2012年6月号の目次
太陽嵐の衝撃
太陽から爆発的に放出された電磁波や粒子が地球を襲う「太陽嵐」。太陽活動が極大期を迎える2013年、巨大な嵐が地球を襲うことになるのだろうか?
文=ティモシー・フェリス
太陽は現在、活動が活発になる極大期に入っている。研究者たちは、今後数年間で、地球規模の大停電を引き起こす太陽嵐が襲ってくる可能性があると指摘。現代社会は電気への依存度が高く、さらには宇宙空間にある人工衛星などのテクノロジーも広く利用されているため、極めて厳しい状況になると予測される。太陽嵐のメカニズムを解説するとともに、その影響を考える。
編集者から
今年の3月、「東京にもオーロラが出るかもしれない」というニュースが飛び交いました。このオーロラの出現こそ、太陽嵐が地球に向かって吹いている証拠。実は私も「日本にいながら見られるなんてラッキー!」なんて気楽に考えていたのですが、それってとんでもない事態と背中合わせだったのです。続きは本編でどうぞ!(編集H.O)
参考資料:
『トコトンやさしい太陽の本』山﨑 耕造 著 日刊工業新聞社
『太陽と地球のふしぎな関係』上出 洋介 著 講談社
摩訶不思議なソコトラ島
イエメン沖のインド洋に浮かぶソコトラ島。独自の進化を遂げた動植物の楽園に、開発の波が迫る。
文=メル・ホワイト 写真=マーク・W・モフェット、マイケル・メルフォード
インド洋に浮かぶイエメンのソコトラ島には、どこか現実離れした、摩訶不思議な景観が広がっている。“おちょこ”になった傘のようなリュウケツジュ(竜血樹)の森、この島にしかいないカメレオン、洞窟の水中に暮らすエビ……隔絶された厳しい自然環境が1000種を超す固有種をはぐくみ、世界屈指の生物多様性の宝庫となっている。
希少な動植物が織りなす特異な生態系は、島人たちの伝統的な暮らしによって守られてきた。だが、ここ10数年で空港や道路の整備が進むとともに、外国人観光客が急増。自然環境の破壊が懸念されている。
編集者から
インド洋のガラパゴス、異世界、魔境などと称されるソコトラ島の植生は、本当に不思議でなりません。タイトルページを飾るリュウケツジュの木は、島の奇妙な木の代表格ですが、ウリ科に属する唯一の木というデンドロシキオスもなかなかの珍品です。ずんぐりとした幹のてっぺんにモップのような枝葉が垂れ下がる様子は、ドレッドヘアのようにも見えます。ほかにも、球根から枝が伸びているかのようなドルステニア・ギガスなど、挙げればきりがありません。一生に一度、いつか訪れてみたい場所が増えました。(編集M.N)
色鮮やかな兵馬俑
秦の始皇帝を守るために葬られた軍隊や馬の陶像が2200年の時を超えて、色鮮やかによみがえった。
文=ブルック・ラーマー 写真=O・ルイス・マザテンタ
紀元前3世紀、史上初めて中国大陸の統一を果たした秦の始皇帝。死後の世界で皇帝を守るため、その墓の近くに葬られたのが兵馬俑(へいばよう)だ。
兵馬俑は兵士や馬をかたどった素焼きの像で、今でこそ色あせて茶色く沈んだ姿をしているが、作られた当時は極彩色だったことが判明。さらに、青銅でできた本物の武器まで携えていた。発掘調査の成果を踏まえ、推定6000体に及ぶ大軍勢の全体像を、初めてカラーで精緻に再現。2200年の時を超えて、色鮮やかによみがえらせる。
編集者から
赤、青、緑、紫と、派手な原色に彩られた兵士の大軍は必見。見開き4ページの大迫力でお届けするCGの再現イメージから、作られた当時の壮麗な世界観が想像できます。おもしろかったのは、白い顔料に用いたのが高温で焼いた骨だということ。また、盾や太鼓に描かれていた繊細な模様がそっくりそのまま地面に転写されて残っているケースが多いことから、最近は地面ごと保存する試みが進んでいるそうです。(編集M.N)
香港 忍び寄る中国の影
中国に返還されて15年。本土への経済依存が強まるなか、活況に沸いた自由の都はどこへ向かうのか。
文=マイケル・パタニティ 写真=マーク・レオン
