NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2012年 10月号 [雑誌]

制作 : ナショナル ジオグラフィック 
  • 日経ナショナルジオグラフィック社
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感想・レビュー・書評

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  • 2012年10月号の目次
    象牙と信仰

    密輸され、聖像や仏像に姿を変える象牙。フィリピンやタイ、中国でその実態に迫った。

    文=ブライアン・クリスティ 写真=ブレント・スタートン

     1989年にワシントン条約で国際取引が禁止されて以降も、違法な取引が絶えない象牙。毎年アフリカでは象牙目当ての密猟によってゾウが殺され、その数は数万頭にものぼる。象牙はアジアに密輸され、多くが宗教に使われている。

     フィリピンでは「サント・ニーニョ・デ・セブ(セブ島の幼きイエス)」と呼ばれる聖像に象牙が使われ、タイでは市民が身に着けているお守りのなかに象牙製のものがある。経済成長の続く中国では、象牙でできた仏像や工芸品を買い求める人々が増え、象牙市場は成長の一途をたどりそうだ。今や違法象牙の最大の買い手が中国だというのは、誰もが認めている。

     ワシントン条約事務局は、1999年には日本に、2008年には日本と中国に、南部アフリカ諸国からの象牙の輸入を一時的に認めた。こうした合法的な売却のあと、象牙の違法取引が活発になったと訴える国際NGOもある。

     人はなぜ象牙を追い求めるのか。象牙の禁輸後も、密猟で殺されるゾウが後を絶たないのはなぜか。象牙と信仰の語られざる真実に迫る。
    編集者から

     本誌はこれまで2007年3月号「滅びゆくゾウの王国」などでゾウの密猟の実態を伝えてきましたが、今回の特集では、そうして採取された象牙を消費している国にスポットを当てました。

     東南アジアや中国で違法取引の実態を探ったのは、2010年1月号「売られる野生動物」でミステリー小説のようなハラハラドキドキのルポを執筆したブライアン・クリスティ。聖職者や僧侶に密輸テクニックを語らせる手腕はさすがです。2012年3月号「サイの悲鳴」で世界報道写真コンテストに入賞したブレント・スタートンの写真も必見。(編集T.F)

    生命躍る中米の青い海

    世界で2番目の規模を誇る大サンゴ礁地帯、メソアメリカン・リーフの多彩な生態系を訪れる。

    文=ケネス・ブラウワー 写真=ブライアン・スケリー

     メキシコ、ベリーズ、グアテマラ、ホンジュラスの沿岸に広がるメソアメリカン・リーフ。オーストラリアのグレート・バリア・リーフに続く、世界第2位の規模を誇るこの大サンゴ礁地帯では、さまざまな生態系が互いに支えあいながら、多彩な生命を育んでいる。
    編集者から

     中米の海というと、日本人にはいま一つ、なじみが薄い場所かもしれませんね。新婚旅行といえばハワイ、グアムが全盛だったウン十年前、常に時代の最先端を走る職場のお姉様が「絶対カンクンよ!」と息巻き、われわれ下っ端女子の頭に「?」がいっぱい浮かんだことを思い出しました。結局、私の新婚旅行は伊豆の温泉宿1泊で終わってしまいましたが、お時間のある方はぜひ、足をのばしてみてくださいませ。(編集H.O)

    リオ 変化の予感

    4年後のオリンピック開催に向け、ブラジル第2の都市リオデジャネイロが変わろうとしている。

    文=アントニオ・ヘガラード 写真=デビッド・アラン・ハーベイ

     ブラジル第2の都市、リオデジャネイロ。コパカバーナの砂浜と華麗なカーニバル、アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲「イパネマの娘」など、魅惑的で官能的な「麗しの都市」のイメージを持つ一方で、深刻な問題を抱えてきた。その一つが、市内の丘に点在する「ファベーラ」と呼ばれるスラム街だ。麻薬の売買が公然と行われ、暴力が支配する闇の街に、当局は長年、決定的な解決策を見いだせずにいた。

