ハート・ロッカー [DVD]

監督 : キャスリン・ビグロー 
出演 : ジェレミー・レナー  アンソニー・マッキー  ブライアン・ジェラティ  ガイ・ピアース  レイフ・ファインズ  デヴィッド・モース  エヴァンジェリン・リリー  クリスチャン・カマルゴ 
  • ポニーキャニオン
3.55
  • (114)
  • (309)
  • (317)
  • (68)
  • (11)
本棚登録 : 1507
感想 : 323
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988013411524

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 70点。
    監督が同じ『ゼロダークサーティ』の予習として鑑賞。

    あの『アバター』をなぎ倒し、
    アカデミー賞の主要部門をさらった作品だが、
    この映画は評価が非常に難しい。
    何が難しいかって?

    War is a drug-戦争とは麻薬だ

    というメッセージからこの映画は始まる。

    しかし通常の戦争映画とこの映画が異なるのは、
    「一見」反戦反米映画に見えないことだ。

    通常の戦争映画というのは、
    鑑賞中や鑑賞後、何かしらの強いメッセージみたいなものを
    否が応にも感じ取らされることが多い。

    もちろん、通常の戦争映画と同様に、
    イラク戦争を爆弾処理班を通して描いたこの映画は、
    常に死と隣り合わせとなる米兵の恐怖
    みたいなものを、兵士達を通して感じさせられる
    という点では「戦争って恐ろしい」という
    単純な感情的反戦反米メッセージは存在している。

    だが、この映画は何かが少しだけ違う。
    そこには派手なドンパチ銃撃戦は無く、
    人を殺しすぎて狂った兵士も存在しない。
    ただひたすらに、爆弾処理班のある兵士達の「日常」がある。
    ドキュメンタリーとして彼らの戦争を切り取っている。
    だから、通常の戦争映画のように、
    正視できなくなるほどの「戦争のリアル」みたいなものがない。
    戦争映画によくある、極限の状況で相手を追い詰め、
    追い詰められ、でも最後はぶっ殺す!
    嗚呼俺は何をしてるんだ!的な起承転結が無い。
    だからそれを求めて鑑賞する
    (それを求めるというのも悪趣味だが)と、
    圧倒的に物足りない。
    圧倒的に静かな戦争映画なのだ。

    ただ、今やスターの仲間入りをしたジェレミーレナー扮する
    超優秀爆弾処理班ジェームズがギリギリの状況で
    爆弾を処理する過程を描くシーンは抜群。
    斬新なカメラ割りで、ジェームズの一挙一投足に
    観客は凄まじい集中力を強要される。
    このリアリティーを演出する監督には素直に脱帽。

    しかし、ちょっと待て。
    中身の感想はそれで良い。
    でも何かが引っかかる。

    反戦反米でも戦争讃美にも見え無いこの映画
    じゃあ何が言いたいんだ結局?

    僕は最初、この映画がアカデミー賞かっさらったのは、

    もうそろそろ
    「反戦!反戦!イラク戦争は最低だった!」
    みたいな風潮やめにしようぜ?な、みんな?

    みたいなアメリカの空気が受賞させたんじゃ無いか、
    そう思った。

    この映画は直接的にイラク戦争を
    否定していないように「一見」見えるし、
    かといって肯定しているようにも見えない。
    ただそこにあるのは兵士達のリアル。

    いや、でもちょっと待て。
    この映画の終盤、見ていて何かむずがゆい、
    気持ち悪いシーンがあった。

    ジェームズはその素晴らしい爆弾処理能力で
    数々の爆弾を処理し、多くの人命を救い、帰国する。
    そこに待っているのは嫁と赤ちゃん。

    そしてシーンはいかにもアメリカ的なでっかいスーパーに。
    ここでジェームズは、なぜか嫁さんと赤ちゃんと別々に
    でっかいカートを引いて買い物を始める。
    僕は最初、このシーンを見て「必要なのこのシーン?」
    と思ったが、嗚呼なるほど、
    命に危険をさらしたけど、無事帰国できて良かったね、
    ウォルマート的ないかにもアメリカの日常画で安心してね
    みたいな安価なメッセージなのかなと思った。

    いやちょっと待て。

    この後のシーンを見てこのちょっと待て感は確信に変わる。
    ジャームズは自分の赤ちゃんに向かって
    何とも親として夢も希望も無いことを言い放つ


    「僕の歳になると、びっくり箱が布と針金で
     できてるって分かってしまうんだ」。

    「年をひとつずつ取るごとに、大事なものが多くなって、
    "特別なもの"とは思えないものが出てくるんだ」。

    「そのうちに、ほんとに大好きなものが何かも忘れてしまう。」
    「君が僕の歳になったときには、
     父親のことも記憶の一片になってしまうんだよ」。


    赤ちゃんに何言い聞かせてんだよジェームズ!
    とか思い始めた僕は、ちょっと待てよ感の正体を知る。

    そう、つまりジェームズは、映画冒頭の

    War is a drug-戦争とは麻薬だ

    の言葉通り「戦争中毒者」なのだ。

    自分の赤ちゃんに言い聞かせたことは
    ジャーむず自身の話であって、
    彼は大人になって大切なものが分からなくなって、
    家族を一番大切だと理解しながらも
    結局爆弾処理班での成功の快感を忘れられず
    またあの危険な戦場に戻る。

