道草 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 知識人を自認する主人公と、「学のない」細君。
    ギクシャクするのは知識階級の違いばかりが原因ではないんだろうが、それでも三女出産の前後にうろたえて又意外と優しいところを見せる主人公がカワユい。

    ”細君の顔には不審と反抗の色が見えた。 「じゃどうすれば本当に片付くんです」 「世の中に片付くなんてものは殆んどありゃしない。一遍起った事は何時までも続くのさ。ただ色々な形に変るから他にも自分にも解らなくなるだけの事さ」
    健三の口調は吐き出すように苦々しかった。細君は黙って赤ん坊を抱き上げた。
    「おお好い子だ好い子だ。御父さまの仰ゃる事は何だかちっとも分りゃしないわね」
    細君はこういいいい、幾度か赤い頰に接吻した。”
    ゴタゴタも、細君との仲も、特に瓦解することがなければハッピーエンドでもない。
    よろずの問題、「片付くなんてことは殆どありゃしない」とは至当な言葉なんだろうな、今の時代も。

    • コルベットさん
      hei5さん、おはようございます。「片付くなんてことは殆どありゃしない」とは、なんと至当な言葉ですね。
      hei5さん、おはようございます。「片付くなんてことは殆どありゃしない」とは、なんと至当な言葉ですね。
      2024/01/07
    • hei5さん
      そう思います。
      喧嘩したり仲直りしたり、
      ゴタゴタは収まりかけたりまたぶり返したり。
      一つ片付いたと思ったら、また一つ問題が起こる。
      「似た...
      そう思います。
      喧嘩したり仲直りしたり、
      ゴタゴタは収まりかけたりまたぶり返したり。
      一つ片付いたと思ったら、また一つ問題が起こる。
      「似たような生活はずっと続く」
      そんな暗示的なエンディングかな、と。
      漱石の中では余り評価の高くない作品のようですが、私は面白かったデス
      2024/01/07
  • 舞台背景としては明治時代の話なんですけど、夫婦間をはじめとする人間関係のある種根源的な苦悩は現代とさして変わらない気がする。この国は未だに近代で悩み続けているのかもしれない。
    文章が上手いとか、ストーリーテリングが巧みとか、エンターテイメント性が卓れているとか、そういうのは特にないのですが、改めて漱石凄いな。

  • 他のレビューでも言われているように、最初と再読の印象が異なるであろう作品です。そして高い確率で、再読のときの印象のほうが良いであろう作品です。

    大きく分けると、語り手である健三の家庭内と家庭外の人間関係(いずれも広い意味で「身内」)を描いています。家庭内では分かり合えそうで分かり合えない妻との関係、家庭外では追い払いたくても追い払えなくて無心にくる者たちとの関係。

    妻に対しては理にこだわる一方、その他の者たちには情に流されてしまう語り手。つまりは、あの『草枕』の有名な冒頭を地で生きているのです。

    「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」

    どちらかと言うと、『草枕』の語り手は、上記を「頭」で感じていますが、『道草」の語り手は、それを「体」で感じています(じじつ、健三の体調は崩れていきます)。

    最初の時より人生を生きて『道草』を再読すると、世の住みにくさを実感している健三に、やるせなさと一抹の同情を覚えました。

  • 主人公が理屈っぽくて,まるで私みたいだ。嫁さんとけんかしたときに読むと,反省材料をそこここに見つけることができそうだ。

  • とくに

  • 二十九
    健三は自分の背後にこんな世界の控えてゐる事を遂に忘れることが出来なくなつた。此世界は平生の彼にとつて遠い過去のものであつた。然しいざといふ場合には、突然現在に変化しなければならない性質を帯びてゐた。

    昔しこの世界に人となつた彼は、その後自然の力でこの世界から独り脱け出してしまつた。さうして脱け出したまま永く東京の地を踏まなかつた。彼は今再びその中へ後戻りをして、久し振に過去の臭を嗅いだ。それは彼に取つて、三分の一の懐かしさと、三分のニの厭らしさとを齎す混合物であつた。

    八十七
    近頃の健三は実際健康を損なつてゐた。それを自覚しつつ彼は医者にも診て貰はなかつた。友達にも話さなかつた。ただ一人で不愉快を忍んでゐた。然し身体の未来を想像するたんびに彼はむしやくしやした。或時は他が自分を斯んなに弱くしてしまつたのだといふ様な気を起して、相手のないのに腹を立てた。

  • 主人公と妻の間の日常、主人公の兄弟や妻の父親らとの関係、かっての養父母から金銭をせびられる様子などが淡々と描かれた物語。
    主人公の職業は明示されていないが、記述内容から、教師であることがわかる。教育に携わる知識人の主人公が家族関係や世俗の些事に煩わされ、疲れ果て、不安定で不機嫌な精神状態であることが作品全体から伝わってくる。知識人でも些事に煩われる、知識人だからこそ、プライドが邪魔をして、より一層煩わされるということなのだろう。妻との関係でも、ちょっとした心配りの一言があればうまくいくはずのに、お互いに相手に否を求め、売り言葉に買い言葉で、気持ちがすれ違い、冷戦状態を続けていく。
    物語の最後に一つのことに決着をみるが、主人公の「世の中に片付くなんてものは殆どありゃしない。一遍起った事は何時までも続くのさ。ただ色々な形に変るから他にも自分にも解らなくなるだけの事さ」との呟きが印象的だ。

  • 最初の文章がすごい好き。

  • 20年ぶりに読んだが最高傑作の評価変わらず。

  • 1991年センター試験小説出題。Kindleで読みました。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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