の清兵衛の二大勢力が牛耳る宿場町。
    そこに流れ着いた一人の浪人。

    三船敏郎演じる浪人は「桑畑三十郎」と名乗る。
    名を問われ、目の前に広がる桑畑をみて咄嗟に口にした名字。
    そして「三十郎、もうすぐ四十郎だがな」と冗談めかしてはぐらかす仕草から、彼も「Man with No Name」であるとわかる。

    キレとユーモア溢れる画面、そしてストーリー。
    飄々としてとらえどころのない三十郎が時折見せる凄み。
    三船敏郎のセクシーな魅力。
    チャンバラ活劇ではない、一閃で終わる殺陣のリアルさ。

    クールでニヒルで心に咲く悪の華が美しく乱れる、丑寅一家の卯之助は若き日の仲代達矢だった。
    ただの色男ではない剃刀のような存在感。

    女郎屋のやり手ばばあで妙に色気のある年増は山田五十鈴。
    出演している役者たちがみんな一癖あって魅力的。

    丑寅一家のまゆ毛が繋がった亥之吉や、ジャイアント馬場のお化けのような番人、ヤクザの下っ端たちにいたるまで全員が「コクのある」いい顔。
    最近のイケメンブームの映像業界では、この極寒の荒海で揉まれた昆布のダシのような「いい味」は、なかなか出し難いのではないだろうか。

    砂埃舞う緊迫した対決シーンからエンディングへ。
    スマートにすぱっと終わるのかと思いきや、あの狂気の演出にはやられた。
    黒澤明、クレイジーだ。

    明るくからっと別れた「三十郎」の物語は、次の『椿三十郎』へと繋がるのだろうか。
    とても気になる。
    黒澤作品、しっかり腰を据えて観なければ。

    (書き忘れていたが音楽も良かった。泥臭く血の煙る抗争にも、独特のコミカルな風味を加え存分に効果を発揮していたと思う。)

    • nejidonさん
      こんにちは♪
      これ、大好きな映画です。
      私の10本、なんて選ぶときがあったら、必ず入れると思うほど好きです。
      kwosaさんも言われるとおり...
      こんにちは♪
      これ、大好きな映画です。
      私の10本、なんて選ぶときがあったら、必ず入れると思うほど好きです。
      kwosaさんも言われるとおり、キレとユーモアと、重厚な内容が病み付きになりますよね。
      それに、画面がとにかく明るくて綺麗だと思いませんでした?
      アウトローを演じたらトップクラスの三船さん。
      すごい俳優さんがいたものです。
      さてさて、次は何をご覧になりますか?楽しみデス。
      2013/05/14
    • kwosaさん
      nejidonさん! こんにちは。

      『用心棒』いやぁ、本当に面白かった。
      やっぱり「巨匠」「名作」の称号は伊達じゃない。
      そういう作品は、...
      nejidonさん! こんにちは。

      『用心棒』いやぁ、本当に面白かった。
      やっぱり「巨匠」「名作」の称号は伊達じゃない。
      そういう作品は、やはりしっかり観るべきですね。

      そして nejidonさんがおっしゃる通り、画面が明るくて綺麗!
      どのカットも額に入れて飾りたくなるくらいです。

      黒澤×三船の映画。
      もっともっと観たくなりました。
      2013/05/14
  • 細かな演出と全くブレのない鮮明かつ的確なカメラワークによる、場面毎の的確な空気感や臨場感、そして立体感を存分に楽しめる、見事な映像作品としての印象が強く残った作品。

    ストーリーはシンプルで、一見悪ぶっているのに実は情に厚く、腕が立つ浪人「桑畑三十郎」が、ヤクザ同士の抗争によって荒んだ宿場町を、奇策とその剣の腕によって救うという、ヒーローもの。

    白黒の世界なのに、登場人物たちにぶつかっては通り抜けていく寒々しい空っ風や、舞い上がる土埃などをとらえることによって生まれた、独特の情緒が堪らなく見事です。

    黒澤明らしい、人間のあらゆる性質を余すことなく描いた人間劇としての側面は正直弱いかなと思う作品なのですが、それでも、細かな演出の積み重ねによる、この見事な映像は一見の価値ありですね。

