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- / ISBN・EAN: 4522178009341
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公式サイト:http://www.sumomo.co.jp/
原題でもある作品タイトルの「預言者」は、聖書と関わる信仰をもつ人にある種の理解と期待感を抱かされる。そうした正攻法の作品とは異なり、一般社会で犯罪を犯した様々な人種、独自の倫理観に生きる人々の更生施設・刑務所内での凄まじい生き様がテーマになっている。だが、脚本家でもあるジャック・オディアール監督は、犯罪者の集まりであるプリズン・ドラマをリアルに描くことによって、正義がそのまま通らないこの社会を生きる者の姿を逆説的に描いていく。
傷害罪で6年禁固刑を受けて刑務所に送られてきた19歳のアラブ系青年マリク(タハール・ラヒム)。刑務所の所長や看守たちを裏で牛耳っているコルシカ・マフィアのボス、セザール(ニエル・アレストリュプ)は、新参者のマリクに目をつけ、仲間を売ったアラブ系のレイェブ(ヒシャーム・ヤクビ)を殺すように命じる。断れば、話しを聞いた以上「俺がお前を殺す」とダメ押しするセザール。人を殺すことの慄きながらも結局セザールの手下の手引きでレイェブを殺害したマリクは、コルシカ系の手下たちからアラブ系と侮られながらもセザールの世話係をしながらセザールの信頼を得ていく。
だが、レイェブを殺害した夜からマリクはレイェブの幻を身近に感じるようになる。不思議なことに呪われているというよりは、マリクに様々な助言をする。11歳まで学校には行っていたが、ほとんど読み書きのできないマリクに「刑務所にいる間に語学を習え」「経済学の教習を受けろ」と教える。刑務所内での生き方もことあるごとに助言する。その教導に素直に従い、成長していくマリク。やがて、セザールの計らいで配ぜん係に取立てられ、受刑者らからの信頼を得ていくマリクに、ある日セザールは外出日を取らせて抗争の仲介役を務めさせる。その機を利用してアラブ系のリーダーから頼まれた麻薬の売りさばきを、出所しているリヤド(アデル・ベンチェリフ)にその準備を進めさせる如才なさも見せるマリク。セザールの指示に従いながらも、自分の夢を持ち続けその実現を目指そうとするマリクだが。。。
毎夜のように、どこからともなく聞くに堪えない悲痛なうめき声が聞こえてくる。就労訓練中でもリンチが行われ、それを見て見ぬふりをする受刑者たち。対立するコルシカ系とアラブ系の勢力構図の微妙な変化など刑務所内の怖さがリアルに伝わってくる。刑務所の外でも、単なるメッセンジャーボーイではなく、常に命がけのやり取りがあり、その抗争シーンもリアルに演出していく。そうした映画の娯楽性の演出の素晴らしさと共に、マリクが身近にレイェブの存在を感じながら、その教導を信じて成長していく設定は興味深い。人間の存在を超えた霊的なものの存在。刑務所に入所した当初は、無口で人を信じようとせず、仲間も作ろうとしなかったマリク。日々なにが起こるか分からない恐怖感を抱きながら、孤独に生き続けることは難しい。
悪と罪のはびこる刑務所を描いていても、普通の社会にも通じるものを強く思わされる作品。人は、人格的な霊的存在に信頼して生きるとき、この世で最も弱く見えても強い存在者であるのだろう。ラストシーンに感じさせられるある種のさわやかさから、そのようなメッセージを想わされる。 -
フランスの刑務所に、コルシカ人とアラブ人の2大勢力があって、アラブ人でありながらコルシカ語を話す若者がのしあがっていく、という基本的な骨格が、まず面白い。
最近の移民であるアラブ人たちの数がいくら多くても、コルシア・マフィアのドンは長年にわたって看守を手なずけ、刑務所を実効的に支配しているが、政治犯の島外収監政策が見直されたのをきっかけに、しだいに影響力を失って焦りはじめる。一方で、「アラブ人」と呼ばれている中東やアフリカのイスラム教徒たちは、着実に塀の外で勢力をのばしつつある。
このパワーダイナミズムの変動のなかで、主人公が自ら能動的に仕掛けるのは、ほんとに最後になってから。後ろ盾をもたないトロくさいアウトサイダーが、権力者の「梃子」として利用されることにより、逆に権力の結節点となって力を操るようになっていく過程が、たいへんに面白い。
しかしこの映画のもっとも魅力的な部分は、主人公と彼がはじめて殺した男との親密な関係だ。自分を殺した男を、セクシュアルな愛情をこめたまなざしでみつめ、首の傷からふーっと煙を吐く死んだ男。主人公はこの死者の加護を受けてか、預言者めいた力を得ることになるが、それは主人公が犯罪者として成長したときに失われてしまったのだろうか。長すぎるし、いまいちよくわかんないところも多い映画だが、鹿をはねるところとか、魅力的なシーンが多くて印象に残る。