生まれいずる悩み [Kindle]

著者 :
  • 2012年9月27日発売
3.80
  • (5)
  • (8)
  • (6)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 57
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (52ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  絵を描きたいという衝動を胸に抱えながらも、一家の生業である漁業をやめるわけにもいかない「君」の苦悩を、文学者の「私」の想像力で描き出す。

     北海道ニセコ町。自分の作品を生み出そうともがいていた文学者の「私」は、寂しさのあまり、岩内の漁師で密かに画家を志す「君(木本)」のことを思う。かつて絵を持ち込んで妙に力強い印象を私に残し姿を消してしまった「君」であったが、十年ぶりに手紙とスケッチ帳を送ってくる。
     見事に成長した「君」は、「私」との再会の一晩に、姿を消してからの生活と芸術の悩みを語る。翌朝すぐ帰っていく「君」を見送ると、「君」の話した内容を元に「私」は同感の力をもって「君」の生活と苦悩を書き出して行く。
     思い詰めた「君」が我に帰ったところで想像の一線を引き、「君」と同じ悩みを持って苦しむ全ての人々に最上の道が開き春が訪れるように祈る…。

     圧巻です。実直で朴訥な「君」に代わり、文学者の「私」が君の葛藤を描き出す。絵を描きたいという純粋な衝動を抱えつつ、「絵では生活していけない」こと、家業である漁業をやめることはできないこと。頭では分かっている。けれどもこの衝動を抑え、あきらめろというのか…!あらすじとしては至ってシンプルなのですが、引き裂かれるような葛藤の描出が見事。死と隣り合わせの漁船の転覆の描写も凄まじい。
     「うぶ」とも言えそうなほどの純粋さ。そんな「君」のことを思いやる「私」との友情。「青臭いよ」と言って片付けてしまえない切実さがありましたね。

  • 友人と夜の海辺をドライブしていた時におすすめされた本。
    その時の海はとても波が高くて、真っ暗で、「人間のことを気にしない自然」という言葉が会話の中で出てきた。
    この本を読んだ時に、その時の海の様子と、本の中で描写されている自然の様子、「君」の中の葛藤の様子、全てが荒々しくマッチしていた。

    『人間というものは、生きるためには、いやでも死のそば近くまで行かなければならないのだ。』という一文がなんだか心に残った。

  • 夢を追うこと
    夢を追える人生であること
    夢を追えない人生を想像すること
    色々考えさせられます

有島武郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×