理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性 限界シリーズ (講談社現代新書) [Kindle]

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  • 選択の限界、科学の限界、知識の限界という3つの分野の限界を示した定理を紹介しつつ、様々な分野の専門家が理性の限界についてディベートする本。

    【どこがいい?】
    ・扱う内容は単体としてはかなり難解なものばかりだが、会話形式なのでものすごく読みやすい
    ・いろんな分野の(キャラの濃い)専門家が、わいわいと議論を進めていくので、主張の違いを楽しみながら読める
    ・3つの限界は、それぞれ経済学、物理学、論理学(数学)の分野の研究成果だが、これを哲学的に考えることができる

    【3つの限界】
    本書で扱われている、3つの限界とは何か、簡単に説明します。

    ◆アローの不可能性定理
    個人の選好(モノに対する好み。preference)は以下の2条件を満たすものとする。
    1.連結律:いかなる選択肢に対しても、個人はそれに対して選好順位をつけることができる。
    2.推移律:YよりもXが好きかつZよりもYが好きならば、ZよりもXが好き
    個人が2人以上で、選択肢が3つ以上のとき、以下の4条件をすべて満たす社会的選択関数は存在しない。
    1.選好の無制約性:個人の選好は自由であり、いかなる制約もない。
    2.パレート最適性:全員がXよりもYが好きなときに、Xが選択されることはない
    3.無関係対象からの独立性:2つの選択肢の選好順序はほかの選択肢の影響を受けない
    4.非独裁性:特定の個人の選好順序が、他の個人の選好順序に関わらず、選択結果となることはない。

    どれも、すごく自然な要請に思えるのですが、それを満たすものはあり得ないことが分かっているんです。合意形成ってものすごく難しい作業だというのがわかります。

    ◆ハイゼンベルグの不確定性原理
    ΔxΔp≧h/4π
    Δx:位置の不確定性
    Δp:運動量の不確定性
    h:プランク定数(とっても小さな値)
    あまりにミクロな物を観察しようとすると、それを観察するために使う光でさえ影響を与えてしまうので、粒子の位置と運動量の両方を完全には測定できない

    これは粒子は通常は波の状態で存在し、観測された時点で収縮して粒子になる、という解釈もできて(相補的解釈)、そもそも粒子の位置は原理的に決まっていない、という見方が有力とされています。すごくミクロの世界だと、どこにあるのかわからないっていうのが本質だと言っていて、それってニュートン力学からすると想像もつかないことです。

    ◆ゲーデルの不完全性定理
    Sを自然数論におけるシステムとする。
    1.システムSが正常(すべての証明可能な命題が真であり、すべての反証可能な命題が真でない)であるとき、真であるにもかかわらず、Sでは証明可能でない命題が存在する。
    2.システムSが正常であるとき、Sは自己の無矛盾性(証明可能であると同時に反証可能である命題がSに存在しない)を証明できない。

    正しいのに、それを原理的に証明できない。証明がとても難しいからじゃないんです。

    【ここから何が言えるか(私見)】
    さて、この3つの限界を理解すると何が見えるかということですが、「完璧な世界は原理的に存在しない」ということですね。昔のボクはなんとなく、人間が世界を理解しきれていないのは技術的な制約のためで、なんでも知ってる「ラプラスの悪魔」がいたら、ものごとは全て理論化できて全部予想できるはずだ、と思っていました。しかもどこかに完璧な理論があるんだけど、それをボクらが知らないだけだと。でも、そもそも限界があったわけですね。理想にたどりつかないのは、人間が未熟なせいではない。
    ついつい理性に対して過剰な期待をしてしまうのですが、それを諦めてはじめて、ちゃんとした未来が見えてくるんです。

