蟹工船 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 最近、旧知の友人から、「あの時は蟹工船だったよね~」と言われ、どういう意味?となり滅茶苦茶気になり読み出す。抑圧された労働者を浮き彫りにした究極の不条理だった。ブラック企業の話しで、まあ、どこで働いていてもそういう一面(蟹工船)は必ずあるよね。ということで、当時を思い出し、友人のあの一言に大爆笑。それだけ自分は今恵まれてた環境にいるということ。さらに友人も。この蟹工船の教訓は何だろうか?抑圧された労働者の雰囲気や息遣いが聞こえてきそうなパワーを持っている。そうか、この反動が今のエネルギーになっている。⑤

  • 昭和4(1929)年に発表された。伏せ字があり、その後発禁ともなった。献上品のカニ缶詰めに「石ころでも入れておけ! かまうもんか!」という言葉が、不敬罪となり逮捕され、獄死する。
    カムチャッカ沖で蟹を獲り、そのまま船内で缶詰に加工する蟹工船・博光丸。
    働く人は400人を超える。そこでは出稼ぎ労働者たちが劣悪な環境の中、
    船主や監督たちによっておもいのままに支配され、逃げ場のない絶望にさらされていた。
    「おい地獄さ行ぐんだで」と物語は始まる。
    蟹工船は「工船」であって「航船」ではない。だから航海法 は適用されない。また工場でもないので、労働法規も適用されなかった。そのため蟹工船は法規の空白域でとなっているが、ロシアのまじかであり、帝国の軍隊が守っていた。カニを取ることは、日本帝国の大きな使命であり、天皇陛下のためだという。日本男児の意地を見せよと過酷な労働を強いる。また、海はウサギが飛ぶほど、荒々しく、大きく揺れている。蟹工船の中のひどい環境の描写が巧みである。
    食堂には、「飯のことで文句をいうものは、えらい人間にはなれぬ。不自由と苦しさに耐えよ」
    監督は鮭ゴロシの棍棒を持って、大声で怒鳴り散らしている。「いやしくも仕事が国家的である以上、戦争と同じなんだ。死ぬ覚悟で働け」という。監督は、そこで働いている人をどだい人間だと思っていない。漁夫や雑夫が死ぬことをなんとも思っていない。死と隣り合わせの生活。
    ロシアに漂流した工員が、ロシア人の家庭で「貧乏な人、プロレタリア。日本は働かない人が金持ち。ロシアは働く人ばかり。ずるい人いない。人の首占める人いない。働かないで、金持ちをプロレタリアがやっつける」と言われるのだ。そのことは、真っ当だと思って、工員の中にそのことが浸透する。西村賢太の『苦役列車』は、この働く人の一緒に戦うというものがなく、分断され、貧しいもの同士が足を引っ張り合う。そこには希望がなく、ヘルスに行くのが楽しみになる。
    『蟹工船』では、「殺されたくないものは来れ!」働く人がストライキに立ち上がるが、結果としてリーダー9人が連行される。それでも、もう一度で物語は終わる。
    格差社会が、ますます進み、下流層の人の増大、中流層の下流化。一人一人が、孤立化、分断されている中で、希望とは何か。それを100年前の小林多喜二が考えていることに意味があった。

  • kindleunlimitedで読了
    面白かった。
    言葉は難しく細部は省いて流し読みをした。
    蟹工船の劣悪な労働環境に胸を打たれた。描写が生々しく状況が想起された。
    昔の時代の労働者への扱いの酷さ。戦前だからこその物語であるが、それを知らない今の子にこそ読んでほしい、今の人権のありがたみを知ってほしい、と感じた。
    皆で団結して監督を打つところは非常に胸がすいた。

  • 「航船」でなく「工船」としている点でこの航海は「航海法」のグレーゾーンと認識され、出稼ぎ労働者(船員)たちが人権なしの奴隷のような扱いを受けていたという。そんな悪しき閉じた世界が世界人権宣言が出されて20年近くも経った昭和40年代まであったというのも驚きだ(作品設定では昭和初期となっている)。