    だから映画の終わりも、
    またジェームズがイラクに戻り、
    任務を開始するところで終わる。

    ここまで考えてみて、この映画は評価が難しい。
    やっぱり反戦反米映画なのか。

    ジャームズみたいな中毒者を生産するのは危険だぜ!
    的な反戦・反米メッセージなのか?
    いやでも、この映画はやっぱり何かが違う。
    その違和感は、
    この映画は反戦ではあるけど反米ではない
    その違和感じゃ無いのか?

    そもそもイラク戦争始めたのはアメリカなわけなんだけど、
    ここに描かれてる兵士達は、さっきも書いたように
    「戦争」中毒者であって、
    彼らの背景にあるモノは「戦争」だ。
    つまり「戦争」が彼らを中毒者にしてしまった。
    この映画はそういう描き方をしている。

    犯人は「アメリカ」ではないのだ。
    だから、アメリカってホント傲慢なクソッタレな国家!
    みたいなものは鑑賞後感じない。

    そういうヌルっと反米を取り除いた反戦映画が
    アカデミー賞をかっさらったということは、
    やっぱり最初持った感想の

    もうそろそろ
    「反戦!反戦!イラク戦争は最低だった!」
    みたいな風潮やめにしようぜ?な、みんな?

    みたいなアメリカの空気が受賞させたんじゃ無いか、

    っていうのは強ち間違っていなかったのかもしれない。
    アメリカ批判にアメリカ自信が疲れちゃって、
    でもやっぱりアメリカはいつでも「正義」であるべきだから

    「戦争は良くないよ!そうだろみんな?これを見ろよ!」
    「よくわかんない青いCG野郎に興奮してる場合じゃ無いよ!」

    みたいなことでアバター落選。
    そういう構図なんじゃ無いか。

    長くなったけど、そういう意味で
    「良い映画!」と手放しで拍手できない、
    が、しかし、こういう現代アメリカを非常に巧妙に
    暗喩的に画が切った映画という意味では評価は高い・・・
    やっぱり評価が難しいと言うことで、
    平均点より高い、
    でも合格には手が届かない70点としました。

  • ジェレミーレナーの出世作は見ておかないとと思いレンタル。
    戦争映画は好きだが、その中でも異質。
    爆弾処理班の緊迫感がすごい。カメラワーク・無音の映像に吸い込まれる。
    よくニュースで見る米兵死傷の現実を垣間見た気がする。
    命の危険と隣り合わせの兵士の苦悩。あっけなく散る命。
    そんな中でも、戦争という一種の麻薬に飲み込まれる兵士。
    観た人によって解釈や好みが分かれる映画だと思う。

  • イラク戦争の爆発物処理班のミッションを追う映画です。
    さすがというかなんというか…。
    数々の賞の受賞に恥じない、すごく良くできた映画。

    いっや~、衝撃的だった。
    この映画のスゴイところは「緊張感」でしょう。
    極度の緊張感・恐怖感から生まれる心理を「サスペンス」というのなら、この「ハート・ロッカー」のサスペンスは見事という他ない。

    それは物語始まってすぐ訪れます。
    冒頭15分、一触即発の爆発物処理シーン。
    ここでは咳払い一つ許されない、呼吸するのさえ忘れてしまう。
    「なんだよ、始まってすぐに、こんな緊張感なのかよ…」

    あまいあまい。
    まさかそんな緊張感が、この後2時間も続くんです!!
    これにはさすがに参った。
    こんな映画見たことない。

    特に中盤の戦闘シーンは手に汗握る。
    今までの映画だと、適当に銃をバンバン打ち合うだけ。
    この映画の場合は、一発一発に命の駆け引きがある。
    そればかりか、灼熱の太陽の中、体力と集中力を極限まで削られ、
    長期戦の攻防の中で、命の奪い合いをする。
    しかも「かけているモノ」は自分と仲間の命。
    相当なプレッシャーだろう。


    果たしてこれは映画なのか?
    むしろ僕はドキュメンタリーを見ているものだと勘違いしていました。

    もちろんこれはフィクションドラマです。
    ただこの死と隣り合わせの、息詰まる緊張感の毎日を送る彼らの姿がここまで現実味を帯びているのは、
    イラクで実際に爆発物処理班と行動を共にしたジャーナリスト、マーク・ポールの脚本によるものだからなのでしょう。

    それゆえこの映画は、映画でありつつも現実です。
    タイムリーな現実です。
    ですが多くの人は、この現実を「直視」したことはなかったはずです。
    ニュースの中で伝えられ、幾重にもフィルターがかけられることによって、「どこか遠くで起こっていることなのだろうなぁ」と思ってしまう。
    もしくは平穏無事な毎日を過ごすことで、イラク戦争なんて「架空の話」だと思っていたのかもしれません。

