砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 題名と表紙のデザインに惹かれて読み始めたら最後、美しくも悲しい青春恋愛。
    けれど読み終わった後、気持ちが暗くなる人多いかもしれないです。

  • アニメやライトノベル系のティーン向けの軽いタッチの中二病ミステリーかと思いきや、しっかり芯があって重い。

    虐待、引きこもり、ヤングケアラー、貧窮による進路問題、イジメの始まりなど、一部のティーンだけが抱え込む問題。(当事者にとっては生き残りをかけた戦場)

    中途半端に大人であるけれど、まだまだ子供であり、戦おうにも、架空の銃に装填できるのは実弾ではなく、ただの砂糖菓子程度の威力でしかなく、あまりにも無力で打破力のないもどかしさ。

    暴力的で救いようのない悲劇でありながらも、どことなく救いもあるような、浄化作用もある不思議な作品。
    それは、悲劇(暴力)に「終わり」があるからなんだろうか。
    そうなんだとしたら、とても切ないわけなんだけど。

    海野藻屑にとって、山田なぎさが、色眼鏡越しではなく、「本当の自分」に「気付いてくれた」こと。
    そしてそれについて誰かを「善悪でジャッジしなかった」ことだと信じたい。(父親の件、うさぎの件)
    「理解」と「寄り添い」。
    「救い」ってそういうものだと思う。
    「解決」や「裁き」ではないのだ。

    海野藻屑が発する比喩的な発言も、掘り下げるとひとつひとつが深い。

    「好きって、絶望だよね」
    「こんな人生は全部、嘘だって。嘘だから、平気だって。」

    母親はネグレストで、大好きな父親から日常的に虐待を受けて育った海野藻屑は、そうやって現実逃避して、嘘をまとって生きるしか方法はなかったのだと。

    自分は人魚なのだ(だから歩き辛いのだ)と言い聞かせて、人間界にちょっと遊びに来ただけなのだと、いずれここを去るのだと信じて、この世界で生き延びることをすでに諦めていた。

    面白い小説って、最初の数行でその手応えを感じるし、一気に惹き込まれる。
    桜庭一樹さんの作品は何冊も読んでいるけれど、その世界へ惹き込む引力がズバ抜けてすごいと思う。

    同じ日本語なのに、同じような文章のはずなのに、「四国の片田舎に風変わりな転校生がやってくる」ストーリーってよくありがちな設定で、何処にでもある始まり方なのに、一体何の手法が違うのだろう。

    それから、小説を読んでいて、頭の中で描かれれる映像が、作品によって、実写化とアニメ化にパックリと分かれるのも不思議。
    (「私の男」は実写化、この作品は完全にアニメ化)
    この作品は、冒頭の数行で即脳内で、アニメ化されたのだけど、同じ人間が描く文章に、そんな力も備わっているのかと本当にびっくりさせられる。

    脳内でアニメ化されることによって、非現実効果が生まれるのだ。
    「こんな人生は全部、嘘だって。嘘だから、平気だって。」
    リアルに悩む被害者も読めれるようにアニメ化している。
    桜庭一樹さん、すごくないですか?????

    ストックホルム症候群という、閉鎖された空間で生まれる人間の心理であったり、異常者を確かめるための心理テストだったり、そういった一般人にも納得がいくような、分かりやすい知識の豊富さを要所要所で盛り込んでいるのも素晴らしい。

    自分が子供であった事を証明できるのは、自分の記憶力だけだが、それもやがて夢の世界や、無意識の闇の中に沈んでしまう。

    子供は皆兵士で、この世は生き残りゲームで、そして生き残った子供だけが大人になる。
    大人になった子供はリアリストになり、リアリストだけが夢を見る。
    記憶の闇を探ることができる。
    私はついうっかり、この世から消えてしまいそうな気持ちになることがある。
    だから砂糖菓子の弾丸を持つテロリストなのかもしれない。

    比喩も言い回しのチョイスも本当に素晴らしい。拍手。

  • 「好きって絶望だよね」

    幸せは、麻酔のようなもの。
    幸せは、切れると酷く痛い。
    幸せは、自分にだけ効く薬。

    幸せは、砂糖菓子の弾丸だ。

    甘い香りに鼻腔を酔わせ、
    弾を込めたら、ぶっ放せ。

    きっと、標的にも幸せが届く。

    きっと。

    /////

    なぎさと藻屑、二人の強さと弱さ。「天気予報に無い嵐」の恐ろしさ。幸と不幸は人によって見え方が変わるという不思議と理不尽。大人が取れる選択肢の少なさ。希望とその反対…

    心がしんしんと打ちひしがれる、甘さ控えめの傑作でした!

  • 中学生の頃に読んで以来の再読。
    ここまで辛い経験はなかなかないけど、子供から大人になる過程は誰でも経験するもので、それは等しく喪失感を伴うものなんじゃないかな?生きるというのは失うということ。そんな感じがした。

  • 薄くて半日あればすぐ読めるのでオススメ。
    何度も読んで泣いた青春の塊。あの頃のキラキラを思い出したい時、忘れた頃にまた手にしてしまう。大切な一冊です。

  • 友人に薦められて初の桜庭一樹さん。
    「私達は13歳」「子どもに必要なのは安心だ」
    虐待や引きこもり、ヤングケアラー…などの社会問題を扱った内容。
    それぞれの家庭内でしか分からない問題を13歳の視点で一生懸命考えてもがく主人公がやるせない。初めは兄に対して悪い印象だったが、妹のために外に出る決意をして嘔吐するシーンや終盤に兄が警察と話す場面は担任が言っていたことそのままで、応援したくなった。その後、自立に向けて変わった兄。そこだけは藻屑がなぎさを救ってくれたと思いたい。

