オリンピックの身代金(上)<オリンピックの身代金> (角川文庫) [Kindle]
- KADOKAWA / 角川書店 (2011年9月25日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (442ページ)
感想・レビュー・書評
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奥田英朗が問う渾身の社会派サスペンス。いや、おもしろかった。そして、おもしろかった以上に考えさせられた。舞台は東京オリンピック直前の東京。50年も昔の話だ。日本中がアジアで初めてのオリンピックが東京で開催されることに浮かれていた。当時小学4年生だったぼくは日本も戦後ここまで復興したかという感慨とはさすがに無縁だったけれど、その大騒ぎは記憶にある。けれど、これで敗戦国を脱却して先進国の仲間入りだと浮かれているだけでいいのだろうか。確かに東京はオリンピック景気で大発展を遂げた。しかし地方は、東北の寒村は、そしててオリンピック関係の工事を底辺で支えている日雇い労働者たちはどうなのか。東洋初のオリンピック、国威発揚という美名のもとに切り捨てられ、目を塞がれたものもまた数多い。かくして東大生島崎は単身立ち上った。その意気やあっぱれというしかない。そして意外な協力者村田。うまいなあ。訥々とした東北弁からいかに雄弁に心情が伝わるものか。その村田の述懐、「東京と東北はたった一字ちがいでなんもかんも不公平だ。腹さたってしょうがねえ」。これを50年前の過去のことと聞き捨てられるだろうか。いましも日本は、いや東京は次のオリンピックに浮かれだしている。果たして50年経って東京と東北の不公平は改善されたのだろうか。あの未曾有の東日本大震災の大被害から3年以上が経つというのに、どれだけ復興が進んだろうか。阪神淡路大震災の同じ3年後と比べたってその違いは歴然ではないか。日本は大震災があったって原発事故があったってきちんと対処できて安全で豊かな国ですよ~、またオリンピックで盛り上がりましょうね、と。東京だけが日本か。いったいこの国は過去に学ぶということができないのか。今こそこの作品は広く読まれるべきだと思う。
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犯人はわかっているけれど、その動機が徐々に明らかになっていく。光と影。