    だからこそ、この映画は衝撃的。
    今まで直視できなかった私たちに、
    「これが現実だ!目を向けろ!」と突き付けられているようだ。

    以上が称賛の感想。
    以下は若干の批判。

    上記のとおり、映画の内容を非常にリアリスティックに描くことによって、
    「これがイラク戦争の現実のすべてだ」と錯覚してしまう部分があります。
    しかし実際は、「ハート・ロッカー」に「描かれていないイラク戦争」だってたくさんある。
    アメリカの爆弾によって何万ものイラク人の命が奪われました。
    アメリカ軍のイラク人に対する残虐な事件についてだってあまり知られていません。
    またアメリカ人自身でさえも、戦争によって精神が壊れてしまう人が続出しています。

    つまり、やはり「ハート・ロッカー」も「アメリカ側の視点」でしかないのです。

    例えば、アメリカ軍兵士によるイラク人少女レイプ・殺人事件を題材にした「リダクテッド」という映画があります。
    これはアメリカ人にはひどく不評で、FOXニュースから上映禁止を呼び掛けられたほどです。
    やはり、彼らが「受け入れられる」映画は、彼らの希望もあるわけですから。

    アカデミー賞を受賞したキャスリン・ビグローは壇上で、
    「この賞を今もイラクに駐留する米軍兵士に捧げます」と言いました。
    捧げるのは「テロと果敢に戦う正義の兵士」か。
    「不条理な戦いに身を投じられ(といっても志願兵だけれども)、殺人を余儀なくされる兵士」にか。

    確かに「映画」は「映画」です。
    映画が世論に与える影響を考えると…なんて言い出すと、面白いドラマだって書けなくなる。
    ただ「映画を見る人」は、もっと広い視野で映画を見て、感じて、判断しなければならない。
    映画を「作る側の責任」以上に、「見る側の責任」も必要なのだと思います。

  • 爆発物処理班の話。最初からハラハラしっぱなしで心臓が痛かった。子供を使った人間爆弾の描写が生々しい。身一つで爆弾を処理するシーンは任務が過酷すぎて恐怖が麻痺してるんじゃないかと思った。命を懸けた危険できつい仕事だけどそれでも終わりはないんだなあという気の遠くなるようなラストだった

  • 戦線で淡々と爆弾処理の内容が繰り返される。
    その必然性を知って、ジェームスは任務に黙々と当たる。といった感じでしょうか。

  • 仲間で殴りあって強さを誇示するシーンと、銃撃戦や爆撃、どちらも暴力性を孕んでいながらも、感じる温度の違いがあった。
    ただ戦争は人を麻痺させる、麻薬みたいなものだと、かつ主人公には爆弾処理という才能があり、もう全てが狂っている。
    ただどれにも人間性は迷いこんでいる気がして、ただ淡々とした映画ではないような、こうして考えている内が…自分は守られて戦争には無縁だと思い込んでいる…客観性をあぶり出す、そんな映画でした。

  • イラクを舞台に,爆弾を処理するチームの話。
    様々なエピソードが盛り込まれ,物語は静かに進行していき,一見冗長に感じるが,実際はまるでその場にいるかのような緊迫感に襲われ,非常に楽しめた。

  • 爆弾処理のシーンは緊張感があってハラハラした。
    こんな現実があったなんて…

  • 【死の最前線にて】
    全身の力が抜けていくような緊張感・恐怖感に脱帽。この映画の完成度がどうとか、作法がどうとか、考えてる余裕すら与えてもらえなかった。紛争地域で日夜このようなことが繰り返されていると考えただけで寒気がする。これが米国側の視点なのは議論の余地も無いんだけれど、そういうことが問題じゃない。実際にこういう現場があることが問題だ。政治的思想などいささかも語られず、過酷な現場を、とある部隊の兵士たちの目線でまざまざと描ききったことは、かえって真に迫るものを感じさせた。反米思想や反戦思想でもって、この映画を批判するのはお門違いだろう。この映画で語られるありのままをもっと見た方が良い。底知れぬ闇の深さをひしひしと感じれるはずだ。

  • 随所にプロフェッショナルなセンスが光るさすがの良作。「アメリカ人が撮ったイラク戦争映画」という前情報がもたらす負の先入観は全くの杞憂であった。淡々と描いていながら、緊張感がすごいし、兵士それぞれのメンタリティーなんかもしっかり描かれていて、リアルで巧い。しかし観終わって何か残るものがあるかと言われると微妙。ただそれは、感動要素を盛り込むわけでもなく、思想的なメッセージを込めるわけでもない、ありのままを追求した戦争映画に対して、ただひたすらに客観的にしかなれない私のような観る側の責任でもあるのかもしれないが。

全323件中 1 - 10件を表示

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×