生きものの記録<普及版> [DVD]

監督 : 黒澤明 
出演 : 三船敏郎  三好栄子  清水将夫  千秋実  青山京子 
  • 東宝
4.17
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988104044785

感想・レビュー・書評

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  • 黒澤作品を全部観たいけどなかなか観れてない。『生きものの記録』は、何年か前に町山さんのブログで知りました。震災後、原発事故があったから町山さんがポストしたんだと思う。

    以前『夢』のレビューを書いたときに、その中の一本について「黒澤なりの『ゴジラ』」と感じてたけど、町山さんのブログを読み返すとやはりそのようなことを書いていた。NHKで本多猪四郎と黒澤明の番組をやってて、それを観てから『夢』を観たのでより強くそう感じた。
    その「黒澤なりの『ゴジラ』」がこの『生きものの記録』らしい。『ゴジラ』の翌年、1955年の作品。つまり第五福竜丸事件の翌年でもある。

    原水爆の恐怖で、年老いた父親(家族経営の工場の社長)が暴走する話。普通はこっちに志村喬をキャスティングすると思うんだけど、あえて三船敏郎を老け役にして使ってる。
    町山解説にもあるけど、この暴走する父親=ゴジラ、それに同情する志村喬と見ると『ゴジラ』と構造が同じなのでわかりやすい。ゴジラ=強い父親、それを表現するためのミフネ。
    ついでに「ミフネは演技が下手」と言う人も多いけど、この映画を観るとけしてそんなことは思えなくなる。

    「原水爆に対する恐怖」がテーマだけど、もうひとつは「伝統的な家父長制の崩壊」を描いた作品でもある。
    息子たちが戦争に行ったかどうかが描かれてないのが不思議で、もしかしたら行ってないのかも。息子たち世代は、戦争があったことを忘れてる。もうちょっとあと、息子たちが戦後生まれならもっとリアリティがあったのではないか、この作品は早すぎたからヒットしなかったのでは?とも思う。

    ブラジル移民の老人(東野英治郎)が出てくるけど、この人の方言が広島弁なのもミソ。作中では語られてないけど、移民してたから広島で被爆せず生き延びたのでは……?と。

    若い妾の父親役、上田吉二郎さんがものすごく良い味を出してる。『羅生門』の下人だけど、全く同じようなゲスい役、タイプキャスト。

    音楽は早坂文雄さん。遺作となった作品だけど、お話の元々の着想も早坂さんがきっかけだったらしい。あとを引き継いだのが弟子の我らが佐藤勝先生。
    早坂さんの音楽、もちろん『七人の侍』とか黒澤作品が代表作なんだけども、僕が「この音楽良いなぁ」と認識したのは溝口健二の映画かなにかでした。

  • 2015/7/4

  • 黒澤明監督 三船敏郎主演 1955年作品

    原水爆をどうとらえるか?
    地球を破壊することができるほどの 原水爆をニンゲンは
    手にしている。
    広島、長崎についで 1954年 第5福竜丸事件が起こった。
    その事件の1年後にこの作品は製作されている。

    ニンゲンを破壊尽くす 原爆
    そのことを考えると いてもたってもおられない
    鉄工所で成功した 中島喜一(三船敏郎)は、
    原爆の影響の少ない 南米への移住を真剣に考える。
    この老経営者、老人役をやっている三船敏郎は 
    35歳という若さだったというから、驚く。
    服からはだけた胸は肋骨が浮かび上がり
    歩き方やそのたち住まいはまさに老人である。
    三船敏郎 ここまでやるのかぁ と感心する。

    家族から猛反対を受けても、その考えを変えることはしない
    裁判所まで提訴され・・・
    そのことを街の歯医者である 志村喬は、
    裁判所の委託を受けて調停委員をしている。
    志村喬も 次第次第に 原爆について考えるようになる。

    原爆という題材を 狂気のような熱心さで 周りを引っ張っていく
    そして 
    三船敏郎は言う
    『死ぬのはしょうがないが 殺されるのはいやだ。』
    原爆への恐れ 家族、そして自分の血縁への想い
    それが、噴出する・・・
    そして、自分の鉄工所を放火さえして、
    南米へ移住を決心させようとする・・・

