- Amazon.co.jp ・電子書籍 (283ページ)
感想・レビュー・書評
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大学進学を機に上京したばかりのヘタレ青年が、小悪魔系美少女と、お調子者の学友にふりまわされる、明治版青春小説。甘酸っぱく、滑稽で微笑ましい。そして、ちょっと切なく、ゆえに愛おしい。
漱石だけど、むずかしいことはなく。
上京早々の夏の日に一目惚れした美禰子との縮められない距離に悶々とするしかない三四郎の半年間が、シンプルな展開の中で、漱石にしては珍しい愛着を感じさせる雰囲気を持つ文体で描かれています。
(※明治時代の大学は9月入学制だった)
しかも、三四郎は、想い人の美禰子だけでなく、悪友の与次郎にまで振り回されるという…。
けれど、常にやりたい放題・天真爛漫・天性のペテン師気質を持つくせにどうにも憎めない与次郎の破茶滅茶な行動が、美禰子とのささやかな縁を繋ぐことだってまれにはあって…。
もう、あれこれ振り回されっぱなしの三四郎が本当に微笑ましい。
三四郎の天性のヘタレ具合を、上京途上のエピソードで読者に最初にきっちり印象づけておくあたりの緻密さは、さすが文豪。
ヘタレ男子大学生を描いたら天下一品の森見登美彦さんの作品群を思い出しました。
森見さんの描く男子は「アホだけど憎めない」系ヘタレで、三四郎は「カタブツ」系ヘタレなので、微妙な系統の違いはありますが。
そういえば、与次郎こそ、森見さんの作品に多く登場する、主人公の悪友(人を食った系キャラ)そのものだわ…。
しかも、実在の街の地理や地名の巧みな使い方も似ています。東京の街をうまく使った漱石に対し、京都の街をうまく使う森見さん…。
もう、勝手に私の中で「三四郎」は明治版森見系作品に決定。
浮世離れしているようでも世間の片隅で自分なりにしっかり生きてる、同郷の先輩野々宮さんや、与次郎の師(主たる寄生先ともいう)である広田先生といった脇役たちがそれぞれに魅力的なのもまたいい。今の時代だったら番外編が出そうないい味出してる、いわゆるモブキャラですね。
特に広田先生は、漱石が自分自身をモデルに作った、遊び心と鬱屈心が複雑に入り混じる投影系キャラな気がする…。
脱線しましたが。
美術品に興味関心の強かった漱石らしく、たくさんの実在の美術品が登場するのも本作の大きな魅力。
英国人画家ウォーターハウスの「人魚」、フランス人画家グルーズやスペイン人画家ベラスケスの作品についての言及、イタリアはヴェニスの風景をたくさん描いた吉田博・吉田ふじを兄妹の作品…などなど。
美術好きにはたまらない。
なにはともあれ、読めば、大半の読者が、『「ストレイシープ(迷羊)」なヘタレ三四郎君に次こそは幸あれ!』と思うのではないでしょうか。
再読だったのですが、新たな発見もあり、とても楽しく読めた作品でした。 -
青年期の絶妙な心の機微。森見登美彦感ある。
なんだろう、登場人物のちょっと残念な感じがたまらなく好き。
なんとない日常系の描写の愛おしさ。 -
淡々と物語は進むが以外と読みやすいと思った。
言葉遣いや作品の雰囲気が大正浪漫を感じさせてなんだか心地良かった。
それにしても三四郎は大学生にもなって情けない。
そんなんじゃ女はついてこないぞ。 -
一つ引っ掛かったところ。第八章に「三四郎は背の高い男である」とある。
第十一章では「広田先生は五尺六寸ある。三四郎は四寸五分しかない」。
広田先生の約170センチに対し、三四郎は約165。
漱石が設定を忘れたのか、明治期だと165センチで長身の部類なのか。 -
1908年(明治41年)に発表された夏目漱石の小説。「それから」「門」と合わせて三部作と呼ばれる代表作のひとつ。熊本から上京して東京大学に通う三四郎とその周囲の人々の交流が淡々と描かれる。日常系とでも言うか、特に大きな事件が起こるわけではない。
今から110年前、20世紀が始まったばかりの頃であり、新しい時代に向けて意気盛んな若者がいたり、なんとなく流されていたりするが、男女の微妙な気持ちに対する感覚などはまったく変わっていないようだ。
余談だが読みながら森見登美彦の「四畳半神話大系」と同じような雰囲気を感じた。学生が主人公であることとや、友人の与次郎が小津を彷彿とさせること、文章のリズムやテンポが若干似ていることなどが理由だと思う。新しそうに見えても、もう文豪がやってるということか。 -
「StraySheep」が印象的な作品。結婚に"恋愛"を考えることが少ない時代、美禰子の行動は積極的だと感じた。冒頭に女性が告げる「よっぽど度胸のないかたですね」という言葉が痛いほど響く。「あなたは索引のついている人の心さえあててみようとなさらないのん気なかただのに」という美禰子の言葉が、三四郎をよく理解しているなと。迷羊は三四郎の心に永劫住み続けるのか。迷羊、迷羊。巡査は居ない。誰も助けてやくれない。これも場所が悪いのか。迷羊、迷羊。20年後、変わらぬ美禰子の姿を夢で見るのかもしれない。
三四郎を森見さんの作品と繋げるとは、うーむ、凄いなあ。
三四郎がヘタレだという読みも、ああそうなのかぁという感想です。
三四...
三四郎を森見さんの作品と繋げるとは、うーむ、凄いなあ。
三四郎がヘタレだという読みも、ああそうなのかぁという感想です。
三四郎を読んだのがずっと若い時だったのでなかなか深く読めなかったです。
たまたま今NHKの「らじるらじる」で三四郎の朗読を聴いています。hotaru さんのそのご意見を抱きながら聴いてみることにします。
こんにちは。コメントありがとうございます。
レビューを書いておいてなんですが、連想は人それぞれ違うの...
こんにちは。コメントありがとうございます。
レビューを書いておいてなんですが、連想は人それぞれ違うので、誰もが「三四郎」から森見さんに繋がるかといえばそうではないだろうなあ、と確かに思います。
個人的には、三四郎の姿に、森見さんの「命短かし恋せよ乙女」や「四畳半神話体系」がもう頭から離れなくて。
ラジオ、楽しんでくださいね!