    【勝手に読書案内】
    続編 「知性の限界」「感性の限界」

    第1章 坂井豊貴「多数決を疑う」
    第2章 佐藤勝彦「量子論を楽しむ本」「相対性理論を楽しむ本」
    第3章 高橋昌一郎「ゲーデルの哲学」

  • 俺の知の原点といっても良いかもしれない
    ダ・ヴィンチ・恐山さんの紹介で知った

  • 後半が難解。とても分かりやすく書かれていると思うのですが、自分の脳ミソではついていけなかった。でも最後まで面白い。不思議な読後感。

  • 「理性」(最新科学も取り入れた哲学においての真理、真相)は存在するのか、を対話形式(本書では学者と一般人が多数参加するシンポジウムという形)でかなり分かりやすく解説する書。その進行は科学史、思想史を大枠で追うことと、身近な具体例を出したりして解説される。そして本書の真の目的は、不可能性定理、不確定性原理、不完全性定理という難解であるが、現在の学問で最も重要な3つの理論を分かりやすく解説すること。
    ジョイナーを例に出したり、対話者の一人として登場する「カント主義者」が「訳のわからないことを言う奴」という典型的キャラだったり。そして議論が専門的に複雑な話にたびたび移行するが、その時「司会者」が対話をぶったぎる展開で本書が進んで行く。しかし、実在の司会者と同じように、この「司会者」の話のぶったぎりはしばしば話を折るようでムカつく場面がある。
    「カント主義者」と「急進的フェミニスト」についてはほぼ「議論を混乱させる傲慢な厄介者」として登場する。「ロマン主義者」は情動が精神を支配する愚か者。
    そしてこの者たちが発言した後は多くの場合、「対話不能な者」として「そのお話は、また別の機会に…」というテンプレート反論を通して軽くあしらわれる。この辺に著者の姿勢や、立ち位置が伺える。特に芸術に対するp166のやり取りは偏見に満ちている。正確さや中立性を犠牲にして分かりやすさを追及したとも言えるが。
    そして本書の最後の最後で大団円として分かりやすいフォローが使われる。ロマン主義者やカント主義者が「納得した!俺らのギョーカイにもその理論に当てはまる格言がある!仲間になろう!」と「少年ジャンプ」で終わる(但しどこへ行ってしまったのか「急進的フェミニスト」は再登場しない)
    あとがきまで読み進めるとやはりそうで、難解な分野を分かりやすく説明する事の重要性を、世界の「知の巨人」たちと雑談したことをきっかけに衝撃をうけ、認識し、それを本書で実践した、と説明されている。各架空討論者についても「あえて分かりやすく説明するため」極端なデフォルメをしたことを「飛躍で、厳密性に欠ける」と自己批判している。結果的にはこれが効果を現した良書だった。難解な、不可能性定理、不確定性原理、不完全性定理を同時に、また、分かりやすく260ページの新書にまとめた本書は、これらを理解するきっかけとしては素晴らしい。

    哲学者ライプニッツは自分の結婚を理性的に算出して決定しようとした。結婚した場合のプラス要因とマイナス要因を想定して。結果、結婚しなかった10

    水泳の長距離競技は男性でなく女性が世界記録を保持している13

    ファイアアーベントは科学は「真理」や「客観」などではなく、「なんでもいい」の信念や主観だと喝破した。この考えに沿って、教育機関で創造論を教えることも、極端なファシズムも否定できない。なぜなら「ナチズムを糾弾することはあまりにも簡単だが、ナチズムを可能としたのは、まさしくそうした倫理的な独りよがりの確信」だからだと。179

    「科学こそが、もっとも新しく、もっとも攻撃的で、もっとも教条的な宗教制度だ」ファイアアーベント182

    ゲーデルの「不完全性定理」で、数学、科学、物理学、論理学など(つまりこの世のあらゆることの認識方法)で「真理」の追及、証明は不可能であると確認された。244
    そして、哲学者グリムによって、不完全性定理によって中世以来の神学論争を決着された。「神がすべての真理を知る無矛盾な存在であれば、そのような神は存在しない」と246

    不完全性定理などを研究する論理学者のスマリヤンは、大変な不良で高校の卒業も大学の卒業もしていない。が論文を発表すると優秀なので、そのままダートマス大学の講師になった奇怪な人物251

    人間精神(人の心)はあらゆる有機機械(コンピューター)を上回る、あるいは「人間精神は、脳の機能に還元できない」。最終的にゲーデルは上記の伝説的講演を最後に行って隠遁した。つまりテューリングマシン(人間精神は科学的、論理的、機械的にいつかは創造出来る。その創造された機械の存在。または人間の精神は科学的、論理的に全て説明できる。の理論)の限界を示す定理を証明した人間は、テューリングマシンよりも優れているということ。別の言い方をすれば、もし人間がテューリングマシンだったら、自己の思考の限界を示す不完全性定理を証明できなかったはずだ、ということ。252

    しかし、この不完全性定理や不確定性原理などは現在、一般生活ではほとんど話題にならない。これは多くの人がすぐに結果に結び付く、成果の出しやすい問題ばかり追いかけているからだ。経済学者のアマルティア・センは、このような理性の限界を認識せずに既存の合理性ばかり追い求めるひとを「合理的な愚か者」と呼んだ。彼は、利己的な経済活動だけでは社会的「善」が達成できないと考え、経済学に倫理学を融合させた斬新な理論を展開して、ノーベル賞を受賞した260

  • 選択の限界(アローの不可能性定理)、科学の限界(ハイゼンベルクの不確実性定理、知識の限界(ゲーテルの不完全性定理)


    科学,哲学,政治(意思決定),認識論など様々な分野を横断しこれまで明らかになっている限界について理解を深められる本.良い.