    三船敏郎の中で 原爆の恐れが どんどん膨らんでいく・・・

    提起されている問題は大きい
    いつの間にか 「核の脅威やおそれ」よりも、
    それは、北朝鮮の問題だけになっている・・・・
    「地球温暖化」が大きな話題になっていることに・・・
    時代がどこで変化したのだろう
    と考えた。

    核兵器が 小型化しているというのも
    戦略の大きな変化なのだろう

  • 放射能汚染の恐怖を、恐怖から目を背ける人々へ突き付けた野心作です。
    この映画は1954年の第5福竜丸被爆事件をきっかけに製作されました。
    放射能被爆に揺れる今年、終戦も意識しましたが、リアルに重く迫る作品でした。

    ワンマン経営者・中島喜一は、繰り返される核実験のニュースに命の危機を感じ
    家財を売り払い、一族郎党を引き連れての南米避難計画を進めます。
    しかし今の生活を変えたくない家族は家裁に申し立て親父の財産を差押えてしまいます。
    新聞は、今日もどこかで核実験が行われていることを伝えます。
    親父は心配で心配でしょうがありませんが、経済力を失い、最早どうもできません。
    「頼むからワシと一緒に逃げてくれ」
    家族を救いたい一心で、遂に土下座して懇願しますが、応えるものはいません。

    見えている危機から逃げようとしない家族を、必死に説得するが受け入れられず、
    見る見る憔悴していく親父は、遂に精神的に参ってしまいます。
    でも狂っているのはどちらなのでしょう。

    日本人は体制批判を好みません。インテリもマスコミも体制寄りです。
    多くの人が、自分は大丈夫、危機が及ばないと思っています。
    果たしてそうでしょうか。

    残念ながら、公開当時、興行的には失敗したそうです。
    今なら公開自体出来るでしょうか。
    体制の意見も、体制批判の意見も皆で「考える」。
    これが大切です。
    それが太平洋戦争に突入し、多くの家族・仲間を殺された教訓を活かすという事でしょう。
    (110817鑑賞)

  • 1955年。原水爆と放射能に対して強い恐怖を抱く主人公。
    この60年間は、映画の中同様、誇大妄想と一笑に付され、黒澤の訴えもあまり効果もなく、この映画さえあまりおもしろくない。
    特殊メイクと演技力で黒澤組役者を使い回ししているのも、予算の関係だろうか。
    映画監督というより、舞台の演出家という感じがする。
    それにしても、2011年の福島原発事故を受けて、再び三船敏郎扮する主人公の思いが現実味を帯びてくる・・・・。

  • 水爆に対する不安に駆られ狂人と化した老人を通じて、核で溢れた世界に生きるということについて問う作品。個人の力ではどうにもならないことを心配するのはナンセンスにも思えるが、不安について考えずに、忘れて生活することが当たり前という状況こそが異常なのではないかと問いかける。

  • 黒澤作品の現代劇。
    痛烈な核兵器批判をした傑作。

    工場経営者(三船)が、
    核兵器の恐怖に怯え、
    狂人となる様が描かれていく。

    果たして、
    狂っているのは、
    彼だろうか、世の中だろうか。

    ラストの
    静かな狂気を描いた
    緊張感ある演出。

    震える作品。
    さすが、黒澤。
    やっぱ、5つ星。

    以下↓ウィキペディアより抜粋。

    歯科医の原田は家庭裁判所の調停委員をやっている。
    彼はある日変わった事件を担当した。
    鋳物工場を経営している中島喜一は核兵器の脅威から
    逃れるためと称してブラジルに移住を計画し、
    そのために全財産を投げ打とうとしていた。

    喜一の家族は彼を準禁治産者とする申し立てを提出した。
    計画を阻まれた喜一は倒れる。夜半に意識を回復した喜一は工場に放火した。
    精神病院に収容された喜一を原田が見舞いに行くと、喜一は明るい顔をしていた。
    彼は地球を脱出して別の惑星に来たと思っていたのだった。
    病室の窓から太陽を見て彼は原田に「地球が燃えとる」と叫んだ。

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著者プロフィール

(くろさわ あきら 1910−1998年)
日本を代表する映画監督。1943年『姿三四郎』で監督デビュー。生涯30本におよぶ名作を監督した。『七人の侍』(1954年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)など海外の映画祭での受賞が多く、映画監督として初めて文化勲章、国民栄誉賞を受賞し、1990年には米アカデミー名誉賞が贈られた。

「2012年 『黒澤明脚本集『七人の侍』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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