     しかし今、その闇に希望の光が差し始めている。2年後のサッカー・ワールドカップと4年後のオリンピック開催に向け、スラムの治安を回復させる計画が本格化しているのだ。治安維持部隊が常駐するようになった各地のスラムでは、暴力組織が影を潜めた。また、インフラ整備などの公共事業で、少しずつではあるものの、スラムの生活環境も改善されつつある。とはいえ、住民たちには不安もある。オリンピックが終わっても、当局はファベーラの治安維持と環境改善に取り組んでくれるのだろうか? リオを、希望と不安が包んでいる。

    訂正
     10月号「リオ 変化の予感」本誌101ページ下に掲載した写真の説明文に誤りがありました。「コパカバーナ海岸の物売りは奇抜なアクセサリーをはじめ、ありとあらゆるものを売る」とすべきところを、別の写真の説明文を掲載してしまいました。お詫びして訂正いたします。
    編集者から

     ボサノヴァを聴きながら、この特集を編集しました。訪れたことのないリオの雰囲気を少しでも感じてみたいと思ったからです。ボサノヴァのリズムはとても穏やかで、オフィスの堅い椅子で仕事をしていても、居心地の良いソファに座っているような気分にしてくれます。しかし、特集に描かれるリオの現実はそんな生易しいものではありません。麻薬と暴力に支配され続けてきたファベーラとそこに生きる人たちの現実です。オリンピックというイベントを機に、この絶望の街に希望が訪れることを願います。(S.O)

    進化の結晶 素晴らしき葉

    身の回りにある多彩な葉っぱたち。どれも長い歳月をかけて巧みに進化してきた芸術作品だ。

    文=ロブ・ダン

     どこにでも目にする、人間にとって身近な存在である木や草花の葉。だが、よく観察してみると、その姿は実に多彩だ。自然が生み出した一流のアート“葉っぱ”は、長い年月をかけて進化したものだった。
    編集者から

     近所のお宅の庭から、夏みかんの木をいただきました。付いていた葉っぱはわずか4枚。根づくのを祈りながら大きな鉢に入れて外で日に当てていたら、なんと蝶々の卵が孵化。大きなアオムシに、ほぼ3日で葉っぱを食べ尽くされてしまいました。木と蝶々、どちらの命を優先すべきか、日々葛藤しています。(編集H.O)

    ムスタン王国 謎の洞窟群

    かつてネパール北部に栄えたムスタン王国。断崖に築かれた洞窟群の謎がいま解き明かされる。

    文=マイケル・フィンケル 写真=コーリー・リチャーズ

     ネパール北端のはるかな辺境、ムスタン郡。ヒマラヤ山脈の山々や渓谷に囲まれたこの地へ赴いた調査隊が目にしたものは、高さ6メートルの巨岩の上に鎮座した人間の頭蓋骨だった。岩の背後にそびえる崖を見上げると、小さな洞窟が並んでいる。その中には、いったい何があるのだろうか――。

     「禁断の王国」とも呼ばれたムスタン王国がかつて栄えたこの地には、険しい岩壁に、無数の洞窟が掘られている。ぽつんと一つ離れたものもあれば、上下に何層にも重なった迷宮のような洞窟もある。到達困難な崖に点在する洞窟群が秘める謎に、名うての登山家と考古学者らのチームが挑む。
    編集者から

     まるで天空に浮かんでいるような洞窟群の写真も必見ですが、ほかにも意外な驚きがありました。特集内では触れていませんが、ムスタン王国は実は2008年までネパール領の自治王国として存続していたそうです。しかも1992年まで外国人の立ち入りを禁じる鎖国状態だったため、今も古いチベット文化が色濃く残っています。まさに秘境と呼ぶにふさわしい、こんな場所がまだあったんだなぁと、新鮮に感じました。(編集M.N)