    四十代となり円熟味の出てきた三船敏郎演じる桑畑三十郎と、三十台を前にして、まだ若く荒削りな印象をどことなく残しながらも、存在感のある若き日の仲代達矢演じる敵役の卯之助の対比もとても良くできています。

    黒澤明がアメリカのハードボイルド小説を翻案して作った時代劇であり、それがまた、後の西部劇映画に大きな影響を与えたとされていますが、動きのあるものをここまでクリアに、そして、緩急をつけて撮れている点や、細かな演出の積み重ねによる巧みな空気感に魅せられ、ものにしようとした人々がいたというのも、納得の出来です。

  • 実は本作よりも先にクリント・イーストウッドが主演の「荒野の用心棒」を先に鑑賞してしまっているまさかの日本人です。

    三船敏郎とクリント・イーストウッドとどっちがかっこいいかと尋ねられたら裏切りなことにクリント・イーストウッドと言ってしまいそうでですが、仲代達矢と彼とはどっちがかっこいいかと尋ねられたら・・・迷います!笑

    て程に仲代達矢演じる卯之助がよかった。あの伊達もの風情なキャラクターにピストルとはもう何処の高杉晋作だよと思ってしまいましたが、
    まさかここでピストルが見られるとは。多分これはクロサワに触れとくに外国人も非常にエキサイティングで親しみの持った要因の1つではないでしょうか。
    故にこういうキャラクター性を滲ませることに重視したのは世界に愛される迄に至ったことの1つにもなり得るものじゃないかと思います。

    この映画の舞台は一体何処なんだ、時代はいつなんだ、と頭に過ってしまいますが本作はあくまで黒沢監督のワールドの中の映画なのだから。つまり映画であるから。という一言で
    全て成っとく出来てしまう非常に痛快な一作。

    この痛快さや大胆なキャラクター設定は今の漫画にも通じる、むしろ漫画的な要素を濃く感じますがこういうものが敷居高く感じる白黒映画の黒澤明監督の作品というイメージの中で感じ取れるのは非常に面白いと思いました。

    • kwosaさん
      ほなむさん!

      >実は本作よりも先にクリント・イーストウッドが主演の「荒野の用心棒」を先に鑑賞してしまっているまさかの日本人です。

      実は僕...
      ほなむさん!

      >実は本作よりも先にクリント・イーストウッドが主演の「荒野の用心棒」を先に鑑賞してしまっているまさかの日本人です。

      実は僕もです......

      でも『荒野の用心棒』も『用心棒』も、どっちも面白かったので大満足です。

      卯之助、よかったですよね。
      そして亥之吉も、なんか憎めないんです。
      そしてそして、ジャイアント馬場みたいな侍の強烈なインパクト。

      「黒澤明」という名前だけで怯んで、いままで観ていなかったのですが、本当に痛快な娯楽作品でした。
      2013/05/14
    • ほなむさん
      kwosaさん

      コメントありがとうございます!
      日本人あらずなことをしてしまった方が私以外にもいたのにちょっとほっとしております。笑

      そ...
      kwosaさん

      コメントありがとうございます!
      日本人あらずなことをしてしまった方が私以外にもいたのにちょっとほっとしております。笑

      そうですよね〜やっぱり黒澤明という名前が恐れ多くて逆に謙遠勝ちだったのですが。多分多くの現代日本人がこのパターンだと思うのですよ。結構私のように海外の著名監督の作品は見るけどあえての自国の偉大な監督を見落としがちかと。
      これを気に心構えを変えて黒沢監督の映画を他にも見てみようと思いましたね^^

      2013/05/17
  • 前にレビュー書いてたのは…と、さかのぼると2009年のことだった。

    それを読んでみてその後随分と自分の周りの環境が変わってしまったことを改めて痛感。観てるところが違いすぎる…。

    まず音楽。

    それまでの黒澤作品を支えてきた作曲家、早坂文雄が「生きものの記録」(1955) の作曲中に他界し、それを引き継ぐ形で完成させたというのが佐藤勝。本作を制作するまでには既に黒澤とのタッグ作品4本を世に送り出してきており、円熟期に入った頃。クロサワをして「この映画に関して言えばとにかく『おもしろいもの』を創ってやろうということで始めた。」と言わしめるエンターテイメント色100%の本作においては、音楽の方もその同じ方向性で全開で突っ走ってくれている感がある。特に女郎が登場するシーンごとに和太鼓や鐘に8ビートを刻ませるのが圧巻。