南シナ海沿岸で、ひときわ華やかな輝きを放つ大都市、香港。高層建築の数は世界の都市の中で最も多く、118階建てのビルをはじめとする超高層ビルが、わずかな平地に林立する。かつての漁村は、海賊の拠点へと変わり、英国の植民地時代を経て、1997年7月1日に中国の特別行政区となった。それから15年が経った今、香港は中国本土から大きな重圧を受けて、再び変容しようとしている。
雑居ビルの重慶大厦(チョンキンマンション)で商売をする不法入国者、大都会の片隅で男たちの欲望を満たす売春婦、北京の中央政府に抗議しようとビクトリア公園に集まったデモの参加者たち、そして、繁華街で高級ブランド品を買いあさる中国本土の人々……。
本土への経済依存が強まる自由の都で、人々はどんな思いを抱きながら暮らしているのか。そして、アジア経済の一大拠点として活況に沸いた都市は、どこへ向かおうとしているのだろうか。
編集者から
何とも訳しにくい英語だ――。翻訳者も私も原文を読んで頭を抱えました。たとえば以下の1文。
"Hong Kong is a floating city: It floats between worlds, on fluctuating currency exchange rates and IPOs, real estate speculation, and the yuan of Chinese mainlanders, who come in droves on a wave of new wealth."
皆さんならどう訳しますか? 本誌でどう訳したかは、6月号82ページの冒頭部分でご確認ください。
原文が訳しにくいとはいえ、できるだけ読みやすい訳文にするのが私たちの務め。不法入国者や売春婦を取材した渾身のルポルタージュを堪能してもらえるよう全力を尽くしました。アジアの社会派ドキュメンタリーを得意とする写真家マーク・レオンの写真も必見です。(編集T.F)
参考資料
1997年3月号「秒読みの香港返還」
愛しきフクロウ
森での出会いから3年にわたって、エストニア人写真家が撮り続けた1羽の雌フクロウの記録。
文=アマンダ・フィーグル 写真=スベン・ザチェック
エストニアの写真家スベン・ザチェックが、森で出会った一羽の雌フクロウに一目ぼれ。初めは警戒していたフクロウも、ある日を境に心を開いていく。だが、別れは突然やってくる……。ザチェックが3年にわたって撮り続けたフクロウの写真からは、人間と動物の関係を超えた、深い愛情が伝わってくる。
編集者から
ハリー・ポッター人気で、一時は「ペットにしたい動物」ナンバー1にまでなったフクロウ。かわいい顔をしていますが、気性は激しいのだとか。でも、人間が一目ぼれしてしまう確率は結構高いようです。ナショナル ジオグラフィックの書籍『フクロウからのプロポーズ』も、そんなフクロウと一緒に暮らした女性のお話。この特集でフクロウに興味を持ったらぜひご一読を。(編集H.O)
風と砂の海辺
米国東海岸、細長い砂の島々が連なるアウターバンクス。その魅力を本誌のベテラン写真家が語る。
文・写真=デビッド・アラン・ハーベイ
ノースカロライナ州のアウターバンクスは、大西洋沿岸に細長い砂の島が延々と連なる砂州。ライト兄弟が初の有人動力飛行の場所として選んだほどの強風地帯で、数年ごとに大型のハリケーンに襲われ、風と波の作用で島は日々刻々と形を変える。
自然災害が絶えず、いつ消えてなくなるともしれない砂の島だが、アウターバンクスに心惹かれる人は少なくない。毎年、多くの人々が煩わしい日常から逃れようとこの地を訪れて、夏を気ままに過ごす。
少年のころからアウターバンクスに魅了され、数年前にはこの地に家を購入した本誌のベテラン写真家デビッド・アラン・ハーベイが、心のふるさとへの思いをつづる。
編集者から
自然災害が絶えない砂の島になぜ暮らすのか? 「ハリケーンが来ないときのアウターバンクスほど、ぬくもりに満ち、幸福に暮らせる土地はないから」と、文と写真を担当したデビッド・アラン・ハーベイは書いています。「アウターバンクスは、ここが地上で最も美しい海辺だということ以外、すべてを忘れさせてくれる場所」――そんなふうに思える心のふるさとがあるって、素敵なことですね。(編集T.F)