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- / ISBN・EAN: 4542519004446
感想・レビュー・書評
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米音楽界の重鎮T・ボーン・バーネットをプロデュースに迎え、自らのファーストネームをタイトルに冠したこの作品は、リトル・フィートの面々と互角に渡り合ったデビュー作『ジャパニーズ・ガール』(1976年)の21世紀版と言えそうだ。つまり、原点回帰を期した一作と見た。
一聴した印象は、「地味なアルバムだなあ」というもの。
前作『ホントのきもち』が、くるりと共演したロケンローな曲があったり、レイ・ハラカミと共演したエレクトロニカがあったりして、ある意味派手なアルバムだったから、よけいにそう思う。
まず、楽器編成が地味だ。キーボードは生ピアノのみだし、ピアノ/ギター/ドラムスのトリオ編成で演奏される曲が大半(一曲だけヴァイオリンが入っている)。ベース・ギターすらほとんど使われていないのだ。
プレスリリースによれば、T・ボーン・バーネットが「矢野のピアノの左手のフレージングを高く評価していて、基本のベースラインを矢野に委ねる方法を選んだ」のだという。
音数も少なくて、すき間が多い。曲も全体に静かで地味。シングルカットできそうな曲は皆無(もともとシングルヒットなんてあまり眼中にない人だけど)。
しかし、地味だからつまらないかというと、そんなことはない。聴きこめば聴き込むほど、一音一音に込められた深いニュアンスに唸らされる。いぶし銀の輝きを放つアルバムで、秋の夜長にしっくりと合う。ピアニストとしての矢野顕子の力量も、十全に発揮されている。
サウンドには、アメリカン・ルーツ・ミュージックからの影響が色濃い。『ホントのきもち』にも渋いブルース・ナンバーが一曲あったけれど、今回は全編が古き佳きアメリカの香り。
『ジャパニーズ・ガール』(のA面)の魅力がアメリカ的な音と日本的感性の融合にあったのに対し、今作は矢野の側から進んでアメリカ的な音に溶け込んでいる感じ。それでいて、アメリカン・ルーツ・ミュージックのたんなる模倣ではけっしてなく、あくまで「矢野顕子の音楽」になっている。
とくに、冒頭4曲――「When I Die」「Evacuation Plan」「The Long Time Now」「Song For The Sun」――のシークェンスは、非の打ち所のない仕上がり。私はここばかりくり返し聴いている。
ギターのマーク・リーボウ(以前はマーク・「リボット」という表記が一般的だった。元ラウンジ・リザーズ)が、八面六臂の大活躍。ジャジーで渋い演奏からフリーキーな速弾きまで、曲に合わせて色合いの違うプレイを披露して見事。
アルバム後半では、ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」とドアーズの「まぼろしの世界」という2つのロック・クラシックをカヴァーしている。
「まぼろしの世界」はジャジーでアーシーな仕上がり。「胸いっぱいの愛を」は、終盤にマークがラウンジ・リザーズばりのギターを弾きまくるところが面白い。詳細をみるコメント0件をすべて表示