    脇役陣。

    「隠し砦の三悪人」(1958) にて三船演じる真壁六郎太に相対する豪壮な武者、田所兵衛を演じていた藤田進。本作では本間先生役で一転コミカルな演技をみせてくれているところがツボ。その同じく「隠し砦の三悪人」ではセリフ無しの落ち武者役でしかなった加藤武が結構な量の台詞をもらっていて感動。その逆の意味で藤原釜足がほぼセリフ無しで持っていってしまう圧巻の演技は、4年後の「赤ひげ」(1965) でももう一回。用心棒閂(かんぬき)を演じる羅生門綱五郎はインパクト抜群。当時よくジャイアント馬場に間違えられたらしいといわれるのだがサイズ的には十分納得。

    歴史的見地。

    刀の斬殺音が使われたのは本作が初めてで、流血のポンプアクションも「椿三十郎」(1962) に先立ち導入されていたという話。どちらも初の試みであった故に後世の作品に比べると控えめだったとのことで、後者のシーンをみかけたときには「あ、ここだ!」的な喜びを感じてしまった次第。

    そしてなにより。実際にお会いできた役者さんが出ているということが昔に観たときとの絶対なる違い。

    この街に来て間もないころ「乱」(1985) を鑑賞する機会に巡り会え、上映終了後劇場を後にする客の中にいた白人年配女性の一人が「あ~、やっぱり私はミフネよりはナカダイ派だわ。」とつぶやいてたのを思い出すにつれ、当時は「うわ、この人、玄人やん。」としか反応できなかったのが、今回の一挙鑑賞を通して数歩でも近づけたように感じれたことが大きな収穫。

  • 黒澤作品て、「世界のクロサワ」だのなんだの
    評論家やオッサンらが昔から色々薀蓄を垂れるばっかりで、
    なんだかそういうのは不健康だなあという感覚がすごくあります。
    ビートルズとかも一緒ね。

    映画好きの人なら世代関係なく観る人は観る、と。
    特に映画好きでなくても皆名前は知っている。
    けど、そういう人が観てみようってそんなに思うかなあ、
    観るきっかけってあるかなあというのが疑問。
    なんか、もうちょっと違う言い方や感触で
    作品の面白さを伝えられねえもんかなあ、とよく思いますね。

    黒澤作品は「単純に面白い」です。
    大衆娯楽としての映画、映画としての面白さ。
    娯楽活劇。アクションエンターテイメント。

    映画はそもそも娯楽であり芸術なのだけど、
    エンターテイメントを突き詰めるとものすごい芸術作品になった、
    それが黒澤映画なんじゃないかな。


    さて『用心棒』ですけど、
    これはキャラクターがいっぱい出るのでその面白さがまずある。
    東野英治郎とかほんと最高。(西村晃も出ててW黄門様)
    あとは大体いつもの面子、所謂東宝の大部屋俳優さん達。
    これが喜八っつぁんの映画やゴジラ・ウルトラシリーズも好きな人だと
    横断的に出てくるので楽しいのです。

    異彩を放ってるのはいつもの天本英世とw、
    いつもの「よし、わかった!」の加藤武。
    そして羅生門綱五郎という人。
    「こんな骨格の地球人はいない。」
    いや、おるってw


    例の仲代達矢のピストルの件ですけど、
    続編の『椿三十郎』とは時代設定が違ってて、
    これは1860年代、幕末のお話なんですよね。
    まあギリギリIfで成り立つかな、というところ。
    しかも本物のS&Wの初期モデルを空砲で使ってるんだとか・・・?
    (龍馬が使ってたやつとかあそこらへんの型)

    あと、黒澤=パンフォーカスってよく聞きますけど、
    奥行きがある町の路地で、
    手前に東野英治郎からの~奥の敵ナメの~ミフネ、で
    「あぁ~こういうことか!」とすごく実感できました。


    ストーリーは、前半は静かに進んでいって延々状況説明をしてて、
    後半からぐわーっと盛り上がってきます。
    脱出シーンが燃える!!!

