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- / ISBN・EAN: 4523215058438
感想・レビュー・書評
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久しぶりに本質をとらえる映画を見た。
落馬、転落死、畑荒らし、傷害、放火と不可解な事件が相次ぐ、言わば犯人不明のテロが連鎖する。誰もが疑心暗鬼になるが、誰も追及しない。
恐れているのは地位の低い者たちだけではない。男爵は逃避する。その場所がイタリアというのは、その後のムッソリーニとナチスとの連携を連想させる。
テロと言えば、ナチスも水晶の夜事件で放火という官製暴動を起こしたり国会議事堂放火事件を共産党弾圧に利用したりしている。
タイトルは、牧師が悪事をはたらいた自分の子どもたちに対し、純真さを失わないように付けさせたものだ。
男爵以上に牧師は権威主義的だった。リボンに飽き足らず、息子をベッドに縛り付ける。異常なのは明らかだが、本人は信念を曲げない。
映画はファシズムというより、ファシズムを生む土壌を描く。ファシズムへの過程を論じたエーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」はプロテスタント教会の個人の自由がいかにファシズムに変容したかを分析した。
自由というのは個人にとっては苦痛である場合もある。「自由からの逃走」は言わば権威主義への回帰と重なり、どっちつかずの中で人々の心は不安定化する。
それを象徴していたのが、鳥かごの中の鳥だろう。自由がない代わりに安定した場所を保証されている。牧師が飼う鳥は、結局、娘の「テロ」で殺される。それを知った末っ子は、自分が飼っている鳥を牧師にあげる。厳格な牧師が、この時だけ息子の優しさを素直に受け入れる。鳥かごの鳥は牧師の精神安定剤だった。
「白いリボン」の象徴は、そうした不安定化した人々の心を縛るもだ。牧師の自信満々の表情とは裏腹に、人への不信が表されている。
同じ権威側にいるはずのドクターも、裏では倫理とは縁遠い、娘と近親相姦を繰り返していた。村の権力者も、子供たちと同様、精神的に不安定で、自信を失っていた。
この映画の最大の謎は、語り部の教師だ。どちらかと言えば中立的で傍観者なのだが、事態を冷静に見過ぎている。
彼は仕立て屋の息子で、戦争が始まると兵役に就き、その後、仕立て屋になる。ヒトラーも一時仕立て屋の弟子になり、第一次大戦は兵役に就いている。そして、ヒトラーの愛人はエヴァで、教師の恋人の名前と同じだ。
教師は村で起きたことを一番冷静に見て人心の何たるかを学び、人心掌握術を会得した。それは、ナチスドイツの底流にあったそのもだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
何故この映画がモノクロームで撮られなければならなかったのか、その理由を考えさせられてしまった。それは恐らくこの映画が子どもたちがつけさせられる、「白いリボン」に象徴される「無垢」を際立たせるためではないかと思ったのだ。詳しく書くとネタを割るが、この作品では結局のところ真相は「グレーゾーン」で終わる。語り部が「グレー」の服を着ていること、あと教会に集まった大人たちが「黒」い服を着ていることに注意しよう。それは欺瞞に満ちた大人たちの「嘘」を指弾しているのであり、子どもたちは「白」い服を着させられているからこそ「無垢」なのだということではないか。「無垢」なのに、ではない。「無垢」だからこそ……これ以上は流石に書けない。ロングショットで撮られたキャベツ畑や雪原、草原の持つ「白」さを際立たせており、映像美は優れている。サスペンスとしては『隠された記憶』にやや劣ると考えたのでこの点数に。
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この監督、一部にコアなファンがいるみたいだけど、独特の雰囲気で(モノクロームで絶えず不穏な空気が漂っている)
冒頭のドクターが針金を張られて落馬し大怪我をしたところから引き込まれて最後まで観たけど、とにかくまともな大人は誰もいない。唯一語り手の教師とその彼女くらいか。
次々、悲惨な事件が起きるけど誰の仕業か最後まではっきりしない。
いろいろ解説読んで、あの白いリボン(無垢で純粋の象徴)を巻かれた暴力的な牧師の子どもたちだったよう。
(キャベツ荒らし、小作人の妻の死は除く)
暴力、階級差別、性的虐待、抑圧、とにかく不条理の悪がてんこ盛り。
こののちドイツはナチへとつきすすんでいくわけだけど、
この小さな村の出来事が示すように、その芽はすでにあったんだろなと思わせる。
後味はけして良くない、でも考えさせられる映画だった。
The White Ribbon 2009年 144分 オーストリア 独 仏 伊
スターチャンネル
監督 : ミヒャエル・ハネケ
出演 : クリスチャン・フリーデル レオニー・ベネシュ ウルリッヒ・トゥクール ブルクハルト・クラウスナー ヨーゼフ・ビアビヒラー ライナー・ボック スザンヌ・ロタール ブランコ・サマロフスキー
美しい村、静かな暮らし、聴こえてくる魔物の足音。 -
2009
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え…なんだろうこれ、不穏な空気のまま犯人は見つからず未解決のまま映画が終わる。ファシズムを生む土壌、が描かれているというけどそんな極端な表現があるわけでもない。
もちろん牧師が娘や息子に無垢であることを強要し、自分の愛玩していた小鳥を殺されていたことを棚に上げて告発する教師を非難する歪さや、ドクターの近親相姦や助産師に対するひどい態度など、強権的な男性を描いてはいるけれど、戦争を生むまでだろうか?
淡々とした語り口がなんとも薄気味悪い映画。