  • 特に最後の「知識の限界」の章が、難しかった。
    難解な言い回しの後は必ず馴染みのある例えを使って表現してくれているので、イメージは掴めると思う。
    同じ筆者が監修した別冊ニュートンの「絵解きパラドックス」にも、本書と同様のパラドックスが多数掲載されている。

  • 理性を科学・哲学など他分野からわかりやすく噛み砕いてくれる一冊。
    合理主義だけでは世の中はよくならない、どんなイノベーションにも理性と倫理を。

  • 難しい内容をできるだけ難しくなく表現されている。
    視点はとてもおもしろいが、
    ずっと読んでいるとちょっと飽きてきた。
    結局のところ頭の中で理論がグルグル回るだけで、
    実際の生活に活かすところまで読み砕けなかった。
    自分自身の理性の限界でもあった…

  • 20191015
    人間の理性の限界点について、様々な科学の歴史を辿りながら、今ここまで来てるということを教えてくれる。正直数学に関するところは途中難しかったが、全般に過不足ない事例が示されて分かりやすかった。

  •  理性の限界というタイトルだが、理性というより合理主義とか論理の限界と言った方が妥当だと感じた。理性というと人間の特性のひとつで、感性の反対というイメージだが、ここで語られているのはそういうことではなく、哲学のテーマだ。

     サブタイトルはそれぞれ、アロウの不可能性(選挙制度に関する限界)、ハイゼンベルクの不確定性原理(物理現象に関する限界)、ゲーデルの不完全性定理(数学や論理学の限界)を示す。それぞれ個別にある程度知ってはいたが詳しく説明できるほどではなく、改めて興味深くその解説を読んだ。

     様々な主張を代表する誇張されたキャラクターが議論する形式で書かれている。たまに極端な主張のキャラクターが唐突に口を挟んでくるなど、気の利いたジョークも交えて知的な会話劇を見ているようで面白かった。

  • 難しい理論をディスカッション形式でわかりやすく解説。
    わかりやすくと言うのは、頑張ればってなんとか理解できるレベルでのわかりやすさ。
    囚人のジレンマなど聞いたことのあることから、だんだん難しくなり最後の部分は私の知性の限界を超えた……
    でも、読めば考えというか知見は確実に広まると思う。
    興味深いってのが適切な表現になると思う。

  • いろんな定理やパラドックスなど出てきましたが、投票方法によって選ばれる候補者が違うという話題に一番の興味を持ちました。ちなみに2000年アメリカの大統領選挙がいい例みたいですね。

  • すこぶる面白かった。
    シンポジウムでテーマについていろいろな参加者が思い思いにしゃべるという形が、扱っているテーマが難しいにも関わらず、すこぶる面白く、大まかな理解がすんなりできた(と思う)。
    著者の分かりやすく伝えたいという試みは成功していると思う。次のも、速攻、購入してしまった。(^^;

  • 人間が理性的であろうとして、合理的に、論理的に考えていけば、いつかはすべての謎が解け、正しい方法や物事がわかるようになる。本書はそれが不可能であることを、「理性の限界」として、哲学、量子力学、論理学といった分野における、多くの人々の思考を紹介することを通して、とてもわかりやすく説明してくれてます。さまざまな立場の参加者による対話形式がユニーク。

    基本的にわかりやすい説明が続くのですが、残念ながら私には最後の不確定性定理、不完全性定理、不可能性定理が、他の項目に比べてストンと腹に落ちず、難しかったです。もともと論理学は苦手だし、。著者の専門分野だからここだけ説明がハイレベルだったのかもしれませんし。

    ところで、こういう本は、途中でわからなくなったら前に戻りながら読みたいものですが、その点Kindleは不便です。電子書籍はとても便利ですが、前にサッと戻って確認できる機能の充実が課題ではないかと思います。

  • 本来かなり難解な内容なのでしょうけど、教科書的に説明するのではなく、
    さまざまな登場人物たちの議論の様子が書かれているせいか、
    とても読みやすく、感じました。

    久々に知的好奇心が刺激されました。
    なんとも心地よいですね。

  • 社会科学の限界(アロウの不可能性定理)と
    科学の限界(ハイゼンベルグの不確定原理)までは
    何とかついていけたが、

    知識の限界(ゲーデル不完全性定理)の章になってから、
    だんだんついていけなくなりました。

    なので、何度も読み返そうと思っています。

    でも理性の限界にいろんな原理があるのだということが分かっただけでも
    この本を読んだ価値がありました。

    知的好奇心をくすぐられて、次の「知性の限界」も読もうと思います。
    その前に、ゲーデルの不完全性定理の再読ですね!

  • 面白かった。最初に出てきた、「投票のパラドックス」民主主義の多数決の不公平さには、度肝を抜かれた。
    選挙の方法は変えなくてならんと思うが、ネット選挙が出来るようになれば、選抜方法も変えやすくなるのではないか。その他、「囚人のジレンマ」や「抜き打ちテストパラドックス」など。
    最後の3章の途中から、数学の話が多くなり、私には理解不能だった。もっと勉強したらまた読みたい。

  • んー・・・それがどうした?
    って感じ。
    ごめんなさい。

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著者プロフィール

國學院大學教授。1959年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修了。専門は論理学、科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

「2022年 『実践・哲学ディベート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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