    翻案された『荒野の用心棒』ってこんなんだったかなあ。
    あまり覚えてないけど、似ても似つかんと思うんだけど・・・。
    女が絡むんですよねえ、『荒野の用心棒』は。
    あと樽がごろごろーってなってたような記憶しかないw
    どっちかというと脱出シーンや棺桶は、
    『続・荒野の用心棒(ジャンゴ)』に引用が見られるような。

    あと、『荒野の用心棒』は長モノとリボルバーの対決が見所で、
    そこにギミックがあるのだけど、どちらも飛び道具でしょ。
    『用心棒』の方はピストルvs.刀で、ミフネどーすんじゃい!?
    ってところに面白みがありますからねえ。
    断然オリジナルの『用心棒』の方がおもろいです。
    笑いがあるってのも大きいけど。

    一箇所だけ嫌いな点は、最後の対決の後が長いこと。
    でこれは続編の『椿三十郎』が最高。
    どちらも方向性が違うのだけど、その点では『椿三十郎』の方が好きですね。

    劇伴、BGMも最高。
    というか音楽がいちばんクレイジーです。

    • GMNTさん
      太宰、初期作品集『地図』を半分ぐらい読んで止まってるとこです(笑)。
      後期というか『人間失格』まではやっぱり行きたいですけど、
      あれのドロド...
      太宰、初期作品集『地図』を半分ぐらい読んで止まってるとこです(笑)。
      後期というか『人間失格』まではやっぱり行きたいですけど、
      あれのドロドロ感がダメって人も多そうですね。
      そこも含めて全部読みたいですけど。

      黒澤作品も含めて、独創性ってとこまではあまり考えてなくて・・・
      純粋な面白さ、エンターテイメント性ですかねー。
      エリオット・スミスはまたちょっと違って、切ないなあという感じです。
      ザッパはザッパ一門というか、「ザッパと愉快な仲間たち」の人脈も面白くて(笑)。
      トーキング・ヘッズにエイドリアン・ブリューが参加してるやつとか最高です。

      最近は音楽の方は裾野を広げることはしてなくて、
      昔買ったやつをひたすら聴きこんだりしてますよ。
      今はHipHop、ブルーハーブを聴いてますけど。
      なので映画レビューばっかりになっています(笑)。

      『用心棒』も、もちろん名作なんですけど
      個人的に好きなのは『椿三十郎』なので、そちらもセットで是非。
      2013/06/13
    • GMNTさん
      『地図』ってまだ10代、最初の方は15~6歳の頃の作品から始まりますよね。
      のちの作品の面白さとはまた違いますけど、
      普通に読みやすい読物と...
      『地図』ってまだ10代、最初の方は15~6歳の頃の作品から始まりますよね。
      のちの作品の面白さとはまた違いますけど、
      普通に読みやすい読物として読んでますよ。

      HipHop、お薦めするのは難しいですが・・・
      僕は日本のやつしか聴かないんですよ。
      HipHopはとくに言葉が重要だと思ってるので。

      最近また聴きだしたのは、田我流を聴いてからなので田我流の1st.と2nd.。
      この二枚は最近ずっと聴いてました。

      あと、99年頃が重要なんですけど、
      好きで、かつ万人にお薦めしやすいのはライムスターの『リスペクト』。
      それとは別に、音楽として素晴らしいと思うのは
      ブルーハーブの『STILLING,STILL DREAMING』と
      Shing02の『緑黄色人種』とかですかねー。
      大きめのTSUTAYAやゲオだと大体あると思います。
      (ブルーハーブと田我流の1枚目があるかどうか・・・)