    人権宣言のような秩序が生まれても、こういう「閉じた世界(権力に一般人が抗えない特別な空間)」にまでルールが浸透するには何十年もの歳月を必要とするのがわかる。でもこのような「秩序の枠組み」は時間はかかれど、ひとりひとりが望む限り着実に浸透していく。そして現代はインターネットも存在する。浸透速度は上がると信じたい。この2点は今後も持ち続けたい希望だ。

  • 蟹工船に乗り込む漁夫や雑夫達。
    生々しい描写で描かれる船上での生活環境・仕事環境。
    現代の職業環境からは考えられないほど労働者が酷使されている。そして労働者たちは共産主義の思想に理解をしていないもあこがれを抱く。

    モデルとなった船1920年頃のものだそうだ。明治時代が終わり、大正時代に入ってすぐ。
    資本主義社会が行き過ぎ、働く労働者からの搾取により利益が積み重ねられていたという事実を改めて思い知らされる。
    思えば団体交渉権ともいえる一シーンが出てくる。集団の労働者の強さが見えるのだが、この時代の理不尽さは団体交渉権の力を大きく上回っていた。
    ブラック企業というのは現代でもよく聞く言葉だ。昔に比べればマシという話ではない。利益を追求する資本主義を悪いとは思わないが、皆が労働や行動に見合う対価を得られ、幸せに生きれる世界を願いたい。

    これは函館から出向した船での話だが、作中には開墾の為入植し餓死した農家のことも書かれている。
    北海道に在住しているが、明治時代から開拓されたこの土地にはまさに言葉通りの血と汗と涙がしみ込んでいるのだろう。
    道路は整備され、河川も直線化されたことで洪水も減った。泥炭地が多くあり本来は営農に向かないが多くの表土入れにより農業も盛んになった。互助の精神が育まれ独特の文化も多くある土地だ。
    北海道開拓の歴史はまだ150年程度の浅いものである。
    先人たちの苦労を少しでも感じて北海道で暮らしたい。

  • 蟹漁船の過酷な現場で働く労働者たちが団結して資本家に立ち向かう物語。
    極寒のオホーツク海の船上という逃げ場の無い環境に比べて、うつで休職している自分には休職という逃げ道があることがいかに幸せか実感できた。

  • 最近、炭鉱などの労働者のことが気になって、蟹工船を手に取った。
    想像より酷い。今もある大きな会社が、労働者にこのような仕打ちをしてきたのかと思うと缶詰に伸びる手が止まる。今の資本主義社会で生きるにあたり、かつての労働社会のことは知っておかなくてはいけないと感じた。

  • 日本のプロレタリア文学。著者である小林多喜二自身、本書を出したことにより当時の政府に拘束されてしまったことは歴史の時間に習った。幼い頃はプロレタリアが何なのかよく分からず、何が悪いことなのか理解できなかった。しかし実際に本書を読んでみると、非常に強いメッセージを否が応でも感じてしまう。本書での表現はとても生々しく、読んでいて痛々しい箇所が多い。ただそれにより、ブルジョワに搾取される労働者の悲惨な状況を鮮明に焼き付ける。

  • 少し前に話題になった名著だが今更ながら読んでみた。
    なかなかすごい描写で圧倒された。
    蟹工船の中の劣悪な勤労状況の描写と、ソビエト領に流された川崎船の乗員が体験する共産主義の教化のコミカルな様子がものすごい対比を生む。
    国を象徴する軍隊の駆逐艦が民間企業による労働力の搾取に加担する姿も生々しい。
    名著といわれるだけの迫力があった。

  • 若い頃に読まなくてよかったと思うほど、苛烈で生々しい描写であった。その場も背景も、どちらの描写も読み進めるのがつらい。ただただ義務のように読んだ。それでも読むべきだと思う。
    同じ日本であっても、現在でも、地方によって貧富の差があり、それゆえにやらざるを得ないことや、やりたくてもできないことがある。
    いかにそれを減らし、多くの人が幸せを感じられるよう働きかけることを考え、行動する。

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著者プロフィール

1903年秋田県生まれ。小樽高商を卒業後、拓銀に勤務。志賀直哉に傾倒してリアリズムの手法を学び、28年『一九二八年三月一五日』を、29年『蟹工船』を発表してプロレタリア文学の旗手として注目される。1933年2月20日、特高警察に逮捕され、築地警察署内で拷問により獄中死。

「2008年 『蟹工船・党生活者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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