    北欧 廃屋の動物たち

    フィンランドの小さな村の廃屋にすみ着いた愛らしい動物たちを、アマチュア写真家がとらえた。

    文=キャロリン・バトラー 写真=カイ・ファガーストロム

     フィンランドの人里離れた小さな村にひっそりとたたずむ、数軒の小さな家。住む人がいなくなった廃屋は、やがてガラスが割れ、ドアが破れ、徐々に自然に帰っていくようだ。そんな家々に、いつのまにか野生動物がすみ着いた。キツネ、リス、アナグマ、ネズミ、フクロウ――動物たちの愛らしい姿を、アマチュア写真家が10年がかりの撮影でとらえた。
    編集者から

     猫用の出入り口から顔をのぞかせる子ギツネに、ヨーロッパヤチネズミを見つめる写真家の愛犬……とにかく動物たちがかわいくて、ほっとする記事です。空き家にいる姿にはとても親近感が湧きますが、野生動物には変わりないので、写真に収めるのは大変そうです。警戒心の強いアナグマの撮影に成功するのに4年もかかったとか。(編集M.N)

  • 一番面白かった記事は「ムスタン王国 天空の洞窟群」。

    約700年前、ネパールで栄えたムスタン王国。
    チベットの岩塩をインド亜大陸へ運ぶ交易ルートだったらしい。

    何故こんな絶壁に村が築かれたのか?
    洞窟内で見つかったミイラ(こちらは2000年前のもの)、
    遺骨に残された刃物の傷…(鳥葬?)

    ムスタンの洞窟群にはまだまだ謎が多く、新たな発見が楽しみです。

    「北欧の森 廃屋の動物たち」の写真は、本当に癒されました!!

    フィンランドの廃屋に住み着いた野生の動物達。
    納屋の穴からひょっこり顔を覗かせた子ぎつね、なんて可愛いの~^^

  • 10月号は、ナショナルジオグラフィックらしい「魅せる」写真が多かった。
    印象に残った記事は次の3つ。

    ・パラレリズモ 記憶の中の町並み
    「パラレリズモ」というのはイタリア語で「平行の関係」という意味の言葉。
    平行移動しながら建物ごとに撮った何枚もの写真をデジタル処理で形を整えて組み合わせた写真。ひらたく言えば「パノラマ写真」
    絵巻物の写真版、といった感じが面白い。

    イタリアの街並みと京都の町屋の写真が並んでいたのだが、どこか共通した雰囲気を漂わせているのが不思議な感じがした。

    ・象牙と信仰
    「宗教」を隠れ蓑にした象牙取引を追った記事。
    チェスの駒にする象牙なら密輸品かどうか念入りに調べられるが、宗教的な用途なら出所が問われることはない、という「抜け道」を利用した象牙取引の闇。
    この手の問題は「需要」があるのが問題なのか、「供給」する側が問題なのか、容易に解決できないものだけに重い内容だった。

    「密輸は防げても、死んだゾウは生き返らない」
    という一文がグサッと突き刺さる。

    ・北欧 廃屋の動物たち
    フィンランドの人里離れた村に点在する無人の家に集まる動物たちの写真。
    人が住まなくなった家は動物たちの格好の避難場所になっているようだ。

    記事の扉で壁の穴から中を覗きこむ子ギツネの写真は、ほとんどメルヘンの世界だった。

  • 特集
    「象牙と信仰」
    「生命躍る中米の青い海」
    「リオ 変化の予感」
    「進化の結晶 素晴らしき葉」
    「ムスタン 謎の洞窟群」
    「北欧 廃屋の動物たち」

    定期購読を始めて約三年。古今東西のさまざまな話題をとりあげてくれるこの雑誌は、ネットやテレビにはない価値がある。
    来年からもまた三年間購読する予定。

  • 象牙の記事と廃屋の動物たちの記事がとてもよかった。後者は特に写真が素晴らしい。

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