      最近のはほとんど買ってないです。
      色々聴きたいんですけど、HipHopはゆっくり時間をかけて聴きたいので、
      1枚を聴き込むのに1ヶ月ぐらいかかるんで、
      あまり買わないんですよ。
      2013/06/14
    • GMNTさん
      いえいえ~。こちらこそ!
      また何か、好きな作品や気付いたことがありましたら、
      お気軽にコメントして頂けると嬉しいです!
      いえいえ~。こちらこそ!
      また何か、好きな作品や気付いたことがありましたら、
      お気軽にコメントして頂けると嬉しいです!
      2013/06/14
  • 映画は、"見せぬが華"ってところがあると思うのです。見せないことが観客のイマジネーションを掻き立てて、実際に見えているものより何倍も奥深く面白い物語を作り上げる。最近の映画は、このあたりのニュアンスが違うようで、見せることこそが価値観。大金を惜しみなく投入し、最新鋭のコンピューターを駆使して、世の中に存在しないものだってなんだって、とにかく力づくで見せる。もちろん、例外もありますが、マスを巻き込むメジャー作品は大体”見せる映画”が多い。しかし、それが必ずしも作品の質の向上につながらないのがつらいところです。

    黒澤作品では、前回アップした『羅生門』などは観客に考えさせ想像させる見せない映画の類ではないかと思います。黒澤監督は、登場人物の顔にかかる木々の影まで計算し、非常に微妙な形で彼らの心象を表現します。同じ出来事が何通りにも再現され、観客は一生懸命それらをつなぎ合わせたり照らし合わせたりしながら映画の意図を読み取ろうとするのです。『羅生門』における黒澤監督の見せない手腕は超一流。

    ところがこの『用心棒』。何から何までまる見え。まる出し。

    人物の後ろにも場面の後ろにも出来事の後ろにも、スクリーンに見えるもの以外の要素はまるでなし。そして、驚くべきはこの映画が、それにもかかわらず、最高に面白いということです。良い映画とか素晴らしい名作とかそんな言い方じゃなくて、これ、面白い!実に痛快な時代劇。

    痛快とは、痛いほど快いと書きますが、なにがそんなに痛いほど快いのかというと・・・。

    舞台設定がまず傑作。宿場大通りの目と鼻の先に、敵同士の博徒一家が陣取っています。右手に女郎夜清兵衛、左手には新興やくざ新田の丑虎。そのちょうど中間点に、桑畑三十郎(三船敏郎)が居座る居酒屋。道向かいには、腰ぎんちゃくのおかっぴきがいて、こいつが『ここのつでござ~い~』とか、時を告げると、両サイドからわらわらとヤクザ者が出てきてにらみ合う。居酒屋の窓を開けるとその様子がパノラマ劇場みたいに見渡せる仕掛けになっています。

    つまり、観客はボクシングの特等席でかぶりつきになって試合観戦するようなもの。

    そして登場人物はというと、実に見事にデフォルメな面々。品性のかけらもない博徒の親分と、絵に描いたような凶悪ヅラの手下ども。主要人物でも、丑寅の弟亥之吉(加藤大介)の眉毛なんかつながってるし、末弟の卯之助(仲代達也)は、見た目は優男ながら、マフラーに懐手その手には6連発の短銃と、漫画などに登場する典型的な悪役風情。

    現実感などまるで無視した舞台設定と人物設定。黒澤監督の腕によりをかけたセッティングで、万全に仕込まれた極上のエンタテインメントをトコトン見物する。『用心棒』はそんな映画。

    で、その画竜点睛、桑畑三十郎その人と言えば・・・、これがまた最高に魅力的。二つの博徒一家を片付けて町に平和を取り戻す。大義名分はそういうことですが、そのプロセス自体が楽しくて仕方がない様子。自分の作戦とことの展開にワクワクドキドキの様子がまあかわいい。

    両の手を懐に突っ込んで、肩をグリグリって回す姿とかね、丑寅の屋敷に乗り込んで上がりがまちにどかっと腰掛けてチラッと奥を流し見たときの目元の魅力。極めつけは、クライマックスで卯之助の短銃(ピストル)と対峙した時。恐れもせず、すたすたと卯之助の前まで歩き、ニカっと笑うと、おもむろにススッと横移動。射撃をかいくぐると懐の出刃包丁をドカッっと投げてピストル封じ! この一連の動作、びりびり来ますねぇ。

