畜犬談 —伊馬鵜平君に与える—

著者 :
  • TRkin (2012年9月27日発売)
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感想・レビュー・書評

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  • 信頼のある方が語れる数少ない本だというので興味を持った。
    『バーナード嬢曰く』三巻に出て来たので存在は知っていたし、
    『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』の作者の森見登美彦先生の著書『奇想と微笑 太宰治傑作選』にも出てくるらしい。なかなかオタク向けな匂いがして良いではないか。
    おまけに青空文庫にあるのでkindleで無料で読める。ライトな30ページ程度の分量。これは読むしかない。

    太宰治については恥ずかしながら殆ど何も知らない。「『人間失格』の作者で自殺していて暗そうな、でも『走れメロス』も書いてる、よく分かんない」といった具合。※そのため本感想は無知で愚昧の妄言となります。

    感想としては、非常に面白かった。犬に真面目に本気で怯える主人公が想いとは裏腹に犬に懐かれる様は笑いを堪えるのが大変だった。途中、胸が苦しくなる展開があったけど、ハッピーエンド(?)な終わりになったので良し。

    ただ、というかこれだから小説は嫌いなんだ。
    短いが故に解釈が山のようにありそうだ。
    主人公と犬の関係は、作家と読者?作家と編集者?触れられない伊馬鵜平?当時の世相を反映した何か?ただの事実?
    それよりも、当時は狂犬病(作中では恐水病)って本当に怖いのでは?
    唐突に出て来た「作家は弱者の味方」ってのが主題だと思われるが、これが伊馬鵜平に関係ある?伊馬鵜平が気になってたまらない。この主題と自殺関係ないよね?

    これは当時の日本や太宰治について調べて、他の作品も読み、ファンの考察も調べ回らずにはいられない。ああ、忙しい。だから嫌なんだ小説は。
    とりあえず、放映中の『HUMAN LOST 人間失格』でも見るところから始めるか。

  • とても良い。太宰の作品でトップ3に入るかもしれない。
    本音では毛嫌いし、侮蔑している相手にも、なんだかんだで世話を焼く。嫌悪の根底にも他者への愛情が必ずあり、日常で心を配り続ける中で、その愛情に気づくことができる。現代社会では忘れられがちなこと。
    死を媒介にするのは好き嫌いが分かれそうだが、江戸落語の人情噺っぽくて心に沁みた。

    「だめだよ。薬が効かないのだ。ゆるしてやろうよ。あいつには、罪がなかったんだぜ。芸術家は、もともと弱い者の味方だったはずなんだ」
    私は、途中で考えてきたことをそのまま言ってみた。
    「弱者の友なんだ。芸術家にとって、これが出発で、また最高の目的なんだ。こんな単純なこと、僕は忘れていた。僕だけじゃない。みんなが、忘れているんだ。僕は、ポチを東京へ連れてゆこうと思うよ。友がもしポチの恰好を笑ったら、ぶん殴ってやる。卵あるかい?」

  • 犬を飼い始めたせいか、少し残忍な感じを受けたが、中学生の頃、最も好きだった一編。
    一所懸命に下らないことを真剣に書く、という面白さと、最後に(結果論ではあるが)大事なことをきちんと再確認する、という構成が、やはりいい。

  • 皮肉が多い。
    過剰な被害妄想を主人公はしている様が滑稽
    矛盾している
    犬が嫌いな理由をいくつもつけて語っているが真逆になる
    なぜか犬に好かれる
    ポチを飼う
    ポチと名付ける辺り犬を飼いたかったのだろう
    飼い主に似る
    変な感性を持ち始める
    皮膚病になる
    殺そうとするが、殺せない
    赤毛の犬と喧嘩、勝つ
    毒入りの牛肉を食べさせるが無傷
    実は一緒にいたかった。
    好きの反対は無関心
    犬に凄まじい自己投影

  • どんな話かと思ったら。犬は昔追いかけられてから面と向かうのが実は怖くて、太宰の気持ちはよくわかるけれどもそれにしてもひどくない?と思いつつ、それにしてももう逃れようのない情が湧いて湧いてたまらない気持ちも伝わってきてどうにも憎めない。ポチはだって、主人のことがたらまなく好きだったのだろうと思う。こんな私も薬を盛るまででもないが実はネコを拾って飼えないと言われて渋々元いた場所に捨てに行ったことがある。泣きながら遠回りして帰ってきた私よりも先に彼女は家に戻ってきていて、変わらぬ顔して家の前で丸まっていた。その後もちまえの愛くるしさでネコ嫌いの母を難なく懐柔し、結局ぬくぬくぷくぷくと14年生きた。最愛の子になった。生まれ変わってもあの子に会いたい。素直に好きと言えばいいのに。

  • 面白いね。
    犬好きな人が読むとムカムカ!だろうね。
    最後まで読めないかも。。。
    私はこの気持ち分かるな。

  • 犬が嫌いだと言いながら好かれてしまう。
    ポチという名前までつけて。

    飼い主にいろんな眼差しを向けてくるポチ。
    そりゃあ、何か心の中に生まれてきても不思議じゃない。

    だけど、引越し先に連れていけないから捨てていこうという気持ちになったり、皮膚炎になったから最後には毒殺までしようとする。結局、死ななかったのだが、これは奥さんが入れてなかったのかどうか。奥さんはポチを見ててうんざりしているようだが。

    不都合があると捨てたりする時代はあったし、昭和にも野良犬はあちこちいたからなぁ。

    今では考えられないことだ。

    今だったら皮膚病なんて病院で治せばいいし、引っ越すから連れていけないなんて無責任だ。

    しかし、この短編はそこをつっこんでも仕方ない。時代がそうんなんだったから。

    いかに犬が嫌いだったとしても、一緒にいる時間が長くなると愛らしく感じるようになってくる。いくら否定しても。

    最後の言葉はポチも喜んでるだろう。
    大切に引越し先でも過ごしてほしい。

  • 短編が面白い。かもめんたるのネタみたい。
    獅子をも脅かす身体を有しながら人間界に屈服しご機嫌取に努める卑劣な精神の持つものだと犬を形容する嫉み力。

  • 憎しみの感情で「こうしてやりたい」と考えていることが怖いので「えっ、そんなことはしないでくれ…!」とビクビクしながら読んだ。幸いそういったことは起こらず……な感じだったのでよかった。
    主人公の犬に対して困り果てる姿や心情がどうにもおかしく、笑ってしまうこともしばしば。自分の中にあった「太宰治の(作品の)イメージ」が変わるような、結構驚きな作品だった。

  • 当時の犬に対する感覚が何となく伝わってきた。
    自分のおばあちゃんは犬によく食べ残しをあげてたけど、当時からすればまあ普通の事だったんだね。

    作者の犬に対する見方が独特で面白かった。確かに中型犬と本気で戦えば成人男性でも五分五分だし、子供なら食い殺されそう

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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