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感想・レビュー・書評
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心理描写だけでなく、人物や風景といった視覚的描写がものすごく緻密かつ的確で、文章なのに映像として眼前に浮かんでくるので、カメラワークにこだわった群像劇映画を観たような気にさせられた作品。海外も知る鴎外は、ヨーロッパにおける発明から20年と経たず当時はまだ黎明期だった筈の映画(当時の言葉なら「活動写真」)の魅力を既に知っていたのかなと感嘆しました。(あくまでも私の勝手な憶測で、鴎外が映画が好きだったという歴史的根拠があるわけではないです。)
でも、本筋には関係ない筈の、部屋に配置された風鈴や手水鉢といった小物の具合を一つ一つを取り上げて丁寧に描写した後に、時間の経過や人物の行動を描くとか、もう、セットに焦点を当てて雰囲気をつくる映画のカメラワーク演出そのものじゃないか、と大いに感心してしまいました。
本作は、江戸時代初期の肥後藩(熊本)を舞台に、殿様の病死に伴って発生した家臣たちの殉死騒動とそのあまりに悲劇的な結末を題材として、同調圧力や規範、名誉といったものに疑問を投げかけた、鴎外の代表作の一つ。
死を眼前にして、肌で感じる同調圧力に少なからず悶々としながらも「名誉の殉死」を遂げることとなった一握りの近しい家臣。
病死した殿様の気まぐれというか長年染み付いたささやかな反発心を発端にして、「不名誉な殉死」と一族総出の悲劇的な末路を辿った阿部一族。
そして、当時の殉死の価値規範に疑問を持たずに騒動に関わって、結果的に阿部一族を成敗する側にまわり、悲喜こもごもを迎えたその他の家臣群。
三者三様の描写が実に緻密な筆で鮮やかに描かれています。
実在の事件を題材にしながら主題に沿ったフィクションを織り交ぜている点では、歴史小説と時代小説の中間に位置していると言えるかもしれません。
明治天皇の崩御に伴って殉死した乃木希典夫妻の姿に考えることがあって誕生した作品とのことですが(それで言えば夏目漱石の「こころ」も同じですね)、そんな背景を考えずとも、その緻密な表現技法を楽しめる、文豪の流石の筆力を感じる作品です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
江戸時代初期の肥後藩主細川忠利の病死のあとに18名が殉死したが、殉死を許されなかった老臣の阿部弥一右衛門は、辱と見栄から息子たちの前で切腹する。その許されぬ自死に対して、阿部一族は周囲から中傷を受ける。長男の権兵衛は旧主君忠利の一周忌法要の席で非礼を働き、縛り首になる。追い詰められた阿部一族は屋敷に集結し、主君は討伐を命じ、阿部一族は死闘の末に全滅する。忠義が重んじられ、命があまりにも軽んじられて、死が日常になっている。そういう時代も本当にあったのだな、と思いつつ、何か虚しく感じた。小説としての描写はリアルで、真に迫るものを感じた。
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太宰からさらにさかのぼって、森鴎外を手に。
肥後藩主・細川忠利の死後、殉死を止められた阿部一族の悲劇的な結末を、感情を盛りこまずに冷徹に描いた内容ですが、滅んでほしいのは現代のアベ一族だと思ってしまいます。 -
これくらいのボリュームまでが青空文庫で読む限界。
まぁそれはさておき、こんな話やったんですね、教科書に載っていた程度の記憶で、かつその後の再読の記憶も相変わらずないので。
ここ最近、何作か鴎外もの読んでますが、引っ掛かる異物感がないですなぁ、全体的に。個人的な嗜好に過ぎないんでしょうけど、当方に占める漱石の位置には遠く及ばないんですよね、率直に申し上げますると。 -
肥後藩主細川忠利がなくなった後,その家来の一人である阿部弥一右衛門とその一族に起こる悲劇.前年の乃木将軍の殉死にインスパイアされて書かれたと思われるが,武士道のなんたる滑稽,なんたる無意味.
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The universal appeal of “Abe Family” is that it depicts how absurd the world is in two ways.
Firstly, though junshi had originally been committed by subjects out of pure loyalty to his master, people in this story commits it just for a good reputation of his family and himself after his death. For example, Yaichiemon does it only because he thinks that considering “his status” (Mori 81), his “living without committing junshi […] was something not one man in a hundred would believe to be possible” (Mori 81). Anywhere in the world people do something for their self-interest pretending that it is for others. On this point, readers anytime and anywhere feel sympathy with the characters when they read this book.
Secondly, any reader must feel sorry for Yaichiemon, who has “no alternative but to commit seppuku in dishonor” (Mori 81) because he is “a worthy samurai” (Mori 81) and to blame by no means. The society makes him have no way to avoid bad reputation, which reminds us of the universal phenomenon that one has no power when the society betrays them.
The story of “Abe family” therefore have the universal appeal in that any reader can find that they have some similar experience to the one characters in this story have.
References
Mori, Ōgai. (1938). “The Abe Family”. Historical Fiction of Mori Ōgai. -
乃木希典の殉死に影響を受けた作品の一つ。殉死の許可を得られなかった人が、自ら死んだら、批判を受ける。その後一族も立て篭って全滅しました。
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武士道とは死ぬことと見つけたり、そのままに死にまくる侍たちの小説。全く共感できないし感情移入もできるもんじゃない。