    通常は女優さんのグッとくるような仕草を見つけるのが映画鑑賞の楽しみの一つなんですが、この『用心棒』では三船敏郎にグッときっぱなし。強いわ、茶目っ気あるわ、知恵も働くし、色気もあるわで言う事なし。最高。

    完成した作品を鑑賞する立場からすると、なんにも考えずに大喜びしてれば良いんですが、作る側にとっては、観客のイマジネーションに頼らずに、一方的にこれだけの面白さを提供するのってそんなに簡単に出来ることじゃないと思うのです。

    黒澤監督の作品は一作観るごとに驚かされますが、『用心棒』のような作品も見せれば『羅生門』のような作品も見せる。実に様々なスタイルを見せてくれるところが本当に凄い。次の作品を観るのが楽しみです。

    で、次はなにって、『椿三十郎』に決まってるじゃないですか^^。★★★★★

  • 物心ついて知った三船敏郎は、
    ワイドショーで話題になる
    おじーさん俳優で、
    どこが「世界のミフネ」なのか
    さっぱりわからなかった。

    イギリスで、無性に日本語の映画が観たくなり、
    大学図書館でDVDを借りたのがこの映画。
    「世界のミフネ」の意味を初めて実感。

    豪快、爽快、痛快。
    男の色香、ムンムンですしっ。
    なんとも言えず、かっこいい。

    音楽との効果、
    どこが舞台演劇を思わせるような部分、
    構図のよさ、面白さ。
    大作と言われる
    晩年の黒澤作品より、
    モノクロ作品の方が
    何度も観たくなります。

  • 黒澤監督作品では「七人の侍」に続き二作品目。

    用心棒≠ヒーローという渋いキャラを見事に描いていたと思います。

    三十郎含めほとんどが悪いやつ(笑)で、賢い奴は誰だ?!という展開が面白かった。
    キャラも個性的で、憎めない亥之助、最後まで食いついた卯之助、権爺、金のために人を殺す用心棒ながら頭の切れる情にあつい三十郎…。

    画面が白黒なこと以外、時代を感じさせない極上のエンターテインメントでした。

  • 数年ぶりに観ました。もう何十回観たでしょう。先日鬼籍に入ったホイットニー・ヒューストンの代表作、「ボディーガード」主演のケビン・コスナーが何度も見たという映画(ややこし)。エンターテイメントの抽出度なら、「ルパン三世カリオストロの城」と並ぶ、超名作。何度観ても、また観たくなります。

  • 黒澤明の『用心棒』(1961、東宝)をみた。
    時代劇というよりも西部劇のテイスト。
    今見てもちっとも古く感じない。

    決闘のシーンで、背後に砂ぼこりを孕んだ風が
    ドウッと吹き過ぎる演出は、劇画のようだ。

    三船敏郎演じる桑畑三十郎が剣の腕を
    見せる場面は少ないのだけど、
    強烈に脳髄に焼き付いてしまう。
    三船の立ち回りの凄さについて、
    黒澤監督は次のように語っている。

    「三船の立ち回りってのはすごく迫力があるでしょう。
    あるとき、三船の立ち回りを編集してたら、
    そこへ誰かが用事があって来たんです。
    ムビオラ(編集用小型映写装置)止めてそれから
    ちょっとのぞいたらね、三船が映ってないんです、コマに。
    ただシューッと流れてる。コマを一つ一つ見てったら、
    ほとんど全部流れてるんです。顔もよくわからない。
    ずうっとつなげて見ると、三船はちゃんと
    立ち回りしてるんですけど、そのぐらい動きが速い」
    (『何が映画か』黒澤明・宮崎駿、1993)

    監督は刀を差している武士の歩き方
    ひとつにもこだわったというけれど、本当に、
    ただ歩いているだけでも魅了されるほど、
    三船敏郎がカッコイイ!

全58件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

(くろさわ あきら 1910−1998年)
日本を代表する映画監督。1943年『姿三四郎』で監督デビュー。生涯30本におよぶ名作を監督した。『七人の侍』(1954年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)など海外の映画祭での受賞が多く、映画監督として初めて文化勲章、国民栄誉賞を受賞し、1990年には米アカデミー名誉賞が贈られた。

「2012年 『黒澤明脚本集『七人の侍』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×