  • ※作品のネタバレを含みます。各自で自衛願います※


    まず念頭に置いていただきたいのは、自分は虐待児として育った。それゆえに虐待やいじめに関する本は厳しい評価を下しがちであるとご留意いただきたい。

    さて鬱本として名高いこの作品だが、自分の感想は「読んだ後に何も残らない本」。敢えて探せば胸くそ悪さが残るのかもしれないが、実際に虐待受けてきた人間からすると「ふーん」で終わる。作中に登場する虐待児に共感する点がないからだ。

    一般家庭で育った人物が「虐待ってこんな感じだろう」と想像して書いた本にしかみえない。虐待部分に関する記述はふわふわ。虐待児の思考や行動も、そうかぁ?と首を捻ること多数。もちろん自分の経験が全ての虐待児に当てはまるとは考えていないが、命の危険を感じるほどの折檻を受けている子どもが友人になりたい子に対して攻撃的になるか?自分がやられて嫌なことを好意を抱く相手にやるか?と考えると、甚だ疑問。しかも園児や小学生ではない。中学生なのだ。


    戦争を経験していない人間が、想像で戦争物の小説を書いたとしよう。実際に戦争を経験した者がその小説を読んでどう感じるか。しらける、むなしい、やってられない。そんな感想を抱くのではないだろうか。
    私もまさに同じ気持ちだ。

  • 随分とグロテスクな内容ではあるけど、とは言えこれは青春小説だし、百合小説だ。
    花とアリス殺人事件なんかを思い出す。

    山田なぎさを主人公とする一人称小説で描かれる。一方でこんなに酷い目にあう藻屑は所詮脇役でサブヒロインにすぎない。だって、真のヒロインは死んだりしないから。ましてや冒頭1ページ目に、結末を書いたりしないから。そう考えると虐待に遭ってることも、上手く走れないことも、嘘ばっかりついて人の気を引いちゃう性格なことも、結末のための補強でしかなくて物語の主軸はそこではないことがわかる。主軸とは必要があって差し込むものではなくて、必要もないのに、作者がどうしても主張したくて無理やり強引に差し込むものだから。こんなに強いキャラを脇役にしてまで描きたいことは実は本当に細やかなことでしかない、言うまでもなく山田なぎさが上手に生き抜いて高校に通えるようになる、それだけだ。上手に生き抜いてそれを当たり前にやってこれた大人たちは、それが何?と思ってしまう。だからやっぱり、このお話って青春小説なんだ。山田なぎさからすれば、このことが本当に実弾を手に入れることなんだと、そう考えると面白いし、作者の性格の悪さが窺い知れる。

    字下げの段落はどうやら、山田なぎさと、思い出の中の兄との会話であるらしい。思い出の兄は二度もストックホルム症候群について言う。そしてついに山田なぎさは「誰のことか分かった」という。もちろん一人は藻屑のことだ。でもそれだけだとすると、あまりにつまらない。そんなことは言われなても皆んな分かってるから。
    そこでようやく、この構図に気がつく。藻屑とは山田なぎさを取り巻く環境を大袈裟に増幅させた存在にすぎない。山田なぎさの中にだけ存在する架空の少女だとしてもよい。だから藻屑に関してはどれだけファンタジーに描いても本当はいいんだ。それはともかく。藻屑にとっての父親が、山田なぎさにとっての兄に相当する。縛られる対象であって信仰する対象だから。藻屑にとっての死が、山田なぎさにとっての自衛隊入隊だということになる。そのことに自分で気づけたからこそ、文字で書くべき発見であったし、その会話の相手は思い出の中の兄である必要があった。

    この構図を念頭に入れてからもう一度読み直すと面白い。
    ファンタジーが嫌いでなければ、山田なぎさが、実弾を手に入れるべく悩み抜いて三ヶ月考えついた結果想像を具現化させてしまった存在、それが藻屑だということにして読んでも面白いかもしれない。じゃなきゃ、生き抜くことに以外には関わらないことにしていた山田なぎさと関わってる理由にならないし。何よりも「渚」に対しての「藻屑」だし。実弾をまだ手にできないでいる彼女にとっての弾丸だということにすれば納得がいく。

  • ずっと息苦しさを感じる小説だった....

  • 短め、かつ、桜庭さんのルーツであるライトノベル色が強そうなものを、と思ってこれをチョイスして正解だった!マンガやアニメはあまり得意じゃないが、読んでいて絵や映像が脳内にパッと展開されるような文章は軽やかで心地よく、でも語られる物語はこの世界で子どもであることの痛みにみちみちて胸が苦しくなる。舞城王太郎を発見した時の喜びに近いかな。
    地方(鳥取)を舞台にし、海や山の景色、地域社会の性質を描き込みながらも、舞城作品と違って登場人物が方言を使わないのは、リアルでありつつ現実から少しずらした=どこでもよい、どこにもである架空の世界の物語のようにも読める。古い例で恐縮だが、初期の佐野元春が架空の都市のティーンエイジャーを歌った楽曲群を思い出す。だからなのか、必然性のない過剰な暴力が繰り返されても、興ざめせずに読むことができた。
    次は読書会の課題図書を…と思ってたけど、もうちょっとこの世界に浸りたいから、作者のウィキの作品リストを眺めつつ、あまぞんへ旅に出ます…

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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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